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2020年3月30日月曜日

N-ニトロサッカリン爆誕

増税前にCRAFT BEER MARKETで一杯やったときのメモです。

-CRAFT BEER MARKET 神保町店 memo-

-Ballast point ヴィクトリーアットシー (カリフォルニア) 200 ml (増税前で780 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
バニラビーンズとコーヒービーンズを使用した、大人なハーモニーなビール。
猛烈に濃厚なチョコレートの香り。それから、少し麹様の香りもする、そして、ハイ・ロースト!!!とても香り高い。
味わいもチョコレートリッチのフルボディー。スウィート(sweet)、ロースト(roast)、アーシー(earthy)、パウダリー(powdery)。ベタベタした甘さは一切ない大人な甘味。
フィニッシュには柔らかく深みのある優しい苦味。
素晴らしくコク深い大人の呑むデザートに仕上がっていると思いました。

-お通し (増税前で300 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
スパイシーやげん軟骨(冷製)。
コリコリした食感の軟骨は、オイラの大好物。
胡椒のスパイシー・フレーバーは控えめ。ドレッシングライクなオイリー(oily)さが薄化粧な味付け。そして、ドレッシングテイストが冷製にベストマッチ!こんなに上品な軟骨は初めて。


ほぼセンベロですね(ベロンベロンになってないけど)。


閑話休題


ども、最近論文ウォッチングをサボリまくってるコンキチです。そんなときにとても役に立つのが、有機合成化学ブログの雄「たゆたえども沈まず」さんの"2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話"です。ハイクオリティな論文がピックアップされているので、どの論文を読んでも勉強になること必至かと思います。

ということで、

2019年論文オブザイヤー改め2019年論文を振り返る話 ②試薬・装置・反応編

で紹介されている論文を読んでみました。

目を通したのは、

Facile access to nitroarenes and nitroheteroarenes using N-nitrosaccharin
Nat. Commun., 2019, 10, 3410.

簡便ニトロ化のお話です(オープンアクセスです)。あと、このメモのタイトルに深い意味はありません。

ボクも古典的なニトロ化は何度かやったことがありますが、憂鬱な気分で一杯になりました(オレって神経質なんで強酸が嫌いなんだよね。まあ、既報のトレースだったので、まだ気が楽でしたが)。

芳香族求電子置換反応の代表例の一つで、教科書にはけっこうクリーンに書いてありますが、まさか教科書に複雑で面倒くさい例を載せるはずもなく、過酷な反応条件と選択性の問題について言及されるのは最早枕詞です。

とまあ、改善すべき課題が明確にあるわけで、様々な研究が行われているようです(知らなかったけど)。比較的それなりに最近の例だと、ipso-nitrationdirected C-H activation/nitrationipso-oxidationなんかが報告されています。例えば↓


ipso-nitration

9 examples, 20-88%
Org. Lett., 2004, 6, 2205-2207.

電子リッチな基質では副反応のクロロ化が問題になりそう。ニトロ置換体は加熱すれば、反応が進行(45% yield)。CF3置換は苦手(sluggish, 20% yield)。基質一般性に乏しそうです。
個人的に、ピナコールボロネートでも反応が進行するのかが気になるところ。

J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 12898-12899.

ヘテロアロマティックの例も有り。因みに、トランスメタレーションの速度はCl > Br > Iで、臭化物で収率激減、ヨウ化物だと目的物はnd.です。


directed C-H activation/nitration

マジ知らなかったんだけど、いろいろ研究されてるようです(Org. Biomol. Chem., 2019, 17, 1351-1361.)。そに中で幾つかをピックアップメモ↓

i) Pd-Catalyzed ortho-C(sp2)-H nitration
Chem. - Eur. J., 2010, 17, 5652.

J. Org. Chem., 2014, 79, 11508.

ii) Ru-Catalyzed meta-C(sp2)-H nitration
J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, 8470.

iii) Ni-Catalyzed para-C(sp2)-H nitration

Adv. Synth. Catal.2017359, 2596.

ipso-oxidation

J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 8118-8119.

次亜フッ素酸のアセトニトリル錯体を使ったアジドの酸化です。ウィキペディア情報によると、HOF•CH3CN錯体は室温で数時間程度保存できるらしいです(https://ja.wikipedia.org/wiki/次亜フッ素酸)。
ちなみに、芳香族アミンをHOF•CH3CN錯体で酸化しても対応するニトロ体が得られるようです(J. Chem. Soc. Chem. Commun., 1991, 567-568. この論文、読めないので詳細は不明)。なので、アリールアジドは一般的に対応するアニリンから合成するので実用性に乏しいと著者自ら述べています(この論文はおっかないアルキルアジドの酸化をウリにしてます)。

それでも参考文献の総説(Org. Biomol. Chem., 2013, 11, 2554-2566.)を眺めてたらHOF•CH3CN錯体によるアミン→ニトロの官能基変換の報告が書いてありました↓

Oxidation of electron-deficient anilines
Org. Lett., 2002, 2, 3405.

