とある化学の超ガテン系

実験嫌いの実験化学者が綴る企業の研究員の日常 (このブログはMac OS Xに最適化されています)




Saturday, December 31, 2011

トリフルオロメチレ〜ション!

大晦日。今年も蕎麦を喰いにいってきました。
今回は東京の名店ではなく、半年くらい前からジャブ程度に通っている近所のお店で今年最後の蕎麦を食してきました。

←食べたのは、大晦日限定メニューの天ぷらセットです。

-天ぷらセット (1,500 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
蕎麦の触感・歯ごたえは十分(かけそばでこのクオリティは評価に値する)。ツユはしょっぱさ控えめで、かつ少し酸が立つ印象。かけそばとしはかなりのクオリティと思います。天ぷらは、海老、椎茸、茄子に塩を振っていただく。で、この塩がなかなか美味しい。
あと余談だけど、富の宝山 (500 JPY)をはじめてお湯割りでオーダーしてみたんだけど、(温度、混合比率にもよるけど)お湯割り向きの焼酎じゃないですね。芋焼酎独特のオイリーな香味は立つんだけど、豊でニューウェーブ系の香りが消し飛んでしまって苦みが目立つ。ただ、お新香をつまんだ直後にお湯割りを口にふくむと、甘みの広がりを感じました。やっぱり、富の宝山はneatが一番と思いました。


閑話休題


さて、今年上半期に読んだ文献のメモです↓

Copper-Catalyzed Trifluoromethylation of Aryl and Vinyl Boronic Acids with An Electrophilic Trifluoromethylating Reagent
Org. Lett., 2011, 13, 2342-2345.

ボロン酸ユニットをトリフルオロメチル基で置換するお話です。

CF3置換アレーンの古典的な合成法は、SbF3やSF4を用いたC-F結合形成反応や、量論量の[CuCF3]を使ったC-C結合形成反応らしいですが、過酷な反応条件が必要で基質一般性に難があるらしいです。

で、近年、遷移金属を使った(相対的に)穏和な条件下での反応が開発されています↓


で、著者らの仕事はこんな感じです↓
18 exampls, 50-90% isolated yieldです。

この反応、R=p-Ph, Togni's reagent (1 eq.)で90%なんですが、リガンド無しだと36%だそうです。銅触媒の活性は、CuI > CuBr > CuCl > Cu(OAc)2 > Cu(OTf)2。CuI / 1,10-Phen = 1 / 1だと33%で、1 / 2がベスト。

塩基にK2CO3を用いた場合の溶媒効果は↓

diglyme (90) > DME (79) > DME aq. (63) > THF (52) > dioxane (37) > CH3CM (34) > DMSO (28) > DMF (23) > NMP (19) > CH2Cl2 (16) > PhMe (9) > Et2O (0)。

また、この反応は塩基にセンシティブだそうです↓

K2CO3 (90) >> Na2CO3 = K3PO4 (21) > CsOH・H2O (17) >> CsCO3 (3) > KOH (trace)


以前、Chem-Stationさんの化学者のつぶやきで「Late-Stage Fluorination」に関する記事がありましたが、この論文のCF3化はかなりマイルドな条件だし、Late-Stage Trifluoromethylationなんてどんなのかなと素人的には思うのですが、どうでしょうか?(ちなみに、ボクはTogni's reagentって使ったことないです。ちなみに、TCIで29,800 JPY/gですか。けっこう高いですね)

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Saturday, December 17, 2011

病院サロン化促進法案の崩壊

民主党は、医療機関の外来受診時の患者負担に100円を上乗せする受診時定額負担制度の導入を断念したらしいですね

とても残念です。なぜなら、これは国家レベルの壮大な社会実験だからです。

コンキチが以前読んだ「ヤバい経済学」にはこんな事例が紹介されています(see http://researcher-station.blogspot.com/2007/06/freakonomics.html)↓

親が午後4時に子供を迎えにこなければならないという決まりの保育園があり、親達はよく遅れてくると言う。そこで、10分以上遅れた場合は、その親には毎回3ドル(子供1人あたり)の罰金をとることにしたところ、週に8件の遅刻が20件に増えた。

この保育園の例は、罰金3ドルという安すぎプライシングにより、道徳的インセンティブ(ルール違反を侵しているという罪悪感)から経済的インセンティブ(ルール通り罰金というサービス料を支払っている)へとインセンティブの転移が起こったことが原因と思われます。

で、これと同じ現象が受診時定額負担制度(100円上乗せ)なのだとコンキチは考えます。近年、老人による病院のサロン化が社会問題として指摘されたりもしていますいが、100円上乗せでこの現象が助長されることをコンキチは予測していました。同法案が施行されれば、この推測が例証されるチャンスと思って、(民主党政権下で唯一)期待していたのですが、非常に残念です。

