Pages

2021年10月3日日曜日

塩化チオニル(そこそこ)最強伝説。

ども、コロナ禍でもやっぱり外食が好き。永遠の食いしん坊将軍のコンキチです。

プレ・コロナの優しい時代、しかも消費税が8%だった時代に大好きな浅草でおにぎりを食べたときのメモです。

-おにぎり浅草宿六 memo-
住所:台東区浅草3-9-10
昭和29年(1954年)創業。米は単一原料コシヒカリ(年により変更)、海苔は江戸前、塩は天然塩(季節により変更)を使用。

-梅干 (300 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
おにぎりなのか?おむすびなのか?魅惑の一品。"おにぎり"という形状をギリギリ保っているだけの結合力で繋がっていて、海苔はご飯を優しく覆っているだけに過ぎない。
手に取るとご飯の温もりが伝わってきて、次いで海苔の柔らかいいい匂い鼻腔をくすぐる。
海苔の食感はパリパリし過ぎていない優しさのある柔らかさでとても良いです。
ご飯は丁度いい温もりを感じさせ、フワッフワの軟らかさ。お米の一粒一粒が立っていて、頬張ると口の中いっぱいに何とも言えない心地よい感触、まるでスープを啜っているかのような魅惑の感覚が広がる。塩味に余分な重たさはなく、ボディー(body)の太い甘みを感じる。
もうね、ご飯がもの凄く美味しいんですよ。正にご飯が主役。そして、自己主張し過ぎない海苔が、ご飯の旨味を損なうことなく上手に引き立ているのね。梅干は軟らかく、甘い果実感がリッチ(rich)でした。
こんな旨いおにぎり、食ったことないです。


-鮭 (300 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
中身が見えないので、上の"梅干"と違いが見た目からはさっぱり分からない"鮭"です。
具材の鮭の少しキツめの塩気が絶妙な旨さを醸し出しています。この鮭周辺の局所的な塩気が、ご飯のポテンシャルをさらに引き出していると思いました。やっぱ、おにぎりっていったら、ご飯と塩が命です。



-出羽桜 純米大吟醸 (600 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
有名な酒なんで、言うことないでしょ。
あと、ここのおにぎりって味噌汁よりも日本酒(出羽桜)の方が合うと思うんだけど、気のせいでしょうか?(オイラが酒呑みたいだけ)


閑話休題


ちょっと古いんですが、こんな文献を読んでみました↓

One-pot synthesis of amides from carboxylic acids activated using thionyl chloride
RSC Adv., 2016, 6, 34468-34475.

塩化チオニルを使ってワンポットでアミドを合成するお話です。

所謂アミド合成における"酸クロ法"は、一旦酸塩化物を作ってから過剰に加えた塩化チオニルを留去するなどし、三級アミン存在下で一級または二級アミンを作用させるという二段階反応が常法です。

これまでに塩化チオニルを用いたワンポット合成法が幾つか(もっと?)報告されていますが、報告例では反応の完結に1時間以上かかるみたいで、加熱も必要だったりすることに加えて、条件もイマイチちゃんと書いてなかったりとかで、まあ、メジャーではないのかもしれません。


本報で著者らは、塩化チオニルを使ったもっといい(優れた)ワンポットアミド化法を報告します。こんな感じです↓
20 examples, 48-92%

一コ48%とイマイチな収率の反応がありますが、そいつはこいつです↓
p-アミノフェノールなんですが、反応点がアミノ基とフェノール性水酸基の二つあって、カルボン酸(酢酸)を等モルしか使ってなくて、選択性が全然出ないという結果ですね。でも、活性自体は良好です。p-アミノフェノールの例を除くと。65-92% yieldです。

で、20 examplesの中でちょっと言及しておきたいのが、こちら↓


Boc基があっても大丈夫。不斉はほぼ保全され、ジペプチドも中程度の収率でゲットできます。ただ、嵩高いカルボン酸は反応が遅めです。

ところで、著者らはこのワンポットアミド化反応について、試薬を加える順番などを検討しています。

カルボン酸、一級または二級アミン、トリエチルアミンのジクロロメタン溶液に塩化チオニルを加えると、Good Yield!です。これがスタンダード・コンディションです。


