前回のブログで、有機合成を生業にして息災なく人生を謳歌するためには、Knowledge、Skill、Literacyが重要だと書きました。
ではどうすればそういった能力を獲得できるのか?
まずKnowledge。基本的に地道な自助努力(お勉強)で知識を蓄えていくしかないと思います。膨大な化合物と反応の組み合わせに関する知識を一朝一夕でに身につけることはできませんから。
次にSkill。基本的に地道なOJTでスキルを身につけるしかないと思います。要は経験ですね。実際に手を動かして感覚を掴む。料理みたいでしょ。
KnowledgeとSkillの性急な醸成は非常に困難(はっきりいって不可能)と思います。さらに高度なKnowledgeとSkillを身につけていたとしても、想定外の事象(思惑通りに進まない反応や天災とか)が起こって災害につながるというRisk(不確実性)を完璧に回避することはできません。
「じゃあ結局、運任せ?」と思われるかもしれませんが、コンキチはLiteracyの醸成がそれらの問題を回避または最小限に抑えるのに極めて効果的だと考えています。しかも、KnowledgeやSkillと比較して圧倒的に身につけ易いと思います。例えば先のUCLAの事故のケースだと、「白衣を羽織る」ということさえできていれば、たとえt-BuLiを体にぶっかけたとしても「死」には至らない公算が高いのです。
それから、K. Barry Sharpless教授の事故においてもセーフティーグラスを着けてさえいれば失明は避けることができたでしょう。保護具や保護衣の着用を励行するというだけでもシリアスな事故の結末を回避することが可能なのです。たとえ知識やスキルが不足していても最低限のリテラシーが最悪の結果を予防してくれるのです。
ちなみにコンキチは有機化学をはじめてかれこれ13年経ちますが、試薬(化合物)の取り扱いや反応の処理(仕込みから廃棄にいたるまで)の仕方など、自分が本当に適性な取り扱いをしているのか、未だにクヨクヨしています。まあ、自分が二流大出のなんちゃって研究員なるがゆえの能力不足がそうさせるのかもしれませんが、いつもドキドキしながら仕事(実験)していますね。でも奢った気持ちで仕事するよりは100倍ましとは思っています。特に命を守る上では。
UCLAの事故の件のオペレーターには、「セータを着て実験」「ディスポシリンジでt-BuLiを秤量」といった明らかな奢りがありました(また、それを寛容した研究室にも奢りがあった)。
有機合成はリスクの塊です。もしこのお仕事で長く飯を喰っていきたいとおもったらリスクに対応できるSafety Literacyの感度を高く維持し、虚心坦懐に潜在リスクに耳を傾け、奢りを排する姿勢が重要と思います。
以上、「ちなみに一番好きな実験操作はエバポレーション」のなんちゃって研究員の独り言でした。
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2009年5月16日土曜日
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