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2015年12月6日日曜日

THE NEW GEOGRAPHY OF JOBS (4): ローリスク・ハイリターンな投資の名は大学進学

艦これ秋イベントをクリアしたオタッキーのコンキチです。(いやぁ、真剣オタッキーだね、オレって)。




さて、ラーメンチェーン店「中華食堂 日高屋」に行ってみました。

-中華そば (390 JPY) memo-
-RATING- ★★☆☆☆
-REVIEW-
麺は半透明の細麺で軽くウェーブしている。コシであったり、弾力が全くない。
スープは魚介風味が濃厚な醤油。これ見よがしにかつお節様の香味が強烈に香る。表層には浮いている油から獣チックな香味が感じられるような気がした。
具は海苔、メンマ、ネギ、チャーシュー。メンマは優しい味で良好。チャーシューはfattyさが鼻につく。

麺と塩味の効いた濃いめの魚介スープとの相性は良く、食べ飽きることはない。しかしながら、麺の力不足は明白。麺の特徴の無さが日本人好みのかつお風味の分かり易いスープの味を引き立てているような気がする。また、食べ進めるに従って、スープの味(特にかつお節様風味)が強くなる。器の底にかつお(?)節を仕込んであるようだ(目視で確認)。
味の絶対値は決して高くないものの、その辺の中華料理屋の昔ながらチックなもっと高いラーメンなんかよりは断然旨くて、コスパが高いと思いました。正直、スープの味には驚きました。

ちなみに、チャーシュー(あんまり旨くないけど)は埼玉県のセントラルキッチンで作られる自家製。よく味の染み込んだとろける感じがウリらしいが、ボクが食べたのは全くとろける感じはしなかった。店舗でのオペレーションは、丼に醤油だれと煮干しなどの削り粉を入れて中華スープで割り、煮干のエキスを加えて、麺、具材をのせるというもの。
そして、日高屋の目指すラーメンは「こだわりの味」ではなく、「客の60%程度がおいしいとおもう」いわば60点のラーメンです(「行列のできるラーメン店」は通が求めるものであり、不特定多数の客が繰り返し食べに来てくれる味ではないという理屈)。
それから、食材の調達コストを下げるために、ネギ、人参などは中国産の野菜を多用しているそうです。

あと、今回入店した店ですが、中国人(と思われる)小太りの女性二人がホールを担当していましたが、店内はクリンリネスに乏しくて、残念な感じでした。まあ、この辺が、テーブル席メインのチェーン店の限界なんでしょうかね?


閑話休題


年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 」のメモの続きです。

本書では、

大学進学はきわめてハイリターンな投資=もっとも割のいい投資の一つ

であると述べられています。

アメリカでの例ですが、こんなのが有ります↓

(1) 大学のない二つの経済状況のよく似た都市の一方に大学を新設した結果→大学のある都市は大卒者の割合が25%多く、賃金水準も際立って高くなった(連邦法に基づいて設置されたランドグランド大学に関する研究)

(2) 大卒者と高卒者の年間所得差は32歳時点で既に大きく、その後も年々拡大。ギャップが最大になる50歳時点の平均年間所得は、大卒者で8万ドルに対して、高卒者は3万ドル。
生涯年収は、大卒者は100万ドルを突破するのに対して、高卒者は50万ドル未満。

アメリカでも大学の学費は上昇していて、例えば、こんな感じ↓

a) イェール大学の年間の学費
1980年代: 6,210ドル
現在: 40,500ドル

b) カリフォルニア大学バークレー校の年間の学費
1980年代: 776ドル
現在: 13,500ドル

アメリカでは過去30年の間に大学の学費が平均10倍に上昇して大学進学に係るコストが非常に高くなっていることに加えて、高校卒業後にすぐに働きはじめた場合の機会費用もあるけれど、それでも大学進学による経済的な恩恵はそれを補って余有るものです。高校卒業後にすぐ働きだした場合の機会費用込みの大学進学コストは平均102,000ドルと試算され、決して安くはないけれど、大卒者の生涯年収のたったの10%です。

ちなみに、所謂就職氷河期に就活していた院卒40歳のオレの年収はこれ↓
http://researcher-station.blogspot.jp/2014/12/annual-income-2014.html
まあ、ど真ん中の中流生活ですよ。

(3) 大学進学とそのほかの投資(株や債券)の利回りを比較すると、大学進学より有利な投資を見つけるのは難しい。大学進学の年間利回りはインフレ調整済みで15%以上(これは凄い)。

(4) 大学進学は経済面だけでなく、健康面、結婚など人生の様々な面にも好影響をもたらす。
a) 教育レベルの高い母親ほどシングルマザーでない確率が高い (ウチのカミさんも絶対離婚しないって言ってる、経済的な理由から。まあ、離婚する理由も予定もないけど)
b) 大卒の母親のほうが、高校中退者より夫の潜在的所得が高い
c) 妊娠中に喫煙した母親の割合は、大卒者で2%。高卒者で17%。高校中退者で34%。
d) 早産したり、低体重児出産する割合は、大卒者の母親の方が非大卒者よりずっと少ない
e) 女性が好ましい生活態度を身につけたのは、大学進学後(大学が新設された郡で、女性達の状況が改善している)
f) 教育レベルの高い人ほど犯罪に関わる確率が低い(白人男性にも見られるが、アフリカ系で顕著)


大学進学=教育レベルの向上は、経済基盤の安定のみならず、健康や結婚などにも好影響を及ぼすのです。要は、賢くなれば賢く立ち回れるということでしょう。それにつけても、大学進学の利回り15%っていうのは脅威的数字ですね。ボクの感覚だと、金融商品に投資して、継続的に(再現良く)年率5%で運用できれば御の字ですから、大学進学という人的資本への投資は素晴らしい投資案件と思います。

正に、

ビバ、大卒

です。


オレも国内二流、世界で三流の首都圏駅弁大卒だけど、大学行って良かったですよ、中流ど真ん中の給料はGETできたし、カミさんも大学で見つけたからね(駅弁大は基本総合大学なので、女子もけっこういる)。

さて、ここまで大学讃歌的な内容を書いてきましたが、日本には必ずしも当てはまらないんじゃね?っていう声も有るかと思います。最近では、大卒者の奨学金滞納問題や大学出ても非正規とか労基法ガン無視のブラック企業就職といった問題が報じられているので、大学進学っていう投資のパフォーマンスって良くないじゃんっていう意見もあるかと思います。まあそれは当然で、大学全入時代とかいう異常な状態では「大卒」という単純な学歴は意味を成さず、学校歴が重要になります。Fラン大学とかいう名前を書けば誰でも入学できる大学出たって、まともな企業は採用しないでしょ。

以前、日本橋学館大学のシラバスが話題になりましたよね。「アルファベットの書き方」「分数の計算」「原稿用紙の使い方」といった授業のカリキュラムが公開され大いにバカにされました(http://d.hatena.ne.jp/high190/20111018/p1; http://news.livedoor.com/article/detail/5931300/)。それに対して、当時の学長は「中学高校で(基礎教育が)先送りされてきたツケ」に対して、「本学は、学生を社会に送り出す“最後の砦”として責任を果たします。」と言い訳しましたが、いまはもう日本橋学館大学という名前の大学はありません。つぶれたわけではなく、今年度から開智国際大学という名前に校名変更したのです。批判されたシラバスをドヤ顔で正当化し、あれだけマスコミに取り上げられて知名度が急上昇したのにです。ボクには、日本橋学館大学に貼られたバカ田大学というレッテルをリセットしたかったとしか思えません(天才バカボンのバカ田大学は早稲田のパロディーな)。