トリエチルアミン無しで反応を行うと、副生する塩化水素をトラップするのにアミンが消費するので、予想通りにlow yield↓です。

そして興味深いのが、ジエチルアミンとトリエチルアミンを作用させる前に、塩化チオニルとカルボン酸を混ぜてしまうと、反応の進行が緩慢になり、GC-MSで塩化ベンゾイルが35%検出されるという残念な結果に至ります。

試薬を加える順番がクリティカルなんですね。

あと、反応の13C NMRによるモニタリングを実施しています。

反応温度が室温では、カルボン酸のクロロ化が遅いですが、


三級アミン(トリエチルアミン)存在下で、素早く塩素化が進行します。

これらの実験結果から、はじめにカルボン酸がカルボキシレートアニオンになることが重要であると著者らは述べています。

っていうことは、こういうことでしょうか?分かんないけど↓

最初にカルボン酸と塩化チオニルを混ぜちゃうと、反応が遅くなっちゃうのは、反応の一段階目に生成する中間体がそこそこ安定だからなんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか?(それから、13C NMRで安息香酸と中単体のケミカルシフトがたまたま同じだったとか)

まぁ、なにはともあれ、two-step procedureが当たり前と思っていた酸クロ法が(オレだけ?)、ワンポットで全然オッケーなのは朗報と思います(論文として報告例がないだけで、その筋では常識かもですが。っていうか、これまで報告されてなかったのが不思議)。マイルドな条件で、反応も速いし、トリエチルアミン過剰でしっかり塩基性なので、Bocも許容で、ラセミ化も殆ど起こりません。
どうですかみなさん、明日らか縮合剤使うのをやめて、塩化チオニルを使った酸クロ法でアミドを合成してみませんか?

以上、ここ5年ほどは塩化チオニルがご無沙汰な二流大出のテクニシャン(研究補助員)のオールド・ファッシン・アミド化メモでした。



2021年9月23日木曜日

Allenone Ligation

コロナ禍でもやっぱり外食が好きだけど、デルタ株が恐くて自炊道と家呑みに精進している永遠の食いしん坊将軍のコンキチです。
(神ワクチンが効いたせいか、束の間のダンス・タイムですね。我が国はウィズ・コロナのハンマー&ダンス戦略なので、来年も再来年もコロナと共にあると憶測します。)

ということで、プレコロナの食いしん坊に優しい時代に、深川で呑んだくれていたときのメモです。

-三徳 memo-
住所:江東区常磐2-11-1

-お通し (200 JPY+tax)- 


-生かぼすハイ (450 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
fresh, citrus, green!!!
和柑橘と甲類焼酎と炭酸の組み合わせは鉄板です。


-純レバ (500 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
甘辛いタレはちょっと濃い味も、レバと一緒に食べると丁度いい塩梅。レバは複数部位が入っている。軟らかくしっとりしたレバと、ぷりっとした弾力リッチな部分(噛み心地よく楽しくなる)がメイン。とってもフレッシュでありながら滋味深く、信じ難いほど旨い。それからレバの口溶けの良さが秀逸。 ボディーの強いレバは、薬味の葱とからしとの相性も抜群。 純レバの正体は、鶏もつをもつ焼き用のタレで煮たもので、仕上げに刻みネギをトッピングして出してくれる。 
純レバとは、鶏もつの中でもレバーまわりの部位しか使わず、玉ひも(体内卵や輸卵管)や砂肝などは使わず、ニラレバなどのように野菜も使わないことから"純レバ"と呼ぶらしいです。


-生ビール (550 JPY+tax)- 
-REVIEW- 
しっかり美味しい。 


-(生)マグロぶつ築地直送 (500 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
しっとりと軟らかくキメ細かい赤身。筋がかなりあるけど、あまり気にならない。上品な甘味があって、絶妙な脂(上品)ののり具合いで酸味は感じない。口の中でホロホロとほぐれていく食感が堪らない。とっても綺麗な味の赤身です。
薬味は粉ワサビ。薬味はつけずにお醤油だけでいただくのが良いです。 それから、ツマの大根がとっても旨い。フレッシュで表面がツルツルでスナックライクな食感。 


-下町ワイン葡萄酒 赤(二合) (680 JPY+tax)- 
-REVIEW- 
徳利に入って登場。ambient temp.です。 多少赤ワインらしい香り。light bodyで、まあ、どってことない味だけど、それでいいんです。徳利に入ったチープな赤ワインを安っぽいビールグラスでやるという風情を楽しむ飲み物なんです。個人的には、マグロと合わせられて嬉しかったです。





閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Allenone-Mediated Racemization/Epimerization-Free Peptide Bond Formation and its Application in Peptide Synthesis
J. Am. Chem. Soc., 2021, 143, 10374-10381.