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Sunday, December 11, 2011

65歳まで働くということ

改正高年齢者雇用安定法が施行されて以来(年齢者雇用安定法がないのには笑えるけど)、(まともな企業では雇用形態は変われど)65歳まで働くことができます(ちなみに、オレの母校の教授の定年は十数年以上前から65歳だったけどね)。大抵は、60歳まであった「ザ・正社員」という資格を失い、契約社員とか派遣社員といったこれまでの給料が激減する身分に身を窶すとは思いますが、混迷を極める経済情勢と長生きするリスクが極大化の一途をたどる我が国においては、団塊の世代にとってなかなか魅力的な制度のような気がします。

でも思うんですよね。やってる仕事は変わらないのに給料激減する60-65歳の改正高年齢者雇用安定法対象者の人たちってどういう気持ちで仕事してるんだろうって

まあ、日本の伝統的な給与システムの欠陥とか定年制度の是非とか、まあいろいろと議論の余地はあるとは思いますが、やってる仕事が変わらないのに、報酬激減するって、やっぱり人として心情的に受け入れ難いとボクは思います。すると、どうなるんだろうか?ココロの弱いボクだったら、モチベーション低下して、自分の働きを給与に合わせようとするな。つまり、端的に言えば「ダラダラ働く」ってこと。もしこの状況が看過されるなら、(まだ定年まで十分な時間のある現役正社員の)皆さんはどう思いますか?

人の心は誰にも分からず、上述したことはボクの想像に過ぎない。でも、もし上記の事象が存在したら、周囲の人(定年前の正社員。特に若年層)はどう感じるだろうか?はっきり言って、愉快じゃないんじゃないかな?って言うか不愉快!だって、法に守られた高年齢雇用者は既得権益者にして、勝ち逃げ世代のくせに、ダラ夫と化すわけじゃないですか。

60-65歳労働する人って、よっぽどそれまでの仕事が好きだった人か、先行き不安な政治・経済情勢の中、老後の生活資金をキープするのに躍起な人でしょ。「仕事に好きな人」で仕事継続してる人は凄いと思うけど、「生活資金キープ」目的の人は、そのやる気に無さや卑しさが周囲に伝わってくると思うんですよね。これって、明らかに悪影響と思います。ボクは、人間としての矜持を疑いますね。

かく言うボクも、定年後の身の振り方を考えなければならなくなるときがやってきます(定年システムが維持されていることを前提)。その時に、恥ずかしくない振る舞いができるように準備をしておきたいものです。

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Saturday, December 10, 2011

Hydrogenolysisの真実

けっこう前に、岐阜薬科大の佐治木先生の論文を読んだんですが、それに関連したメモです。

オレフィンのパラ炭使った接触還元って、極性の高い溶媒ほど反応速度が速かった(alcohol > EtOAc > hydrocarbon)と記憶してるんですが( 確か、新実験化学講座か実験化学講座に書いてあったと思う)、水素化分解ではその様相が異なります。

例えば、ベンジルエーテルの水素化分解では、トルエン中での反応速度を「1 」としたときの相対反応速度は次のようになります↓

ref. Greene's Protective Group in Organic Synthesis


一方、シンナミルアルコールのTBSエーテルを還元すると、その溶媒効果は次のようになります↓

ref. Tetrahedron, 2004, 60, 6901-6911.


ベンジルエーテルとTBSエーテルの切断では、溶媒の反応促進作用が逆転するみたいです。

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Sunday, December 4, 2011

漁業の未来

三重大の勝川先生の著作「日本の魚は大丈夫か」を読了しました。漁業に関するお話が書かれています。


我が国の漁業は、1970年初頭まで増加期、1980年末期まで高水準期で、以降減少期が続き、現在はピーク時の半分にも満たないといいます。そして、日本の漁業を次のように概観しています。

遠洋漁業(海外漁場)は焼き畑漁業の様を呈していたところに、EEZ (Exclusive Economic Zone)導入に伴う漁獲規制によって、公海は資源枯渇の危機にあると言います。沖合漁業(EEZの範囲)は、マイワシバブルの後、漁獲高が減少し、さらに未成魚の乱獲を経て、サバ資源を潰してしまったそうです(日本近海のイワシ、サバ、アジなどの大衆魚の資源量は低水準だそうです)。そして、沿岸漁業は参入障壁が低く、常に乱獲・飽和状態。ウニ、アワビなどの根付き資源以外は管理されていないらしいです。最後に、マダイやブリなどの養殖は、餌となる天然魚が大量に必要な贅沢産業で、一部の例外を除き経営は非常に厳しく、減少率大。要は、日本の漁業は非常に厳しい状態にあるということが述べられています。

一方、漁業の世界の潮流は、生産量が高めで安定で、魚価が上がっており、生産金額は増加しているそうです(ニュース番組で報道される漁業従事者の悲哀とは逆だ)。そして、ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、オーストラリア、チリといった国が漁業先進国だそうです(そういえば、近所のスーパーで売ってるサーモンはチリ産だな)。


