2021年6月6日日曜日

Yaku'amide (ヤクアミド)とかいうペプチド系複雑天然物

プレ・コロナの優しい時代に、王子で一杯やったときのメモです。 

 -山田屋 memo- 

住所:北区王子1-19-6 

-ギネス エクストラスタウト (450 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW- 
冷えてないギネスが登場。わざとではなく、冷やし忘れていただけだったそうです。 でも、ギネスは常温でも旨いからいいよね。 


-ほたるいかの沖漬け (250 JPY)-
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW- 
甘めの味付け。フレッシュ(fresh)で滋味と旨味ふんだん。 大振りの身は張りのある食感で、醍醐味満点でした。 









-湯豆腐 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW- 
普通に想像する湯豆腐とは提供形態を異にする湯豆腐。っていうか"温"豆腐。 密度が高く、濃い味のしっかりした食感の木綿豆腐で、湯豆腐映えするタイプです。 多分、粗く削った鰹節で茹でてるんじゃないかと思われる香味で、質実剛健な味わい。 


-ビール 中生 (500 JPY)-
-RATING- ★★★★☆ 
-REVIEW-
キリッと冷えてて、普通にうまい。 


-御新香 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★ 
-REVIEW-
大根と胡瓜の漬物。多分、糠漬けだと思う。 どちらも軽くチーズのような香味を放っている。 外側は硬派なフルボディ(full body)なテイスト(taste)で、内側は瑞々しさが残っている。このコントラストが素敵です。




趣のある店内で、特に長テーブルにシビレます。 コロナ禍でなければ、近所にあったら通いたい店かもです。 


閑話休題 


こんな文献を読んでみました↓ 

Solid-Phase Total Synthesis of   B Enabled by Traceless Staudinger Ligation 
Angew. Chem. Int. Ed., 2020, 59, 4564-4571. 

ヤクアミドBっていう強い抗がん活性のあるペプチド系複雑天然物の固相全合成のお話です。 

ヤクアミドBは、屋久新曽根産カイメン Ceratopsion sp.から単離・構造決定された化合物で、その構造は次の通りです↓ 

Yaku'amide B 

4つのβ,β-ジアルキル α,β-デヒドロアミノ酸残基、7つの非天然(タンパク質を構成しない)アミノ酸、N-末端にアシル基(NTA)、C-末端にアミン(CTA)を有する見た目以上の複雑化合物です。 

著者らのグループは2015年に液相法による全合成を達成していますが(J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 9443-9451.)、本報ではペプチド合成に向いている固相合成を使って、より効率的な全合成にチャレンジしています。 

 まず、液相法によるヤクアミドBの合成はこちら(ステップ数が多いんですが、間違ってたらすみません)↓ 


続いて、本報の固相全合成はこちらです↓  

"traceless Staudinger ligation"



"traceless Staudinger ligation" 


"traceless Staudinger ligation" 




固相全合成におけるポイントとなる反応は、 

(1) traceless Staudinger ligation 
(2) エナミドのBoc保護 
(3) Eu(OTf)3を用いた化学選択的Boc基の脱保護 
(4) AlMe3を用いたエステル-アミド交換反応による脱樹脂とCTAの導入 

の四点です。 

それでは、一つ一つ考えていきましょう。 

(1) traceless Staudinger ligation (無痕跡型シュタウディンガーライゲーション)
ペプチドシーケンスにβ,β-ジアルキル α,β-デヒドロアミノ酸を導入するのは難しいです。というのも、Nα-フリーエナミンを用いたコンベンショナルなアミド化の適用が難しいからです。これは、互変異性体であるイミンが加水分解をうけるからです(って書いてありました。禁水ガチガチでもダメなの?って思うんですけど、どうなんですかね?微量の水でも加水分解しちゃうぐらいセンシティブなんでしょうか?)。 


