とある化学の超ガテン系

実験嫌いの実験化学者が綴る企業の研究員の日常 (このブログはMac OS Xに最適化されています)




Sunday, January 15, 2017

My Dear Grignard Reagent (4): initiatorの名はDIBAL-H

年が明けましたね。しかも、半月も過ぎてしまいました。会社通いがダルい今日この頃です。


門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし
by 一休宗純

何かを成すためには人生は決して長いものではないと、最近、改めて富に感じるコンキチです。

昨年末、ボクの大好きな神田まつやのゆずきりを食べたときのメモです↓

-神田まつや ゆずきり (900 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
冬至(12月21日)のあるWeek Dayの期間限定品。淡路町界隈の冬の風物詩ですね
蕎麦はまつやのスタンダード品に較べ細打ちで柔らかく弾力に富んでいて心地良い食感。色は鮮やかな黄色。目で見て楽しい。柚子の柑橘の香りが、強すぎず、弱すぎず、程よい塩梅に効いていてとっても良い香り。蕎麦の穀物様の香りも立っているか?
口の中でも柚子の香味が良い感じ。とっても爽やかで、finishの"S(柑橘系の硫黄臭)"的な苦味が素晴らしい。そして、この蕎麦(ゆずきり)がまつやのツユにとっても良く合う。
薬味には葱と山葵。
並んでも喰うべき一品(不本意ながら並びました)。


閑話休題


けっこう前の文献なんですが、こんな文献を読んでみました↓
(きっかけは、My Dear Grignard Reagent: Grignard Reaction in CPME (Grignard Reactions in Cyclopentyl Methyl Ether Asian J. Org. Chem., 2016, 5, 636-645.)やMy Dear Grignard Reagent (2): 2-MeTHF、推して参ります (Comparative Performance Evaluation and Synthetic Screening of Solvents in a Range of Grignard Reactions Green Chem., 2013, 15, 1880-1888.)のリファレンスだったからです)

Activation of Mg Metal for Safe Formation of Grignard Reagents on Plant Scale
Org. Proc. Res. Dev., 2002, 6, 906-910.

Schering AGの報告です。
そして、また、しつこくGrignard反応関係のメモです。
今回のお題はGrignard試薬調製の一番最初のステップである、

"マグネシウムの活性化"

の話です。しかも、プラントスケールでセーフティーにってやつです。

学生の時分に先輩から聞いたんだけど、フェニルグリニアを調製するときに調子こいてるとビフェニルができるぞって言われました。
実際、オレがM2になったとき、後輩がGrignard反応が上手くいかないっていうんで、生成物のNMRとってみてみたらビフェニってたね(ビフェニルが生成していた)、確か(もう随分前のことなので、記憶が軽く曖昧)。

前にも書いたけど、Grignad試薬の調製段階ではWruts反応が競合する可能性があります。Griganrd試薬を調製時に、なかなか反応が進行しない場合(だいたい、目視と温度変化で判断すると思うけど)、反応を発進さえるための選択肢の一つに"加熱"がありますが、"加熱"はWrutsカップリングを引き起こすリスクを高めます。
なので、Grignard試薬調製においては、マイルドな条件で反応を発進させることが最良と思います(他のあらゆる反応でもそうだけど)。

さらに、工業的にGrigard試薬調製はけっこう難しくて、そのinitiation stepにおける事故の危険性が高いです(例えば、反応がなかなか発進しないからといってRXを加え続け、何かのキッカケで反応が発進したときに、ガッツリRXが入った状態になっていて、一気に反応(発熱反応)が進行して爆発する)。

なので、マイルドなGrignard試薬調製はリスクアセスメント的にも重要です。

マイルドな条件でGrignard試薬を調製する方法には幾つか方法がありますが、この論文に書いてある方法には以下の手法が挙げられています↓

(1) マグネシウムの形状を選択する
マグネシウムにはturnings、powder、chips、Rieke magnesiumがあり、その特性は以下の通りです↓

"turnings" 取扱いが容易。長時間の撹拌はグラスライニングの反応容器(お釜)を摩損させる可能性が。

"powder" より高活性である反面、金属表面が酸化されやすく、自然発火する可能性もある。(第2類危険物に該当すると思う)。

"chips" 高純度で、"turnings"よりも表面積が小さく反応性も劣る。

"Rieke magnesium (MgCl2 + 2 K → Mg + 2 KCl)"  金属微粒子で高活性。発火性が高い。(特に大スケールでの)金属カリウムの取扱いは憂鬱。

ボクは"turnings"しか使ったことがないけど、これが実験室でも工業的にも最も一般的に用いられているマグネシウムのはずです。ハンドリングとか安全性とか酸化皮膜の問題をトータルに考えたら基本"turnings"一択なんだろうと思います。

(2) 酸化皮膜を取っ払う
古典的な方法だと思うんですが、鉱酸で金属表面の酸化皮膜を洗って、金属の活性面を出してやる方法です。ボクはやったことないけど、洗浄に使った酸や水の除去は工業スケールでは極めて困難なんだそうです。

(3) Dry-Stir法
不活性雰囲気下で"turnings"を撹拌する方法。"turnings"上の酸化皮膜が減少し、金属の活性面が現れるそうです。GL釜が摩損する可能性があるのでSchering AGではlarge-scale activationではやらないそうです。
ボクはアルゴン気流中、赤外ランプを当てながら1時間くらいmechnical stirring (小スケールのときはmagnetic stirring)するのが好きでした。