で、漁業先進国の雄、ノルウェーも、1970年代中頃まで、過当競争→乱獲→資源枯渇→経営の破綻→補助金漬けという道を辿っており、現在の衰退しきった日本の漁業と酷似した状況だったそうです。しかしながら、漁獲抑制やQC (Quality Control)といった改革が功を奏し、彼の国の漁業はV字回復したそうです。
また、ノルウェーでは、「それ以下の値段では鮮魚は売れない」=「薄利多売は許されない」という独自の最低価格制度を設定して品質を保証しているそうです。(EUでは品質に関係なく最低金額を設定=公的資金で乱獲報奨金を与えているので、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリアでは漁業が衰退している)。さらに、養殖業は企業化してスケールメリットを享受しているとか。

漁獲枠制度にも大きな違いがあります。世界では、アイスランド、ノルウェー、韓国、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、日本で、TAC (Total Allowable Catch: 総漁獲可能量)を設定しているそうですが、日本におけるその運用はお粗末極まりないそうです。ノルウェー、韓国は、IQ (Individual Quota: 個別漁獲枠制度)で、アイスランド、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカではITQ (Individual Transferable Quota: 譲渡可能個別漁獲枠制度)で管理しているのに対して、日本ではオリンピック方式(早い者勝ち=乱獲を助長)で管理されています。

さらに日本のTAC設定は、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マサバ(+ゴマサバ)、ズワイガニ、スルメイカの7種のみで、乱獲を続けてもクリアできる非常に大きな数字が割り当てられているという杜撰なシステムなんだそうです。例えば、スケトウダラ日本海北部系群では、科学的に現状が維持できる漁獲可能量(4,000 t)を遥かに超えるTAC設定(16,000 t)がなされていたり、マイワシ太平洋系群では、海にいる魚よりも多い漁獲枠を設定していたことさえあったそうです(狂ってるね)。

ちなみに、日本とノルウェーの漁業の現状を比較するとこんな感じだそうです↓
漁業従事者/ 日本 21万人, ノルウェー 1.9万人
漁獲量/ 日本 550万t, ノルウェー 280万t
漁獲者1人当り漁獲量/ 日本 26t, ノルウェー 147t
資源状態/ 日本 低位減少, ノルウェー 高位横ばい
補助金/ 日本 1,800億円以上, ノルウェー ほぼゼロ
貿易(重量)/ 日本 輸入1位, ノルウェー 輸出1位

しかも、ノルウェーでは漁獲枠が船に張り付いていて、SQS (Structural Quota System)という漁船をスクラップする場合に限り、他の漁船に漁獲枠を移動でき、漁船のシェアも可能というシステムを導入して、過剰な漁業者の退出を促進しています。さらに、ノルウェー漁業の秀逸な点は透明性の高い流通システムです。洋上の漁船は、漁業組合が運営するオークションサイトに獲った魚の量やサイズ、漁場などを携帯電話で報告します。ノルウェー国内および周辺諸国から入札があって、水揚げは落札者の指定した漁港で行われます。さらに、漁業が行われている魚の種類、魚種の漁獲枠の消化割合、過去一週間の平均落札額などが閲覧でき、リアルタイムでノルウェー近海の漁獲状況が分かる地図があるそうです(http://www.sildelaget.no/default.aspx)。

水揚げされた魚の大きさ体重などの情報が全て外部に公表されていて、獲った魚の測定方法は、1tにつき何尾測定するなど細かいことまで決められていて、測定がいいかげんな船は、入札者の信用を失って値がつかなくなるという形で制裁を受け、漁業者の申告を水揚げ内容が違うというクレームが入札者からあれば、組合の職員が必ずチェックを行うそうです。


こうして、ノルウェーでは漁業者のインセンティブを適切に設定することによって、QCを促進し、スケールメリットを享受できるようにし、優れたマーケティングを導入することで漁業を持続可能で魅力的な産業へと転換したのだと思います。

勝川先生の本は、漁業の問題を全般的によくまとめていると思いますが、このような日本漁業の問題は、何十年も前から指摘されていて、全く目新しいものではありません。例えば、大前研一は、その著作「企業参謀」の中で同様の問題に言及しているし、ニュース番組でも同様の問題が度々報道されています。また、漁場における乱獲問題は、経済学の教科書では「共有地の悲劇」「市場の失敗」として取り上げられていて、その解決策も提示されています(それをやったのがノルウェー)。それにも関わらず、我が国の漁業の体たらくっぷりを鑑みると、いま現在日本の行業を仕切っている奴らはダメダメのグズグズな奴らで、その環境に甘んじている零細漁業従事者はナマケモノだってことは明らかと思います。

現状維持では、日本の漁業の未来は推して知るべしでしょう。

see
http://ja.wikipedia.org/wiki/コモンズの悲劇
http://researcher-station.blogspot.com/2009/02/blog-post.html
http://researcher-station.blogspot.com/2010/08/2.html
http://researcher-station.blogspot.com/2008/07/blog-post.html

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