アミド化のお話です。そして、かなりの変わり種です。

ペプチド合成って言ったら、(生物学の素養のない)ケミストがまず思いつくのは固相合成(SPPS; Solid Phase Peptide Synthesis)でしょう。ホント、固相合成を開発したMerrifieldは天才だと思うけど(ノーベル賞GETしてるし)、固相合成にも問題があります。長鎖合成(>50mer)が苦手なことに加えて、原子経済(atom economy)に乏しくサスティナビリティーや環境側面に課題があります。特に原子経済の低さはいかんともしがたいものがあります。ついでに(決してついでというわけではないですが)、コンベンショナルな縮合剤の使用はラセミ化・エピマー化の懸念が付き纏います。

ということで、アミド化剤のケミストリーは相当研究されていて十分に成熟しているかの様に思えますが、まだまだいい試薬の需要は尽きないのです。

ここでこの論文のイントロに書いてあるElectrophilic sp Carbon Centerをもつ縮合剤のデザイン・コンセプトを軽く概観してみましょう↓


ペプチド合成において、DCC (1955)やジフェニルケテンイミン (1958)のような試薬はオキサゾロン(アズラクトン)経由のラセミ化に加えて、これらの試薬が有する塩基性中心(basic center)によるα-水素引き抜きに起因するラセミ化が懸念されます。
活性エステルの反応性を下げてラセミ化を抑制のためにHOBtやHOAtなどの試薬が開発され、さらにはOxymaやホスホニウム塩、ウロニウム/アミニウム塩がペプチド合成の主力試薬として使用されていて、現在はこういうのが主流ですね。
see

ところで、著者らのグループもペプチドのカップリング試薬の開発を行っています。で、着目したのは、スバリ、イナミドでした(Zhao et al., 2016)。

J. Am. Chem. Soc.2016138, 13135-13138.

イナミド試薬では窒素原子上への電子吸引性置換基の導入がキモで、これにより試薬の塩基性が低下し、ラセミ化フリーの縮合反応が達成できました。これに関しては、ケムステに詳細な解説記事があります(https://www.chem-station.com/blog/2017/12/inamide.html)。

ただこのイナミド試薬は反応性がイマイチなので、液相合成ではそれなりに使えるのですが、固相合成(SPPS)に適用するのは厳しいです。

ところで、カルボジイミド試薬、ケテンイミン試薬、イナミド試薬(の1,3-双極子共鳴構造)の共通点は、求電子的なsp炭素を有するビシナルな二重結合に対してカルボキシル基の付加反応が起こるということです。

ハイ、化学の神様が降りてきました。

著者らは、求電子的なsp炭素を有するアレノン誘導体だったら同様な様式で縮合剤に使えんじゃね?しかも、塩基性中心ないからラセミ化の心配もないよね。と考えて、ラセミ化(とエピマー化)フリーの新規アレノン系縮合剤の開発に取り組み、見事その偉業を達成したのです。名付けて、Allenone-Mediated Amide Bond Formation (AMABF)です。


この反応は、1段階目の1,4-付加/異性化反応によるα-カルボニルビニルエステル中間体と、2段階目のアミノリシスからなり、ステップワイズでもワンポット(two-step one-pot reaction)でもおしなべて収率良く反応します。

1段階目の1,4-付加/異性化反応は、非極性溶媒が有利(DCEがベスト)で、室温で反応時間は3-14時間。α-カルボニルビニルエステルは冷蔵庫で12ヶ月間は安定(without any deterioration)で、DMF溶液にして5日間安定です。

2段階目のアミノリシスは非プロトン性極性溶媒で有利(DMF, DMSOがベスト。2Me-THFも良好)。反応は基本速いのですが、嵩高いアミンや求核性の低いアリールアミンといったチャレンジングな基質では遅く、その場合は触媒量(10 mol%)のHOBtを添加することで反応が促進します。

1段階目と2段階目で用いる反応溶媒が違うんんですが、液相でワンポット反応をやるときは、1段階目が終わったら溶媒(DCE)を濃縮してDMFに再溶解して2段階目の反応を行えばオッケーです。

基質一般性はおしなべて良好です。

Simple Allenone-Mediated Amide Bond Formation (AMABF)
allenone : carboxylic acid : amine = 1 : 1.1 : 1.1 (maybe), rt.
9 examples, 93-97% (two-step one-pot reaction)

(比較的)単純なカルボン酸とアミンの反応は、かなりexcellentな感じです。

Dipeptide Synthesis
allenone : carboxylic acid : amine = 1 : 1.1 : 1.1 (maybe)
35 examples, 77-99%, de >99% (two-step one-pot reaction), rt.


