2016年10月2日日曜日

My Dear Grignard Reagent: Grignard Reaction in CPME

やっと秋めいてきましたね(天気悪いけど)。


小川町にある笹巻けぬきすしで買ったお寿司のメモです。


-笹巻けぬきすし総本店 7ケ折詰 (1,695 JPY) memo-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
小肌、海老、おぼろ、たまご焼、かんぴょう巻×2、白魚の7ケ入り。
全体的にお酢がかなり効いている。特にネタに酢が効いている。そして、この酢が清々しい香味で旨い。
小肌は特に酢が効いている。江戸前の握りのような繊細さと柔らかさは無くて、少し張りを感じさせる身だけど普通に旨い。
海老も酢が大分効いている。で、それがとても良い。一本芯の通った味になっていて、海老の旨さとってもup↑している。海老はあまり好きなネタじゃないんだけど、この海老は絶品。初めて心の底から旨いと思った海老でした。
おぼろはわざとらしい感のある甘さはほどほど。
たまご焼は砂糖の甘さを感じさせない硬派な味。焦げた香ばしい香味と玉子本来の香味とシナジーがとても良い。薄い皮の張った感じの食感が噛み切った際にとても心地良い酢飯との相性もとても良い。
かんびょう巻はかんぴょうの味がとても良い。濃厚で滋味深い複雑な味。海苔は張りが残っていて、海苔を噛み切った際の『プツィッ』という食感と、かんぴょうのもの凄い柔らかい食感とのコントラストがとても良い。信じられないくらい旨いかんぴょう巻で、こんなに旨いのは初めて食べた。
白魚は茹でた白魚なんだけど、茹でたのは初めて食べました。で、シラスと較べて大振りな身は醍醐味があり、味の濃さが伝わってきて良い。
総じてお酢がけっこう効いているんだけど、刺々しい感じは一切無く、むしろ清々しさに溢れている。
また買いに行きたいな。

ところで、『笹巻けぬきすし』の読み方に戸惑う人も結構いるっていう噂を小耳にはさみましたが、読みは『ささまきけぬきすし』です。参考までに。


閑話休題


けっこう前にだけど、こんなtweet↓

があったので、遅ればせながら、ボクも読んでみました↓

Grignard Reactions in Cyclopentyl Methyl Ether
Asian J. Org. Chem., 2016, 5, 636-645.

Industry-Friendlyな溶媒として注目されているCPME中でGrignard試薬の調製からGrignard反応までやったらどうなの?っていう論文です。

ところで、周知の通りGrignard試薬の調製と続くGrignard反応はエーテル系の溶媒でオペレートされます。実験室でかつて最も汎用されるたのはEt2Oだと思いますが、特殊引火物だけあって極度に高い引火性と麻酔性が問題点として指摘されます。

なので工業的にはTHFを用いるのが一般的です。しかしながら、THFにも問題が無い訳ではなくて、放っておくと徐々に爆発性の過酸化物を形成する(オレはトロントロンになったTHFを二度ほど見たことがあります)ことに加えて、水からの回収が難しいのが問題点として挙げられています(まあ、過酸化物対策としてはBHTを添加するのが定法で、普通にBHT入りTHFは普及してるし、オレは反応中にBHTの悪影響を感じたことはまだ無いです)。

で、THFの代替溶媒として近年注目されているのが2-MeTHF。バイオマス由来の溶媒で、過酸化物も形成されにくく、水とも混和しません。そして、多くの企業が医薬品原料の製造に2-MeTHFを使うようになってきているといいます(Org. Process Res. Dev., 2007, 11, 156-159.; ChemSusChem., 2012, 65, 301-302.)。
そしてもう一つグリーンな溶媒として注目されているのが日本ゼオンが開発したCPMEで、有機合成の現場での使用が増えてきているといいます。

著者等はCPME中での反応開発を行っています↓

Tetrahedron, 2013, 69, 2251-2259.
(他にも、hydrosilylation, hydrothiolation, radical reductionなど実施している)

