三重大の勝川先生の著作「日本の魚は大丈夫か」を読了しました。漁業に関するお話が書かれています。
我が国の漁業は、1970年初頭まで増加期、1980年末期まで高水準期で、以降減少期が続き、現在はピーク時の半分にも満たないといいます。そして、日本の漁業を次のように概観しています。
遠洋漁業(海外漁場)は焼き畑漁業の様を呈していたところに、EEZ (Exclusive Economic Zone)導入に伴う漁獲規制によって、公海は資源枯渇の危機にあると言います。沖合漁業(EEZの範囲)は、マイワシバブルの後、漁獲高が減少し、さらに未成魚の乱獲を経て、サバ資源を潰してしまったそうです(日本近海のイワシ、サバ、アジなどの大衆魚の資源量は低水準だそうです)。そして、沿岸漁業は参入障壁が低く、常に乱獲・飽和状態。ウニ、アワビなどの根付き資源以外は管理されていないらしいです。最後に、マダイやブリなどの養殖は、餌となる天然魚が大量に必要な贅沢産業で、一部の例外を除き経営は非常に厳しく、減少率大。要は、日本の漁業は非常に厳しい状態にあるということが述べられています。
一方、漁業の世界の潮流は、生産量が高めで安定で、魚価が上がっており、生産金額は増加しているそうです(ニュース番組で報道される漁業従事者の悲哀とは逆だ)。そして、ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、オーストラリア、チリといった国が漁業先進国だそうです(そういえば、近所のスーパーで売ってるサーモンはチリ産だな)。
で、漁業先進国の雄、ノルウェーも、1970年代中頃まで、過当競争→乱獲→資源枯渇→経営の破綻→補助金漬けという道を辿っており、現在の衰退しきった日本の漁業と酷似した状況だったそうです。しかしながら、漁獲抑制やQC (Quality Control)といった改革が功を奏し、彼の国の漁業はV字回復したそうです。
また、ノルウェーでは、「それ以下の値段では鮮魚は売れない」=「薄利多売は許されない」という独自の最低価格制度を設定して品質を保証しているそうです。(EUでは品質に関係なく最低金額を設定=公的資金で乱獲報奨金を与えているので、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリアでは漁業が衰退している)。さらに、養殖業は企業化してスケールメリットを享受しているとか。
漁獲枠制度にも大きな違いがあります。世界では、アイスランド、ノルウェー、韓国、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、日本で、TAC (Total Allowable Catch: 総漁獲可能量)を設定しているそうですが、日本におけるその運用はお粗末極まりないそうです。ノルウェー、韓国は、IQ (Individual Quota: 個別漁獲枠制度)で、アイスランド、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカではITQ (Individual Transferable Quota: 譲渡可能個別漁獲枠制度)で管理しているのに対して、日本ではオリンピック方式(早い者勝ち=乱獲を助長)で管理されています。
さらに日本のTAC設定は、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マサバ(+ゴマサバ)、ズワイガニ、スルメイカの7種のみで、乱獲を続けてもクリアできる非常に大きな数字が割り当てられているという杜撰なシステムなんだそうです。例えば、スケトウダラ日本海北部系群では、科学的に現状が維持できる漁獲可能量(4,000 t)を遥かに超えるTAC設定(16,000 t)がなされていたり、マイワシ太平洋系群では、海にいる魚よりも多い漁獲枠を設定していたことさえあったそうです(狂ってるね)。
ちなみに、日本とノルウェーの漁業の現状を比較するとこんな感じだそうです↓
漁業従事者/ 日本 21万人, ノルウェー 1.9万人
漁獲量/ 日本 550万t, ノルウェー 280万t
漁獲者1人当り漁獲量/ 日本 26t, ノルウェー 147t
資源状態/ 日本 低位減少, ノルウェー 高位横ばい
補助金/ 日本 1,800億円以上, ノルウェー ほぼゼロ
貿易(重量)/ 日本 輸入1位, ノルウェー 輸出1位
しかも、ノルウェーでは漁獲枠が船に張り付いていて、SQS (Structural Quota System)という漁船をスクラップする場合に限り、他の漁船に漁獲枠を移動でき、漁船のシェアも可能というシステムを導入して、過剰な漁業者の退出を促進しています。さらに、ノルウェー漁業の秀逸な点は透明性の高い流通システムです。洋上の漁船は、漁業組合が運営するオークションサイトに獲った魚の量やサイズ、漁場などを携帯電話で報告します。ノルウェー国内および周辺諸国から入札があって、水揚げは落札者の指定した漁港で行われます。さらに、漁業が行われている魚の種類、魚種の漁獲枠の消化割合、過去一週間の平均落札額などが閲覧でき、リアルタイムでノルウェー近海の漁獲状況が分かる地図があるそうです(http://www.sildelaget.no/default.aspx)。
水揚げされた魚の大きさ体重などの情報が全て外部に公表されていて、獲った魚の測定方法は、1tにつき何尾測定するなど細かいことまで決められていて、測定がいいかげんな船は、入札者の信用を失って値がつかなくなるという形で制裁を受け、漁業者の申告を水揚げ内容が違うというクレームが入札者からあれば、組合の職員が必ずチェックを行うそうです。
こうして、ノルウェーでは漁業者のインセンティブを適切に設定することによって、QCを促進し、スケールメリットを享受できるようにし、優れたマーケティングを導入することで漁業を持続可能で魅力的な産業へと転換したのだと思います。
勝川先生の本は、漁業の問題を全般的によくまとめていると思いますが、このような日本漁業の問題は、何十年も前から指摘されていて、全く目新しいものではありません。例えば、大前研一は、その著作「企業参謀」の中で同様の問題に言及しているし、ニュース番組でも同様の問題が度々報道されています。また、漁場における乱獲問題は、経済学の教科書では「共有地の悲劇」「市場の失敗」として取り上げられていて、その解決策も提示されています(それをやったのがノルウェー)。それにも関わらず、我が国の漁業の体たらくっぷりを鑑みると、いま現在日本の行業を仕切っている奴らはダメダメのグズグズな奴らで、その環境に甘んじている零細漁業従事者はナマケモノだってことは明らかと思います。
現状維持では、日本の漁業の未来は推して知るべしでしょう。
see
http://ja.wikipedia.org/wiki/コモンズの悲劇
http://researcher-station.blogspot.com/2009/02/blog-post.html
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2011年12月4日日曜日
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