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2024年8月14日水曜日

LUNA18のためのCSPS (Classical Solution Peptide Synthesis)

無性にオムライスが食べたくなった時のメモです↓

-むさしや memo (新橋, visited Aug. 2024)-
住所:港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル 1F

-オムライス (チキンライスの卵包み) (1,100 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
オムライスに加えてナポリタンがついた、とってもボリューミーな一皿。 
オムライスの表面からは、ファッティーなとってもいい匂い。これが堪らなく食欲をそそる。
酸味の効いたチキンライスはねちゃっとした食感で、玉子にくるんで食べると素晴らしく美味しい。 
ケチャップも酸味がキリッと効いて、酸味の二重素が気持ちいい。 
酸味の効いたナポリタンは、ボクの中で王道の風格にして普通の極み。麺は太すぎず、細すぎず。ブヨブヨでなく、アルデンテでもない。ナポリタンって感じ。ちょいキツめの酸味が堪らないです。


閑話休題


ファルマシアに寄稿されていた記事を読んでみました↓

中分子創薬におけるプロセス化学の挑戦
Farumashia, 2024, 60, 283-287.

中外製薬のKRAS阻害性の臨床化合物LUNA18のプロセス・ルートの合成法に関する記事です。

LUNA18

LUNA18は環を構成する11残基のアミノ酸のうち8つがN-アルキルアミノ酸という合成難易度の高い環状ペプチドです。何故合成が難しいかというと、次の3点が挙げられるかと思います。

1) Fmoc基の脱保護時の副反応 (2,5-diketopiperazine形成)
2) N-アルキルアミノ酸の立体障害により、カップリング反応の進行が不十分
3) N-アルキルリッチなペプチドは酸性条件(global deprotection)下で不安定

一般論としてペプチド合成は固相合成(SSPS : Solid Phase Peptide Synthesis)が基本であり、上記課題を解決した合成法が既に報告されています(J. Med. Chem., 2022, 65, 13401-13412., https://researcher-station.blogspot.com/2023/03/n.html)

なので、起業化(工業化)はSPPSをスケールアップかつブラッシュアップさせたもになのかなと思ったんですが、全く違っていました。
中外製薬はSPPSによるプロセス・ディベロップメントを捨て、低分子化合物の合成で採用される"普通の"古典的な液相合成(Classical Solution Peptide Synthesis)を選択したのです。

固相合成は過剰に用いた試薬や原料などの次工程に持ち越したくない物質をペプチドの結合した樹脂を溶媒で洗い流すだけで除去できるという簡便な操作が魅力ではありますが、製造コストが高くなりがちです。他方CSPSはプロセス開発に時間を要しますが、反応をモニタリングできたり、必要に応じて中間体を精製することで品質の高いファイナル・プロダクトを調製てきるのが大きなメリットだと思います。


中外製薬はSPPSとCSPSそれぞれのメリット・デメリットを天秤にかけてCSPSをセレクトしたわけですが、ただCSPSを実施するだけでがリーズナブルな製造プロセスを構築できるわけではありません。

以下に中外製薬のLUNA18のCSPSのエッセンスをメモしていきます。

(1) Boc保護かCbz保護か?
通常のCSPSではN末端をBoc基で保護するのが常法のようですが、中外製薬ではCbz基による保護を採用しています。
理由は、Boc保護された活性エステルの安定性に問題があるそうです。こんな風に↓

(2) C末端保護基の脱保護
C末端の保護基としてよく用いられるtert-ブチル基の脱保護はTFAとかを使うのが常法ですが、N-メチル置換アミドはブレンステッド酸性条件下で主鎖が切断させることが知られていて、N-アルキルリッチなペプチド合成では大きな問題になります。
そこで、中外製薬の出した解答はルイス酸であるTMSOTfによる脱保護です。これにより、アミド結合が分解することなく脱tert-ブチル化を達成したのでした(下のスキームのペプチドは、LUNA18用じゃないですね)。


(3) 後処理
CSPSでの後処理は液-液抽出が基本で、水でワークアップして不純物を水層に落として取り除きたいわけなんですが、除去し難い活性エステルが意外と安定(比較的安定)で加水分解されにくいそうです。
このままだと活性エステルの加水分解がタイムコンシューミングになっちゃたりするんですが、短時間化のプロセス・インプルーブメントを施しています。
そう、DMAPを加えると活性エステルの加水分解が加速するんですね。

(4) コンバージェントな合成と環化反応
全体的なプロセス・ルートは以下のような工夫を凝らして達成しています↓

a) コンバージェントな合成法を採用することにより、製造期間を短縮化(高純度の中間体を獲得できるメリットもあり)。
b) 環化時にエピマー化を起こす可能性の低いアミノ酸配列の環化前駆体を設定。
c) 環化前駆体のカップリング反応もエピマー化を起こす可能性の低い中間体を設定。
d) 環化反応は擬似高希釈条下での反応条件を精緻に設定(オリゴマーの副生は安定的に5%以下)。


11残基程度のペプチドだからCSPS(Classical Solution Peptide Synthesis)を選択可能だったっていうのもあったんだろうけど、お見事と思いました。

ところで、中外製薬の定義する環状ペプチドのドラッグ・ライクネスのクライテリアによると、アミノ酸の構成残基数を9-11としています(J. Am. Chem. Soc., 2023, 145, 16610-16620.)。なので、LUNA18のプロセス開発で獲得した知見っていうのは、中外製薬の今後の環状ペプチド創薬に大きく貢献するものなんじゃないかなと素人ながら想像します。

それにつけても、LUNA18関連論文のオーサー数って凄いですよね。ペプチド創薬にフルコミットぜ感がビンビン伝わってきます。
以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)の環状ペプチドプロセス開発メモでした。

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