2019年6月23日日曜日

はじめての根岸カップリング・梅雨

春イベ終わりました。


ども、オタッキーのコンキチです。
そして、もう閉店しちゃったけど、寒い時季に行った島根県料理のお店で食べたさばしゃぶのメモです↓

島根料理主水 神田淡路町店 memo
-さばしゃぶ (3,160 JPY excluding tax) (二人前だったかな?)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
醤油ベースのお出汁は真っ黒で、どんだけしょっぱいんだよという感じにお色だけど、凄く薄味。このお出汁に玉葱などの野菜を加え煮立たせる。少しぶくぶくいうくらいのほうが野菜由来の甘みが出るという(お店の人談)。その後、さばの切り身(島根沖の天然もの)をしゃぶしゃぶさせていただく。さばはとってもfreshで全くくさみはなく、澄んだ味とよい香りがする。
しゃぶしゃぶして切り身の表面が熱で変色し、外側が温かく内がレアの状態で食べるのが一番旨いです。熱で活性化した外側のダイナミックな味と、内側のレアで上品でしっとりしたお刺身のニュアンスとの融合が素晴らしいい。そして、(真っ黒だけど)薄味のお出汁が素材の味を引き立てる。これぞ、薄化粧の極み。
軽く煮立たせががら食べ進めるので、時折割り用の出汁で薄めてやる。

結構酔っぱらちゃったので殆ど覚えてないけど、とっても満喫しました。接客良かったし。現在は日本橋に移転して「島根の味 日本海の幸 主水 日本橋室町店」として営業しているようです。再訪したいお店です。


閑話休題


先日、有機合成歴二十有余年にして、はじめて根岸カップリングをやりました。反応はエクセレントに進行し、ボク的には"平均への回帰"を無視し"見たものが全て効果"をモロに受けてかなり好印象を持ちました(ノーベル賞反応だし)。

ところで、先日ちょっと苦手な渋谷で開催された有機合成化学講習会に参加したのですが、二日目のランチョンセミナーでロックウッドリチウムジャパン(https://www.albemarle.jp)の製品紹介が行われ、根岸カップリング関連でいい感じに気になったプレゼンがあったのでメモしてみます(Albemarleが2015年にrockwood lithiumを買収しました)

さて、ファイザーでこんな鈴木カップリングをやったそうです↓
D. Daniels (Pfizer), 36th Org. Proc. Research & Dev. Conf. and Exhibition, Prague, 17-19, 10, 2016.

なんでも種々のボロン酸誘導体が押し並べて不安定で、実用に耐え得るボロン酸誘導体はジエタノールアミンの付加体しかなかったそうです。

これに対して、ピバル酸亜鉛から調製した有機ピバル酸亜鉛試薬は容易に単離可能で優れた安定性を示し根岸カップリングに適用できます。

Albemarle / P. Knochel

詳細は分かりませんが、紙に書いたスキーム上で有機ピバル酸亜鉛試薬かなりスマートに見えます。有機ピバル酸亜鉛試薬はオープンエアでも普通にそこそこ手早く取り扱えば問題なさそうです。

プロセス・ディベロップメント的にはファイザーの合成法で正解なのかもしれませんが、探索段階でジエタノールアミンの付加体を試すかと言われたら、ボクは試しません。ボロン酸とピナコールボロネートを試してダメだったら諦めると思います(やってもトリフルオロボレートとMIDAエステルくらい)。なので、有機ピバル酸亜鉛試薬は鈴木カップリングの強力なオルタナティブになり得ると思います。

最後に、有機ピバル酸亜鉛試薬の合成マップまとめです↓

(元の文献読んでないので)良く分かんないけど、ハライドからの有機ピバル酸亜鉛試薬の合成は基本Grignard試薬経由みたいです。なので、

(1) 官能基許容性には劣るんだろうけど、カップリングパートナーによっては熊田-玉尾-Corriuカップリングでよくね?(熊田-玉尾-Corriuカップリングはやったことないけどね)

(2) 直接ZnをインサーションしてRZnXでもいんじゃね?(これもやったことないけどね。はじめての根岸カップリングはRZnXが売ってたので、それを使ったです)

という疑問も湧いてきますが、基質特異性とかあったりするのでしょう。それに、戦術のレパートリーは多い方が良いと思います。

あと余談だけど、根岸カップリングのスタンダードPd cat.ってPEPPSI-IPrでオッケー?