フラグメントカップリングにも適用できます。

Peptide Fragment Condensation (stepwise, 2 steps)
11 examples, 82-94%, de >99%, rt.

で、ジペプチド合成とフラグメントカップリングで特筆すべきは、コンプリートにラセミ化/エピマー化フリーということでしょう。(知らなかったんだけど)セリン(Fmoc-L-Ser(OtBu))とかフェニルグリシン(Fmoc-L-phenylglycine)ってラセミ化しやすいそうなんですけど、キラリティーの毀損はありません。厳密には、フェニルグリシン使った反応で、二段階目のアミノリシスを室温(通常条件)でやると10%エピメリます。でも、もっと温度を低くすればエピ化を完全に抑制できるのです。ちな、反応温度は-55℃な。

あと、この反応で驚きなのは、N末端からペプチド鎖を伸長していけることです(N to C peptide elongation)。オイラ、ペプチド合成はスーパー初心者級なので劇的なメリットが良くわかんないんですが、C to Nワッショイの中でN to C でペプチド鎖を伸長できるのは選択肢を増やすという意味で価値があると思います。そのN to C の例がこちら↓

ガンのお薬であるCarfilzomib (カルフィルゾミブ)の合成です。
Synthesis of Carfilzomib
Racemization/Epimerization-free N to C Peptide Elogenation

全収率68%です。既報の収率は26-38%なので、とってもインプルーブメントしています。

さらにこのAMABF (オイラはアレノン・ライゲーションと呼びたい)は、Fmoc SPPSにも適用できます↓


今回固相合成のターゲットに選んだのは、アシルキャリヤータンパク質(ACP)の65残基目から74残基目までのペプチドフラグメントであるACP (65-74)で、なんでもディフィカルトペプチドのモデルとして使われてるようです。

カップリング条件は、
a) α-カルボニルビニルエステル(活性エステル):2 eq. (樹脂に一つ目のアミノ酸残基を導入するときだけ3 eq.)
b) HOBt:10 mol%
c) 溶媒:DMF
d) 反応時間:20-30 min。バリンとイソロイシンを入れるときだけ1 hr
です。

で結果ですが、30 μmolスタートで、crudeのACP (65-74)を98%のHPLC純度(UV at 215 nm)で30.3 mg (フリーで28.5 μmol相当)でゲットできました(なんでか分かんないけど、著者らは最後TFA系でHPLC分取してるんだけど、TFA塩じゃなくて、フリーでモル数を勘定してます)。

それから、他の縮合剤を使った結果との比較はこちら(ほぼ同条件でやって比較してます)↓

entry 1   PyBOP   crude : 25.4 mg (23.9 μmol), 86% HPLC purity
entry 2   HBTU   crude : 20.8 mg (19.6 μmol), 77% HPLC purity
entry 3   Pentafluorophenyl ester   crude : 13.9 mg (13.1 μmol), 60% HPLC purity
entry 4   This work   crude : 30.3 mg (28.5 μmol), 98% HPLC purity

なかなかエクセレントな(アレノンの)リザルトです。

ところで、アレノン(1-phenylbuta-2,3-dien-1-one)なんですが、どうやって手に入れてるのかというと、著者らは自分たちで合成しています↓

Supporting information記載の実施例はたったの1 mmolスケールで、収率も書いてないです。はっきり言ってあやしいんですが、既知化合物だし、他の合成法も報告されてるし、一応マニアックなメーカーでの取り扱いもあります。

それでは最後に、このアレノンを使ったアミド結合形成反応のビッグな特性をまとめてフィニッシュしようと思います。

一つ、ラセミ化/エピマー化フリー
一つ、フラグメントカップリングに適用できる
一つ、N to C peptide elongation strategyもできる
一つ、SPPS (Solid-Phase Peptide Synthesis)に適用できる(活性エステルが溶液状態で5日間安定というのも固相合成向き)

