タイトルのファクトフルネス (factfulness)は、「事実に基づいて世界の現状を正しく見ること」という意味で、本書から「お前ら全然現実を分かってないから」ということを激しく突きつけられます。
冒頭、世界の情勢を概観する13のクイズ出題されるのですが、オイラは一個しか当たんなかったですね(シクシク涙.....orz)。そして、このクイズはボクだけじゃなくって、その筋の専門家といわれる知性の高い人たちも力強く間違えているのです。
なぜ賢いはずの人が目の前にある事実を間違って解釈する原因を一言でいうと、人は世界をドラマチックにみてしまうからだと本書で述べられています。この人の性質は脳の機能に原因があり、変える(行動変容する)のは容易ではありません。
(だだの星の集合を星座とかいって、無理筋の意味ずけするくらいだし)
それでは、ボク的な琴線に触れた箇所を独断と偏見によってピックアップしてメモっていきます↓
Factfulness 1 世界の人口の75%は中所得の国に住んでいる
2017年現在、世界の人口の75%は中所得の国に住んでいます。日本みたいな(一応)先進国に住んでいると、多くの非先進国は貧困に喘いでいると思いがちですが、そんなことは全くありません。
世界のおよそ70億人の人口(2017年現在)は、次の4つの所得レベルに分けることができます。
レベル1:1日2ドルで生活→10億人 (14.3%) 貧困層
レベル2:1日2-8ドルで生活→30億人 (42.9%) ここから中所得
レベル3:1日8-32ドルで生活→20億人 (28.6%)
レベル4:1日32ドル以上で生活→10億人 (14.3%)
レベル2の生活って貧乏人なんじゃねぇのって思う人もいるかもしれませんが、1950年代の西欧と同程度の生活水準なんだそうです。日本は(一応)先進国で世界的には裕福国家(レベル4)なので、レベル2の生活を相対的に貧乏人だと感じるかもしれませが、世界的には貧困ではないのです。
人には分断本能というグループを二つに分けなければ気が済まない本能があるそうです(二項対立)。なので、「金持ち」対「貧乏」という対立した構図はとても好まれるのでしょう。そして、裕福国家の住人は、後進国の貧乏人を慮ってカッケーという、優越感(見下し)と思いやりの心(但し、慮るだけ)に浸って自己陶酔しているんじゃないでしょうか。
人が二項対立させることが大好きだということは、日本人なら腑に落ちるんじゃないでしょうか。だって、勧善懲悪の善悪二元論時代劇が大好きじゃないですか。水戸黄門とか大岡越前、遠山の金さん、鬼平犯科帳とか、隠密同心とか、旗本退屈男とか、魔界転生とか、陽炎の辻とか.....etc. (ボクは大好きです)
みんな「金持ち対貧乏」、「良いか悪いか」。「正義か悪か」、「自国か他国か」といった対比がだぁーい好きなんです。
ところで、日本国内でも貧困問題がありますが、その「貧困」は「極度の貧困」ではなく「相対的貧困」です。解決できればした方が良いと思いますが、喫緊の課題ではないのでしょう。
こういった二項対立の罠に陥らないために、三つの注意すべきポイントがあると著者らは説きます。
「平均の比較」、「極端な数字の比較」、「上からの景色(上から目線)」の三つです。
さらにこうも述べています↓
統計を読み解く際には、「数値の差が10%程度かそれ以下である場合、その差を基になんらかの結論を出すことは慎重になるべき」であると。
Factfulness 2 世界の平均寿命はおよそ70歳
世界の平均寿命は72歳のようです(2017年現在)。ついでに、平均寿命が50歳を下回る国はないそうです。因みに、我が国の平均寿命は84.1歳(2017年)でしょうか。アフリカ大陸は他の大陸よりも平均寿命が短いですが、それでも65歳です。さらに、チェニジア、アルジェリア、モロッコ、リビア、エジプトのアフリカ北部沿岸に位置する5カ国の平均寿命は世界平均の72歳を上回っており、1970年のスウェーデンと同水準であるといいます。
上から目線の先進国の住人からすれば納得いかないデータかもしれません。もし納得できないのであれば、それは「ネガティブ本能」に基づいた「世界はどんどん悪くなっている思い込み」に取り憑かれているからかもしれません。
