「お仕事: 有機合成化学」のコンキチです。今回のブログは前回の続きです。
前回も書きましたが、有機合成は不確実な危険を伴うお仕事です。そして、その危険は有機合成化学界の大御所にも及びます。
例えば、2001年ノーベル化学賞を受賞した野依良治先生は京大の助手時代に爆発事故を起こして首から顔面にかけて20数針を縫う大怪我をしたそうです(「学問と創造―ノーベル賞化学者・野依良治博士」より)。
また、同年ともにノーベル化学賞を受賞したK. Barry Sharpless教授は、MITのアシスタント•プロフェッサー時代に、院生が封管したNMRチューブが破裂して片目を失明しました。
see http://www.scripps.edu/researchservices/ehs/News/safetygram/sg2000/sg2000b.html
若かりし頃とはいえ、将来ノーベル賞を受賞する優秀な研究者であっても化学実験事故から完全に逃れる術はありませんでした。何人たりとも有機合成化学を侮ってはならないのです。
化学実験の事故といえば、前回のブログでも軽く触れましたが、昨年年末(12月29日)UCLAで起きた女性リサーチアシスタント(23歳)の死亡事故は、有機合成を生業とするコンキチにとってかなりの衝撃でした(密かに、自分t-BuLi使ったことないしね)。概要は、t-BuLi (1.7M in pentane, 20 ml)を(プラスチック製の)60 mlシリンジで秤量中にプランジャー(or 針)が引っこ抜けて、t-BuLiが飛び散り、発火し、セーター(合成繊維製)に付着し、大火傷を負ったようです。あと、ニトリルゴム手袋をしていたようですが、それも燃えちゃったみたいです。
see
Research assistant dies of injuries incurred in December lab fire (UCLAToday)
Researcher Dies After Lab Fire (C&EN)
Statement of Patrick Harran (LA Times)
New details emerge in fatal UCLA lab fire (LA Times)
State fines UCLA in fatal lab fire (LA Times)
UCLA Fined In Researcher's Death (C&EN)
Negligence Caused UCLA Death (C&EN)
人ごとながら戦慄を覚えますね。言葉は悪いですが、「他山の石」「人の振り見て我が振り直せ」です。
ところで、UCLA女性リサーリアシスタント(23)死亡事件は、
a) t-BuLiを使っていた(他の代替試薬や代替反応があれば、そもそも超危険なt-BuLiを使う必要はなかった)
b) プラスチックのシリンジを使っていた(ルアーロックのガスタイトシリンジを使っていれば、プランジャーもはずれにくいし、針もはずれない。よってt-BuLiの飛散する確率と度合いは減少する)
c) セーターを着て実験していた(白衣を羽織っており、炎が降り掛かった際にすぐに脱ぎ捨てていれば助かったかもしれない)
の3つが全て揃ってはじめて具現化したといえると思います。すなわち、上のa,b,cのどれか一つでも要件を満たしていなければ「死」には至っていなかった可能性が高いのではないかということ。アンラッキーやハードラックで片付けてしまうのは簡単ですが、率直に言って個人と組織の安全活動への取り組みが不十分であったために、3つ(a,b,c)のミスが集積してしまい死亡事故へと発展したのだと思います。
個人的にコンキチは次の3点が安全な化学実験を遂行するのに必要なファクターと考えます↓
1) Knowledge/ 取り扱う危険物質に関する特性や反応の特性を把握していること。
2) Skill/ 安全に実験作業を実施する技能
3) Literacy/ 安全リテラシー。安全意識を持って行動する能力
UCLAの事例でいえば、
Knowledgeを活用すれば、代替試薬や代替反応がみつかり、t-BuLiの使用を回避できたかもしれない
Skillが充分あれば、適切な器具を使用することにより、t-BuLiの飛散を防止できたかもしれない
Literacyが充分あり、白衣を着用していれば、白衣を脱ぎ捨て火だるまになることを回避できたかもしれない
ということ。
では、充分なKnowledge、Skill、Literacyを身につけ、事故を未然に防ぐ、起こしてしまった事故を最小限の被害を抑えるるにはどうすれば良いのか?
有機合成を生業にするということ (3)に続く.....
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