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2013年10月13日日曜日

ZnTAC24 : Environmentally Friendly and Unique Transesterification

柏にあるとあるラーメン屋に行ったときのメモです↓

-らーめん武士道 らーめん (700 JPY) memo-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
麺は浅草開花楼製の太ちぢれ麺。モチモチの旨い麺で、「良く噛んで味わえ」と主張しているかのよう。スープは鶏白湯で、北海道や青森などの国産若鶏を長時間煮込んで素材の旨味を出し、コラーゲンたっぷりに仕上げているらしいです。また、魚介の香味も感じた気がする。で、このスープはクセがなくて上品かつマイルドで少し粘度を感じる。あまり自己主張しないが、旨いスープに仕上がっていると思う。麺にスープはそれほど絡まない感じで「麺を旨く食う」ためのラーメンと感じた。具は、ドロドロの焼豚、メンマ、カイワレ大根、ネギ、刻み玉ネギ、柚子皮。提供時の柚子の香り立ちが良い。また、刻み玉ネギが箸休めのアクセントになって良い。それから、このラーメンはアツアツでは提供されません。


閑話休題


前回のエントリーでaminolysis = アミノ基選択的アシル化のメモを書きましたが、それとは逆の水酸基選択的アシル化反応があったなと思い出したのでメモします(これは確か2010年秋の有機合成化学講習会で九大院の大嶋孝志先生の講演)。


Synlett, 2009, 1659-1663.

J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 2944-2945.

エステルアミド交換反応は殆ど進行せず、選択的にO-アシル化することができますが、アシル転位しやすい1,2-アミノアルコールを基質に用いると、N-アシル化されます。1,2-アミノアルコール以外だと、6 examples, 82-99% Yield。

この水酸基選択的アシル化反応を触媒するのは、アセテート架橋亜鉛四核クラスター錯体 Zn4(OCOCF3)6O (ZnTAC24TM)です。ZnTAC24TMは4つのZn(II)イオンが1つのμ4オキソ配位子と6つのアセテー配位子によって架橋されたMOF(金属有機構造体)で、反応に関与する二つのZnイオンの距離と分子軌道の向きがアミノペプチターゼの活性中心を再現する構造をとっているそうです。で、演者らのグループでは「不活性官能基の活性化」というコンセプトのもと、この触媒を用いた反応開発を行っています。

ちなみに、ZnTAC24TMは高砂香料工業で製造され、STREM社から市販されていて、和光純薬での取り扱いもあるようです。

http://www.takasago.com/ja/business/pdf/ligands_catalysts/1901.pdf
http://www.strem.com/catalog/v/30-4050/
http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/product/chemical/ZnTAC24/index.htm

あと、ZnTAC24TMはこんなことが出来ます↓


Transesterification


29 examples, 76 - >99% Yield
J. Org. Chem., 2008, 73, 5147-5150.

当然、エステル交換が出来ます。i-Pr2O (bp.=68˚C)中、アルゴン雰囲気、reflux条件で、メチルエステル(1.0 eq.)と脂肪族の1級および2級アルコール(1.2 eq.)とのエステル交換反応が収率よく進行します。
マイルドな条件を強調するために、溶媒にi-Pr2Oを使って基質一般性の検討を行っているんですが(ボク的にはピンと来ない)、トルエンあるいはCPME中、空気下でより高収率で反応が進行することが分かっているそうです(反応温度は高くなる)。
それから、この反応はほぼ中性条件に近く、アセタール、THPエーテル、N-Boc、N-Cbz、N-Fmocがあってもオッケーという高い官能基共存性を示します。
さらに、フェノール(pKa 9.95)や1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(pKa 9.3)のような酸性度の高いアルコールでは反応が起こらず、フェノール性水酸基存在下、脂肪族アルコールのもを選択的に反応させることができます。


あと、吉草酸メチルとイソアミルアルコールとの反応ではE-factor=0.66で吉草酸イソアミルを合成することができます(バルク合成の平均的なE-factorは1 - 5と言われているらしいです)。


このエステル交換反応は、Znの単核錯体では進行しなくて、大嶋先生等は基質の同時活性化を介して反応が進行すると考えています。


Environmentally Friendly Acetylation and Deprotection of Acetates

上記エステル交換反応を応用したアセチル化です↓

20 examples, 75 - >99% yield
 Synlett, 2009, 1659-1663

そして、溶媒をメタノールに変えると、逆反応がいきます↓

立体的に混みいった基質や、脱酢酸が進行し易い基質、転位の懸念のある基質にも有効です(ちなみに、1-アダマンタノールのアセチル化は進行しない)。
他15 examples (catalyst loading: 1.25 mol%), 81- >99% yield
Chem. Eur. J., 2010, 16, 11567-11571.

安息香酸エステルの脱ベンゾイル化にも有効(8 examples, 72 - >99% yield)で、光学活性α-メチルベンジルエステルの脱アセチル化・ベンゾイル化でラセミ化は起こりません。


Additive Effect
ところで、大嶋先生の開発したエステル交換反応は、立体障害の大きい基質だと反応性が大幅に低下してしまうという問題がありますが、アミン共存下で反応が促進し、DMAPが最も効果的であることが見出されました。


without cyclohexylamine: 22% yield (48 h)
with cyclohexylamine (1.2 eq.): 94% yield (18 h)



ACS Catal., 2011, 1, 1175-1182.

DMAPの添加により、嵩高い基質であっても、スムースに反応が進行するようになるとともに(15倍以上)、系内がより中性に近くなるため副反応を抑制する効果も観察されたそうです。で、演者らはDMAP添加系について種々の検証実験を行い、DMAPはZnTAC24TMをより低核のクラスターへの開裂を促進し、より活性な低核クラスターであるZn2-(dmap)mまたはZn3-(dmap)m、もしくはこれらの平衡混合物が活性種として存在しているのではないかと推測しています。

こう改めて見返してみると、ZnTAC24TMは低毒性で官能基許容性が高く、酸に弱い基質について有効、脂肪族アルコールと選択的に反応するというユニークな選択性が魅力的なことに加えて、プロセスも環境調和型で、ラボにおけるハンドリングも良さそうなので、なかなか魅力的な反応と思いました。

価格は25g (26.1 mmol)で84,200円。触媒添加量1.25 mol%だと2モル程度の基質を仕込める勘定になるので、サンプルワークレベルには十分使える反応と思いました。


以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

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