で、著者等のCPMEを使った反応研究の次のターゲットがGrignard PreparationとGrignard Reactionという次第です。

Grignard反応は最も古典的な反応の一つで、有機合成化学者で一度もやったことのない人を探すのは難しいというくらいポピュラーな反応で、多くの研究がなされています。CPME中での反応も報告されていますが、それらの殆どは特定の基質をターゲットにしたもので、CPMEがGrignard反応一般の溶媒として適しているかどうかは明らかになっていません。そこで、CPME中でのGrignard試薬の調製からGrignard反応までを包括的に研究してみようというのが本報です。

さてThis Workですが、まずは3-bromoanisoleを用いて、CPMEと他のエーテル溶媒中での反応の比較と反応条件の最適化を行った結果がこちら↓


3種類の溶媒(CPME, THF, 2-MeTHF)の中では一番イマイチだけど、CPME単一溶媒でGrignard試薬の調製から続くGrignard反応を行うことができます。それから、CPMEに対するGrignard試薬の溶解度はTHFや2-MeTHFと較べて低いです。


ところで、Mgの活性化にDIBAL-Hを使っていますが、著者等は活性化剤のスクリーニングもしていて、DIBAL-Hがベストという判断を下しています。因に、著者等が試した活性化剤は7種類で、その序列は次の通りです↓

DIBAL-H  Red-Al > I2 > BrCH2CH2Br > LiAlH4 = BH3•SMe2 > NaBH4 (no acceleration)

(個人的には、dry stirringとI2の組合わせがボクのお気に入りです。色が消えて分かりやすいから)


さて、CPME中でのGrignard PreparationとGrignard Reactionの基質一般性についてです(アルデヒドはPhCHOで固定)↓

まずは、ブロミド

iso-PrBr, AllylBr, BnBrは他の基質よりも速やかに反応が進行するものの、60˚CではWurtsカップリングによる二量化も進行します。で、室温もしくは氷冷下でブロミドを注意深く滴下することで二量化を最小限に抑えることができます。
あと、iso-PrBrを基質に用いた場合、活性化にDIBAL-Hを用いた方がヨウ素を用いる場合よりも10%収率が向上します。
あと、1-bromo-2-chlorobenzene, 1-bromo-2-fluorobenzeneのGrignard反応が不発なことが意外です。何か出来ているっていうんだけど、complex mixturesになって同定できなかったと言います。因に、対応するGrignard試薬は市販されておらず、著者らは極めて不安定で即座に分解してしまうのではないか考えています。
それから、(E)-C6H5CH=CHBrはWurtsカップリングが起こりやすく、40˚C未満では反応が進行せず、Wurtsを抑えることができないです。propargyl bromideは室温で加えると発熱を伴って反応が発進してGrignard試薬を調製できなかったと言います(温度制御をちゃんとやったのかっていうツッコミを入れたい)。

次にクロリドです↓

クロロベンゼンだとCPME単一溶媒では収率が低く、THFとの混合溶媒を用いることで収率アップです。ベンジルクロリドはWurts対策のために水冷下でのGrignard formationが必要。AllylClはGrignard試薬を形成せず、Barbier反応によってGrignard付加体を取得しています。

因に、n-buthylmagnesium bromideとn-butylmagnesium chlorideのCPME溶液は0℃で少なくとも三ヶ月は安定です(その間沈殿も着色も観察されない)。
また、反応後のCPMEを抽出-蒸留して回収したものにCPMEの分解物は検出されず(GC >98%)、繰り返しリサイクルしても収率に影響を及ぼすことはないです(1-bromo-3-chloribenzeneの場合)。

そして、医薬品合成への応用もアピールしています↓

tamoxifenの合成の最終工程ですが、窒素原子を含むGrignard試薬の調製は難しく、CPME単一溶媒ではGrignard試薬を調製することができず、THFとの混合溶媒を用いています。それでも未反応の臭化物がけっこう残存して、これがtamoxifenと分離するのが大変という冴えない結果です。最終的には、少過剰にn-BuLiでチリオ化することでこの問題を解決するんですが、リチオ化もCPME単一溶媒では不完全で、THFの添加が必要となります。