また、最近の就活ネタでは学歴フィルター(正確には学校歴フィルター)が話題になっているようです。
see
http://matome.naver.jp/odai/2142712410334123601
http://nnt-sokuhou.com/archives/24121721.html

さらに、橘玲の本に書いてあったんだけど、出版業界ではMARCH未満は大学ではないという認識のようです(http://researcher-station.blogspot.jp/2012/11/blog-post_24.html)。

それから、『「最底辺大学」の憂鬱』という記事の感想(http://researcher-station.blogspot.jp/2007/09/blog-post_05.html)

で、まとめると、

少なくともMARCH以上の大学への進学がハイリターンな投資=もっとも割のいい投資の一つ

ということなんだろうと思います。それ以下の大学は、単にモラトリアム期間を無為に過ごしているだけなのだから。

ということで、これから大学受験を目指す受験生の皆さんは、少なくともMRACH以上の大学を目指すのが無難と思います。

まだ、つづく.....

2015年11月23日月曜日

THE NEW GEOGRAPHY OF JOBS (3): ゲイ指数へのアンチテーゼ

つけ麺って食べ進めるうちにスープが急速に冷めていくじゃないですか。だからあまり好きじゃなくって、そんなに食べないんだけど、昨年食べたつけ麺のメモです↓

-麺屋中川會住吉店 つけ麺並盛り (780 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
並盛りで麺200 g。麺は冷たく、太くモチモチの浅草開化楼製極太麺。十数分の茹で時間を要する。麺自体が美味しい穀物の旨さがする。
スープは魚介系と獣系の香味(豚ガラ、鶏ガラ、宗田節、かつお節、昆布、野菜、フルーツを20時間以上煮込んでつくる)。粘度が高くトロトロで濃厚も、くどさは感じない。
麺とスープのマッチングは良好。具は焼豚、メンマ、あと何かの野菜で普通に美味しい感じ。麺のボリュームによりスープの温度は急速に低下するが、麺の冷たさは氷水で締めた冷たさではなく、スープの温度低下による不快感はあまり無い。


閑話休題


年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 」のメモの続きです。

今年の上半期はピケティが流行ったかと思いますが、8年くらい前はリチャード•フロリダ教授の「クリエイティブ・クラスの世紀」が流行ったと記憶しています(原題は「The Rise of the Creative Class」で、アメリカでは2002年に上梓されている)。で、このフロリダ教授の研究成果を受けてだと思うんですが、10年程前、アメリカでは町の住み心地をよくすることで都市の経済を活気づけようとする政策が多くの都市で実践されたことがあったそうです。

フロリダ教授はその著作の中で、今後"クリエイティブ・クラス"という平たく言えば知識労働者の台頭が顕著になると述べています。"クリエイティブ・クラス"はハイテク産業に代表されるクリエイティブ産業を牽引する人材です。そして、クリエイティブ産業はその周辺地域に大きな富をもたらし地域経済を活性化させるので、クリエイティブ・クラスを惹付ける都市を構築して、経済を発展させてウハウハしようという訳です。

フロリダ教授の主張を超簡単に相当荒っぽく要約すると、
a) これからの労働者はクリエイティブ・クラスとマックジョブに二分される(学者先生はマックジョブなんていう下品な言葉は使わないですが)。
b) クリエイティブクラスを引きつける都市でクリエイティブ産業が集積する(Google, Apple, Microsoft, etc.)。その結果、地元経済がウハウハ。
c) クリエイティブクラスを惹付ける都市は寛容性が高い。例えば、ゲイなどの同性愛者やボヘミアンにも寛容な都市とか。なので、都市の(潜在的)クリエイティビティーを測るのにゲイ指数が有効だ
d) さあ、クリエイティブな産業が集積する都市を造るために、クリエイティブ・クラスが好む生活の質の高い都市を作ろう!!!=充実した文化とリベラルな気風を保持するクールな町を構築しようぜ!!!性的マイノリティーにも寛容になろうぜ!!!
っていうところかと思います。
see
http://researcher-station.blogspot.jp/2007/12/blog-post.html
http://researcher-station.blogspot.jp/2008/07/rise-of-creative-class.html

そんなこんなで多くの都市(ピッツバーグ、デトロイト、クリーブランド、モービル、etc.)がクリエイティブ・シティー構築のために、フロリダ教授の処方箋を受け入れてクリエイティブ・クラスに好まれるであろう快適性を追求した都市に再開発に取り組んだそうです、相当の金をかけて(いまも実行中らしいです)。

しかしながら、本書(「年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 」)の著者は、そのフロリダ教授の考えは原因と結果を混同していると述べています。すなわち、イノベーション産業の集積するクリエイティブ・シティーは、堅実な経済基盤が形成されたからこそ、充実した"生活の質"(充実した文化とリベラルな雰囲気とか)が備わったのであって、その逆ではないと主張します。

例えば、シアトルは現在押しも押されぬクリエイティブ・シティーの雄ですが、シアトルにイノベーション産業が根付いたのは、最初からクリエイティブ・クラスにとって魅力的な環境が整っていたからではなくて、活気溢れる魅力的な都市になったのはハイテク産業の雇用が生まれたあとであると言います(1980年代は暗いムードに覆われていて、住民は大挙して町を脱出していた。

逆に、クリエイティブ・クラスにとって魅力的な環境が整っていると考えられる都市であるにも関わらず、クリエイティブ産業を呼び込めずにいるという例があります。タリーブランド(超一流の交響楽団や美術館などの文化施設、おしゃれな繁華街を擁している)やサンタバーバラ(風光明媚で気候がよく、リベラルな気風)、マイアミ、サンタフェ、ニューオーリンズなど(充実した文化とリベラルは雰囲気)がそうだと言います。

また、アメリカ国外に目を移してみると、イタリアやベルリンも同様と言います。
イタリアはライフスタイルが魅力的な国だが、先進国のなかで最もイノベーション産業の形成が遅れているといいます。イタリアの停滞の原因は、クリエイティブ・クラスの供給不足ではなく、クリエイティブ人材の需要が少ないことであり、それはイノベーション産業を惹付けられない経済システムだということです。
ベルリンはドイツでは抜きん出て刺激的で創造的な都市であり、ヨーロッパで屈指のクールな町であるにも関わらず、堅実な経済基盤を築けておらず、主たる産業は観光業という残念な現実があります。
(ベルリンの壁崩壊後、ヨーロッパ中から多くの創造性に富んだ人材(大学教育を受けた若いフランス人や、スペイン人、イタリア人)が流入し、リベラルな雰囲気を備え、多くのハイレベルな公共アートスペース、ヨーロッパの主要都市で有数の安さを誇る不動産相場、充実した託児サービス、質の高い学校、充実したインフラ、実験精神、二つの動物園、三つの有力オペラハウス、七つの交響楽団、無数の美術館や博物館を有しいるが、この10年以上、ベルリンはドイツ国内で最も失業率が高く(全国平均の二倍近く)、住民一人当たりの所得の伸びは国内で下から二番目という体たらく)

とまあこういった具合に、クリエイティブ•クラス好みの環境を用意すればイノベーションハブを築けるとう考えは肯定できかねる感じです(特に、ベルリン)。


つまり著者の主張は、「生活の質の高さは、優秀な人材を引きつけ、都市を経済的に成功させる助けにはなるが、それだけでは経済の停滞した都市をイノベーションハブに変える原動力にはなりえない」というもので、フロリダ教授の主張を真っ向から否定するものです。

このブログでは度々フロリダ教授の論を推してきましたが、本書を読むとフロリダ教授の説は"鶏が先か、卵が先か"的間違いであるように思われます。


まだ、つづく.....

