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2018年8月17日金曜日

またまた交換反応:今度はオニウム塩が主役

先日、7月25日をもって閉店してしまった、新宿は紀伊国屋ビル地下1階に入っていた酒膳処 珈穂音に数年ぶりに行って来ました。その時のメモです。

-珈穂音 memo-

-ロールキャベツ定食 (980 JPY)-
-RATING- ★★★☆
-REVIEW-
コンソメースープ仕立てのロールキャベツの定食。ライス、サラダ、お新香のセット。
THEコンソメスープという感じの旨さ。滋味深く澄んだ味。胡椒が振ってあって、そのフレーバーが香り立つ。キャベツは丁寧に巻かれている。ロールキャベツは三つに切り分けられていて、その姿を美しく保っている。キャベツは柔らかく、食感が楽しめてスープを一緒に啜って食べると旨さが炸裂する。中の挽肉はsolidな食感で、やんわり獣フレーバーを纏った素朴な味(お肉自体に下味はつけてないらしいです)。
それからケチャップだけど、けっこうイイね。味変して乙な味になります。
お新香はノスタルジックなベーシックな糠漬け。大根の漬かり具合が大分薄いです。
あと、ロールキャベツの下にはパスタが敷いてあって、箸休めにも、スープを啜るお供にもいい感じです。


-生ビール (中ジョッキ) (590 JPY)-


amazon.co.jpが台頭する前は、(有機化学の)専門書を漁りに紀伊国屋本店に足を運んでいて(遠征していて)、その際は珈穂音で日本酒を呑みながらお昼を食べたものです。新宿のちょっとしたお気に入りのお店でした。なので、(紀伊国屋と折り合いが悪くなった結果の)閉店の報はちょっとショックです。でも、新店立ち上げの予定があるということなので、それに期待したいと思います(see http://www.capone.jp)。


閑話休題


こんな文献を読んでみました。また、交換反応のお話です。

Metal-free transesterification catalyzed by tetramethylammonium methyl carbonate
Green Chem., 2018, 20, 1193-1198.

名古屋大の石原先生のグループの報告です。タイトル通り、エステル交換のお話です。
"交換"反応(エステル交換、エステル-アミド交換。アセタール交換)については何回かメモしてきましたが、しつこく行きます。

過去の"交換"反応メモ↓
(1) ZnTAC24 : Environmentally Friendly and Unique Transesterification 
(2) もっと、交換反応 : NaOMe最強伝説 
(3) もっと、交換反応 (2) : アセタールをつけたり、とったり

で、今回のエステル交換反応の主役はオニウム塩で、より具体的には、


tetramethylammonium methyl carbonate

です。

エステル交換反応は未だに金属塩触媒に頼っていて、それら金属塩(Al(III), Sb(III), Ti(IV), Sn(IV), Sm(III), Hf(IV), Zr(IV), Y(III), La(III), Zn(II), Fe(III), Co(II))は有害であったり、着色の原因となったり、高額だったりするようです。加えてこれらの金属塩のほとんどはキレーションする基質には使用できないという欠点があります(基質が金属塩とキレーションして不活性化する)。反応条件もアルコール溶媒中のアルコリシスと制約があります。

本報のお題は、

汎用有機溶媒中、エステルとアルコールの当量混合物のエステル交換によりそこそこ複雑なエステルを合成する

というけっこうハードルの高いものです。

で、金属塩触媒では克服できないお題を解決するために著者らが目を付けたのが、四級アンモニウム塩です。

アンモニウムアルコキシド([R4N]+[OR']-)が有望そうなのですが、一般的に不安定で、その強い塩基性ゆえ湿気に弱いことが知られています。一方、アンモニウムメチルカーボネート([R4N]+[OCO2Me]-)は安定性に富み取り扱いが容易です。そこで著者らが考えたのが、アンモニウムメチルカーボネート([R4N]+[OCO2Me]-)からin situでアンモニウムアルコキシド([R4N]+[OR']-)を発生させて触媒的にエステル交換反応を達成するというものです。

ちなみに、[Me(n-octyl)3P]+[OCO2Me]-やDABCOから誘導したアンモニウムメチルカーボネートが炭酸ジメチルのエステル交換反応の触媒として有効であることが知られていますが、複雑な基質への応用例は無いそうです(触媒が過剰の炭酸ジメチル(DMC)中でないと不安定らしい)。


ということで、This Workではオニウム塩ベースのエステル交換の実用的インプルーブメントを行い、鋭意検討した結果辿り着いたのがtetramethylammonium methyl carbonateなのです。


反応は、ソックスレーにMS 5Åを詰めて加熱還流させてMeOHを抜きながら行います。
1-3段目はエステルに対して1 eq.のアルコールを作用させて反応さえせた結果で、4-5段目は一方のリアクタントが溶媒になります。
金属塩触媒では困難なキレーションする基質に対して、実に有効に働きます。
興味深いことに、アミノアルコールとの交換反応では選択的にO-アシル化が進行します。
コレステロール誘導体(2段目、左から2つめ)は、トルエン中(110˚C)だと、触媒が分解してしまうためか、3 hrで反応が停止してしまいますが、ヘキサン中で反応を行うことで収率が大幅の改善します(74%→94%)。因みに、1段目の左から2番目の反応は、触媒を4回リサイクルしても活性が落ちません。ヘキサン中(bp. 69˚C)では触媒の分解は起こらないか非常に緩慢なのでしょう。
それから、トルエンやヘキサンには溶解し難い核酸アナローグ(2段目右端)は、DMF中で反応を行うことで高収率です。
indol/prolinol誘導体(3段目左端)、キニーネ誘導体(3段目左から2, 3番目)、クエン酸エステル(3段目左から4番目)は、なんだか分かんないけど、THF中で反応を行うことで収率が大きく改善します。
N-保護光学活性α-アミノ酸(3段目右端の2個)は深刻なラセミ化なしに反応が進行します。

あと、バイオディーゼルプロダクションへの応用例です↓
キレーションするグリセライドやグリセリンがガッツリ系内に存在した状態での反応ですが、定量的に反応が進行します。

この触媒、けっこういい感じじゃネ?

ついでに、1,3-ジオールとMMA (methyl methacrylate)とのエステル交換では、より活性の低い触媒を使ってマイルドな条件で反応を行うことによってmono-エステルを合成することもできます。

最後に、著者らの行った触媒(四級アンモニウム塩)スクリーニング結果をメモしてフィニッシュしましょう↓


まず、β水素があると反応中にホフマン脱離して触媒が壊れやすくなります。なので、窒素回りの置換基はβ水素の無いメチル基がベスト。反応点回りの立体もスッキリします。


あと、アニオン部分の検討も行っていて、[OCO2Me]-が決定的です。

ラボユースだと、モレシー入れたソックスレーで加熱還流しないとなのでちょっぴり面倒だけど、いい反応と思います。個人的には、従来の金属塩では達成困難なキレート形成能のある基質にも適用できることと、溶媒の選択肢が多いことがデカイと思います(著者らもここの二つをウリにしている)。機会があったら是非使ってみたい反応と思いました。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のしつこくエステル交換メモでした。


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