 液相合成ではC-Nカップリングを適用することでこの問題を解決しましたが、DMEDAとCs2CO3を用いるその反応条件はFmoc固相合成法には不適合です(Fmocがザクザク切れちゃうからね)。 
そこで著者らが着目したのがtraceless Staudinger ligationです。まず、名前がカックイイーです(個人の見解です)。そして、この反応は中性条件下で官能基特異的に反応させることができるので、ペプチド合成向きです。ただ、何も考えずに安直に試みるとダメで、検討結果がこちら↓
X=H, Y=H, 24 hr → 1trace, 2:87%
X=Cl, Y=H, 24 hr → 1:27% (E/Z=20:1)2:60%
X=CF3, Y=H, 3 days → 1:41% (E/Z=20:1)2:34%
X=H, Y=OMe, 24 hr → 1:22% (E/Z=6:1)2:48%
X=Cl, Y=OMe, 24 hr → 1:50% (E/Z=12:1)2:18%
X=CF3, Y=OMe, 7 days → 1:76% (E/Z=20:1)2:5%
X=CF3, Y=OMe, 1,4-dioxane/H2O, 2 days → 1:71% (E/Z=15:1)2:12%

高収率・高選択性を実現するためには、ホスフィノフェノールエステルの芳香環上の置換基のファインチューニングが重要でした。

traceless Staudinger ligationのメカニズムは次のスキームに示す感じです↓
異性化や副反応(加水分解)の危険性がありますね。
で、ホスフィノフェノールエステルのチューニングのポイントは次の二つです↓

a) 二つのトリフルオロメチル基 (X=CF3)の導入により、リン原子のカチオン性を高めることで、中間体のホスファジドからイミノホスホランへの変換が促進。

b) メトキシ基(Y=OMe)の導入によってパラ位のオキシカルボニル基の求電子性をピンポイントに低減させてホスファジドの加水分解を抑制。


(2) エナミドのBoc保護 
ジペプチド

をシーケンスに導入する際、ジペプチドのBoc保護は必須なんだそうです。無保護で入れようとすると、アズラクトン経由でエナミドの異性化が進行してしまいます。

(3) Eu(OTf)3を用いた化学選択的Boc基の脱保護 
上述した(2)でのジペプチドを導入後、Boc基がついたままFmoc基を脱保護すると、Fmoc基が切断されて生成したN-末端のアミノ基の求核攻撃によってBoc基の転位が起こってしまいます。
この副反応を回避するためにBoc基を脱保護する必要があるんですが、樹脂(Wang-ChemMarix resin)にくっついたままにしておきたいので、ゴリゴリの酸性条件下での脱保護は不可です。そこで著者らが目をつけたのはルイス酸を用いたマイルドな脱保護です。モデル実験では過塩素酸マグネシウムが有効だったのですが本番では全然ダメで、鋭意検討した結果、Eu(OTf)3を使用することでエナミドのBoc基を選択的かつ効率的に脱保護できることを見出しました(Euの酸素との親和性が反応促進の鍵って、学会で言ってました)。


(4) AlMe3を用いたエステル-アミド交換反応による脱樹脂とCTAの導入
最終工程のon-レジンエステル-アミド交換反応は、β,β-ジアルキル化されているCTAとΔVal-13の立体反発が大きいので、それを克服するパワフルな反応が必要なわけなんですが、著者らはCTAをAlMe3で処理してアルミニウムアミドとすることでこの問題を解決しました。
個人的にAlMe3って("生"は燃えるって印象がって)使ったことないんですが(溶液も売ってるよね)、こいつ一つで脱樹脂と交換反応が完結するのま魅力的ですね。


最後に液相合成 vs. 固相合成の判定です。

液相合成:21 steps, 3.3% yield
固相合成:24 steps, 9.1% yield

正直、ステップ数ってどっからどこまで勘定してるか良く分かんないですが、固相合成の最大のウリは、(固相の反応に関しては)精製がたったの一工程というところです(本報告では逆相HPLC分取二回やってるけど)。反応を終える度に樹脂をウォッシュするわけです、その工程自体が一つの精製プロセスなんですよね。

ところで、Yaku'amide (ヤクアミド)の固相全合成をメモってきたわけなんですが、やっぱ屋(ヤク)久島に生えてる植物から見つけたアミドだからヤクアミドなんですよね?

以上、ペプチド合成もできるつぶしの効く人材になりたい国内二流大出のテクニシャン(研究補助員)のペプチド系複雑天然物固相全合成メモでした。



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