最後にボクの個人的な感想を述べさせてもらうと、CPMEでそこそこGrignard試薬が調製できるのは合成化学上の新たな武器になるかなと思いますが、その用途はTHF(や2-MeTHF)で結果がイマイチでCPMEで改善される場合に限定されるのかなと感じます。でも、(バルクの値段は分からないけど)試薬グレードでは、THFとCPMEが同じ値段っていうのには、安くなったなぁと驚きました(TCI, 500 ml, 3,600 JPY)。

基質一般性の検討のところで著者等は、
"It appears that CPME has a negative effect on Grignard formation from aromatic chlorides"
と述べていますが、tamoxifen合成からも、CPME中でのハロゲン化物のメタル化は遅いのはほぼ確実と思います。そして、この問題のためにTHFとの混合溶媒を使うと、CPMEのリサイクル性の高さも魅力半減です。

あと、実際の実験に関してですが、Grignard Preparationの件で、『室温』とか『氷冷下』とか説明してるけど、そういうところに大学研究のアマチュアっぽさを感じますね。このスケールで温度計つっこまないのはオレの感覚では絶対あり得ない。ついでに言わせてもらうと、Griganard PreparationのInitiation段階は1℃前後の温度上昇をモニターするのが肝。温度を0.1-0.2℃刻みでモニターしないなんてあり得ないですよ(もし、ちゃんとやってたらごめんなさい)。さらに、反応が速いに越したことはないけど、『60˚C, 3 hr』っていう反応条件へのこだわりが今ひとつ理解できないです(ボクが浅学なだけかもだけど)。ボクの理解ではGrignard試薬形成は自己触媒反応で、熱を掛けるとWurtsカップリングが起こりやすくなるには周知の事実なので、もっとマイルドな条件でovernightくらいしとけばいいんじゃないの?って思うんですが、どうなんでしょう?

それでも、CPME中でのGrignard反応の特性を明らかにした仕事は良い仕事と思いました。以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)の生意気なメモでした。


2016年9月4日日曜日

ベンゾトリアゾール:その傾向と対策 Extra Operation

軽く秋のにおいを感じる時季ですね。


去年のことだけど、10月から11月にかけて、東京電機大の旧校舎跡地で開催された大江戸ビール祭り 2015のメモです。


大江戸ビール祭り 2015 シーズン1

-富士桜高原麦酒 Rauch WeizenBock (ラオホ ヴァイツェンボック) (500 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
アピールポイントは、スモークの香りのするハイアルコールビール。Alc. 7.3%。日本では初めて小麦のスモークモルトを使用したモルト風味豊かな限定ビールだと言う。
色は深めのブラウン。香りはあまち立たないが、バナナ様の香りがうっすら。味もバナナ様のfruityさで、爽やか。bodyの強さ感じる。なんとなく淡色ラガーっぽい雰囲気も感じる。後味は爽やかですっきり。

-Outsider Brewing Fantastic Grape Cider (ファンタスティック•グレープ•サイダー) (500 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
Alc. 4%。山梨県産のアジロンダックという品種の葡萄を使った一品。麦芽ではなく葡萄を原料にビール酵母を使用して醸したといいます。
少しシャンパン様の香りが漂う。淡色ラガーっぽいところのある味。果実味のあるワインチックな渋みを、軽微ではあるが、感じる。
fruity、爽やかさ、甘くはないけどsweet感がある(何とも形容し難い)。スレンダーな味で、葡萄由来と思われる良い香質。色は綺麗なWine Red。

-松島ビール Bock (ボック) (500 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
Alc. 7%。モルトの甘味•風味が強めの濃厚で味わい深い贅沢なビールという触れ込み。麦芽を通常(他の松島ビール比較)の1.5倍使用し、熟成にも2倍の時間をかけて仕上げたという。
この日は少し肌寒く、気温に合わせてビールの温度を調整して提供しているという。なので、少しぬるめ。缶のアサヒスーパードライ的な匂いがする。口当たりはとてもmildでちょとcreamyで楽しい。ちょっと淡色ラガーっぽい雰囲気感じる。finishのbitterも楽しい味。色はブラウンだけど、コクのある感じではない。