「ネガティブ本能」とは、物事のポジティブな面よりもネガティブな面に気付きやすいという本能で、この本能を刺激する要因があるといいます。
(1) あやふやな過去の記憶 (思い出は美化される)
(2) ジャーナリストや活動家による偏った報道
(3) 状況がまだ悪いときに、「以前に比べて良くなっている」と言いづらい空気
の三つです。
(1)は年寄りの懐古趣味と割り切ればオッケー。(2)はインターネットの普及によってジャーナリズムが嘘つきだっていうことが周知されてきています。(3)は空気を読まない力を身につけましょう。
Factfulness 3 2100年の子供の数は今と変わらない
2100年。世界の人口は110億人に達すると推計されています(国連調べ)。
人口爆発でヤヴァイィィィィィって思うかもだけど、そんなことはありません。人口爆発論者は直近の人口増のトレンドに対して安着に直線性(直線本能)を当てはめただけの愚か者なのです。例えば、人間の身長は成長期において直線的に増加しますが、それが終われば飽和して直線性は完全に失われます。人口問題もそれと同様だということです。
人口爆発の唯一の要因は人口の増加なわけで、人口が増加するためにはインプットが必要です。すなわち、子供が沢山生まれることが必要条件です。したがって、人口爆発を食い止めるのに最も効果的なのは、これ以上(のペースで)子供を増やさないことです。そして、すでに子供の数は横ばいになっています。
15歳未満の子供は、現在(2017年)世界に約20億人おり、国連の予測によると、2100年の子供の数は今と変わらず20億人だそうです。
そして、2100年の世界の総人口は40億人増えると推計されていますが、この期間に人口が増加するのは大人(15歳から74歳)が増えるからです。
それでは、以下に2015年から2075年に至る人口の推移(推計)をみてみましょう↓
(Download Gapminder’s slides, free to modify and use in any way you like!って書いてあったんで、好きに使わせてもらってます)
上のグラフなんですが、書籍「ファクトフルネス」の元ネタのWeb Siteの資料で、人型の絵が一つ当たりで人口10億人を示しています。
このグラフでは、子供(0-15歳)の人口は定常的に20億人であり、それがそのまま上の世代へとスライドしていくことが示されています。2030年に出現する10億人の大人(30-45歳)は、2015年に子供か若者だった人たちです。2060年にはどの世代も人口20億人になり、人口は殆ど変わらなくなります。2100年には世界の平均寿命が11年ほど延びて75歳以上の後期高齢者が10億人ほど増えて人口110億人に達します。これがどういうことかというと、シンプルに世界的に医療が充実して人が死ななくなったことを意味しています。2015年から2100年にかけて増えるであろう40億人のうち、30億人分は2015-2045年の子供世代が歳をとって大人になった分なのです。
ここでみなさんは疑問に思いませんか。なぜ0ー15歳の子供人口が定常的に20億人に抑えられて推移(飽和)するのかと。それは、貧困から抜け出した人々(数十億人?)が過分に子供をつくる必要がなくなったのです。すなわち、
a) (豊かになったので)もう、家庭の小さな農園で、たくさんの子供を働かせなくてもいい(経済的に豊かになったことで、労働力として子供が必要なくなった)
b) (医療水準の向上により)病気で亡くなる子供の分だけ、多めに子供をつくらなくていい
ということです。
さらに、親は子供に貧しい思いはさせたくないと考え、(高い収入の見込める)もっと良い教育を受けさせようと考えるようになります。良い教育を受けさせるのにはお金がかかります。教育に係る経済的な問題を手っ取り早く解決する方法は子供の数を減らすことです。
これらの要因に加えて、避妊具と性教育の普及によって家族計画が捗ります。
以上をまとめると、子供の死亡率が下がり、児童労働が必要なくなり、女性が教育を受け避妊について学び、避妊具を入手できるようになれば、国や文化にかかわらず、男性も女性も子供の数を減らし、そのぶん子供に良い教育を受けさせたいと考えるようになるということです。