2015年8月30日日曜日

THE NEW GEOGRAPHY OF JOBS (2): 不動のイノベーションハブ(都市の格差は固定化し拡大する)

艦これ夏イベントももうじき終わりを告げる今日この頃、E-7(丙)を何とかクリアして照月をGETしたオタッキーのコンキチです。

昨年、カミさんが飲み会だっていうんで子供達と行ったbuffetスタイルの店のメモです。

-八菜 柏の葉店 memo-
-RATING- N/A
-REVIEW-
ディナータイムは大人 1,996円、子供(小学生) 1,240円、男性飲み放題 1,404円。
率直な感想は「信じられないぐらいの低レベル」。とりあえず、二度と行かない店リストにランクインしました。
スシは写真と全然違うし、全てサビ抜きで、出来合いのシャリ玉に切り身を載せているだけ(目の前で実演してくれる)。この日は手袋をしたお姉さんが作ってました。スシの種類は、鮪、サーモン、イカ、タコ、つぶ貝、穴子。鮪はスカスカの気が抜けた味。つぶ貝は硬杉。イカは歯触りがポップ。タコは意外と良かった。サーモンは覚えてない(多分、怒りで)。
あと、天麩羅。種類はキス、海老、さつまいも等。キスはぼちぼち旨かったが、ご家庭レベル。用意されているお塩はパラパラと落ちてゆかない。
それから、昆布のダシ茶漬け(冷製)も食べたんだけど、生臭さが鼻につく。
豚汁は普通に美味しかった。
ブロッコリーと舞茸の蒸し野菜はどちらも貧相。ブロッコーリーはしなしなになり過ぎて水っぽく、舞茸は出来立てであっても熱量に乏しくて嫌な匂いが鼻につく。
アルコール類も品貧者。「生」は多分ビールだと思うけど、セルフ・サービス(時分でサーバーのレバーを操作する)で素っ気ない味。他に焼酎、日本酒、ワイン、テキーラ、ウィスキー、リキュール、ジン、ウォッカ等あったが、全てセルフで「管理されている感」が皆無(ビンが空っぽになるまで置きっぱなし)で、手に取る気にならない。フロアの片隅に置いてある酒瓶からセルフで水割り、ロック、サワー等を勝手に作る。グラスは水垢で汚れていてげんなりする。
エントランスや食材のイメージ写真とは裏腹に、なんとも残念な現実に直面する店と思いました。客層も推して知るべしです。


閑話休題

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 」のメモの続きです。

で、二番目に心に留めてあったメモしたいことは、こちら↓

"イノベーション産業の企業は世界のごく少数の都市に集中している
いったん集積地(イノベーションハブ)が確立されると、ほかの土地に移動させるのが難しい
イノベーション産業をはぐくめていない都市が将来それをはぐくむことは容易ではない"

です。

都市には栄えている都市と衰退している都市がありますが、その格差は縮小するどころか、ますます拡大しているそうです。栄えている都市には栄えている企業(イノベーション産業)が集まり、衰退している都市には枯れた産業が残る。栄えている都市では人件費や賃料が高く、企業にとってコスト増になることは必死ですが、それでもイノベーティブな企業(イノベーション企業)はコスト高な栄えている都市に集まると言います。

例えば、
イーベイ、アドビ → サンゼノに本社
ファイザー、IBM、etc. → 一見すると非合理な場所に拠点

要は、イノベーションの世界では、人件費や賃料以上に生産性と創造性が重要であり、栄えている(コスト高な)都市の方が、生産性や創造性に資する資源を獲得するのに有利だということです。

では、栄えている高コストな都市がもたらす恩恵とは何かというと、次の三つです(これら三つを経済学者は「集積効果」と呼んでいるらしいです)。

(1) 厚みのある労働市場(高度な技能をもった働き手が大勢いる)
(2) 多くの専門のサービス業者の存在
(3) 知識の伝播(最も重要)

それでは、これら集積効果のそれぞれの要素について、その優位性を考えていきましょう。

(1) 厚みのある労働市場
まず労働市場のボリュームについてです。アメリカの労働市場では、教育レベルごとに分断される傾向が次第に強まっており、同類婚(自分と社会的・経済的属性が似た相手と結婚すること)が多くなっているそうです。特に学歴同類婚が際立って上昇していると言います。で、

同類婚を望む人が増える→規模の大きな結婚市場が必要→ある程度多くの候補者がいる環境でないと望み通りの相手を見つけるのが困難

ということになります。こんな具合に高学歴者が得意とする知識集約的なイノベーション産業が集積する都市には、高学歴者が集積するポジティブ・フィードバックが生じるのでしょう。

さらに、既婚カップルも労働市場の厚みによる恩恵に浴することが出来ると言います。特に、「パワーカップル」と呼ばれる両方が専門職のカップルにとって利点が大きい言います。何故なら、夫婦がともにキャリアを追求するようになると、居住地に問題に直面することになんるからだそうです。すなわち、厚みのある労働市場が、引っ越し、単身赴任などを伴わないキャリア・アップを可能とする転職(っていうか転社)の機会を十分に提供してくれるということなんでしょう。


(2) 多くの専門のサービス業者の存在
アメリカのイノベーションハブは資金調達しやすいことに加えて、スタートアップ企業が活動しやすいエコシステムが充実していると言います。例えば、シリコンバレーやシアトルでは、ハイテク関連の新興企業が活動しやすいエコシステムが整っているそうです。エコシステムの中に含まれるものは、広告、法務、技術コンサルティング、経営コンサルティング、配送、修理、エンジニアリング関連の支援といった専門業者が含まれており、ハイテク企業は副次的な業務(雑務)に煩わされることなく、イノベーションに集中できる環境が整っています。「シリコンバレーのエコシステムはきわめて充実しており、高いコストを負担してもまだお釣りがくる」ほどとも言います。

興味深いことに、シリコンバレーの法律事務所の中には、資金繰りの苦しい企業家から手数料の代わりに、報酬として新会社の株式を受け取る形で業務を引き受けるところもあるそうだ(このようばベンチャー・キャピタル的なビジネスモデルは多数のハイテク企業が集密集する都市でしか成り立たない)。

さらに、イノベーションハブにある専門サービスプロバイダーとその顧客(ハイテク企業)が地理的近傍に存在することに極めて大きなメリットがあると言います。それは、専門サービスプロバイダーは顧客のニーズを把握し、彼らの商品価値を相手に理解させやすいということです。これは、当該商品が成熟したものであればさほど重要でないが、全く新しい商品の場合はビジネスの成否を左右しかねない場合があるといいます。