-宇田川カフェ ソーセージとチョリソー (500 JPY)-
-REVIEW-
チョリソーらしいんだけど、全然辛くなかったね。







大江戸ビール祭り 2015 シーズン2

-田沢湖ビール ダークラガー (TAZAWAKO BEER Dark Lager) (500 JPY/370 ml)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
Alc. 5.0%。国際苦味単 (IBU) 0 34。深いコクと苦味が調和した本格的黒ビールで、黒ビールが苦手な方にもオススメらしいです。ヨーロピアン•ビアスター (EBS) 2012 銅賞。ワールド•ビアアワード 2015 Asia's Best Dark Lager。
かなりいい感じの味噌様の香りとhigh roast note。この濃蜜な香りから濃厚な味がするような気がしたんだけど、意外にもすっきり(あっさり)したtaste。軽薄な訳ではないんだけど淡色ラガーのすっきりしている。あと、high roastとbitterがしっかりある。温度が上がってくると、スーパードライチックな匂いがする。

-いぶりがっこ (300 JPY)-
-RATING- ★★☆☆☆
-REVIEW-
smokeが緩く、普通の沢庵感が強い。残念。

-AQ BEVOLUTION Heretic EVIL COUSIN IIPA (ヘルティック/イーヴルカズン IIPA) (500 JPY/12 oz)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
アルコール度数 (ABV) 8.0%。国際苦味単位 (IBU) 100。
これは絶品。インドの青鬼に酷似している。で、インドの青鬼よりは少し爽やかですっきりしている。少しだけ軽い感じでそれも旨し。とっても美味しい。fruity, citrus, spicy, 豊潤な味。そして、強烈なbitterが凄くいい感じ。

-一関ミート 厚切りハムステーキ (400 JPY)-
-REVIEW-
かなり脂ぎってるね


ところで、大江戸ビール祭りは今春(4/29-5/8; http://2016s.oedo-beer-festival.jp/)もあったけど、今秋(10/26-10/30; http://oedo-beer-festival.jp/)にも開催が予定されています。アクセスが容易で、気が向いたら、また行ってみようかな。



閑話休題


ベンゾトリアゾール関連の脱水縮合のメモです。
読んだ文献はこちら↓

Comparison of the Effects of 5- and 6-HOAt on Model Peptide Coupling Reactions Relative to the Cases for the 4- and 7-Isomers
Org. Lett., 2000, 2, 2253-2256.

HOAt (7-aza-1-hydroxybenzotriazole)の"aza"の位置によって活性がどう変わるかっていうことを研究した論文です。


この論文がでるまでに7-HOAt (所謂HOAt)と4-HOAtは報告されていましたが、5-HOAtと6-HOAtに関しては何も検討がなされていなかったので、本報で5-及び6-HOAtを合成して、一連のHOAt isomersの活性を比較検討しています。

で、結果はこちら↓

やっぱ、7-HOAtがその隣接基関与で反応がブーストされるという結果が改めて追認されました。あと、この論文にはpKaも書いてあったんだけど、7-HOAtは酸性度が低いからラセミ化も起こりにくいんだね(4-isomerと比べて大分低いね)。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。


2016年8月27日土曜日

ボリド、その還元力を問う

まだ、夏ですね。


神田にあるトプカ (topca)っていうカレー屋(夜は居酒屋にもなる)さんのメモです。


-トプカ (topca) memo-

-GUINNESS extra stout (480 JPY)-
鉄板の旨さ

-マトンカリー (1,100 JPY)- 
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW- 
半ペースト状で、いかにもカレーっぽいspicy taste。ニュアンス的に味噌likeで複雑玄妙、bodyの強さを想起させる香り。 tasteは、けっこう辛い(お店のメニューに書いてある唐辛子マークは3つ)。ボク的にはこの辺の辛さがカレーを美味しく食べれてる辛さのマックス•レベル。トップに載っているネギは箸休めのアクセントとして良し。ジャガイモはホクホクで美味しい。 で、マトンなんだけど、味的には辛さがけっこうキツかったので、その独特な香味を明確に把握することはできなかったけど、複数あるマトンの肉片のうちの一片はかなり旨くて絶品の域。しっとりとした食感、力強いbodyの肉の味。勿論、くさみは全く感じない。 他のマトンのピースは、食感が少しパサついた感じが明確にする。 あと。頂きに冠たるトマトは普通(青臭いね)。 総じて旨いカレーと思います。そして、このカレーにギネスがけっこう合う。