要は、豊かになると人口増加を止まって飽和するのです。
× 「貧しい子供を助けると、人口はひたすら増え続ける」
○ 「貧しい子供を助けないと、人口はひたすら増え続けす」
です。
いま多くの親たちは、自らの判断で子供の数を減らしており、その傾向は世界中で見られています。そして、子供の数が減る前に必ず子供の死亡率も下がっています。
豊かな社会において少子高齢化は必然であり、その大きな流れに対して幾ばくかの税金を投じて抗うのは愚の骨頂と思います。そんなことより、教育(国公立大学)に投資してイノベーション人材や高度な技能を有する人材(高生産性・高賃金人材)を育成する方がよっぽどいいと思いますけどね(米百俵です)。そして、産業革命的な労働生産性の向上をはかるべきとボクは考えます。
Factfulness 4 子供の生存率の向上は病院外にある
レベル1やレベル2の国では、病院のベッドで医者が子供の命を救うことは比較的少ないといいます。わたし達レベル4の国(先進国)とは異なり、医療物資が脆弱で、その装備では病院を頼るまでに悪化した症状には対処できないというなんとも残念な状況なのです。
では、何がレベル1やレベル2の国で子供の生存率向上に寄与するかというと、それは「ベッド数」や「医者の数」ではなく、「地域の看護師や助産師」と「母親が読み書きできること」です。
具体的には、
(1) 訓練を受けた助産師が、母親を妊娠中から出産時までサポートする。
(2) 訓練を受けた看護師が、子供に予防接種を行う。
(3) 親たちは子供を寒さから守り、清潔に保つ。
(4) 子供が食べ物に困ることもない。
(5) 周りにいる人もきちんと手を洗う。
(6) 母親は、薬のビンに書かれている注意書きを読むことができる。
といった施策が重要で、特に母親の(教育水準の)影響が大きいといいます。
これらの施策がしっかりオペレートされることで、子供が重い病気にかからなくなり、生存率が向上するのです。
すなわち、貧困国に対する医療環境の改善で重要なのは、ハコモノではなく教育(初等教育、看護師教育)と予防接種なのです。
凋落傾向にあるアジアの某G7メンバー国にも見習って欲しいです。
Factfulness 5 EUは難民に厳しい
2015年、救命ボートでヨーロッパに向かおうとした4000人の(シリア)難民が、地中海で命を落としました。因みに、難民達が密輸業者に支払った金額は1,000ユーロ(ざっくり13万円前後)/人だったといいます。
悪徳密輸業者が"犯人"であるという結論が導かれそうですが、果たしてそうでしょうか?
まず、そんなに金持ってるのに、難民達はなぜもっと安全な飛行機やフェリーでヨーロッパに向かわなかったのだろうかという疑問がうかんできます。
EU加盟国はすべてジュネーブ条約に署名していて、条約に従えば、内戦が続くシリアからの難民には保護を求める権利があるはずです。それなのに、わざわざ陸路でリビアやトルコまで移動し、ボロボロのゴムボートで海を超える必要があったのでしょうか?
ちなみに、「トルコ-スウェーデン」、「リビア-ロンドン」の飛行機代は50ユーロもしません。
はい。理由は簡単で、難民たちはチェックイン窓口で、航空会社のスタッフに搭乗を拒否されたからです。
なんと、非道な犯人は密輸業者ではなく航空会社だったのでしょうか?
まあ、話はそんなに単純ではありません。2001年のEU指令が不法移民に対抗する手段を加盟国に与えているんですが、そこでは、航空会社やフェリー会社は入国許可書類のない人をヨーロッパに運び込んだ場合、母国に送り返す費用を全て負担することが定められていたのです。
ジュネーブ条約に基づいて保護を求める難民は例外とされていて、上記指令が適用されるのは不法移民だけです。でも、航空会社の搭乗窓口のスタッフがどうやったら一瞬で相手が真の難民か不法難民かを見分けることができるでしょうか?
ちなみに、大使館の難民審査には少なくと8カ月はかかるといいます。
(a) 費用負担リスクを回避するために、航空会社は難民を誰も搭乗させない。
(b) 難民がビザを取得するのがほぼ不可能=トルコやリビア大使館には、難民申請を処理するだけのリソース(人手)がない
ということです。
だからといって、どうして安全性を欠くゴムボート(救命ボート)を使ったのでしょうか?
