2020年5月2日土曜日

CatalyticにMitsunobu:その光延、Perfect Catalysis (Catalysisへの道)

随分前(増税前)に、浅草は雷門近くにあるおでん屋さんに行ったときのメモです。

-ひょうたんなべ 雷門店 memo-
住所:台東区浅草1-2-9

ちなみにこのお店は、ボクの大好きな駒形どぜうの系列店らしいです。

-お通し (350 JPY + tax)-
もずく酢。胡麻が振り掛けてあって、その香りが香ばしい。

-おでん-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
薄味ながら、ちょっとくどいくらいに昆布が効いていて少しぬめりを感じるツユ。具材への味の染み込みは軽微。昆布テイストが濃厚なので、深く味が染みていない方がいいのかもしれない。全体的に普通に美味しい。
特筆すべきは竹の子のおでんで、とっても柔らかくて、最高の食感。
お豆腐は焼き豆腐で湯豆腐ライク。
じゃがいもとツユの昆布テイストの相性が素敵。
大根 (160 JPY +tax) ★★★☆☆
玉子 (180 JPY + tax) ★★★☆☆
じゃがいも (160 JPY + tax) ★★★★☆
豆腐 (180 JPY + tax) ★★★☆☆
竹の子 (230 JPY + tax) ★★★★★


-トマトチーズ (420 JPY + tax)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
別枠のおでんメニュー。出来上がりまでに大分時間がかかるので、早めに注文すべし。
トマト1個をお出汁で炊き込んで、トップにチーズを載せた一品。お出汁は前述のおでんの昆布風味リッチなものではなく、コンソメベースのお出汁で全体的に洋風な仕上がり。
トマトは少し酸味と青臭さが残っている。
熱を纏ったトマト、チーズ、コンソメのハーモニーには素晴らしいものがある。少し残ったトマトの酸味と青臭さともよく合う。率直に言ってとても旨い!また食べたい逸品。

-ほや酢 (600 JPY + tax)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
もみじおろしの載ったホヤに、かなり酢の効いた酢醤油が添えられて提供される。
酢醤油をつけずにそのまま食べるとあまり香味が拡散せず、蕾が閉じたイメージの大人しい味だけど、上品でけっこう旨い。
酢醤油をつけて食べると、色々な香味が解き放たれる。華やかな香味も解放されるが嫌味な香味もけっこう感じる。基本フレッシュで美味しい。

-じょっぱり (460 JPY + tax)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
教科書のような淡麗辛口。クセが無く、料理に合わせるのにもってこいの日本酒と思う。

-果実酒 ゆず 栃木 (400 JPY + tax)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
甘さはけっこう控えめで、柚子の香味ふんだんでジューシー(juicy)かつフレッシュ(fresh)感がふんだん。これはクセになりそうな旨さ。

満足に足るお店なんだけど、お店の位置が公衆トイレの近くなのが玉に瑕です。


閑話休題


ども、前回(http://researcher-station.blogspot.com/2020/05/catalyticmitsunobuperfect-catalysis_2.html)からの

Redox-neutral organocatalytic Mitsunobu reactions
Science2019365, 910-914.

のメモの続きです。

で、今回のお題は、光延反応の触媒化の歴史です(イントロに書いてあった)↓

まずは、

• Toy's Organocatalytic Mitsunobu Reaction

J. Am. Chem. Soc.2006128, 9636-9637.
やっぱ触媒化でエポックメーキングなのは、Toyの報告でしょうか。ボクの記憶が間違ってなければ、なんてったって初めての触媒的光延反応ということでたくさん引用されてるし。
化学量論量のDEADを使った場合(普通の光延反応)よりも収率が低下。2 eq. の酢酸が生成するので、pronucleophileが十分にacidicでないと副生成物(acetate)が生成します。
そして、この方法の2nd genaration (improvement)として、4-ニトロ安息香酸を3,5-ジニトロ安息香酸に換えて反応を行うとacetate副生を抑制できるそうです。(Synlett 20107, 115.)。


続いて、

• Catalytic Mitsunobu Reaction with an Iron Catalyst and Atmospheric Oxygen (Taniguchi)

14 examples, 28-92% yield
Angew. Chem. Int. Ed.201352, 4613-4617.
see
http://researcher-station.blogspot.jp/2015/03/catalyticmitsunobu-catalytic-mitsunobu.html
https://researcher-station.blogspot.com/2015/03/blog-post_28.html

金沢大のTaniguchiの報告で、触媒的光延反応の二番目の例です。フタロシアニン鉄(Fe(Pc))と空気でヒドラジンを再酸化します。7例はキラルな基質を使っていて、反転率はそこそこ良好(1例は完全反転)。DEADを使ったオリジナルの方法と同様に立体障害に弱いようで、(-)-mentholを基質に用いると、収率も反転率も低いです。
そして著者自身も、基一般性と収率が不十分でオリジナルの光延反応に遅れをとっていることを認めています。そこで、この方法を徹底的に最適化しブラッシュアップした手法を再度報告しました↓
Chem. Sci.20167, 5148-5159. (open access)

