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2020年5月9日土曜日

その溶媒、ギャラクシアンエクスプロージョン (2) 熱分析編

だいぶ前に深川めしを食べにいったときのメモです。

-みや古 memo-

住所:江東区常盤2-7-1

-お通し (300 JPY+tax)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
するめいかの麹漬けです(単品メニューにもある)。
いかの身の深部までいい塩梅で味が良く染み込んでいて、麹の香味が最高に素晴らしい。。食感はなんとも言えない絶妙な心地よさで、いかだと分からなかった。
これは絶品。


-しらす酒 (1,000 JPY+tax)-
-1合酒 (継ぎ酒) (550 JPY+tax)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
炙りたてのたたみいわしを日本酒(菊正宗)で抽出した逸品。
焦げた魚介の香味はふぐひれ酒より上品で、クセが少なく飲み易い。
二煎はたたみいわしを食べながら飲みました(こういうのが大好き)。
とても気に入って、自宅でもやってます。

-深川めしセット (1,500 JPY+tax)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
吸物、小付、新香つき。
アサリの炊き込みご飯に盛り付けられた三つ葉の香りが鮮烈。次いでお出汁の香りがやんわり漂ってくる。
ご飯の味付けは薄味で上品な良い味。但し、気になるくらい軟らかい(これ、かなりマイナスポイント)。
具材はアサリ、葱、油揚げ。
アサリお味は凄く濃厚で、とっても滋味深い(砂町銀座のあさり屋さんよりも圧倒的に濃厚)。油揚げと葱の味わいも素晴らしい。
吸物は上品で澄んだ味で、柑橘の良い香りがする柚子皮が入っているのが心憎い。玉子焼きは上品な甘さに加えて、何か味に深みを付与するものが入っていて美味しい。小鉢はこんにゃく、きのこ(しめじ?)、ぜんまい(?)、筍の煮物なんだけど、これがまたとても美味。
ご飯の固さだけがただただ残念。

参考:深川めしは、コブダシに醤油、酒、味醂で味付けして、まずアサリをはじめ具をさっと煮て、その煮汁でご飯を炊き、炊きあがりに具をさっと混ぜて出来上がりなんだそうです。


閑話休題


前回からの

Explosion Hazards of Sodium Hydride in Dimethyl Sulfoxide, N,N-Dimethylformamide, and N,N-Dimethylacetamide
Org. Process Res. Dev., 2019, 23, 2210-2217.

のメモの続きです。

今回はNaH/DMSO, NaH/DMF, NaH/DMAそれぞれの熱分析のメモで、NaH/Solventのミクスチャーの熱安定性と熱分解に伴って発生する気体に関して検討しています。具体的には、ARC (Accelerating Rate Calorimeter)、DSC (Differential Scanning Calorimeter)、EGA (evolved gas analysis) Micro-GCを用いた分析を実施しています。

それでは、NaH/DMSO、NaH/DMF、NaH/DMAの順に分析結果を見ていきましょう。

1. Thermal Stability Evaluation of NaH/DMSO

(1) ARC測定
サンプル:[0.7% NaH +  6.4% mineral oil + 83.9% DMSO] (4.55 g)をARC測定した結果です。↓
・EXO1:21.3-26.4℃, 小さい発熱イベント→混合熱
・EXO2:36.9-43.5℃, 発熱量 -93.2 J/g, 圧力上昇 129→1289 psi→NaHとDMSOとの反応と思われる
・EXO3:56.8℃〜:ruptured(これはヤヴァイね)

二つの小さいは発熱イベント(EXO1, EXO2)を経た後、56.8℃から猛烈な発熱(EXO3)が始まり、耐圧14,500 psiのセルが破裂し装置が傾きました(論文に写真が載ってます)。まさにエクスプロージョンです。また、EXO2で発生する非凝縮性のガスも大きな爆発因子であり非常に危険です。
EXO2で発生したガスのヘッドスペースGC/MS分析から、エチレン、ジメチルスルフィド、DMSOが検出されています。

(2) DSC測定
[10.3% NaH + 6.9% mineral oil + 82.8% DMSO]の組成のサンプルをDSC測定した結果です↓
・14-39℃:吸熱ピーク, 発熱量 135.7 J/g
・39-120℃:発熱ピーク, 発熱量 -93.2 J/g
・120-285℃:二つの発熱ピーク 発熱量-1223.7 J/g, Yoshida EP= 0.04
       peak temp. 146℃ (peak top)., 発熱量 -413.5 J/g), Yoshida EP= -0.47
       peak temp. 255℃ (peak top)., 発熱量 -810.2 J/g), Yoshida EP= -0.28

