チオールの香気に関する文献を読んでみました↓
Comparison of 4-Mercapto-4-methylpentan-2-one Contents in Hop Cultivars from Different Growing Regions
J. Agric. Food Chem., 2008, 56, 1051-1057.
アサヒビールの研究グループの報告です。
ホップ由来の揮発性チオールのビール香気への寄与に関する研究です。
ちなみに試したホップは、Simcoe (USA, 2005 & USA, 2006), Summit (USA, 2006), Apollo (USA, 2006), Millenium (USA, 2006), Cascade (USA, 2006), Willamette (USA, 2006), Topaz (Australia, 2007), Pacific Gem (New Zealand, 2006), Perle (USA, 2006 & Germany 2006), Nugget (USA, 2005 & Germany, 2006), Magnum (Germany, 2006), Taurus (Germany, 2006), Hersbrucker (Germany, 2005), Saazer (Czech, 2005), Fuggle (UK, 2005)の全18サンプル。
内、
黒→ホップペレットの分析だけ
赤→ホップペレットの分析に加えて、ビールにして評価した。
で、この研究が明らかにしたことは↓
1) 4-mercapto-4-methylpentanone (4MMP)がfruityなblack currant様の香気のキー成分である。
ビール抽出物中に見出されたblack currant様香気成分は7成分あって(GC-Oで決めた)、そのうち構造が決定されたのは4MMP、3-mercaptohexyl acetate(3MHA)、3-mercaptohexan-1-ol (3MH)の3成分。3MHAはホップ由来の成分ではない(ホップを添加しないで醸造したビールと比較してコンテントが大して変わらない)。で、4MMPは極めて高いCharm Valueを示した。よって4MMPはホップ由来のblack currant様香気のキー成分というわけなのです。
あと、4MMPの閾値とビール中のコンテント、それからblack currant様香気の強度とビールのトータルのホップアロマの強度(Total hop aroma intensity)を勘案して、4MMPがトータルのホップアロマの強度にも強い影響を与えているようだそうです。
ちなみに、4MMPコンテんとが高く、black currant様アロマが強く、Total hop aroma intensityが高いホップは、Summit (USA), Simcoe (USA), Apollo (USA), Cascade (USA)でした。
2) ホップペレット中の4MMPコンテントと、Cuイオンのコンテントとの間に負の相関がみらた。
ちなみに、ICP-MSでCu2+, Mn2+, Fe2+, Zn2+を定量していて、4MMPコンテントに影響(減らす)を及ぼすのは銅イオンだけでした。また、欧州では、ボルドー液(Bordeaux mixture)という硫酸銅を含む防カビ剤を使用しているため、欧州産のホップペレット中の4MMPコンテントは検出限界以下でした。
コンキチはチオール類と銅が結合(conjugate)し易いというのは最近まで知らなかったのですが、その筋では有名なんでしょうか?この論文では、銅もチオールもソフトだからというHSAB的な説明をしていました。参考までにこの論文記載のリファレンスは↓
Proc. Eur. Brew. Conv., 2003, 91/1-91/11.
J. Sci. Food Agric., 1995, 67, 25-28.
3) ホップのビンテージによっても、4MMPコンテントはかなり変化している。
Simcone(USA)の場合、2006年のものは2005年の1/5しか4MMPが含まれていないそうで、その解明が今後の検討課題のようです。
4) 4MMPは発酵過程で33%程度しか増加せず、その多くがホップペレット中にフリーの状態で存在しているようです(Simcone, USAの場合)。
ワインの場合、ブドウ中に4MMPは主としてシステインのくっついた前駆体(cysteine conjugate)として考えられていて、アルコール発酵中に前駆体から4MMPが発生すると考えられているそうですが(ref. J. Int. Sci. Vigne Vin, 1995, 29, 227-232.)、ビール(ホップ)の場合は、ワイン(ブドウ)とは違うのですね(Sauvignon Blanc、Cabernet Sauvignon、Merlot中の3MHもそう see. J. Agric. Food chem., 1998, 46, 5215-5219.; J. Agric. Food Chem., 2001, 49, 5412-5417.)。
とまあ、こんな感じでしょうか?
チオールはたのもしいヤツですよ。会社に就職すまでは、チオール=臭い物質というイメージしかなかったのですが…..
S化合物と香り(食べ物)の関係のサーチをライフワークにしようかなと思う窓際研究員なのでした(多分三日坊主になると思う)。
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