詳細な検討の結果、以下のことが明らかになりました。

a) 溶媒効果がとても大きい。
b) MS 5Aがクリティカル。他のモレキュラシーブスではダメで、しかもかなり厳格に活性化しなければいけない。
c) DADの芳香環上の置換基の影響は、
   光延反応は、4-OMe < H < 3,4-diCl < 4-CNの順に速く、
   ヒドラジン→アゾの酸化は、4-MeO > 3,4-diCl > 4-CN ≈ Hの順に速い。
   4-NO2体は反応条件下で分解してしまう。
d) 4-CO2Et体と4-CF3体は3,4-diCl体とほぼ同等の活性
e) 3,4-diCl体と比較して4-CN体の活性は高いが、反転率は少し劣る
f) トータルでみて、3,4-diCl体と4-CN体がいい感じ。
g) 3,4-diCl体は求核剤がカルボン酸のとき仕様の触媒
h) 4-CN体はカルボン酸以外の求核剤仕様の仕様の触媒

そして基質一般性はこちら。まず1級アルコールとの反応↓

続いては、以下に示す光学活性二級アルコールを使った立体反転例です。
で、立体反転の結果です↓

なかなかいい感じゃないですか?

著者らは反応機構についても検討していて、DEADを用いた典型的な光延反応と酷似していることを示しました。

加えて、試薬の熱安定性も調査しています。

触媒のアゾ体はX=3,4-diCl体もX=4-CN体も結晶性の固体で、周囲条件下で二ヶ月間は安定です。因みに、ボクの大好きなDMEADは周囲条件で二ヶ月ほっとくと部分的に分解が確認されるそうです。さらにTG-DTA測定も行っていて、
i) 発熱ピーク無し
ii) X=3,4-diCl (mp: 52.1˚C)→重量の減少を伴って191.3˚Cに吸熱ピークを検出
iii) X=4-CN (mp: 55.4˚C)→重量の減少を伴って225.7˚Cに吸熱ピークを検出
という結果だったそうです。
そして、
iv) ベンゼン-d6溶液をオートクレーブで200˚Cで10分間加熱しても、1H NMRからno
 decomposition

また、触媒のヒドラジン体のTG-DTA分析から
v) X=3,4-diCl (mp: 114.0˚C)→重量の減少を伴って250.3˚Cに吸熱ピークを検出
vi) X=4-CN (mp: 138.1˚C)→重量の減少と一部分解を伴って267.4˚Cに吸熱ピークを検出。

という結果で、著者らは、アゾ体もヒドラジン体も常圧下で急激な分解はなく、TG-DTAでの重量の減少は沸点に到達したことによる蒸発であると結論付けて触媒の高い安全性をアピールしています。これら4化合物のプレリミナリーなDSC測定も密閉容器で実施されていて、300˚C以下で発熱ピークは検出されていません。少なくとも、DAD系試薬より安定性は高そうです。
(密閉容器でDSC測定しているので、TG-DTAの重量現象は分解に伴う気体の放出せはないんだろうと思います)。


そして、上記二報とは毛色の違った触媒化がこちら↓

• Mitsunobu Reaction Catalytic in Phosphine (Buonomo and Aldrich)

14 examples, 50-84% yield
Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 13041-13044. (open access)

ToyとTaniguchiの報告はアゾ-ヒドラジンを触媒的に回す方法でしたが、BuonomoとAldrichの報告はホスフィンを触媒的に回す方法です。ホスフィンを触媒的に回す光延反応の初めての報告ですね。
光学活性二級アルコールの立体反転は二例あって、結果はこんな感じ↓

触媒バージョンは化学量論量バージョンと比較して収率は低下しますが、光学純度は同等です。

そして著者らは、自らが開発したホスフィン触媒化光延反応とTaniguchiの開発したアゾ-ヒドラジン触媒化光延反応を融合したFully Catalytic Mitsunobu Reactionを提示しました。


報告はアキラルな基質二例だけですが、シュゴイ!と思っていたら、触媒的光延反応の第一人者であるTaniguchi (金沢大)からまったがかかりました。TaniguchiらはThe "Fully Ctatalytic Synstem" in Mitusnobu Reaction Has Not Been Realized Yet (Org, Lett., 2016, 18, 4036-4039.)で、BuonomoとAldrichの"Fully Catalytic Mitsunobu Reaction"は(反応機構が)光延反応のプロセスを経ておらず、それ故、光延反応としてワークしていないと指摘します。ついでに堅牢な反応とはいい難く、トレースすると結果がブレブレでラセミ化もけっこう進行してしまう困ったちゃんであることが分かりました(最適な条件の範囲が狭い?)。それでは、以下にTaniguchiらの検証結果をメモしていきます。


• The "Fully Ctatalytic Synstem" in Mitusnobu Reaction Has Not Been Realized Yet (Taniguchi)
Org, Lett.201618, 4036-4039.