-松竹梅 豪快 一合燗 (380 JPY)- 

-まぐろ中おち (490 JPY)- 
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW- 
freshで柔らかい酸味と甘み。口の中でハラハラと解けていく。 山葵は多分本山葵だと思う。


-ホヤ (450 JPY)- 
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW- 
Wild Tasteなホヤ。子供の頃、田舎で食べていたホヤの味を思い出した。磯の匂いが印象的なワイルド系のホヤ。 




-黒伊佐錦 on the rocks (450 JPY)- 


-すだちサワー (400 JPY)- 
-RATING- ★★★☆☆ 
-REVIEW- 
すだちがいい味出してる。

-銀杏 (350 JPY)- 
-RATING- ★★★☆☆ 
-REVIEW-
盛り沢山の銀杏が殻付きで提供される。殻はペンチを使って自分で割って食べるワイルドなスタイル。



-穴子の白焼 (600 JPY)- 
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
猛烈に穴子の魚くささが立ち昇る(好ましい穴子くささ)。味は及第。そのまま or ワサビで食べるのが良い。淡白さの中に穴子独特の滋味あって良い。 甘ダレも付いてくるんだけど、穴子の旨味が台無しになってしまう。



閑話休題


以前、このブログで1,2-還元と1,4-還元について書きました。
see
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (1) 
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (2)
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (3)
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (4)
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (5)
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (6)
"1,2-" or "1,4-", That is the Question (完)

で、それらのブログの中で、α,β-不飽和ケトンのCoCl2•H2O-NaBH4によるC-C二重結合に選択的還元について取り上げました↓

WO2008/010235

この反応は、安価な試薬(CoCl2•H2O, NaBH4)とマイルドなコンディション(15-20˚C)で反応を行えるので、汎用性(基質一般性)が高ければ優れたツール足り得るという印象を受けました。

で、ちょっとだけ調べてみたら、こんな論文(総説)がヒットしました↓

Methods of enhancement of reactivity and selectivity of sodium for application in organic synthesis
Journal of Organometallic Chemistry, 2000, 609, 137-151.

ボロハイにadditiveを加えることで、還元力を上げたり、選択性を出したりすることはよく知られていますが、この文献はその総説です。

この総説を読むまで、CoCl2-NaBHsystemはα,β-不飽和カルボニル化合物のC-C二重結合のみを還元(1,4-還元)する試薬と勝手に勘違いしていたんですが、孤立したC-C二重結合を水素化できる試薬だということが分かりました。しかも、反応条件を適切のチョイスすることによってオレフィンをhydrogenationとしたりhydroborationすることができると書かれています。

ref. J. Org. Chem., 1979, 44, 1014.; Tetrahedron Lett., 1984, 25, 2501-2504.

ただ、この総説では、JOC (J. Org. Chem.197944, 1014.)とTL (Tetrahedron Lett.198425, 2501-2504.)の論文の主張に基づいて、hydrogenationはhydrocobaltationを介して進行すると解説されていますが、他の文献にも目を通してみると、この説は完全に排除はできないものの劣勢のようです。今回は、そこら辺のメモを以下にまとめてみようと思います。


まず、CoCl2/NaBH4を使った還元の初出は1979年のJOCだと思います↓
Selective Reduction of Mono- and Disubstituted Olefins by Sodium Borohydride and Cobalt (II)
J. Org. Chem., 1979, 44, 1014.


この論文では種々の一置換、二置換、三置換オレフィンの還元が検討されていて、CoCl2の使用は触媒量でもよく、一置換および二置換オレフィンの還元は進行するものの、三置換オレフィンではno reactionという結果が示されています(冒頭のアリセプト合成では、三置換オレフィンを還元してるけど)。この論文で著者等は、NaBH4とCoCl2からCo metal、Co(BH4)2、さらに複雑なコバルトヒドリド(CoH2, etc.)が生成するのではないかと考えています。


その後、1984年のTLでこんな報告がなされています↓
Hydroboration or Hydrogenation of Alkenes with CoCl2-NaBH4
Tetrahedron Lett., 1984, 25, 2501-2504.