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)の亜鉛試薬メモでした。


2019年6月16日日曜日

Kiri_Colle 4 (キリコレ 4)


ラーメン・フリークが開業したラーメン屋さん"Noodles & Saloon Kiriya"さんで食べたラーメンのメモです。店主の青木 成憲さんは、ボクの大好きな経営学マンガ「ラーメン発見伝」の主人公の藤本 浩平を地でいくお方なのです。

過去のメモはこちら↓

Kiri_Colle (キリコレ)→https://researcher-station.blogspot.com/2018/01/kiricolle.html
Kiri_Colle 2 (キリコレ 2)→https://researcher-station.blogspot.com/2018/08/kiricolle-2-2.html
Kiri_Colle 3 (キリコレ 3)→https://researcher-station.blogspot.com/2019/01/kiricolle-3-3.html

それでは新たに食したKiriyaのラーメンメモです↓

entry 28
-Nattoらぁ麺 (850 JPY) 2019/02-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
醤油魚介ベースに特性ひきわり納豆ソースを表層に浮かべたラーメン。
表層に浮かんだ泡泡の納豆ソースからはやんわりと納豆の香りが立ち昇る。
塩味がしっかりと効いた濃蜜スープは煮干し系のflavor richでジャブ程度に苦味を感じる程の濃厚レヴェル。
で、納豆と煮干しが信じられないくらい良く合う!!!
麺はツルシコで仄かな甘みを感じる旨味豊かな細麺(ストレート)で、スープをしっかりと口の中に運んでくる。そして、納豆由来のヌメヌメ感が麺に独特の食感を付与し、麺を啜るのが楽しくて楽しくて仕方がなくなる。
具は、岩海苔、カイワレ、メンマ、白髪葱、いつもの絶品チャーシュー二種、ひきわり納豆。何もハイレベル。岩海苔の濃厚な風味が堪らない。あと、底に大量のひきわり納豆が沈んでいて、なんだか嬉しい。
これまで食べたラーメンの中でBESTかもしれない。

-ローストポーク (500 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
少し脂部分が多い。提供された時点では大分冷たくなっていて、味の膨らみが少なく、食感もブヨブヨした感じでイマイチ。
少し時間を置いて温度が上がってくると、香味が立ち上がってくるとともに、食感もレア感richになって味がHigh Levelに昇華し、香味豊かで見事なローストポークに変貌する。
なので、食べると決めたら一番最初に注文しましょう。

entry 29
-Swallowらぁ麺 (850 JPY) 2019/04-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
醤油魚介ベースに背脂をあわせた燕三条系背脂ラーメン。
まず薫るのは魚粉と山椒の香り。
スープは上品かつ旨味richな魚介taste。表層に浮かぶ背脂はプルプルで、あっさりfatty。くどさや脂っこさは感じず、綺麗にfatty感を付与していて、塩味を幾分マイルドに感じる。
麺は細麺ストレート。日本蕎麦のようなしなやかな食感で、小麦の旨味がふんだん。しっかりとスープを運んでくる。この麺はとても秀逸で絶品の領域。
具は、いつもの絶品チャーシュー二種、メンマ、岩海苔、玉葱。何も丁寧に仕上げられている。メンマの優しい噛み心地とほぐれ方に加えて、cubicにカットされた玉葱のシャキシャキした清涼感が最高。以前に較べてレベル上がっている(see https://researcher-station.blogspot.com/2018/01/kiricolle.html)。

entry 30
-Niboshi_Soba 煮干ソバ (750 JPY) 2019/05-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
濃蜜な煮干しの香りrich。魚粉を想起させるpowderyな匂が拡散している。煮干し由来と思われるfishy richなtasteで、うっすらと苦みさえ感じるレヴェルの濃厚さなんだけど、澄んだニュアンスも覚える。綺麗な雑味?そして、少しキツめの塩味がスープの味を引き締めている(この辺り、分かってるなぁーって思います)。
ツルシコでしなやかなキックの細麺からは、小麦の旨さふんだんでスープとの相性は抜群。
具はチャーシュー二種(レアとトロっして繊維の食感)、刻み玉葱、カイワレ、メンマ。何もHigh Qua
因みにスープは、伊吹島いりこ、長崎産いりこ等で仕上げた純煮干スープだそうで、亀甲萬醤油、甲子醤油、板倉醤油、万上本みりん等で仕上げた醤油味だそうです。