(4) 装置の乾燥
これはラージスケール(=工業スケールのお釜)の話なんだけど、装置の乾燥は重要で、複雑な配管を有する場合は特に要注意です。さらにこの論文によると、装置の表面は、完全の乾燥したように見えても水の薄い膜でコーティングされていることがしばしばあるそうで、Grignard Prepararionの発進を確実なものにする為には、含水率が0.02% (200 ppm)未満になるまで複数回溶媒でリンスしてた後、不活性ガスでブローして乾燥し、微陽圧に保つんだそうです。

(5) Grignard試薬を加える
前回作ったGrignard試薬を少量加えてGrignard Preparationを行う方法。本報で"excellent method"と表現されています。実機でのGrignard試薬調製で安全にオペレートするにはにはコレです。実機でのGrignard Preparationはけっこう難しいんですが、この手法はもの凄くイケてるとレクチャーされたことがあります。ラボスケールだけど、ボクも5 Lスケールで何回かやったことあるんだけど、とってもスムースに反応が発進しましたね
実際に実機で適用されているだけのことはあります。
この方法の唯一の問題点は、当たり前だけど、一番最初にGrignard試薬を調製するときはこの方法が使えないということです。因に、Grignard試薬の調製は、小スケールであれば比較的容易かつ安全にオペレートできるので、最初は小スケールで調製して、それを"種"に段階的にスケールアップしていけば、いい感じにGrignard試薬を調製できると思います。

(6) Vidride (Red-Al)
言わずと知れた強力な金属ヒドリド還元剤です。Vidrideは定量的に水分、アルコール類、過酸化物を取り除き、金属表面を活性化します。(この論文では、boiling ether中で金属マグネシウムの対して(5-12 mol%)のVitrideを加えるとか、乾燥エーテルにVidrideを加えて蒸留して反応に使うっていう活性化法が解説されていますが、普通にハライド加える前に添加してやればいんじゃねーの?って思います。実際、この論文でもそういう方法で実験してるし)。
因みん、この手法は、大スケールでのSimmons-Smith反応におけるZnの活性化にも使われてりうそうです。

(因みにボクのラボでのお気に入りの活性化法はDry-Stir法+ヨウ素添加のコンボです。)

著者等はこれらの活性化法の中でVidride法に興味を持ちます。そして、DIBAL-Hも同様の目的で使用できることに気がつきます。DIBAL-HのVidrideに対する優位性には次のようなものがあります↓

a) DIBAL-H (20%程度のトルエン溶液やヘキサン溶液)の方がVidride (65%トルエン溶液)より取扱いが容易(65% Vitride溶液はかなり粘性が高いです)。
b) Vitrideだと放出されたメトキシメタノールがGrignard試薬と反応してしまう。

ということで、著者等のVitrideを用いたマグネシウムの活性化実験が始まります。


上記2種類のアリールブロミドに対して、1 mol%のDIBAL-Hをinitiatorに使用してGrignard試薬の調製を検討しています。その結果分かったことはこちら↓

A) 活性化(反応の発進)に要する時間はTHFの量に依存(固液反応なんだから、活性化剤の濃度が高い方が良いのは当然。他の活性化剤でも同様に観察される事象。)
B) Mgに対して5 volsのTHFがBest!(因みに、これより濃い条件では試してない。5-30 volsの範囲で検討)
C) 得られるGrignard試薬の収率はそれぞれ(左から)、87%、92%、95%。
D) 室温で60分経っても反応が進行しない場合、もう1 mol%のDIBAL-Hを加えると数分で反応が起こる(濃度が薄い場合)
E) DIBAL-H (initiator)の有無による反応の発進具合の違いはこちら↓
F) magnesium "turnings"は、活性化においてベンダーによる違いは確認されない。
G) 1年以上経過した"turningsの活性化には、2 mol%のDIBAL-Hを使って24 hr以上を要する。
H) 10 mol%までDIBAL-Hを加えても、Grignard反応における不純物のプロファイルに変わりなし。

他の活性化剤との比較実験はnothingだけど、信頼性はありそうですね、DIBAL-H。

こうしてDIBAL-Hのinitiatorとしての実力が証明されたので、著者等はこれをパイロットスケールでのGrignard反応へと応用して行きます。こんな風に↓



(上記2つの反応で、Mgの活性化に5 volsではなくて20 volsのTHFを使っているのは、多分、最低撹拌の都合上からだと思います。)

さらに、Wurtzカップリングが起こりやすい5-chloropentylmagnesium bromideの調製においてもDIBAL-Hはその力を発揮します。


Wurtzカップリングを抑制するために、Grignard Preparationを15℃以下で行う必要がありますが、活性化剤に1,2-dibromoethaneを用いた場合では30-35℃でないと反応が発進せず、反応の発進を確認した後に10℃に冷却して残りのハライド(5-chloropentylbromide)を滴下していくという方法をとっていました(Schering AGでは)。
一方、活性化剤にDIBAL-Hを用いると、0℃以下での活性化が可能で、続く反応(Griganrd formation)も10℃以下で実施することができるのです。

ボクのお気に入りの活性化法はDry-Stir法+ヨウ素添加のコンボだけど、低温でMg activationできるのはかなり魅力的と思います。もう10年くらGriganrd試薬の調製はやってないけど、機会があったら試してみたい方法と思いました。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のしつこいGriganrdメモでした。

Labels:

0 Comments:

Post a Comment

<< Home