Hydroboration of Alkens with CoCl2/NaBH4




Hydrogenation of Alkens with NaBH4/CH3OH-CoCl2 in THF


アルコール溶媒(MeOHとかEtOH)中で反応を行うことでhydrogenationが進行し、THF中で反応を行うとhydroborationが進行します。
この論文で著者等は、THF-CH3OH中では"CoH2"が、THF中では"BH3"が生成し活性種として働くと考えています。


ところが、さらに2年後の1986年のJACSではこんな報告がなされています↓
Studies on the Mechanism of Transition-Metal-Assisted Sodium Borohydride and Lithium Aluminum Hydride Reductions
J. Am. Chem. Soc., 1986, 108, 67-72.

この論文では、
(1) CoCl2-NaBH4 systemを使ったニトリルの還元
(2) CoCl2-NaBH4 systemを使ったオレフィンの還元
((3) LiAlH4-CoCl2 systemを使ったハロゲン化アルキルの還元)
のメカニズムが検討されています。

で、オレフィンの還元にフィーチャーしてみると、

a) MeOH中、CoCl2にNaBH4を作用させると、激しい水素ガスの発生を伴って、> 95%でコバルトボリド(Co2B)が生成する
b) Co2B単独ではリモネンを還元できない
c) Co2BとH2ガスでリモネンを還元できる
d) THFまたはTHF/MeOH (12:1)溶媒中、Co2BとNaBH4 (or LiBH4)の組み合わせではリモネンは還元されない(この条件下、水素ガスの発生は抑えられている)

といった現象が観察されています。これらのことから、オレフィンの還元にはCo2Bの形成とNaBH4の分解に伴う水素ガスの発生が必要のようです。

さらにニトリルの還元ですが、


a) Co2B単独もしくはCo2Bと水素ガスではニトリルは還元されない
b) Co2BとベンゾニトリルをMeOH中で混合すると、ベンゾニトリルはCo2B表面に強く吸着する。Co2Bがニトリルを活性化する。
c) 反応液のpHが重要
TBA (t-butylamine-borane)のメタノール溶液はCo2B存在下でも安定であるが(液性は中性のまま)、NaOMeを加えてpH 8-9にするとベンゾニトリルは還元されベンジルアミンを与える(水素は発生しない)。NaBH4, Co2B, MeOHの混合物はNaBH4の分解を伴いpH 8.5-9.0になる。
d) これもpH依存性の証左か?↓

といったことが報告されています。オレフィンの還元とは様式が明らかに異なっています。著者らはボリド表面で活性化されたニトリルに、溶解して非配位性のNaBH4からのヒドリドの付加によって還元が進行するというのが最も可能性が高そうだと述べています。


ちなみに、CoCl2-NaBH4はアジドの還元にも使えます。

14 examples, 91-98% Yield
Synthesis, 2000, 646-650.

この条件下では、CO2H, CO2Me, OH, OCH2O, NO2, Me2C=CHR, CNといった官能基があっても許容です。また、この反応の際、コバルトボリド (Co2B)の析出が観察され、これがNaBH4の分解を触媒し水素を発生させ、接触還元(様の反応)を起こすと著者等は考えています(但し、還元反応の活性種がCoH2であることを排除できないと述べている)。

CoCl2-NaBH4による還元は、なかなか一筋縄では説明でいないメカニズムで進行するようです。基質によって(特に、ニトリルとその他)水素源となる活性種が異なるようですが、Co2Bが触媒として関与が有力のようです。

以上、CoCl2-NaBH4についてチョッピリ造詣を深めることができた二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。



2016年8月16日火曜日

アミンからオキシムへ:mCPBA in AcOEt at rt.でアミンを酸化する

ども、艦これ2016夏イベントを(一応)攻略し終えた、チバラキ在住のオタッキーのコンキチです。

ところで、チバラキと言えば、先日(といっても7月のはなしだけど)、柏の葉キャンパス駅前で『柏の葉サマーフェス』なるものが開催されたんですが、ボクの大好きなクラフト•ビールも吞めるっていうんで行って来ました。で、そのメモです↓

