2009年5月9日土曜日

有機合成を生業にするということ (1)

「お仕事: 有機合成化学」のコンキチです。今日はちょっと真面目なことを書こうかと思います。

コンキチがお仕事にしている有機合成は、日々実験の連続で(っていうか毎日実験している)、無数の危険な物質(化合物)を日常的の取り扱います。適用する反応も数多くあります。1人の実験者が生涯に取り扱うことのできる化合物や反応には限界があり、その全てを網羅することは到底不可能です。

(有機)合成は料理に似ているとよく言われます。オペレーション(混ぜる、煮込む、冷す、電子レンジでチンする)的には良く似ていると(個人的に)思いますが、全く異なる部分もあります。それは、料理は

a) 使う食材は(基本的に)危険ではない(毒性があったり、爆発性がない)
b) 料理中、(基本的に)爆発しない。引火し易い素材も限られている。致死量の有害物質を発することもない。

というところです。
(まあ、油に火がついたりとか、キムチが発酵しすぎて爆発したりとか、乳製品や野菜を長期間放置プレイして悪臭を発するなんてこともあろうかと思いますが、それらの危険ポイントは限定的だ)

逆に合成で用いられる素材やプロセスは、危険な要件を多数備えています。爆発性とか自然発火性とか自己分解性の試薬があったかと思うと、毒ガス(塩素、オゾン、硫化水素、アンモニア、アセチレンetc.)とか毒性の高い試薬を沢山つかいます。で、これらの試薬類は主に液体に溶かして使うのですが、実験で用いる液体は可燃性液体なので、発火した場合は被害が拡大します。

なので、我々有機合成に携わる人間は、取り扱う試薬や実施する反応について十分な(安全に係る)知識と技能、安全意識を持ってオペレーションしなければなりません。でないと最悪命を失います(UCLAのリサーチアシスタントの事故が記憶に新しいところです)。

しかしながら、(言い訳かもしれないけれど)、無数に存在する全ての化合物と全ての反応に関する十分な知識を網羅することは難しい。っていうか不可能。それに、安全だと信じられてきたものが実はそうでないことが後に明らかになる場合があるけれど、そういった場合はキツい。あと、新規化合物もその(きちっとした)性質は分からない。

有機合成というお仕事はそういったリスク(不確実性)を伴うお仕事なのです。そのリスクに対して、我々はどういった心構えをもって、どう対処していくべきなのかをちょっと考えてみたいと思います。


有機合成を生業にするということ (2)に続く.....

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