2019年12月24日火曜日

もっと、交換反応 (5):フッ素が織りなすアミド-エステル交換

何年か前(当然、増税前)に、御徒町のタイ料理店にトムヤムクンヌードルを食べに行ったときのメモです。

訪れた当時、お店の名前は「いなかむら 新御徒町店」でしたが、今は「はすの里 新御徒町本店」という名前で営業しています。







-クオティオトムヤム (トムヤムクンヌードル) (1,180 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
トムヤムのスープは絶品!酸味と辛味は適度な強度で、上品かつマイルドな仕上がり。
そして、フォーが旨い!フォーのツルツルの表面は滑らかな食感で、中はモチモチで弾力を楽しめる。噛むほどに仄かな甘みが染み出してくるような気がする。
フォーとスープ(トムヤムクン)の相性は勿論抜群。そして、スープをパクチーと一緒に啜るとシナジー大爆発。
具は、海老、もやし、葱、練り物、緑の野菜、パクチー。大振りのシュリンプがプリップリでとってもジューシーです。


閑話休題


これまで交換反応系の話を幾つかメモしてきました↓

(1) ZnTAC24 : Environmentally Friendly and Unique Transesterification
(2) もっと、交換反応 : NaOMe最強伝説
(3) もっと、交換反応 (2) : アセタールをつけたり、とったり
(4) またまた交換反応:今度はオニウム塩が主役

そして今回もまた、しつこく交換反応のメモを書きます。
読んだ文献はこちら↓

Fluoride-Catalyzed Esterification of Amides
Chem. Eur. J., 2018, 24, 3444-3447.

フルオリドが触媒する、アミド-エステル交換反応のお話です。

著者等は、そこそこイケてる先行研究としてGang等とDanoun等の報告を挙げています。


しかしながら、これらの方法は複雑な触媒システムを使っており、操作が煩雑で、二級アミド(二級アミドにPh or Boc基を導入して三級化してから交換反応を行う)にしか適用できないことを著者等は問題点として挙げています。

そして、著者等の開発した合成法はこちら↓
This work

触媒量のCsFを使うだけで、アミド-エステル交換反応が進行するのに驚きです。さらに、一級アミドと二級アミドのどちらも(活性化した三級アミドを経て)エステルへと誘導することが可能です。シンプルかつコスト・エフェクティブです。

それから、この反応はメカニズムがユニークです。Gang等やSzostak等(see http://researcher-station.blogspot.com/2019/12/4tert-butyl-nicotinate.html)のように遷移金属を用いた反応ではアミドのC-N結合への酸化的付加から反応が始まります。
他方、著者等の開発したCsFが触媒する反応では、フッ化物イオンが強力な求核剤として働いてアミドのカルボニル基を攻撃し、酸フッ化物を形成しアルコールにトラップされるというメカニズムを著者等は提示しています↓

Possible route of amide esterification

著者等は19F NMRの検討もしていて、DMSO-d6中でCsFの化学シフトは-122.86 ppmで、そこにN-phenyl-N-tosylbenzamideを加えた後、再び19F NMRを測定すると17.09 ppmにシグナルが検出されたということです。大幅な高磁場シフトが観測されています。測定溶媒は違うけど、重クロ中で測定したフッ化ベンゾイルの化学シフトが17.5 ppmという文献報告値があって、DMSO-d6中での測定した17.09 ppmと酷似しています。イオン結合から共有結合への結合様式の変化に伴う大幅な化学シフトの変化と合わせて考えれば、中間体としてフッ化ベンゾイルが生成している蓋然性は極めて高く、著者等の提案している反応機構を支持しているといえるでしょう(ボク的には、DMSO-d6中でフッ化ベンゾイルの19F NMRを測定して欲しかった)。


ハイそれでは、"Fluoride-Catalyzed Esterification of Amides"の反応開発と基質一般性についてのメモに移るとしましょう。

まず、反応開発にあたって、著者等はハロゲンの金属塩や塩基を試します。試した試薬は、KF, KCl, KBr, KI, Et3N, DBU, NaF, CsF, n-Bu4NFの9種類。


その結果、フルオリドを有する試薬(KF, NaF, CsF, n-Bu4NF)は、収率の良し悪しはありますが、それら全てで反応が進行したのに対し、フルオリドを持たない試薬(KCl, KBr, KI, Et3N, DBU)では全く目的のエステルは得られませんでした。非常に興味深いです。フッ素ってミラクルです。

次に、アミド周りの置換基を変えた場合の評価です↓


共鳴安定化している堅牢なアミドのC-N結合の活性化は、アミド結合周りの置換基を嵩高くしてやることで、その立体反発により共役平面生を崩してやるのが定法と思います。なので、本報においても嵩高い置換基(Ph, Ts, Boc)を導入していますが、N-Me-N-Tsで収率84%は凄いなって思いました。

続いて基質一般ですが、CsFをちょっと(触媒量)入れるだけで、いい収率で進む反応がシュゴイので、全部メモします↓
Scope of the alcohol and Ts amide substrates.

トシルアミドとアルコールの反応は適用範囲が広いです。電子状態、芳香族・脂肪族アミド、立体障害、一級アルコール・二級アルール・三級アルコールの関わらず、概してスムーズに反応が進行します。
Scope of the alcohol and Boc amides substrates.

Scope of the alcohol and di-tert-butyl N-acylimidodicarbonates substrates.

Bocアミドもdi-Bocアミド(di-tert-butyl N-acylimidodicarnonate)も適用範囲が広いです。

さらに、活性化されていない一級・二級アミドからワンポットでエステルへと誘導可能です↓

さらにさらに、アシルフルオリドをトラップする求核剤として、チオールやアミンも使えます↓
因みに、チオエステルは遷移金属を用いた反応では合成できないようです。


アミド-エステル交換というトランスフォーメーションにCsFを触媒として使うという着想に至った経緯はサッパリ書いてありませんでしたが、

なんだか、凄い反応だな

と思います。浅学なボクには、正直、信じ難いです。

ハンドリングも容易で、基質一般性も広そうだし、真剣(マジ)凄ェーーーです。
ということで、機会があったら是非試してみたい反応と思いました。

ところで、Gang等の方法ってdi-Bocアミド(di-tert-butyl N-acylimidodicarnonate)じゃ反応進行しないんですかね?と思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)の交換反応メモでした(論文読んでないけど)。


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