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2011年3月21日月曜日

超Grignard反応

(昨年)こんな文献を読んでみました↓

Zinc(II)-Catalyzed Addition of Grignard Reagents to Ketones
J. Org. Chem., 2010, 75, 5008-5016.

Zinc(II)-catalyzed Grignard additions to ketones with RMgBr and RMgI
Chem. Commun., 2010, 46, 2674-2676

以前、名古屋大の石原先生のグループが報告した論文で、Znのアート錯体(R3ZnMgCl)を触媒的に形成させて、ケトンやアルデヒドに対するGrignard反応の1,2-additionの選択性をあげるっていうのがありました(J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 9998-9999.)2006年7月-9月の速報部門で"Most-Accessed Articles"の第1位)。

see
http://researcher-station.blogspot.com/2006/10/trialkylzincii-ate-complex.html
http://researcher-station.blogspot.com/2008/10/trialkylzincii-ate-complex.html

で、これはとっても素敵な反応なんですが、有効なのはRMgClだけで、反応性の劣るRMgBrやRMgIでは効果が薄いという欠点がありました。そして、今回読んだ論文はそのインプルーブメントです。

反応の基本条件は基質(ケトン)に対して、「RMgX (1.1 eq., X=Cl, Br, I), ZnCl2 (10 mol%), TMSCH2MgCl (20 mol%), LiCl (110 mol%), THF, 0℃」というもので、おしなべて高活性で、嵩高い基質と嵩高いGrignard試薬の組み合わせでもGood Yieldです。

触媒サイクルは↓
(1) ZnCl2 + TMSCH2MgCl → (TMSCH2)2Zn
(2) (TMSCH2)2Zn + [RMgX][LiCl]n' (+ [MgX2]m'[LiX]n'' ) → [R(TMSCH2)2Zn]-[Li]+[MgX2]m[LiX]n
(3) ate錯体のカチオン部分がカルボニル基を活性化し、R基が付加
(4) (TMSCH2)2Znが再生

また、アート錯体の設計において、著者らがTMSCH2-基に着目したのは、

a) TMSCH2-基が反応に関与しないダミーリガンドとして働く
b) シリル基のβ効果によるアルキル基の求核性の向上(Si-αCのσ軌道からZnのp軌道への電子供与)と、TMSCH2-Zn結合の安定化(Znの占有d軌道からSi-αCのσ*軌道への逆供与)。

が期待されたからです。

結果、著者等に思惑通り高活性な触媒システムが完成しました。

あと、アート錯体のカチオン部分も活性に影響を与えて、その序列はLewis酸性の高い順で、


Li+ > [MgCl]+ > [MgBr]+


になります(カルボニル基をより活性化する)。

こうして、著者らはアート錯体のアニオン部分とカチオン部分を巧みに設計して、触媒的Grignard反応によるカルボニル基への選択的1,2-付加を開発したわけです。特に、MeMgIや、RClからの調製が難しいGrignard試薬に対して有効と思いました。

(あと、素朴な疑問として、TMSCH2MgCl抜き=ZnCl2とLiCl添加の系ではどんな結果になるか興味あります)

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