これにも合理的な理由があります。
EUの方針では、到着したボートは没収されてしまいます。これは、ボートは1回しか使えないことを意味します。密輸業者にはちゃんとした船舶を使い捨てするほどの余裕はないので、まともな船を準備したくてもできないのです。
本書によると、ヨーロパ政府はジュネーブ条約に従って、厳しい内戦で引き裂かれた国の難民からの申請を受け入れ、保護していると極めて立派なことを宣っているそうですが、現実はお寒いかぎりのようです。
はっきり言って、EUの移民政策はジュネーブ条約を骨抜きにし、実際には密輸業者が支配する交通市場を生み出したのです。
このニュースはボクも記憶しているけど、当時、密輸業者は最低な悪の枢軸だと思って思考停止していました。でもそれは間違った認識で、利益追及のためとはいえ、生き残るための交通手段がシャットアウトされた難民たちに、粗悪とはいえ手段を用意した密輸業者は天使だったのかもしれないと認識を改めました。
報道機関はジャーナリズムとかいうわけわかんない社会正義を振りかざしてるくせに、センセーショナルな難民の大量死しか報道せず、その解決策には全く興味ないように思えます。
本書の著者らは、この現実が見えないとしたら思考停止しているか、相当ぼんやりしているに違いないと述べていますが、ボクは全く興味ないんだろうと思いました。彼ら彼女らの関心はニュース・バリューにしかないのだと。
Factfulness 6 ローマ教皇や中国共産党は無力である
避妊を禁ずる宗教は多いそうです。なので、避妊を禁ずる宗教を信仰している信仰心の厚い女性は子供の数が多いと予想できるような気がしますが、そんなことは全くないようです。
現実には、宗教と女性ひとりあたりの子供の数にはそれほど関連がありません。むしろ、子供の数と強く相関するのは前述した通り所得です。
どの宗教であっても、レベル1の極度の貧困層で子供の数が多いです。二大宗教で較べてみると、
イスラム教:3.1人
キリスト教:2.7人
で、たいした差はありません。
ローマ教皇は数代に渡って避妊具の使用をはっきり批判しているといいますが、カトリックが多数派の国の避妊具利用率が60%であるのに対して、その他の国の利用率は58%とだそうです。ローマ教皇の威光も、避妊に対してはあまり及んでいないようです。
これと同様なことがアジアの赤い某超大国様にも言えるようです。彼の国ではひとりっ子政策による人口抑制を試みてきましたが、それほど出生率に影響を及ぼしていない可能性が高いようです。
女性ひとりあたりの子供の数が6人から3人へと大幅に減ったのは、ひとりっ子政策の始まる前の10年間であり、ひとりっ子政策が実行された1979年から2015年の36年間に、女性ひとりあたりの子供の数が1.5人を下回ったことはなかったそうです(タイや韓国は1.5人を下回り、香港は1人を下回っています)。
やっぱ、出生率抑制に効くのは、豊かさのようです
Factfulness 7 中国様は悪くなぁ〜い
環境問題の文脈で二酸化炭素(CO2)の排出量が俎上に載せられることが多いです。そして、国別排出量では、我らが赤いアジアの某超大国様がダントツで一番です。
でも、赤い超大国様は人口の多さもダントツです。人が多ければ経済活動が増えるので、それに伴って二酸化炭素の排出量が増えても仕方ありません。なので、ひとりあたりの二酸化炭素排出量を比較する方がより公平な気がします。
はい、ひとりあたりの二酸化炭素排出量のデータをみると、全く違った景色が見えてきます。
中国様の場合、二酸化炭素排出によって得られた便益の国民への分配が全然フラットじゃないかもしれませんが、国家というフレームワークでみた場合、中国様はそこそこ優秀な部類に入っていると言わざるを得ません。なので、中国様は悪くないのです(データが間違ってたらすみません)。むしろヤヴァいのは、我が国の親分(宗主国)である大アメリカ合衆国様です。
Factfullness 8 世界の中心はアフリカに移る
国連の今世紀末の人口予想です↓
アメリカ大陸:ほとんど人口が変わらない
ヨーロッパ大陸:ほとんど人口が変わらない
アフリカ大陸:約30億人ほど人口が増える
アジア大陸:約10億人ほど人口が増える
この予測の確度が高ければ、次の20年間で世界市場の中心は大西洋周辺からインド洋周辺にシフトするだろうというこです。数は力なりですから。ターゲットがマスマーケットなら、そうなるんだろうと思います。
Final Factfullness なぜ賢い人もファクトフルネスを見誤るのか?
この本では、人が目の前にある事実を間違って解釈する原因は脳の機能(本能)にあるとし、残念な本能には、分断本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人捜し本能、焦り本能などがあり、実例を挙げて例証しています。
でも、もっと需要なのは
社会科学では基礎の基礎になる知識でさえすぐに賞味期限が切れるので、積極的な知識のアップデートが必要である
ということなんだろうと思います(これも本書にサラッと書いてあった)。
正直、ボクの「地理」の知識は中学で止まっています。恥ずかしながら、最近までアメリカの人口は二億人程度だと思っていました(実際は3億3千万人くらいいる)。
社会を正しく解釈するためには、まず正しいインプットが必要だと痛感しました。でも、みんな忙しいよね。なので少なくとも、焦って(焦り本能)安直な結論にとびつくことは控えようと思いました。
以上、国内二流大出のテクニシャン(研究補助員)の"ファクトフルネス"メモでした。