(3) 知識の伝播(最も重要)
ハイテク企業に代表されるイノベーション企業にもっとも必要なものは優れたアイデアと思います。で、IT技術が高度に発達した現在にあって、遠隔地にいる研究者仲間は、電話や電子メールを使って時間を気にせずに即座に連絡をとることができます。単に情報を伝達(プロジェクトの推進)するだけであれば、電話や電子メール以上に優れたツールはないと思いますが(fece to feceで話すより優れていると思う)、新しいアイデアの創出には殆ど役に立ちません。
それでは、創造的なアイデアが生み出される瞬間がどういう時かというと、たいてい予想もしていないときに思いつくことが常と思います。本書では「給湯室で立ち話をしているとき」が例示されており、議題のない自由な会話から思いがけずミステリアスに生まれてくると述べています。要は、創造的で斬新なアイデアの創出とは、ある程度異なる領域の知識ミックスであったり情報ミックスが融合したときに生まれるのであり、「アイデア生み出すぞ会議」的なものを設定して計画的に創出する類いのものではないんだろうと思います。


集積効果により都市は上記の優位性を獲得できるわけですが、集積効果の規模が大きい都市ほど、地域単位での規模の経済が働き、効率が良くなる訳です。そして、厚みのある労働市場も、多くの専門のサービス業者も、知識の伝播を促進するハイテク企業の集積も一朝一夕で出来る者ではなく、その移動も容易ではないはずです。このことから導きだされる結論は、

イノベーションハブは固定化し、それにより都市の格差は拡大する。都市の貧困も固定化される可能性が高い

ということなんだろうと思います。


いま日本では"地方創世"が流行っているらしいですが、「何それ美味しいの?」っていう気持ちで一杯です。農業はもっと過疎になった方が生産性が上がると思うし(イギリス、フランスと比べて田舎の人口が多過ぎる)、補助金を使った特産品アピールとか、道の駅とかも一過性である可能性が高いと思うし、補助金があるが故に採算性が軽視されがちと思います。観光業は為替の影響を受けるだろうし、人が押し寄せることに起因する地元の住環境の変化、宿泊施設への過剰投資とか一筋縄ではいかないでしょう。地方創世とは、現状の単なる地方の活性化というスローガン的なものではなくて、戦略的産業政策であるべきではないのでしょうか?でも、政官主導の戦略的産業政策なんて非現実的と思います。ちなみに経営学(戦略論)の泰斗M. E. ポーター教授は、日本の失敗産業(農業、金融、化学、チョコレートとか)には政府の政策を色濃く受けたものが多く、成功産業においては、政府の政策が意味をなさなかったと分析しています(see http://researcher-station.blogspot.jp/2008/02/blog-post_16.html)。地方創世はスローガンで終わり、税金が浪費されて終わると予想する二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

まだ、つづく.....


2015年8月22日土曜日

THE NEW GEOGRAPHY OF JOBS (1): 低学歴者は高学歴者に感謝すべき

E-6を乙で攻略して試製甲板カタパルトをGETするも、兵糧尽きて資源とバケツを備蓄中のオタッキーのコンキチです。


昨年、柏city(千葉の渋谷)にある呑み屋に行ったときのメモです。

-あさひ町スタンド MEMO-

-蓬莱泉 七 山廃仕込 特別純米 生原酒 (700 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
総数200本「ほうらいせん吟醸工房」矢島酒店(船橋市)の特注品らしい。
淡麗辛口。トップにalcoholicな匂いが立つ。僅かにpeach様の香味と仄かな甘み。フィニッシュに苦みと渋み感じる。普通に旨い。
-DATA-
分類(Grade)/ 特別純米 (Tokubetsu-Junmai)
原料米(Rice variety used)/ 山田錦, チヨニシキ
精米歩合(Rice polishing ratio)/ 60%
アルコール分(Percentage of Alcohol)/ 18%
日本酒度(Sake meter value)/ +1
酸度(Acidity)/ 1.8
-COMPANY-
関谷醸造(株)
http://www.houraisen.co.jp/

-あなごのにこごり (580 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
外側のにこごり部分の口溶けはまずまず。内部には穴子の(多分)蒲焼き片が入っている。悪くはないが感動もしない味。薬味に粉ワサビがつく。

-刺身盛合せ (880 JPY)-
-RATING- ★★☆☆☆
-REVIEW-
すずき、かつお、たこ、さば酢締め、さんま炙り塩振り。薬味にはかぼす、ショウガ、粉ワサビ。
開店早々に入店して、メニューに載っていたすずきの刺身(単品)を(その日、一番最初に)注文したら、単品はできないけど盛合せならできるということでオーダー(正直、開店早々の時点で出せないメニューを載せておいてドヤ顔してる姿勢はどうかと思いました)。
•すずき/ ちょっと乾いた感じで、身が厚過ぎでバランス(醤油ののり)が悪い。
•かつお/ 酸味強い。
•たこ/ 凄く柔らかくて驚いたが、食感に張りが無く、味にキレがない。ぼやけた味でボクの好きな味ではない。
•さば/ ぼちぼちの締まり具合で、まあ美味しい。
•さんま炙り塩振り/ ちょっと生々しい香味がする。炙ったことによって香ばしさ有るも、生々しい香味と合わさって下品に感じる。かぼすを付けて食べてみたら、身が湿って香ばしさが台無しに。

-金鼓 山廃本醸造火入原酒 平成十五醸造年度 11 years old-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
平成十五年に醸造し、その後、土蔵にてタンク熟成させたという一品。
色はGOLD color。トロリとした口当たり。軽めの紹興酒様の香味。控え目なchocolate-likeな香り。濃密body。finishに渋み。とても旨い。これはちょっと凄い旨さ。
-DATA-
分類(Grade)/ 本醸造(Honjyozo), 古酒(Koshu)
原料米(Rice variety used)/ 香川県産オオセト
精米歩合(Rice polishing ratio)/ 70%
アルコール分(Percentage of Alcohol)/ 19-20%
日本酒度(Sake meter value)/ ca. +2
酸度(Acidity)/ ca. 2.3
アミノ酸度(amino acid degree)/ ca. 1.6
酵母(Yeast)/ 協会7号
-COMPANY-
(株)大倉本家
http://www.kinko-ookura.com/

このお店、お酒の品揃えはなかなかですが、料理は凡庸で特筆すべきものはないと思いました(その割にはドヤ顔)。
あと、お酒の種類がメチャクチャあるから、オススメのお酒は何か聞いたんだけど、「全部おすすめです。お客様ん好みをお聞かせください」的なことを言われて、ちょっと不愉快になりました(好みは"旨い酒"なんだよね)。あと、種類にはこだわりがあるようだけど、呑み方は(おそらく)全て雪冷え。スペース的に制約があるのかもだけど、馬鹿の一つ覚えで冷蔵庫出しの酒だしといてドヤ顔するのはどうかと思いました。再訪はないかな。


閑話休題


年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学 」を読了しました。都市経済学の本です。ボク的にはとっても興味深い内容の本でした。なので、幾つかの気になった内容を何回かに分けてメモしていこうと思います。

で、初っ端はこちら↓

"大卒者の割合が増えている都市の住民ほど、給料が速いペースで上昇する(傾向がある)。
しかも、あらゆる産業で(特に、ハイテク産業で)。"

