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2019年8月16日金曜日

T3P:二つの機能を持つ試薬

大好きな浅草で一杯やったときのメモです。

ニュー浅草memo

-ビール大 (600 JPY)-
黒ラベルね。

-肉どうふ (490 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
あっさりした優しい味付け。豆腐は木綿。味付けはあっさりめだけど薄さは感じず、お豆腐を美味しくいただける。お肉は(多分)豚はらで脂がスープにふんだんに染み出してい旨い。あと、玉葱が載ってるんだけど、しっかりと煮込まれていてとっても甘い。スープにも玉葱由来と思われる優しい甘さが染みて良い。

-しめさば (500 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
これはかなり旨いしめさば。何も付けずそのまま食べてとても旨い。身が軟らかくfreshで、五臓六腑に旨味が染み渡る。柔らかく香るお酢の香味だけで味付けは十分。
お醤油を付けてさらによし!
薬味は粉ワサビとレモン。こちらはアクセントにお好みで。

-やみつきネギサラダ (420 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
青葱と白葱の二種類の葱のサラダ。
青葱はとての柔らかく、白葱は柔らかさの中に程よいシャッキリ感がある。
胡麻油と塩ダレのドレシングが葱とBest Match!


閑話休題


みなさ〜ん、T3Pって知ってますかぁ〜?
STAR WARSに出てくるロボットじゃありませんよ(C-3POな)。ハイ、含リンの環状有機化合物です↓
(n-propanephosphonic acid anhydride)

メイン用途はペプチド合成の縮合剤で、プロセス指向のグリーンな縮合剤として認知されていると思います。安価かつ低毒性に加えて、試薬由来の分解物が水のワークアップでサクッと除去できるのでプロセス向きということです。で、今回のメモは、T3Pが脱水縮合ユースの他にベックマン転位ユースでも優れた活性を示すというお話です。

因みに、T3Pはこのブログでもジャブ程度に登場しています。
see https://researcher-station.blogspot.com/2019/01/comuthe-perfect-reaction-media.html

では、本題です↓

個人的に、T3Pの縮合剤ユースを謳った論文で印象的なのがPfizerのこの報告です↓

General and Scalable Amide Bond Formation with Epimerization-Prone Substrate Using T3P and Pyridine
Org. Lett., 2011, 13, 5048-5051.


著者らは化合物1のマルチキログラムに対応した堅牢な製造プロセスを構築する必要に迫られました。当初のメディシナル・ルートは酸クロ法による2 step procesureで、マルチグラムスケールでは有効だったのですが、スケール・アップすると収率・光学純度の面で問題があったそうです(低下ってことなんだろうと思います)。で、種々の縮合剤を用いていろいろと脱水縮合を検討した結果がこちら↓


entries 1-14はT3P以外の縮合剤を用いた検討結果で、DCC (entries 2-3)とHATU (entry 10)の結果が良好ですが、

DCC→副生するdicyclohexylureaをカラム精製なしで分離するのが困難。毒性や皮膚感作性の問題も。
HATU→高額。バイプロの分離がカラム精製なしでは困難。

といった理由からプロセス向きではないということで、T3Pを縮合剤に用いた検討を実施しました(entries 15-26)。

T3Pは、

a) T3P由来の副生成物は水溶性で、分離が容易。カスの分離にカラム精製不要。
b) 種々の溶媒の50%溶液として市販されていて、取り扱いが容易。
c) そこそこお手頃プライス。
d) 長期保存オッケー。
e) 低毒性
f) 衝撃感度もなし。

と非常にプロセス向きの試薬だからです。

ということでT3Pを使った反応条件を詰めていったところ、"T3P, pyridine, 0˚C"がoptimal (entry 26)ということが分かりました。そして、この条件を用いたグラム(10 g)〜キログラムス(15 kg)ケールでの反応結果はこちら↓

最終的には、20 kg超スケールでの企業化に成功しています。

軽く基質一般性です↓
(原料のカルボン酸は98:2 er)

押し並べて高収率で高い光学純度です。求核性が低いアニリンでもしっかり反応が進行し、塩基性が高いイソプロピルアミンでもラセミ化がかなり抑制されます。

あと、他のカルボン酸を使った例↓



ボクは縮合剤ユースでT3Pを使ったことはないんだけど、このPfizerの論文読んだ限りでは、

(縮合剤としての)T3P、かなり好感触じゃね?

という感想を持ちました。


さて話は変わって、今回読んだもう一つのT3Pの論文はこちら↓

An efficient catalytic method for the Beckmann rearrangement of ketoximes to amides and aldoximes to nitriles by propylphosphonoic anhydride (T3P®️)
Tetrahedron Lett.201152, 1074-1077.

T3Pがベックマン転位にも凄く有用というお話です。

まず、ケトキシムのベックマン転位です↓


押し並べていろんな溶媒で反応が進行しますが、中でも良好なのがDMFとTHFです。

電子状態の反応に及ぼす影響です↓


電子リッチな基質で反応が速く、電子吸引基を有する基質で反応が遅いですが、反応時間をそれなりに長くしてあげれば押し並べて高収率です。

基質一般性も押し並べて良好で、様々な官能基を有する種々の芳香族、ヘテロアロマティック、脂肪族ケトンが高収率で対応するアミドへと変換されます(新たに14 examples, 84-95% yield)。

次にアルドキシムのベックマン転位です↓

14 examples, 87-99% yield.

こちらも芳香族、ヘテロアロマティック、脂肪族アルデヒドと押し並べて高収率!
パワフルです。触媒量のT3Pの使用で反応がしっかり進行するところとも地味に素敵と思います(理論的には触媒反応なんだけど、触媒量の使用では上手くいかない試薬も多いようです)。さらに、AcOEt溶媒で反応が十分に進行する基質であれば、ワークアップがかなり楽です。ボクは、脱水縮合ユースでT3Pを使ったことはないんだけど、ベックマン転位ユースで一度だけ使ったことがありますが、なかなかいいヤツでした。

最後にベックマンの推定反応機構です↓



ボクが浅学なだけかもだけど、ボクの周囲でT3Pの使用例って殆どきいたことがないです。脱水縮合にしてもベックマン転位にしても非常に古典的な反応で、様々な試薬が報告されていて、レガシーっていうものがあるからかもしれません(例えば、脱水縮合だったらHATU最強伝説とか)。

過去のレガシーコストに捉われることなく、二つの機能を持つ

T3Pを推していきたい

と思う、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。



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