儲かる顧客のつくり方を読了しました。
顧客ロイヤルティに関する論文が8報掲載されている本です。で、印象に残った点をメモしてみたいと思います。
1) 顧客ロイヤルティの高い企業は顧客を選別している。
例えば、バンガード (Vanguard, インデックスファンドの雄)にとって理想的な顧客は、価格感度が高く、長期投資志向の強い裕福な顧客だといい、たとえ残高が多くても、長期的に投資しそうにない顧客は敬遠されるそうです。ある機関投資家は4,000万ドルを投資しようとして断られたという事例があります。その理由は、この投資家が2-3週間でファンドを転売し、その対応に伴うコスト上昇を、ロイヤルティの高い既存顧客がかぶることになると考えたからだそうです。コンキチは、この逸話が同社のブランド価値を高めるのに資する話だと感じました。
インデックスファンドは最もローコストオペレーションが可能な金融商品であり、長期投資家は売買コストも低く、税金面でもメリットがある。正に、インデックスファンドに特化したバンガードと長期投資家のカップリングはWin-Winの組み合わせでしょう。バンガードは投資信託業界で最も高いロイヤルティを誇る企業なのです。
効率的市場仮説を盲信しているわけではないですが、コンキチも同社に対して高いロイヤルティを抱いています。
2) 顧客ロイヤルティの高い企業のトップはネガティブフィードバックを引き出すのに腐心している
バンガードのCEOであるジャック・ブレナンは
a) 定期的に自社のコール・センターを訪れ、顧客からの質問や苦情に対応したり、
b) 社内のカフェテリアで従業員たちを集めて昼食(各自1つずつ真剣な質問や不満を持ち込むことがッ参加条件)を共にする(CEO自ら手書きの書簡でフィードバックする)
といいます。
また、インテュイット(会計ソフト)のスコット・クック(創立者)も同様なアプローチ(昼食会)を実施していて、部下が意見しやすいように無記名の情報検索カードに質問を書いてくるように頼んでいると言います。
3) 顧客満足度の調査結果の誤解
顧客満足度の調査結果が
5 (完全に満足している) 48%
4 (満足している) 34%
3 (不満でも満足でもない) 10%
2 (不満である) 5%
1 (完全に不満である) 3%
であったとき、
「82%の顧客がおおむね満足しており、企業と顧客の関係は強固である」と判断するのは誤りであるといいます。
「5 (完全に満足している)」と「4 (満足している) 」の間には大きな隔たりがあり、「5 (完全に満足している)」と回答した顧客のみが高い顧客ロイヤルティを示し、「4 (満足している)」「3 (不満でも満足でもない) 」と回答した顧客は簡単に他社に切り替える可能性の高い顧客であるという調査結果が報告されています(業種にもよる)。
つまり、完全な満足のみが顧客ロイヤルティの構築につながるわけで、上記調査結果を手にした経営者は危機感を募らせなければならないわけです。超絶、目から鱗の事実を目の当たりにした気分でした。顧客満足度と顧客ロイヤルティの相関は線形ではなく、指数関数的であるということですね。
4) eロイヤルティ
eコマースにおいてこそロイヤルティが重要になってくるといいます。もっぱらサイトにアップされている画像や文章のみを頼りにしなければならないWeb上での商取引では、実際に取引を行うか否かの判断はそのサイトのが信用力にかかっている訳です。得体の知れないサイトには、個人情報やクレジット・カード番号を入力するわけがないという理屈です。Webの買い物客に、「eコマース小売業者にとってビジネスを展開するうえで最も重要と思われる要素は何か」と聞いたところ、「よく知って信頼できるWeb Site」という回答が、「安さ」や「品揃え」等のその他の要素を大きく引き離してトップだったそうです。無機質なWeb上では「信頼性=ロイヤルティ」という方程式が成り立つのでしょうか。
このロイヤルティに関する書籍を読んでみて、コンキチの頭にフッと浮かび上がってきた日本企業があります。日本食研です。以前、バラエティークイズ番組で同社を取り上げていたのですが、日本食研では、ステークホルダーの一角を担う従業員のロイヤルティを高めることで、労働効率を高め、失われた10年と言われた時代にあってさえ、増収増益を達成し続けたと報じられていました。社内恋愛目安箱のようなものまであり、同社の職場結婚率と従業員の定着率は群を抜いているらしいです。
まあ単純に、従業員に「この会社にいれば安心だ」と思える安心感を与え、ロイヤルティを高めれば、従業員は会社のために(それが自分のためにもなる)身を粉にして働くだろうし、離職率も少なくなり教育研修費というものが無駄にならないでしょう。
あと、結婚しても女性社員が会社に残っていられる環境というのも社内に蓄積された知の流出を抑制できていいような気がします。
本書にも書かれていますが、1993-2000年4月までUSAA(会員制金融サービス)のCEOだったロバート・ヘルスは「井戸にコインを放り込んで、いつまでたっても水音が聞こえない-そんな印象を従業員が持ってしまったら、いずれコインを投げ込むのをやめてしまう。従業員に努力してもらいたい、きちんとコミュニケーションを計っていきたいと思うならば、我々はしっかり君たちの声を聞いていて、それに沿って行動を起こす、ということを示さなければならない」と述べているそうです。
国は違っても、
人は城 人は石垣 人は堀(なさけは味方 あだは敵なり)
の精神は一緒なんだなと感じた二流大出のなんちゃって研究員でした。
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2007年4月10日火曜日
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