です。

その理由は、

(1) 相互補完性/ 高技能労働者(高学歴)と低技能労働者(低学歴)が相互補完的な関係にある。また、高技能労働者(高学歴)の数が増えると、それ以外の労働者(低学歴)の生産性も高まる
(2) テクノロジー導入の促進/ 教育レベルの高い労働者(高学歴)がいると、企業が新しい高度なテクノロジーを導入しやすくなる
(3) 人的資本の外部性/ (公式•非公式の)交流が盛んになると、知識の伝播が促進される(お互いに学び合う)→創造性と生産性がアップ↑

によると言います。

要は、高学歴者は、(1) 低学歴者の生産性を高め、(2) (企業に)テクノロジーを導入し、(3) 自らの創造性と生産性を高める。その結果、企業はウハウハになり、従業員(高学歴者と低学歴者)の給料が上がるといった具合なのでしょう。

"技能の低い人ほど、大卒者の多い都市で暮らすことによる恩恵が概して大きい"わけです。

著者が2004年に発表した研究によると、ある都市で大卒者の数が増えると、「大卒者の給料の伸びはさほどではない」のに対して、「高卒者の給料の伸びは大卒者の4倍に達する」といいます(高校中退者は5倍)。

まさに、高学歴者による人的資本の外部性の発露です。そして、このことは高学歴者は自らの教育の生み出す社会的恩恵に釣り合う対価を得ていない(市場の失敗)ことを意味し(むしろ、私的利益より社会的利益の方が大きい)、大学教育に対して行われる公的助成(税金の拠出)が正当化される根拠となります。

まあ、これはアメリカの話。日本とアメリカの高等教育の違いはさっぱり分からないけど、日本の場合は学歴も然る事ながら、学校歴の方が重要度が高いんだろうと思います。だって、どこぞのFラン大のシラバスなんて義務教育レベルで、大学(高等教育)の体を成してないじゃないですか。そんなのに公的助成とか

どうかしてるぜ。

以上、旧帝大出身の高学校歴者に敬意をはらい、感謝の念を抱いている、国内二流駅弁大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

つづく.....


2015年8月18日火曜日

ナポリタンが食べたくて 2

夏休みも終わり、再び社畜モードに突入した今日この頃。LibeccioをGETしたオタッキーのコンキチです。


突然ですが、またナポリタンを喰い漁ってみました。

発端は、
めしばな刑事タチバナの13巻「スパゲティ•アラカルト」を読んでいたら無性にナポリタンが食べたくなったからで、今回は第二弾です。
(第一弾はこちら→see http://researcher-station.blogspot.jp/2015/01/blog-post.html)

今回のメモは以下の4店↓

-伊勢周 スパゲティー (530 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
メニューには明確に「スパゲティー」と書いてあるが、店のおばちゃんに「ナポリタン?」と聞かれる一品(オレは心の中で、「だったらナポリタンって書いとけやっ!」って10回思ったね)。
で、繰り出されるナポリタンは全然洗練されてなくて、むしろ少しぼやけた感じ。でも、そのぼやけ加減が良いです。味付けは甘めで、なんか落ち着く味(この味を狙って出してるんだとしたら凄いと思う)。具は、ベーコン、ソーセージ、大きめにカットされた玉葱、海老(二尾)。


-水口食堂 昔ながらのナポリタン (700 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
麺は大分太めで、うどんのような食感。軽くむせるほどの甘みと酸味が田舎臭く(野暮ったく)まとわりついてくる。ソースにはトマトケチャップがけっこう効かせてあると思う。全然洗練されてないんだけど、これはこれでアリ。うどん-likeな麺に田舎ソースがけっこう合ってる。


-神谷バー スパゲティナポリタン (630 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
パスタは細め(中細)のアルデンテ。好みの太さと茹で上り。具は玉葱、ハム、マッシュルーム。味付けは薄めで、炒め感はあまり感じられない。スレンダー過ぎるかと思う味付けだけど、粉チーズを振りかけることで、全てが完成するといった印象。
と、そんな感じのするナポリタンで、ボク的には全然有り。


-ヨシカミ スパゲティーナポリタン (1,150 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
少し太めのパスタは独特の柔らかい食感でモチモチのフワッフワッ。味付けは酸味が極めて微弱で、穏やかな甘みに包まれている感じ。
具はマッシュルーム、玉葱、(多分)スパム、(多分)インゲン。トップには粉チーズ。スパムとインゲンは苦手なんだけど、違和感なく食べれて、美味しく調理されていたことに驚いた。
薄味さを感じさせない薄味で、レトロ感溢れる不思議taste。ただ、1,150円は高いと思いました。


ナポリタンっていうと喫茶店のイメージがあるんだけど、昔ながらの居酒屋 (伊勢周)、朝から呑める定食屋(水口食堂)、日本初のバー(神谷バー)にもナポリタンがあるんだね。その中でも一番意外だったのは、昔ながらの大衆居酒屋でナポリタンを喰ったことですかね。

あと、最近思ったんだけど、ナポリタンって嗜好性が相当高くってカオスちっくな料理だよね。それぞれの店毎に強烈な個性があって侮れません。

これからもナポリタン探求の道は続きます。

2015年8月16日日曜日

そのPd(0)触媒、SuperにStable

社畜の夏休みも終わりを告げようとしている今日この頃、速吸をGETしたオタッキーのコンキチです。

(オレは全くそうは思わないけど)"千葉の渋谷"こと柏cityに行った折、昼下がりにちょっと一服したときのメモです。

-Modern Times memo-

-ブラッドオレンジビア (500 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
BOLSのドライオレンジをエビスビールに加えたビア・カクテル。オレンジ由来の苦みを伴った甘い香りが特徴的。metallicな味が気になる。オレンジのbitterとchemicalな香りと、ビールのbitterの融合がけっこう面白い味に仕上がっている。でもビールの風味は大分消されている(淡色ラガーだけどね)。

-北海道産ホタテの雲丹焼き (800 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
marine noteが漂う。甘いホタテの上に形状を保った雲丹のソースが掛かっている。雲丹は濃密でプルプルしていて甘く、少し香ばしくて塩辛い。薬味にはネギと赤い球状のスパイス。
掛かっているソースは薄めの照り焼きソースか?なかなかマッチしていて良い。
ブラッドオレンジビアとのマリアージュはイマイチで、fishy aftertasteを感じる。

-エビス 生ビール 中ジョッキ (650 JPY)-

-自家製サルシッチャ (600 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
もの凄く野趣的で、根底にある肉々感が凄い。ボソボソしたワイルドな男性的な食感と"生(き)"の肉々感に粒入りマスタードが映える。
ビール(淡色ラガー)に良く合う。

気取りの無い店で、また行きたいです。


閑話休題


久々にじっくりパテント(WO 2012/093271)を読んでみました。とある0価のパラジウム触媒に関する話です。SUPERSTABLE Pd(0)CATALYSTという触媒です。


http://superstablepd.com/
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/product/chemical/Superstable_Pd/index.htm

このSUPERSTABLE Pd(0)CATALYSTは和光純薬から販売されていて、ウリは

Low Palladium Contamination
Low Palladium Loading
Air & Moisture Stable
Thermostable

要は、極めて高い触媒活性と安定性です。

Pd触媒は種々のカップリング反応において幅広く使われていますが、一般的に次のようなの問題点があります。

(1) 触媒添加量が(比較的)多い(1-5 mol%)
(2) 金属が不純物として混入し、その除去が面倒でコストがかかる(Pdは分解して遊離し易い)