-ファーイーストブルーイング 馨和 KAGUA Rouge (700 JPY) memo-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
alc. 9.0%。
重厚な味わいと山椒のアフターフレーバー。ロースト麦芽を使用し、香ばしいしっかりしたボティ感。アフターテイストの山椒のスパイシーさが特徴で、お肉にばっちりな重厚な味わいの一品。2014年ANA国際線ファーストクラス採用。香港インターナショナルビアアワード2年連続金賞ビール。
やんわりとしたfruity & citrus note。口に含むと、まずnaturalなsweetnessを感じ、その後すぐにcitrusが押し寄せる。赤ワイン様のrichなbodyを堅持しつつ、finishには山椒様の清涼感を伴った独特のspicy。発泡感は全体的に弱いんだけど、finishに集約された発泡感が山椒のspicyをエンハンスする。温度が上がってくるとberry感とchemical感がUP↑するんだけど、これがまた良い。文句無しにとっても美味しい。Japanese Tropical!

-ブルームーン (600 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
オレンジアロマ香る全米No. 1クラフトビールらしいです。
オレンジキュラソーの傑作「コアントロー」を彷彿させる鮮烈で濃厚なオレンジの甘い香りが迸る。口に含むと猛烈な甘い香りとは裏腹に甘みは微弱。そして、とってもcreamyで、orange系のcitrus & spicyがやんわりと漂う。面白いビールと思いました。

-インドネパールレストラン ハリオンのタンドリーチキン (2P) (300 JPY) memo-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
骨無しのチキン。普通に旨いし、2Pで300円は超リーズナブルでは。コスパ非常に高し。

-ル•ジャルダン•ゴロワのキッシュ盛合せ (4種) (1,000 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
生地は薄めで、アパレイユがプルンプルンに仕上がっている。キッシュって旨いね




-uca's kitchen 鶏肉のフォー (500 JPY) memo-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
スープは薄味だけど旨い。鶏ガラベースだろうか?
具は鶏肉、もやし、ネギ、パクチー、フライドガーリック。パクチーとフライドガーリックの香味のスープへと移る速度が速い。で、これに伴う香味の変化が楽しい。そして、フォーに合った味付けと思いました。あと、フォー自体が旨い。
淡白であっさりとした優しい味に仕上がっていてとっても旨かったです。


閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

m-CPBA Mediated Metal Free, Rapid Oxidation of Aliphatic Amines to Oximes
J. Org. Chem., 2016, 81, 781-786.

タイトルそのまんまで、アミンを酸化してオキシムをつくるお話です。

20 examples, 78-95%
ウリは、

a) Metal free
b) Mild reaction conditions (at rt.)
c) High oxime selectivity (oxime selectivity > 90%, lower byproduct formation)
d) Commercially available oxidant (m-CPBA)
e) Shorter period, easy workup

です。

あと、この論文、インドの研究機関(ICT)のなんだけど、インドの室温は30-32˚Cなので注意して下さい(30-32˚Cって論文に書いてあった)。まぁ、ご愛嬌といったところです。

さて、オキシムの合成といってすぐに思いつくのは、アルデヒド/ケトンにヒドロキシルアミン塩を作用させる方法で(オレはそれしか思いつかない)、脂肪族アミンの酸化によるオキシム合成はオルタナティブな合成法になりますが、脂肪族アミンは酸化反応に対してセンシティブで、アルデヒド、ニトリル、ニトロ化合物、イミンなどの副生成物の混合物を与えがちで選択性に難ありというのが定説のようです。なので、脂肪族アミンを酸化して選択的にオキシムに誘導する反応の開発は、今尚、重要な仕事の一つに数えられているようです。

著者等はベンジルアミンをモデル化合物に選んで、種々の酸化剤(m-CPBA, 50% H2O2, Oxone, 70% TBHP, Sodium perborate, Potassium peroxydisulfide, Urea hydrogen peroxide, 過酢酸)と溶媒(Pet ether, Toluene, CHCl3, CH2Cl2, Acetone, CH3CN, EtOH, MeOH, AcOEt, Glycerin, H2O, DMF)を検討した結果、酢酸エチルを溶媒に用いて、室温(30-32˚C)でm-CPBAをきっちり2 eq.作用させるのがベスト•プラクティスだということを見いだしました(溶媒効果がけっこうでる。あと、収率向上のためにはm-CPBAのモル比も重要)。

