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2020年5月10日日曜日

その溶媒、ギャラクシアンエクスプロージョン (3) NBS、お前もか編

新橋でランチしたときのメモです。

-末げん memo-

住所:港区新橋2-15-7 Sプラザ弥生ビル1F

-かま定食 普通 (増税前で1,200 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
鳥の挽肉と特製の鳥だしのスープを玉子でとじた丼(親子丼)がメインの定食で、小鉢、香の物、スープのセット。
親子丼の"親子(挽肉と玉子)"はふわっふわの食感で、上品なお出汁の香味。そして、ご飯が文句なく旨い(とても上手に炊きあがっている)。そして、トップに頂いた三つ葉のキリッとした鮮烈な香りと玉子の相性が抜群にいい。
味的にはとっても美味しいんだけど、食感にダイナミズムの不足を感じる(お肉がそぼろなので)。
セットのスープはと鶏ガラを二時間煮出したものらしいんだけど、物凄く旨いぞ。葱の甘味を帯びたスッキリした香りがなんとも上品で滋味深く、啜るたびにリッチな気分になれます。
味だけだったらハイグレード。このプライシングで酷とは思うけど、鶏肉の食感さえ楽しめれば★★★★★


閑話休題


今回読んだ文献はこちらです↓

Incompatibilities between N-Bromosuccinimide and Solvents
Org. Process Res. Dev., 2014, 18, 354-358.

塩野義製薬の報告で、NBSってDMFと反応すっから気をつけろよっていう話です。

NBS/DMFの組み合わせは臭素化の最もファンダメンタルな反応条件だと思うんですが、予期せぬ発熱反応が報告されています。NBSのDMF溶液は結晶状態と比較して発熱開始温度が大幅に低下するというのです(Kunito, Y. Presented at the Summer Symposium of The Japan Society for Process Chemistry, Funabori, Tokyo, July 2010. He reported that the onset temperature of DSC analysis of the NBS solution in DMF (NBS/DMF = 1/1) dropped down to 63℃.)。

また、ShilcratはNBSとDMAは室温下で容易に発熱反応が起こるので、プリミックスは避けなければならないと述べています(The 25th International Conference and Exhibition of Organic Process Research and Development, San Francisco, CA, United States, March 2012.)。

ところでちょっと話は飛んでDSC測定のことなんですが、市販の金メッキされた容器はその表面にピンホールがあって、サンプルがメッキに下地である銅やニッケルと接触してしまうというのです(Akiyoshi, M.; Sasakibara, T.; Okada, K.; Usuba, S.; Matsunaga, T.; Okuda, A., Presented at The 44th National Conference of Japan Society for Study Engineering, Yonezawa, Yamagata, Japan, December 2011.)。

著者らも過去にNBSを使った反応の安全性評価をDSCを用いて行なっていますが、NBSのDSC測定では容器の金属素材が測定結果に影響を及ぼす可能性があるので、金属フリーの素材の装置で安全性評価をやり直したというのが本報です。

そして、今回著者らがDSCに替えて用いたのがARSST (Advanced Reactive System Screening Tool)とRC1e(という機種の反応熱量計)です。

ref.
・ARSST : http://www.fauske.com/chemical-industrial/adiabatic-calorimetry-relief-system-design
・RC1e : https://www.mt.com/jp/ja/home/phased_out_products/L1_AutochemProducts/Reaction-Calorimeters-RC1-HFCal/RC1-scale-up.html

まず、ARSSTの結果です↓

Thermal safety evaluation of 10 wt% NBS in solvent by ARSST
entry
solvent
onset (℃)
ΔTad (℃)
dT/dt (℃/min)
1
DMF
108
20
105
2

DMA
60
22
3

NMP
45
10
4
N,N-dimethylpropionamide
68
22
5

AcOEt
130
4
6
MeCN
>200
-
7
CH2Cl2
>150
-
8
Toluene
10820
9
THF
6928

アミド系溶媒の安定性は、

DMF > DMA > NMP > N,N-dimethylpropionamide

の順となり、α-水素の存在がその要因であると疑われますが、AcOEtやMeCNはそうでもありません。

ということで、ARSSTの結果からは、NBSを用いる反応ではAcOEt, MeCN, CH2Cl2が推奨されます。

ちなみに、トルエンは(当たり前だけど)ベンジルブロミドが生成し、THFでは過酸化物の生成が示唆されます。

次に著者らはRC1eを用いて反応熱を測定します。
結果です↓

Thermal safety evaluation of 10 wt% NBS in solvent by RC1e
entry
solvent
temp. (℃)
ΔTad (K)
reaction heat (kJ/mol) induction time (min)maximum heat rate (W/kg)
1
DMF
80
33
129 --
2
DMA
40
28
100 --
3
N,N-dimethylpropionamide

