2015年5月4日月曜日

PhenoFluorはどれくらい頑張れるのか? (3) : Is PhenoFluor "Practical"?

去年行った丸ビルに入ってるお蕎麦屋さんのメモです。

-一茶庵 丸山 memo-

-せいろ (一番粉 基本のそば) (865 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
エッジノ立った中細の蕎麦は独特の噛み心地。モチモチした楽しい食感。噛み進めると、仄かに香る蕎麦のflavorが落ち着く。蕎麦自体がうっすらと甘みを帯びている気がする(全体的に九段一茶庵ライクな蕎麦)。
ツユはカツオ節と思われる香りが軽く一閃。bodyは十分で、甘みもけっこう感じる。
このツユが、エッジの立った甘い香りのする蕎麦と凄く良く会う。ハーモニー×ハーモニー。食べていて楽しい。

-伝心 本醸造 (福井県) (595 JPY)-
-REVIEW-
おすすめの呑み方をお店の人に聞いたら、「燗」か「熱燗」という回答か返ってきたので、熱燗でいただく。
お酒はクセが殆どない辛口。finishにやんわり仄かな優しい甘みと微弱な酸味。悪くない。これはこれでよし。

あとこのお店は6Fに入っていて、見晴らしが凄くいいです。下界を見下ろしながら蕎麦を喰うのはもの凄く気分が良かったです。


閑話休題


PhenoFluor絡みの文献メモの続きです。


PhenoFluorは、その開発者であり、late-stage fluorinationの提唱者であるRitter教授がノリノリで推しまくっていたフッ素化剤で、過去に報告されてきたフッ素化剤(法)と比較して大きなアドバンテージがあります。

例えば、フッ化アリールのコンベンショナルなフッ素化には、Balz-Schiemann reaction (Chem. Soc. Rev.200837, 308.; Synthesis2010, 1804.)がありますが、シンプルな基質限定のようです。また、複雑な基質に対するフッ素化は、Buchwald等のaryl triflateに対するPd-catalyzed nucleophilic fluorination (Science2009325, 1661.)やRitter教授のaryl stannaneを用いたAg-catalyzed electrophilic fluorinationが報告されていますが、前者は禁水条件が必要なことに加えて、構造異性体の混合物を与えることが問題となり、後者は毒性のあるaryl stannaneを合成しなくてはなりません。こういった問題のソリューションとして、安全性が高く優れた選択性を示すPhenoFluorが開発され、その有用性がRitter教授によって示されてきました(J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 11482-11484.)。

さらに、汎用性の高いlate-stage aliphatic fuluorinationは皆無で、PhenoFluorを用いたdeoxyfluorinationのみが満足するに足る官能基許容性を満たす唯一のフッ素化法だとRitter教授は主張します(J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 2470-2473.)。(シンプルなアルコールに対するdeoxyfluorinationの報告はあるが、官能基許容性に制限があったり、脱離反応が起こったり、試薬が危険だったりする)

開発者であるRitter教授によって、PhenoFluorはその優れた有用性がプロモーションされてきましたが、決して完全無欠といわけではなくて、水にとっても弱いという弱点があります。で、その弱点を克服する手法が示されているのが、

PhenoFluor: Practical Synthesis, New Formulation, and Deoxyfluorination of Heteroaromatics Org. Process Res. Dev.201418, 1041-1044.」

で、今回はそのメモです。

このOPRDのなかでは、弱点を回避したPhenoFluorの実用的合成法と芳香族複素環式化合物に対するDeoxyfluorinationが報告されています。

まず、PhenoFluorの合成法についてです。


上記schemeは2011年のJACS (Deoxyfluorination of Phenols J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 11482-11484.)で報告されている合成法です。で、問題点はfinal step。Ritter教授が(おそらく)ドヤ顔でプラクティカル•ユースできると推しに推しまくってきたPhenoFluorですが、最大の弱点は湿気にメチャクチャ弱いことです。


この水に対する弱さ(加水分解されやすさ)が合成過程にも影響を及ぼします。PhenoFluor合成の最終工程ではCsFを溶かすためにMeCN中で反応を行っていますが、MeCNは乾燥が困難で、そのため残存する水分のためにPhenoFluorの収率と純度を十分にコントロールできないという問題が生じました(初出の2011年のJACSでは最終工程の収率は87%で報告されている)。

で、この問題に対するソリューションは単純にMeCNを使わないことで、乾燥トルエン中であればPhenoFluorは加熱下であっても壊れません(加水分解されることによって生成するウレアは確認されない)。

「オイオイ、CsFを溶かすためにMeCNを使ってたのに、トルエン中じゃCsF溶けねーだろっ」というツッコミが聞こえてきそうですが、まあ、その辺の工夫もあるようです。

要は、使用するトルエンとCsFの量が重要っていうことです。さらに、CsFに関してはメッシュの大きさや撹拌速度も重要になってくると言います。まあ、溶けないから細かくしとけってことですね。論文には、反応を仕込む前に原料のchloroimidazolium saltとCsFを良く磨り潰せって書いてあります(因に、オリジナルの2011年のJACSではCsF (4 eq.), MeCN, 60˚C, 24 hr)。
あと、トルエンとCsFをガンガン使ったり、強撹拌することで反応時間が短くなるそうです。(当然、マグネチックスターラーだと磨り潰し効果が出るから、スケールアップしてメカニカルでやるときは要注意ね。精製は濾過してMeCNで洗う)


次に、芳香族複素環式化合物に対するDeoxyfluorinationの実施例はこんな感じ↓


右下の例が示す様に、より電子不足の環で選択的に反応が起こります。

最後に、PhenoFluorの取り扱い関係についてメモします↓
a) 短時間であれば空気中で取り扱い可能
b) 普通に湿った空気中で保管していると加水分解する
c) CsFは吸湿性なので、使う前に注意深く乾燥させなければならない (減圧下、200˚C, 25 hr)
d) sure seal bottle入りの0.1 M トルエン溶液が市販されている(加水分解対策=品質•信頼性の向上)

それからdrawbackについても言及しておきましょう↓
a) PhenoFluorは427 g•mol-1でwasteful
b) 風の噂で聞いたけど、固体のPhenoFluorは評判が悪い(多分、保管下における品質の問題)。そのためか、固体のPhenoFluorは製造中止になり、在庫販売のみになっている。http://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/sfl00001?lang=ja&region=JP (last visited May, 2015)
c) トルエン溶液になって安くなったって言ってるけど、まだまだ高いです (45,000 JPY/mmol) http://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/795291?lang=ja&region=JP (last visted May, 2015)

まあ、気軽に使える感じは全くしませんが、その性能には目を見張るものがあると思います。1 step前の前駆体であるchloroimidazolium saltまではRitter教授のグループで50gスケールでの合成実績があることに加えて、さらにその一つ前の前駆体であるカルベン(http://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/696196?lang=ja&region=JP)が売っていることを鑑みると、素人考え的には、ちょっと工夫して使ってみてもいいかもしれないななんて思ったりもします。

あとちょっと思ったんだけど、PhenoFluorの保管温度って、固体で-20˚C、トルエン溶液で2-8˚Cって書いてあるんだけど、室温保管じゃダメなんですかね。論文ではトルエン溶液では安定で、熱に安定って書いてあって、湿気に相当弱いんだから、室温保管の方がいいと思うんだけど。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)の、恐れ多くもRitter教授の論文にケチをつけまくった、メモでした。

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