連なった二つの発熱ビーク(120-285℃)を合わせると、Yoshida correlationからEP (Explosive Propagation)は正の値(>0)となり爆発性と判断されます(オレの計算が間違ってなければ)。
(Yoshida correlation: https://researcher-station.blogspot.com/2019/06/dizao-transfer.html)

ちなみに、DMSO単体をDSC測定すると、278℃近辺から分解が始まり、発熱量は-911.59 J/gでした(Yoshida EP= -0.24)。


2. Thermal Stability Evaluation of NaH/DMF

(1) ARC測定
サンプル:[9.5% NaH + 6.3% mineral oil + 84.2% DMF] (4.12 g)をARC測定した結果↓
・分解開始温度:76.1˚C
・発熱量:-528.4 J/g
・最大自己発熱速度:7.23℃/min
・高いクールダウン圧力→大量のガスの発生を示唆
・Yoshida EP= -0.22

サンプル:[24.6% NaH+16.4% mineral oil + 59% DMF] (3.39 g)をARC測定した結果↓
・分解開始温度:39.8℃
・発熱量:> -601.8 J/g
・最大自己発熱速度:634.7℃/min
・高いクールダウン圧力→大量のガスの発生を示唆
・Yoshida EP= 0.04

NaHの濃度を上げると分解開始温度が大幅に低下し、最大自己発熱速度も物凄く大きな値になり、爆発性がアップします。この辺は想像通り。釜効率を上げたいスケールアップ反応でより注意が必要です。

(2) EGA Micro-GC測定

まずは、コントロール試験です↓
i) ミネラルオイル中のNaHを単独で測定
・< 100℃では装置(EGA Micro-GCシステム)のキャップやラインに残留していた水のみが検出
・160℃程度に達すると水素が検出された(熱分解)。

お次は本命(NaH/DMF)の分析。そして、コントロールの結果も踏まえて、次のことが分かりました↓
ii) NaH/DMFの測定
・ < 140℃:水を検出 (EGA Micro-GCシステムの残留と思われる)
・140-270℃:水素、一酸化炭素、メタン、エチレン(or アセチレン)を検出
・270-360℃:水素を検出。> 300℃で二酸化炭素(trace)を検出

これらの結果から著者らは、潜在的にラジカルが関与した複雑な機構で分解が進行していることが示唆されると述べています。


3. Thermal Stability Evaluation of NaH/DMA

(1)ARC測定
サンプル:[9% NaH + 6% mineral oil + 85% DMA] (4.22 g)をARC測定した結果↓
・分解開始温度:56.4℃ (自己発熱速度:5.78℃/min)
・発熱量:-422.6 J/g
・高いクールダウン圧力→非凝縮性のガスの発生を示唆
・Yoshida EP= -0.23

サンプル:[16.2% NaH + 10.8% mineral oil + 73.1% DMA] (5.36 g)をARC測定した結果↓
・分解開始温度:30.1℃
・発熱量: -528.2 J/g
・最大自己発熱速度:479.1℃/min
・高いクールダウン圧力→非凝縮性のガスの発生を示唆
・Yoshida EP= 0.16

(2) EGA Micro GC測定
・< 110℃:水素を放出が始まる
・104-305℃:大部分の水素が放出。メタン、エタン、エチレン or アセチレン、一酸化炭素も検出。
・> 300℃:メタン、エタン、エチレン or アセチレン、一酸化炭素も検出。

DMFと同様の傾向が見られますが、DMAの方がDMFよりも低温から分解が始まるという結果に驚きました(NaHのコンテントも少ないのに)。α-水素があるからでしょうか?それから、酢酸は検出されないんですね。
一般的にDMAの方がDMFより安定な溶媒と認識されていると思うんですが、油断は禁物です。


以上まとめると、NaH/DMSO、NaH/DMF、NaH/DMAには注意が必要なことは明白で、特にスケールアップしたときに危険ということですね。濃度が高いと比較的低温からでも発熱分解がこり、同時にガスも沢山発生するので爆発リスクは高いです。なので、代替手法を検討するのが必須ですが(一番安直なのがNaH/THF)、どうしてもNaH/DMSO、NaH/DMF、NaH/DMAのいずれかを使わなければならない場合は少なくとも、
・THFで希釈する
・濃度を低くする
・沢山仕込まない
・NaHと上記溶媒(DMSO, DMF, DMA)とを不必要に接触させない
などの注意が必要なんだろうと思います。

以上、(国内)二流大出でプロセス崩れのテクニシャン(研究補助員)のエクスプロージョンメモでした。



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