entry 31
-浅利の潮かけsoba (800 JPY) 2019/06-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
まず、topに載った大葉(だと思う)のsharpな香りが一閃。スープからは柔らかい甘い香りがする。そして、スープのtastはというと、浅利のお出汁rich。エキス感満載で、tailに少し苦味を感じるほど濃厚。それから魚粉か節系のtasteも感じる。塩味はかなりマイルドでやはり旨味が全面に出ている。
麺は平打ちの縮れた星の入った太麺で、モチッとした食感で小麦の優しい旨味を感じる。くっくりしたwaveが口の中で楽しく踊る。
スープは優しい味だけど旨味濃厚で、太麺に当たり負けしていない。麺も自己主張するばかりの麺ではなくて良い。
大葉と一緒にあしらわれた紫のお花が可愛らしい。
このラーメンかなり旨いね。具lessがスープの深みで十分代替されていると思いました。
因みにこのラーメンは、ラーマガ(ラーメン情報専門チャンネル)とコラボレーションした月替り企画の限定ラーメンで、麺とスープと薬味だけで勝負した「かけラーメン」=「NAKED」です。
アサリを驚くほど使用したスープにアゴ出汁をブレンドした贅沢な味わいのNAKEDとのことで、5月28日(火)〜6月8日(日)の間、一日10杯限定で提供されるラーメンです。
(see https://sp.ch.nicovideo.jp/ramen-magazine/blomaga/ar1767903)

entry 32
-和え玉 白醤油味 (200 JPY) 2019/06-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
麺がお蕎麦のようにエッジが立っていて、しなやかな食感が抜群に気持ちいい。甘さrichな麺でとっても美味しい。口の中で旨味と食感のハーモニーが奏でられている。
ホント、あっさりマイルドな味付けで麺の旨味が引き立つ。油々してないし、魚粉は少量でほんのりアクセントを付与。刻みチャーシューは食感=弾力楽しまる。白髪葱は清涼感。
至高の油そばに仕上がっていると思いました。
(和え玉は単品注文できないので、気をつけろ)

ホント、丁寧な仕事とマイルドな接客が光ります。店内は狭いけど、クリンリネスに優れていて良いです。
(ただお客さんに若干問題があって、行列待ちしている間、おしっこを我慢できなくなったのか立ちションする人とか、路上喫煙している人とかがたまにいて軽く残念な気持ちになります。)

下半期も健康に留意しながら(ラーメンは二週間に一度程度)ボチボチ通いたいと思います。


2019年6月15日土曜日

至高のDizao-Transfer試薬はどれだ?

千葉県は流山市の西端にあるイタリアンのお店でランチしたときのメモです(理科大の野田キャンパスから近いです)。

イタリアンバル Bambino

-Pasta A set (1,500 JPY + tax = 1,620 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
パスタ、サラダ、ドリンクのセット。
ドリンクは、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、コーラ、ジンジャーエール、コーヒー、カフェラテ、カプチーノから選べるんんだけど、+300 JPY + taxで白ワインに変更できました。
パスタは、茄子とトマトのパスタ、ペペロンチーノ、カルボナーラ、本日のパスタからセレクト。

ボクは、パスタはペペロンチーノ、ドリンクは白ワイン(+ 300 JPY + tax)をセレクト。
パスタはエッジが立ったアルデンテ、香ばしいニンニクの香りがとってもいい匂い。あと、nuttyで美味しいね。それから、ふんだんに使用されているオイルが旨い!
白ワインは良い香りのApple-like note。ちょいdryで悪くない。