(マジモンだったら)シュゴイです。

著者らは本報の冒頭で、"disruptive innovation in peptide synthesis"って語ってるんだけど、なんだか凄い自信です。でも、それだけ魅力的でパワフルな手法だと思いました(事実なら)。

以上、国内二流大出のテクニシャンの破壊的アミド化メモでした。




2021年6月6日日曜日

Yaku'amide (ヤクアミド)とかいうペプチド系複雑天然物

プレ・コロナの優しい時代に、王子で一杯やったときのメモです。 

 -山田屋 memo- 

住所:北区王子1-19-6 

-ギネス エクストラスタウト (450 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW- 
冷えてないギネスが登場。わざとではなく、冷やし忘れていただけだったそうです。 でも、ギネスは常温でも旨いからいいよね。 


-ほたるいかの沖漬け (250 JPY)-
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW- 
甘めの味付け。フレッシュ(fresh)で滋味と旨味ふんだん。 大振りの身は張りのある食感で、醍醐味満点でした。 









-湯豆腐 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW- 
普通に想像する湯豆腐とは提供形態を異にする湯豆腐。っていうか"温"豆腐。 密度が高く、濃い味のしっかりした食感の木綿豆腐で、湯豆腐映えするタイプです。 多分、粗く削った鰹節で茹でてるんじゃないかと思われる香味で、質実剛健な味わい。 


-ビール 中生 (500 JPY)-
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW-
キリッと冷えてて、普通にうまい。 


-御新香 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW-
大根と胡瓜の漬物。多分、糠漬けだと思う。 どちらも軽くチーズのような香味を放っている。 外側は硬派なフルボディ(full body)なテイスト(taste)で、内側は瑞々しさが残っている。このコントラストが素敵です。




趣のある店内で、特に長テーブルにシビレます。 コロナ禍でなければ、近所にあったら通いたい店かもです。 


閑話休題 


こんな文献を読んでみました↓ 

Solid-Phase Total Synthesis of   B Enabled by Traceless Staudinger Ligation 
Angew. Chem. Int. Ed., 2020, 59, 4564-4571. 

ヤクアミドBっていう強い抗がん活性のあるペプチド系複雑天然物の固相全合成のお話です。 

ヤクアミドBは、屋久新曽根産カイメン Ceratopsion sp.から単離・構造決定された化合物で、その構造は次の通りです↓ 

Yaku'amide B 

4つのβ,β-ジアルキル α,β-デヒドロアミノ酸残基、7つの非天然(タンパク質を構成しない)アミノ酸、N-末端にアシル基(NTA)、C-末端にアミン(CTA)を有する見た目以上の複雑化合物です。 

著者らのグループは2015年に液相法による全合成を達成していますが(J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 9443-9451.)、本報ではペプチド合成に向いている固相合成を使って、より効率的な全合成にチャレンジしています。 

 まず、液相法によるヤクアミドBの合成はこちら(ステップ数が多いんですが、間違ってたらすみません)↓ 


続いて、本報の固相全合成はこちらです↓  

"traceless Staudinger ligation"



"traceless Staudinger ligation" 


"traceless Staudinger ligation" 




固相全合成におけるポイントとなる反応は、 

(1) traceless Staudinger ligation 
(2) エナミドのBoc保護 
(3) Eu(OTf)3を用いた化学選択的Boc基の脱保護 
(4) AlMe3を用いたエステル-アミド交換反応による脱樹脂とCTAの導入 

の四点です。 

それでは、一つ一つ考えていきましょう。 

(1) traceless Staudinger ligation (無痕跡型シュタウディンガーライゲーション)
ペプチドシーケンスにβ,β-ジアルキル α,β-デヒドロアミノ酸を導入するのは難しいです。というのも、Nα-フリーエナミンを用いたコンベンショナルなアミド化の適用が難しいからです。これは、互変異性体であるイミンが加水分解をうけるからです(って書いてありました。禁水ガチガチでもダメなの?って思うんですけど、どうなんですかね?微量の水でも加水分解しちゃうぐらいセンシティブなんでしょうか?)。 