基質一般性はこちら↓

benzaldehyde oximeはE/Z=86:10(一番左上)で、それ以外の置換ベンジルアルデヒドオキシムはE-選択的。(ベンジルじゃない)脂肪族アミンから誘導されるオキシム(最下段の5化合物)はE-体とZ-体の混合物として得られます。

それにつけても、こんなにも簡便な操作、マイルドな条件、短時間で高収率でアミンからオキシムに変換できるなんてちょっと驚きです。
ちなみに、遷移金属を使った空気酸化も報告されてますが、反応温度は100-120˚Cと高温で、反応時間も10-16 hrと長時間を要するようです。

本報はとっくの昔に誰かがやってそうな話だと思いましたが、そうではないんですね。論文になってるくらいだから(企業がノウハウとして隠している可能性は否定できないけど)。

シンプルなアイデアだからといって、もう誰か思いついてやってんじゃね?って勝手決めつけて諦めてしまうのは良くないねと改めて思う、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。


2016年8月15日月曜日

その構造、アミニウム?ウロニウム?

夏ですね。

今夏も大好きな新子を食べることができました↓


新子の香りって凄く繊細で、絶妙な塩梅の酢の香りと相まって、なんとも言えない可愛らしい香りを醸し出すんだよなぁ。舌触りももの凄く繊細で、この世のものとは思えない、なんとも形容し難い可愛らしい味わいで、真剣、癒されます。
(ちなみに、添えてあるのはカボチャの漬け物)

折角なので、去年食べた新子の写真もアップ↓


今年は去年より早めに食べにいったんだけど、去年が四枚付けで今年が三昧付け。初夏の限られた時期にしか食べられない夏の風物詩は、その食べる頃合いをはかるのが難しいです。


閑話休題


先のエントリーで、ベンゾトリアゾール系縮合剤のメモを書きましたが、その関連で(大分有名な話だけど)HATUに代表されるAminium (Guaniinium)/Uroniumタイプの縮合剤の構造についてメモしてみます(以下、HATUを例に挙げてメモしていきます)。

まず最初に、Aminium (salt)、Uromiun (salt)って何よ?っていう話ですが、HATUで説明すると、Bis(dimethylamino)methylene基がベンゾトリアゾールの"N"に結合しているのがAminium (N-form)で、"O"に結合しているのがUronium (O-form)です。


HBTUはHOBtとtetramethylchlorouronium塩(TMUCl)との反応によって誘導されるんだけど、当初はBOPのアナローグとしてUroniumタイプの構造だと考えられていました。


しかしながら、後にX線結晶構造解析から実際はAminium塩(guanidinium N-oxide)であることが示され、HBTU, HATU, HAPyUはAminium構造であることが分かっています(Chem. Rev., 2011, 111, 6557.)。

ところで、これらの試薬のO-form (Uronium salt)は絶対に取得できないのかというと、そんなことはなくて、合成法を工夫することで調製可能です。ではどうするのかというと、後処理を迅速に行うことと、三級アミンを使用しないことです。

Angew. Chem. Int. Ed., 2002, 41, 441-445.

迅速な後処理が必要というのは当然異性化(O-form→N-form)を防ぐことが目的(=三級アミンを完全に排除しても異性化が進行しないわけではない)なので、ラージスケールでのO-form(リッチな試薬)の調製は困難でしょう。なので、市販試薬は(大部分が)N-form (Aminium salt)のはずです(O-formの構造が描いてある試薬メーカーもあるけど)。

あと、HBTUとHATUは、N-form (Aminium salt)よりO-form (Uronium salt)の方が活性が高いと言われていますが、実際の反応条件とかを鑑みて、そこまでアピールするほどのクリティカルな違いなの?って思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。
O-form (Uronium salt)とN-form (Aminium salt)のこれでもかっていう反応性の(バカでも分かる)明確な差異が報告されている論文があったら、浅学なボクに教えて下さい。