まずはTaniguchiのオリジナルメソッド(Angew. Chem. Int. Ed.201352, 4613-4617.; Chem. Sci., 2016, 7, 5148-5159.)の追加情報です。
THF中で反応を行う場合、MA 5Aの活性化がよりシビアになります(最適溶媒はトルエンだけど、BuonomoとAldrichのホスフィン触媒を使った反応に条件を合わせている)。

続いて、BuonomoとAldrichの反応をトレースした結果です↓

68% yield, >99.5:0.5 er (R/S) Buonomo and Aldrich (ACIE2015)
38-46 % yield, 76:24〜87:13 er (R/S) Taniguchi et al.

Taniguchiらは三回反応を繰り返していて、収率の低下に加えて選択性も緩慢であることを確認しています。。

さらにもう一つ追試↓

Buonomo and Aldrich   69% yield, 94:6 er (R/S(ACIE2015)
Taniguchi et al.   51% yield, 23:77 er (R/S)

驚くべきことに、選択性が逆転してリテンション優勢です。

最後は"Fully Catalytic Mitsunobu Reaction"の検証です。

• Buonomo and Aldrich   68% yield (ACIE2015), 0.5 mol scale, reaction vessel: 15 ml
   MS 5A: activated  by heating at 200˚C under reduced pressure, O2: generated from NaClO and H2O2

• Taniguchi et al.   38% average yield0.5 mol scale, reaction vessel: 35 ml
   1st run : 40%, MS 5A: activated  by heat gun in vacuo (ca. 0.1 mnHg, 5 min), O2: commercially available oxygen

   2nd run : 37%, MS 5A: activated by Bunsen burner in vacuo (ca. 0.9 mbar, 5 min), O2: generated from NaClO and H2O2

   3rd run : 36%, without the hydrazine catalyst, MS 5A: activated  by heat gun in vacuo (ca. 0.1 mnHg, 5 min), O2: commercially available oxygen

収率が再現できません。再現が得られない理由としては次のことが考えられると思います。
 i) MS 5Aのメーカーとかロット:Taniguchiらはアルドから入手。Buonomoは不明。
 ii) MS 5Aの活性化法:やんわり活性化している感じのBuonomoらの方が良好な結果がなのが納得できない(Buonomoらは200˚Cで長時間活性化いているのかもしれないけど)。
 iii) 容器の大きさ:同スケール、同濃度で反応を実施してるけど、容器の多いさが違うので、酸素の量と圧力が異なるはずです。溶媒量は共に3 ml。Buonomoは15 mlの容器。Taniguchiは35 mlの容器。

容器の大きさが一番の違いに思えるんだけど。撹拌効率も違うだろうし。まあでも、ボクには何が原因なのかよく分かりません。

それから、Taniguchiらのトレース結果(1st run, 2 nd run)とヒドラジンなしの反応(3rd run)がほぼ同じ収率となり、ヒドラジン触媒が反応に関与していない可能性を醸し出しています。

立体反転の度合いが確認できる光学活性な二級アルコールを使った反応の結果がこちら↓

1st run : 4% yield, 12:88 er (R/S), MS 5A: activated  by heat gun in vacuo
2nd run : 7% yield, 9:91 er (R/S), MS 5A: activated  by heat gun in vacuo
3rd run : 6% yield, 16:84 er (R/S), MS 5A: activated by Bunsen burner in vacuo

低収率な上、リテンション優勢です。

というわけで、BuonomoとAldrichの開発した"Fully Catalytic Mitsunobu Reaction"は控えめに言って全く堅牢でないことが明らかになりました(ブレブレでした)。疑いの目でみれば、そもそも光延反応の最大のウリと言ってもいい立体反転の検証を行っていないのが不思議で仕方がありません(光延反応の立体特異性はアートと称されるほどだからね)。なにはともあれ、The "Fully Ctatalytic Synstem" in Mitusnobu Reaction Has Not Been Realized Yet なわけです。


このあたりが浅学なボクが認識している光延反応の触媒化の道程です。そして、"Fully Catalytic"の道は未だ険しいのだなと思っていたら、2019年に"Fully Catalytic"の上をいく"Perfect Catalysis"な光延反応が彗星のように登場しました。それが、

Redox-neutral organocatalytic Mitsunobu reactions
Science2019365, 910-914.

です。

次回、Redox-neutralでPerfect Catalysisな光延反応をフィーチャー(メモ)していきます。つづく.....


0 件のコメント:

コメントを投稿