 液相合成ではC-Nカップリングを適用することでこの問題を解決しましたが、DMEDAとCs2CO3を用いるその反応条件はFmoc固相合成法には不適合です(Fmocがザクザク切れちゃうからね)。 
そこで著者らが着目したのがtraceless Staudinger ligationです。まず、名前がカックイイーです(個人の見解です)。そして、この反応は中性条件下で官能基特異的に反応させることができるので、ペプチド合成向きです。ただ、何も考えずに安直に試みるとダメで、検討結果がこちら↓
X=H, Y=H, 24 hr → 1trace, 2:87%
X=Cl, Y=H, 24 hr → 1:27% (E/Z=20:1)2:60%
X=CF3, Y=H, 3 days → 1:41% (E/Z=20:1)2:34%
X=H, Y=OMe, 24 hr → 1:22% (E/Z=6:1)2:48%
X=Cl, Y=OMe, 24 hr → 1:50% (E/Z=12:1)2:18%
X=CF3, Y=OMe, 7 days → 1:76% (E/Z=20:1)2:5%
X=CF3, Y=OMe, 1,4-dioxane/H2O, 2 days → 1:71% (E/Z=15:1)2:12%

高収率・高選択性を実現するためには、ホスフィノフェノールエステルの芳香環上の置換基のファインチューニングが重要でした。

traceless Staudinger ligationのメカニズムは次のスキームに示す感じです↓
異性化や副反応(加水分解)の危険性がありますね。
で、ホスフィノフェノールエステルのチューニングのポイントは次の二つです↓

a) 二つのトリフルオロメチル基 (X=CF3)の導入により、リン原子のカチオン性を高めることで、中間体のホスファジドからイミノホスホランへの変換が促進。

b) メトキシ基(Y=OMe)の導入によってパラ位のオキシカルボニル基の求電子性をピンポイントに低減させてホスファジドの加水分解を抑制。


(2) エナミドのBoc保護 
ジペプチド

をシーケンスに導入する際、ジペプチドのBoc保護は必須なんだそうです。無保護で入れようとすると、アズラクトン経由でエナミドの異性化が進行してしまいます。

(3) Eu(OTf)3を用いた化学選択的Boc基の脱保護 
上述した(2)でのジペプチドを導入後、Boc基がついたままFmoc基を脱保護すると、Fmoc基が切断されて生成したN-末端のアミノ基の求核攻撃によってBoc基の転位が起こってしまいます。
この副反応を回避するためにBoc基を脱保護する必要があるんですが、樹脂(Wang-ChemMarix resin)にくっついたままにしておきたいので、ゴリゴリの酸性条件下での脱保護は不可です。そこで著者らが目をつけたのはルイス酸を用いたマイルドな脱保護です。モデル実験では過塩素酸マグネシウムが有効だったのですが本番では全然ダメで、鋭意検討した結果、Eu(OTf)3を使用することでエナミドのBoc基を選択的かつ効率的に脱保護できることを見出しました(Euの酸素との親和性が反応促進の鍵って、学会で言ってました)。


(4) AlMe3を用いたエステル-アミド交換反応による脱樹脂とCTAの導入
最終工程のon-レジンエステル-アミド交換反応は、β,β-ジアルキル化されているCTAとΔVal-13の立体反発が大きいので、それを克服するパワフルな反応が必要なわけなんですが、著者らはCTAをAlMe3で処理してアルミニウムアミドとすることでこの問題を解決しました。
個人的にAlMe3って("生"は燃えるって印象がって)使ったことないんですが(溶液も売ってるよね)、こいつ一つで脱樹脂と交換反応が完結するのま魅力的ですね。


最後に液相合成 vs. 固相合成の判定です。

液相合成:21 steps, 3.3% yield
固相合成:24 steps, 9.1% yield

正直、ステップ数ってどっからどこまで勘定してるか良く分かんないですが、固相合成の最大のウリは、(固相の反応に関しては)精製がたったの一工程というところです(本報告では逆相HPLC分取二回やってるけど)。反応を終える度に樹脂をウォッシュするわけです、その工程自体が一つの精製プロセスなんですよね。

ところで、Yaku'amide (ヤクアミド)の固相全合成をメモってきたわけなんですが、やっぱ屋(ヤク)久島に生えてる植物から見つけたアミドだからヤクアミドなんですよね?

以上、ペプチド合成もできるつぶしの効く人材になりたい国内二流大出のテクニシャン(研究補助員)のペプチド系複雑天然物固相全合成メモでした。