結晶多形に関する記事を読んでみました。我が国の製薬業界の(多分)盟主、武田薬品工業の研究員の方の記事です↓
「医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み」
有機合成化学協会誌, Vol. 65, No. 9, 907-913 (2007)
コンキチは、学生時代の(一応)専門が「Optical Resolution via Diastereomeric Salt Formation Method」だったので、結晶多形が分割効率(どれくらい光学分割の効率が良いかを表す指標。ジサステレオマー間の溶解度差が大きいか、小さいかということですね)に大きな影響を及ぼすことがあるので、(ごくごく小さな)多少の知識はあるつもりだったのですが、今回この記事を読んで自分の無知さ加減に気づいて恥ずかしいやら勉強になりました。
まず、「医薬品の約80%に結晶多形が存在するといわれている」というのにビックリ!
さらに知らなかった述語がこんなに↓
a) late-appearing polymorph→新しい結晶形が後から出現する現象
b) disappearing polymorph→late-appearing polymorphに伴って従来の結晶形が作れなくなる
c) monotropism→全ての温度範囲で同一の安定形である
d) enantiotropism→温度範囲によって安定形が逆転する
e) intentional seeding→一次核が生成(primary nucleation)しにくい条件下で、必要とする結晶形の種晶を接種して二次核の生成(secondary nucleation)を制御する
f) unintentional seeding→環境下に微量に存在する結晶核に過飽和溶液が汚染されることによって、意図せず、晶折が起こる
(unintentional seedingがintentional seedingと競合する場合があるんだそうですよ。)
g) Ostwald’s stage rule (Z, Phys. Chem., 22, 289 (1897))
→新規化合物を初めて結晶化させる場合や、新たな結晶多形が出現する場合は、primary nucleationが起こっていて、primary nucleationが熱力学的エネルギーの高い準安定形結晶から最安定形結晶へと順次起こる現象。準安定形結晶の方が古典的核生成理論におけるエネルギー障壁が低く、安定形結晶に比べて過飽和溶液中での結晶核が発生しやすいと解釈される。
h) 臨界核径→核生成エネルギー障壁の最大値を示す結晶核の大きさ。臨界核径より大きい結晶核は急速に成長し、小さいものはクラスターとして再溶解していく。
こんな現象あったんですね。
でさらに、光学分割の例が載ってました↓
TQAをTosyl-D-Valine (TDV)で光学分割して(S)-TQAを得るという話で、最初は(S)-TQA・TDVが89.4%deでGETできていたのに、スケールアップしたら、バッチを重ねるごとに分割効率が悪くなっていき、最終的には(R)- TQA・TDVが6.4%deが晶出するようになってしまたのだそうです。この現象は、以前得られていた(R)- TQA・TDVは溶解度の高い準安定結晶だったのに、スケールアップ時には溶解度の低い安定結晶が出現したとのこと(コンキチは全然勉強したことないのですが、粉末X線回折で分かるんですね、こういうのが)。
ヤバイ、はじめて知りました。自分の白痴加減にくらくらしてきます。
ずいぶん前に「有機結晶作製ハンドブック」っていう本を買って読んだんですけどねえ。
因みに「有機結晶作製ハンドブック」は、ラボにおける結晶作成技術について書かれた本で、執筆者に味の素関係者が2名入っていたためが、アミノ酸関連の結晶化と有機金属錯体の結晶化技術が重点的に書かれていたように思います。まあ、良い本だとは思ったのですが、工業的な結晶化技術を期待して方のですが、ちょっと拍子抜けした記憶があります。所謂、ケミスト向けの本と思いました。
やっぱり、アカデミックとインダストリーの差なんでしょうかねえ?
それにつけても、この記事を読んで、化学業界(医薬品業界も含む)のヒエラルキーを思い知らされた気がする香料会社の窓際研究員でした
PS.
今日はコンキチの生息する地域で初雪となりました。ホントに机が窓際にあるので、マジ寒かったです。
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