40
31
113 --
4
DMF
65
31
113 5981
5
DMF
60
32
109 108109
6
DMF
55
33
113 23959
7
DMA
60
29
97 073
8
toluene
80
31
104 2739
entries 4-8 : NBS crystals added as a batch (the heat of solution of NBS was negligible).

entries 1-3では30wt%のDMF溶液50 gを100 gの溶媒に設定温度で滴下していくことで10wt%の溶液として評価を行なっていて、entries 4-8ではNBSの結晶10 gを90 gの溶媒の加えることで10 wt%の溶液として反応熱をモニターしています。

entries 1-3のRC1eで測定した反応熱のプロファイルがARSSTで得られた発熱開始温度と食い違っているんですが、その違いが何故生じているのかをentries 4-6で検証しています。その結果、発熱開始までの誘導期間が完全に温度に依存しており、NBSとDMFの反応が自己触媒的であることが明らかになりました。そして、RC1eとARSSTとでの発熱開始温度の齟齬は、2-3℃/minの昇温速度で測定するARSSTでは自己触媒的挙動を検出できないためであろうとしています。

RC1eの測定結果から10wt% NBS in DMFの断熱温度上昇は33℃と見積もられていて、企業化しても爆発リスクは低いです。じゃあ、釜効率アップのためにもっと濃い濃度にしたらどうなの?っていうことで、30 wt% NBS in DMFのARSST測定を行なったところ、ΔTad = 100℃と見積もられRC1eから得られた値(33×3)と一致しました。ということ(100℃はキツイよね)で、もし濃い溶液を使う必要に迫られたときは厳格な温度制御が必要という結論に至ります。

最後にNBSとアミド溶媒はどんな反応してるの?っていうことでうが、NBSとDMAのこんなラジカル反応が報告されているそうです↓

Tetrahedron Lett., 1983, 24, 2685.

著者らはDMAの代わりにDMFを用いて反応を行なったところ、同様にN-methyl-N-succinimidomethylformamideが得られたそうです。また、NBSとアミド溶媒の加熱反応で、GC-MSおよびLC-MS分析によりこれらの化合物の生成を確認しています。さらに、ラジカル開始剤(AIBN)の添加によって発熱開始温度が低下し、ラジカル禁止剤(ピクリン酸)の添加で発熱イベントを抑制できることから、NBSと溶媒の発熱イベントはラジカル連鎖反応によるものであると考えられます。あと、著者らは、DBDMH (1,3-Dibromo-5,5-dimethylhydantoin)の安全性評価も行なっていて、NBSと同様な挙動を示すことが分かりました。DBDMHもNBS同様、アミド系溶媒は要注意ということです。

Thermal safety evaluation of 10 wt% DBDMH in solvent by ARSST
entry
solvent
onset (℃)
ΔTad (K)
1
DMF
99
26
2
DMA
88
29

Thermal safety evaluation of 10 wt% DBDMH in solvent by RC1e
entry
solvent
temp. (℃)
ΔTad (K)
reaction heat (kJ/mol) induction time (min)maximum heat rate (W/kg)
1
DMF
60
49
265 26078
2
DMA
60
44
240 63117

DBDMH


今回の一連のギャラクシアンエクスプロージョンシリーズでは主にDMF(とDMA)について言及(メモ)してきましたが、冷静に考えれば、よく使われる試薬と溶媒の組み合わせでバリバリ溶媒が反応しちゃう例ってけっこうありますよね。多分一番有名なのは"有機リチウム-THF"じゃないかと思います。あと、"無機塩基-アセトン"なんて組み合わせで調子に乗ってリフラックスさせちゃうと、催涙性のジアセトンアルコールとか作っちゃうので注意が必要です(オレは学生時代にその催涙性でマジで物理的に泣きました。目的の反応自体は上手くいったけど)。

あと、SEMで分かったようなんですが、DSCのピンホール問題はたまげたね。ボクのDSCの知識って10年くらい前で止まってて、当時はアルミ、銀、SUSのパン(容器)を使ってたんですが、試料の反応性や想定される圧力を勘案して容器の材質を選んだんだけど、なかなか難しいものがありました。

最近、小宇宙(コスモ)を感じる二流大出の万年テクニシャン(研究補助員)の、NBSとDMFは本質的にインコンパチブルなんだらかねっっていうメモでした。




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