換言すると、(触媒活性種の)安定性が悪いとうことなんだろうと思います。

例えば、最も代表的なPd(0)触媒であるPd(PPh3)4の場合、室温で空気中で保存すると短時間で多量のパラジウムブラックが遊離してきます。また、Pd(PPh3)4を用いたカップリング反応は不活性雰囲気下で行われますが、パラジウムブラックの遊離は同様に見られます。

で、SUPERSTABLE Pd(0)CATALYSTはどうなんだという話ですが、Pd(PPh3)4の欠点であったり、Pdが触媒するカップリング反応の問題点を全て克服しているそうです。

SUPERSTABLE Pd(0)CATALYSTの特徴は以下の通り↓
a) bright colored solid
b) 空気中、室温で20ヶ月以上放置プレイしてもパラジウムブラックは確認されない
(空気中、40˚C, 湿度75%で20ヶ月で保管してもNMR(31P, 19F, 13C, 1H)分析から分解は確認されなかった)
c) 分解温度は169.5˚C(DSC, 空気中、大気圧下)
d) mp. = 220˚C (in inert atmosphere)
(Pd(PPh3)4は98˚Cで分解しはじめる)
e) DFT計算より、金属-配位子の結合エネルギーはPd(PPh3)4の4倍(オレにはさっぱり分からないけど、著者等は特異的な配位子-配位子相互作用の寄与によるものと推測している)
f) Low Palladium Loading (0.005-0.25 mol%) see http://superstablepd.com/index.php/page-reactionguides
g) 反応条件下で安定
h) 低添加量と高い安定性のため、生成物からのPdの除去操作が不要


正直、凄いスペックと思いました。因に値段は

17,000 JPY / 1 g
67,000 JPY / 5 g

和光純薬価格のPd(PPh3)4と(16,500 JPY /  5 g)と比較すると、単位物質量辺りの値段は、

SUPERSTABLE Pd(0)CATALYST (MW. 2117.24): 28,371 JPY/mmol
Pd(PPh3)4 (MW. 1155.56): 3,813 JPY/mmol

となり、SUPERSTABLE Pd(0)CATALYSTはPd(PPh3)4 の7.4倍程度の値段になります。高いですが、触媒添加量を考慮すると少なくともサンプルワークレベルでは十分な競争力があると思います(Pd(PPh3)4 はPd/CとPPh3からin situで調製する方法があるからね)。ボク的には興味津々で使ってみたいですね。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。



2015年8月15日土曜日

SBH-TFAでラクタムを大量かつ安全に還元します (田辺三菱製薬)

夏休み。江風をGETしたオタッキーのコンキチです。


さて、昨年、(今はもう閉店してしまった)京都高台寺 よ志のや ららぽーと柏の葉店に行ったとっきのメモです。

-魯山人風すき焼き膳 (1,480 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
甘い割下が薄く張られた鍋に短くカットされた葱が直立して並ぶ。コンロに火をつけ、割下が温まるのを待つ。で、煮立たせないように注意して、肉を一枚一枚広げて、煮過ぎないように注意する。お肉に火が通ったら鍋から引き上げ、溶いた卵にまぶして食す。他に用意されている具は、豆腐、水菜っぽい野菜、最初から鍋に仕込まれている糸こんにゃくで、ボク的には春菊のように強烈な匂いを放つ野菜が入ってなくて好感が持てる(春菊入ってると、全部春菊くさくなるじゃん)。
お肉を引き上げるタイミングが難しくて、ちょっと遅れると少し硬くなってしまう。ベストなタイミングで引き上げると柔らかくて、活性化されていてなかなか旨い。
肉を煮ているのでアクが出てきて少し不快だけど、シャブシャブに比べればどってことない。
厳密には"魯山人風"じゃないかもだけど、すき焼き嫌いなボクとしては大分満足できました。


閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Process Safety Evaluation and Scale-up of a Lactam Reduction with NaBH4 and TFA
Org. Process Res. Dev., ASAP.

田辺三菱製薬の報告で、ラクタムをやっすく還元してアミンを与えるプロセス•ディベロップメントの話です(1月にWebで公開されたけど、まだASAPです)。

ラクタムの還元っていうと、パッ思いつくのはボラン錯体や金属ヒドリド還元(LiAlH4とかNaBH4とか)と思います。そして、こういったプロセスを企業化する際は水素の発生であったり発熱量に係る安全評価が必須になります(お約束でLiAlH4とか書いてあるけど、LAHはもうラボでだって使わないよね)。

みんな周知のことだと思うけど、
LAHはプラント•スケールでは取扱が難しく、発火•爆発性があり、予期せぬ副反応を引き起こします。
また、BH3•THF錯体はハイ•コストな試薬であり(製造では高い。余談だけど、THFは高い溶媒)、保管の問題があります(保管中の爆発リスクがある)。

ということでプロセス•ケミストが着目するのは安くて取扱いの容易なSBH (NaBH4)一択になります(まあ、SBHだって保管中の爆発リスクが無い訳ではないけど)。古典的教科書では、SBHはアルデヒドとケトンを選択的に還元すると習うと思いますが、溶媒を変えたり、additiveを加えて反応を行うことでその還元力を大きく変化させることができます。ボクはやったことないけど、SBHに硫酸を作用させてin situでジボランを発生させてカルボン酸を還元するなんていうのはadditive法の典型例だと思います。

で、本報のプロセス開発で採用された方法がSBH-TFA system(基質とSBHの懸濁液にTFAを加えて行く)です↓


最初のメディシナル•ルートはLAHを使用していましたが、実機でLAHは論外なことに加えて、分離困難な脱フッ素体の副生が確認されました。で、工業ユースできるアルミニウムヒドリド系のVitride (Red-Al)の場合だと、LAHと比較してマイルドな反応条件で収率が向上するものの脱フッ素体がやっぱり検出されてしまいます。
一方、ホウ素系の還元剤(BH3•THF, KBH4-LiCl-TMSCl, NaBH4-TFA)だと、脱フッ素体の副生が抑えられ、マイルドな反応条件で収率も押し並べて良好です。で、コストとハンドリングの観点から著者等のチームはNaBH4-TFA系での最適化へと進んできます。

ところで、"SBH+additive"による還元は極めて発熱的なので企業化するにあたっての安全評価が欠かせませんが、反応過程で生じる活性種(NaBH4-n(OCOCF3)n (n=1,2, or 3))が良く分かっていないため、その評価は難しいと言います。ということで、著者等のチームはSBH-TFA reductionの反応機構を調査し、活性種の生成を制御しつつ、安全性評価を行って行きます。具体的には、11B NMRいより活性種を把握して反応機構を推測し、反応熱量測定と気体発生分析により安全性を評価していきます。

まず、反応機構についてです。
11B NMRの測定結果より
a) SBHをTFAで処理すると、11B NMRよりBH3とNaBH4-n(OCOCF3)nが検出される
b) 反応混合物の11B NMRから、還元成績体のボラン錯体とBH3とNaBH4-n(OCOCF3)nが検出される
ということが分かりました(スペクトルが凄ぇブロードでs/n悪いのでオレには判別できないけど)。