ハンドリングが容易なipso-oxidationも報告されています↓

17 substrates, 44-93%
Adv. Synth. Catal., 2009, 351, 93-96.

室温でも反応は進行します。立体障害に弱い感じで、電子プアーな基質は収率低め。


それから有機NO2ソースとして亜硝酸tert-ブチル (tert-BuONO)を使った反応も開発されています(ボクはSandmeyer反応に使ったことがあります)。

10 examples, 20-95% combined yield
Chem. Commun., 2013, 49, 514-516.

スルホンアミドはNs, Msでも円滑に反応が進行しますが、窒素上にプロトンが存在しないtert-スルホンアミドでは反応が進行しません。
配向性はスルホンアミドに対して強力にo-, p-配向ですが、フェノールにだけは完敗します(フェノール性水酸基以外だったら完勝)。競争反応を行うと、やっぱりフェノールの完全勝利です。

そもそもこの反応は、スルホンアミド類とフェノール類しか反応が進行しないようです。


あと総説(Org. Biomol. Chem., 2013, 11, 2554-2566.)をみたら、フェノール類の亜硝酸tert-ブチルによるニトロ化が報告されています。
Org. Lett., 2009, 11, 4172.

また、亜硝酸tert-ブチルによるボロン酸のipso-nitrationも報告されています。

10 examples, 26-82%
Chin. Chem. Lett., 2012, 23, 643.


以上のように様々なニトロ化の反応開発が行われ、反応条件の選択に厚みがでてきましたが、やはり改善の余地は大きいです。ipso-nitrationやipso-oxidationは予め官能基を位置選択的に導入しておかなければならないですし、C-H活性化による反応は配向基がそのまま残ってしまいます。他にも、低い位置選択性、低い官能基許容性、低い基質一般性、高価な試薬の使用、化学両論量の金属廃棄物の排出、ハンドリングの悪い試薬などなど、改善点は尽きません。

というわけで、ニトロ化のインプルーブメントの研究の道程で著者らがたどり着いたのが、N-ニトロサッカリンです。

サッカリンをニトロ化することで誘導することができ、著者らには50 gスケールでの合成実績があります。

性質はbench-stableで空気中で普通に取り扱えます(便利)。熱分析(DSC, TG)の結果から173℃まで安定です。要は、いいヤツです。

そして、N-ニトロサッカリンを用いたモデル化合物のニトロ化の検討を行った結果、著者らは二つの最適条件を見出しました。

溶媒効果が大きく、additiveなしではHFIP (hexafuluoro-2-propanol, bp. 55℃)一択ですが、触媒量(10 mol%)の過塩素酸マグネシウムを添加するこことでアセトニトリル(bp. 81.6℃)中でも円滑に反応が進行します。

基質一般性が広く、電子吸引性置換基が有ってもイケイケ(高収率)。配向性は予想通りにo-, p-配向。混酸条件下でのニトロ化と比較してpara > orthoの傾向にあります。
官能基許容性も良好で、アルデヒド、カルボン酸、フェノール、アミド、スルホキシド、ピナコールボロネートが許容です。

加えて、ちょっと複雑な化合物の例を以下に列挙してみましょう↓

[*] The minor regioisomeric position is labeled

なかなかいい感じなんじゃないでしょうか。

最後に著者らは、速度論的同位体効果の測定やDFT計算から反応機構解析を行っていて、その機構が古典的な芳香族求電子置換反応様であることが強く示唆されました。

ところで、サッカリンって甘いじゃないですか。今回のお題のN-ニトロサッカリンも含めて、N-置換導体ってどんな味がするのか気になったのでちょっとググってみた結果、こんな文献(和誌)がヒットしました↓


味の素の報告で「味と化学構造」を調べています。この文献の中からサッカリン誘導体に関する部分をまとめると、こちら↓
X=Fサッカリン様の甘味
X=Cl甘いが、苦味のほうが強い
X=Br最初甘いが、後で苦くなる
X=I弱い苦味. 甘味はない
X=CH3サッカリンの半分の甘み. 後味は苦い
X=NH2強い甘味
X=SO2NH2強い甘味
X=NO2甘味なし
X=OEt強い甘味

M=Li, Na, Ca : 甘い

R=Me, Et : 甘味を呈さない

どうやら、N-置換サッカリンは甘味を呈しそうにない感じです(ザンネン)。
でも、もしN-ニトロサッカリンを使う機会があったら、折角なのでこっそり舐めてみようと思います(ウソです)。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のN-ニトロサッカリン爆誕メモでした。
(爆誕といっても言葉の綾で、化合物自体は既知化合物です。Bull. Acad. Sci. USSR Div. Chem. Sci., 1981, 30, 1712-1714.; J. für Prakt. Chem., 2005, 15, 223-227.)



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