さらに、
c) ラクタムを加える前にSBHとTFAを混合すると反応が完結しない。
という実験結果があります。

これらの結果から推測した反応機構がこちら↓


活性種がNaBH3(OCOCF3)となる(想定)ことから、基質とSBHの混合物に対するTFAの制御された添加が重要です。

次にプロセスの安全性評価ですが、RC1eを用いた反応熱測定から、

d) TFAの添加速度と熱の発生比に整合性あり
e) 反応の転化率と熱変換は概ね一致
f) ラクタム還元の反応熱は、521 kJ/mol
g) SBHとTFAだけの発熱量は263 kJ/mol
h) SBHとTFAだけの反応で、TFAの添加速度と熱の発生比に整合性あり

ということが分かりました。

さらに、

i) また、TFAの添加速度とガスの発生比も良く一致

します。

これらのことから、"TFAの添加速度を制御することで発熱とガスの発生を制御できる"ということが示唆されます。

ところで、この反応で発生するガスの元素分析を行った結果、水素の他にジボランがガスとして発生していることが分かりました。学生の時分、ジボランは猛毒だと習いましたが、日本産業衛生学会のガイドラインによると、その最大許容濃度は10 ppbと規定されているようです。で、このジボランをクエンチするために著者等が採用したのは15% NaOH水溶液のダブル•スクラバー•システムでした(シングルだと ca. 70 ppbで、ダブルにするとn.d.)。
(こういうガスのトラップって真面目にやろうと思ったら、比較的濃度の高い溶液で撹拌しながら多段トラップかまさないと十分に効果でないんだよね)

ちなみに、著者等が開発したプロセスは、35 kgスケールのパイロット製造で成功したそうです (メデダシ メデタシ)。


Industrial Friendlyなボロハイを上手に活用したプロセス•ディベリップメントっていいよねって思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

あと、余談だけど、どうしてメディシナルの人ってLAHをチョイスするんでしょうか?LAHなんて危なくて今となっては終わった試薬じゃないですか。"狂ってるの?怠けてるの?バカなの?"って心の底から思います。特に選択性が出る反応でなければ、還元力もLAHと同等と言われて取扱が容易なRed-Al使えよって思うのはボクだけでしょうか?

2015年8月10日月曜日

CO等価体がサンプルワークを変える Extra Operation

チバラキ県民なら誰でも知ってる野田の有名イタリアンComestaの支店(三井ガーデンホテル柏の葉)にランチしに行ったときのメモです↓

-日伊合作料理 PPセット (1,300 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
1日限定20食のランチ。PPはPIZZA & PASTAの略。スープ、サラダ、揚げピッツァ、三3種パスタ、ドルチェ、コーヒーのセット。
•コーンスープ (Soup)/ 少しカボチャが入っている感のある食感とtaste。
•サラダ (Green Salad)/ 「工場直送!スマートグリーンサラダ」と銘打たれ、野菜工場製野菜を使用。
•揚げピッツァ (Fried Pizza)/ 外側はパリッとしていて、内側はモチモチというかモッチモチ。内側にはチーズとホクホクのジャガイモが仕込まれており、究極のシナジーを発現している。そのまま食べて勿論旨いが、食べ終えたパスタのソースにつけて食べると追加で3度(3種類)美味しい。
•3種のパスタ (Pasta "Tricolore")/ アマトリチャーナ (Amatriciana)、コメスタのパスタ (Minced meet of sauce MOROMI pasta Comesta style)、ジェノベーゼ (Genovese)の3種。
アマトリチャーナ (Amatriciana)はfreshで酸味が心地よく、コクがあり少し野趣的。
コメスタのパスタ (Minced meet of sauce MOROMI pasta Comesta style)は醤油もろ味で煮込んだ挽肉のミートソースで、トッピングは白髪ネギ。モロミ由来と思われる野趣的な香味がクセになる。オイルがふんだんでミートソースや鮮烈な爽やかさを放つ白髪ネギとの相性抜群。
ジェノベーゼ (Genovese)は塩味控え目でバジルの香味豊潤。単品だと少し物足りないかもしれないが、3種類のパスタのうち他2種類が濃いめの味付けなのでちょうど良いかも。
•ドルチェ盛り合わせ (Dolce mist)/ ストロベリーソースの掛かったアイスクリームとシフォンケーキ。
•コメ•スタコーヒー (Coffee)/ コーヒーか紅茶を選択。今回はコーヒーをセレクト。少し舌に絡みつく粘度とそこそこのコクがあって、けっこう好きかも。おかわり自由で嬉しい。

このセット、正直お得と思います。


閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Palladium-Catalyzed Carbonylation of (Hetero)Aryl, Alkenyl and Allyl Halides by Means of N-Hydroxysuccinimidyl Formate as CO Surrogate
J. Org. Chem., 2015, 80, 6537-6544.


以前、CO等価体として取扱が容易なギ酸アリールを使ったパラジウムが触媒するカルボニル化反応のメモを書きました。
see
CO等価体がサンプルワークを変える (1)
CO等価体がサンプルワークを変える (2)


この眞鍋先生(静岡県立大)の研究成果にインスパイアされ、新たに使い勝手の良いCO等価体を用いた反応開発をしたのが本報です。

で、着目したCO等価体はこちら↓

です。

N-Hydroxysuccinimidyl ester (NHS ester)はカルボン酸の活性エステルとして広く利用されており、非常にマイルドな反応条件下で高い活性を示す一方で、安定で取扱が容易であると言います。

ということで、This workは、N-Hydroxysuccinimidyl FormateをCO等価体として用いたハロゲン化アリールのカルボニル化です。

31 examples, 29-98% isolated yield

最適条件は上記schemeの通り。溶媒効果(THF, DMF, MeCN, CPME, dimethyl carbonate, diethyl carbonate, PhMe, MeTHF)は観測されません。基質がハロゲン化アリールの場合、ヨウ化物だと広い範囲の基質でけっこういい収率をマークしますが、臭化物では反応があまり堅牢でないようです。官能基許容性は高く、フリーのアミノ基本、フェノール性水酸基、ホルミル基があってもオッケーです。基質がヘテロアリールハライドの場合はヨウ化物、臭化物に対して適用できます。

さて、気になるCO等価体おしですが、N-Hydroxysuccinimidyl Formateは
a) 結晶性の高い化合物で、不活性ガス雰囲気下で数週間は保存可能
b) ヒドロキシコハク酸イミドとギ酸から収率99%で合成でき、エバポレーションするだけで高純度で単離できる
c) 塩基による脱カルボニル化はこんな感じ↓
ピリジンでも脱カルボニル化が進行するが、1.0 eq., 60˚Cでca. 80% Conv. (2 hr), >90% Conv. (3 hr)。
solvent effectやconcentration effectがあるかもしれませんが、眞鍋先生らの使ったCO等価体と比較すると、N-Hydroxysuccinimidyl Formateの活性は

Trichlorophenyl Formate > N-Hydroxysuccinimidyl Formate > Phenyl Formate

といったところでしょうか。

最後にacetylcholinesterase inhibitor合成への応用例です↓

N-Hydroxysuccinimidyl Formateとのカップリングで生成するNHSエステルのさらなる変換も容易です。

本報の反応はsealed tube中で反応を行っていますが、眞鍋先生らの方法と同様に普通のglasswareを使ってN-Hydroxysuccinimidyl Formateをslow additionすることでスケールアップできるんじゃないかとボク的には思います。

ハンドリングも良さそうだし、新たなCO等価体が増えて喜ばしいんではないかと思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

2015年7月27日月曜日

カップリングでニトリルつっこんでみました (Buchwald Group)

昨夏、泥鰌を喰いに行ったときのメモです↓

-両国どぜう 桔梗家 memo-

-丸鍋 (1,200 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
淡白な身。一口で全てをたいらげられる醍醐味。味付けは甘いんだけど、くどい甘さではない。濃いめの味付けと思うが、淡白な泥鰌にマッチしている(白い御飯にも良く合う)。葱を大量に鍋に入れるんだけど、この葱がBest Match!
白い御飯の上に、泥鰌と葱を載せて食べ進める醍醐味の凄さ。感動が迸る。泥鰌は既に柔らかくなっていて、葱がしんなりしてきたら食べごろ。どういて泥鰌はこんなにも可愛らしいんだろうかと思いました。

-御飯 (200 JPY)-

-どぜう汁(丸) (200 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
上品な味噌仕立てで旨い。泥鰌が顔が見えると、思わず笑みが溢れてしまう。

-ビール 大 (黒ラベル) (600 JPY)-

-鯉のあらい (800 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
酢みそとワサビ醤油のどちらかを選ぶ(ワサビ醤油をセレクトした。ちなみに、ワサビは粉ワサビ)。鯉は初めて食べたんだけど、少し乾いたような感じでちょっと硬めのしっかりした身。少しだけ"肉"を想起させる食感(といっても"魚"感が圧倒的だけど)。歯応えは十分で、口の中でハラハラとばらけていく。淡白ながらも、力強さを感じる味。finishのearthyな味わいが特徴的。
総じて、面白い味。ワサビ醤油より酢みその方が合うような気がした。人魚の肉ってこんな感じなのかな?と言う気持ちが心をよぎる一品。


閑話休題


ちょっと古いけど、こんな文献を読んでみました↓

A General, Practical Palladium-Catalyzed Cyanation of (Hetero)Aryl Chlorides and Bromides
Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 10035-10039.

Buchwaldのグループの報告で、彼らの開発した第3世代パラダサイクルを使ってクロスカップリングでニトリルを導入してベンゾニトリルを合成する話です。

ベンゾニトリルの古典的な合成法としは、Sandmyer反応やRosenmund-von Braun反応がありますが、大過剰のCuCNが必要であったりと、まあ問題があります。

Rosenmund-von Braun Reaction

(Sandmyer反応は多分に注意を要するジアゾ化を介し、Rosenmund-von Braun反応は(多分)適用基質は主にヨウ化物で高温を要する)

あと、比較的最近、Buchwald等はRosenmund-von Braun反応のimprovementを報告しています↓
Ar-Br: 9 examples, 70-98% Yield
Het-Br: 6 examples, 74-95% Yield
J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 2890-2891.

このimprovementは、ハロゲン交換-シアノ化のドミノ反応で、反応条件は銅の使用を触媒量に抑えており、従来のRosenmund-von Braun反応と比較して非常にマイルドなもので、官能基許容性が高いです(フリーのO-H, N-Hがあってもオッケー)。NaCNは使用しなければならないものの、サンプルワークレベルではかなりイケてる方法と思います。それでも、Buchwald曰く"still have limitations"だそうです(具体的には言及してなかった気がする)。

ところで、パラジウムが触媒するシアノ化の最初の例は1973年(Takagi et al., Chem. Lett., 1973, 471-474.)で、画期的な進歩ではあったが再現性に問題があったようです(要はメチャメチャ堅牢でない=脆弱)。そもそも、シアニドが触媒毒であることが問題で、シアニドの触媒毒としての作用を低減するための手法が開発されてきました。例えば、

a) 還元剤の添加 (Tetrahedron Lett., 2000, 41, 3271-3273.; シアニドソースにはZn(CN)2を使用)
b) NaCN, KCN, Zn(CN)2の有機溶媒に対する溶解度の低さを利用する

といったものが。

しかしながら、NaCN法は厳格な禁水条件が必要で、さらにMCN (M=Na or K)を使用する場合は、溶解性と再現性を担保するために磨り潰してからの使用が求められたりします。Zn(CN)2はこの種の反応で官能基化された基質に対して最も広く用いられているシアニドソースで、その毒性はNaCNやKCNのおよそ10%程度の毒性だといいます。それでも毒性はあるわけで、より毒性の低いシアニドソースを用いたアプリケーションが求められていると言います。

で、登場した無害シアニドソースがK4[Fe(CN)6](無毒の食品添加物)です。K4[Fe(CN)6]をシアニドソースに使ったアプリケーションには次のようなものがあります。

(1) Beller and Weissman
aqueous二相系。PTC存在下、140˚C以上の反応温度が必要(Eur. J. Org. Chem., 2008, 3524-3528.; Tetrahedron Lett., 2008, 49, 4693-4694.)

(2) Huang and Kwong
1:1 organic/aqueous 混合溶媒を使用し、マイルドな条件でシアニドトランスファーを実現する。適用基質に制限があり、5員環のヘテロサイクルを基質に用いた例は殆ど無し(Catal. Lett., 2010, 139, 56-50.; Angew. Chem. Int. Ed., 2010, 49, 8918-8922.; Org. Lett., 2011, 13, 648-651.; Tetrahedron Lett., 2011, 52, 7038-7041.)。

(3) 田辺三菱製薬 (Org. Proces Res. Dev., 2014, 18, 693-698.)
Pd(OAc)2, P(o-tol)3, Na2CO3, DMAc-toluene, 135˚C。医薬品のプロセス開発。基質一般性は不明。最近の報告なので、本報に記載なし。
see http://researcher-station.blogspot.jp/2014/11/blog-post_25.html

無毒なK4[Fe(CN)6]をシアニドソースに使用した反応は魅力的ですが、それでも、そこそこの高温が必要だったり、汎用性に乏しかったりといった問題が解決されていないようです。

そこで、This Workですが、Buchwaldらは次に挙げるさらなるimprovementの実現に注力します。

1) 中程度から低い触媒添加量でAr-Clへの適用
2) 広範囲なHet-Xへの適用。NH基を有する5員環ヘテロサイクルへの適用。
3) 反応温度100˚C以下で、1 hr以内に反応完結。

これらの課題を解決するために鋭意検討(スクリーニング)した結果、次のschemeで示されるソリューションが見出されました。


第三世代パラダサイクルと幾つかの嵩高い配位子との組み合わせで、優れた基質一般性を実現いています。



あと、Buchwaldらは触媒サイクルにおけるtransmetalationステップについてこんな検討しています↓

この結果から、K4[Fe(CN)6]の鉄中心からのシアニドの解離には熱が必要なことが示唆されます(つまり、K4[Fe(CN)6]はKCNなどより活性が低い)。

Ar-Clとも余裕で反応する活性の高さ、無毒のK4[Fe(CN)6]を使用しつつ反応温度をそこそこリーズナブルに抑えているあたり、短い反応時間、基質一般性の高さと、本報で提示された手法は非常に魅力的と思います。著者等が、"General"、"Practical"と銘打つ気持ちは分かりますが、まあ、後はPrecatalystの値段が問題かなと思う二流大出のなんちゃってテクニシャン(研究補助員)のメモでした。