ちなみにこのお店、嵐の松潤が主演したドラマ「バンビ〜ノ!(2007年)」のモデルとなったシェフのお店とも囁かれています。


閑話休題


前回のジアゾ基転移試薬のメモの最後の方で取り上げた論文のメモです↓

Diazo-Transfer Reagent 2-Azido-4,6-dimethyl-1,3,5-triazine Display Highly Exothermic Decomposition Comparable to Tosyl Azide
J. Org. Chem., 2019, 84, 5893-5898.
Bull et al. (Imperial College London, GlaxoSmithKline)

ボク的に興味深いことが報告されていたのでメモしてみたいと思います。

ADTの熱分析に焦点が当てたれていますが、各種ジアゾ基転移試薬の熱分析データもある程度まとめられています↓(ADMPのデータは書いてなかった)


ref.
TsN3 : Synth. Commun., 1981, 11, 947-956., (TonsetNew J. Chem., 2008, 32, 47-53.(DSC runs performed under nitrogen))
p-DBSA : Synth. Commun.198111, 947-956.
p-ABSA : Synth. Commun., 1987, 17, 1709-1716., (TonsetChem. -Eur. J., 2015, 21, 7016-7020.)
PSS-BSA : J. Org. Chem., 2001, 66, 2509-2511.
NfN3 : J. Org. Chem., 2015, 80, 1098-1106. (Sealed Al pan), (Tinit :  J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1994, 113, 2077-2081.)
ADMP : Synthesis, 2011, 1037-1044. (DSC measurement, argon atmosphere, open Al pan)

ジアゾ基転移試薬の登場した経緯なんかが軽く触れられているのでメモしてみました↓

TsN3が登場したのが50年くらい前らしくて、その後より安全な代替試薬として分解熱が小さく、衝撃感度が低く、熱安定性が改善されたp-DBSAが導入されます。
p-ABSAp-DBSAと同様な安全性を有し(って書いてあるけどTinitが低い)、生成物との極性差が大きく分離が容易なためよく用いられているそうです。
PSS-BSAもまたより安全な試薬として開発されましたが、High Costで原子効率に乏しいです。
高活性だけど敏感で爆発性のTfN3の代替として開発されたNfN3は高活性を維持しつつ、非爆発性で、分解熱も小さくなり、単離して保管も可能なんだとか(J. Org. Chem., 2018, 83, 10916-10921.にはused as freshly preparedって書いてあったけど)。
IMSA•HCl(塩酸塩)は爆発性だけど、IMSA•H2SO4(硫酸塩)は非爆発性で安全に取り扱えるという触れ込みです。その調製段階において衝撃感度の高いimidazole-1-sulfonyl azideを単離する必要がありましたが(J. Org. Chem., 2012, 77, 1760-1764.)、最近合成ルートが改善されました(J. Org. Chem., 2016, 81, 3443-3446.)。
そしてADTですが、摩擦や衝撃に対しては陰性ですが、熱分解時の分解熱がかなり大きいです。

こうしてジアゾ基転移試薬の新規開発が続いてきた経緯を鑑みるに、何は然れ、より安全かつ安定なジアゾ基転移試薬が求められているってことなのでしょう。

さてそれでは、本報のメイン・ディッシュであるADTの熱分析に移りましょう。著者等の実施したADTのDSC測定結果です↓

DSC Date of ADT and TsN3
aEstimated from DSC plot. bCalculated from reported ΔHD (kg/mol) value. cUsing DSC method A. dUsing DSC method B (lower measured temperatures are due to a shorter scan rate). eUsing DSC method C with unsealed crucible.

   DSC Method A. DSC analysis was performed using a TA Instruments Q2000 DSC with LNCS. Approximately 5 mg was wighted into a reusable PerkinElmer B0182901 stainless steel high-pressure crucible with disposable gold-plated copper seal rated to 150 bar and sealed under air with the appropriate B0182864 sealing tool. After equilibrating at 25˚C, samples were heated at 5˚C/min. data analysis was conducted using TA Instruments Universal Analysis 2000 software version 4.5.0.5.
   DSC Method B. DSC analysis was performed using a Mettler Toledo DSC 823e. Appropriately 5 mg was weighted into a Mettler Toledo ME-26731 gold-plated 40 μlL high-pressure crucible with seal insert and lid rated to 150 bar, and sealed under air with the appropriate sealing press. After equilibrating at 25˚C, samples were heated at 2˚C/min. Data analysis was conducted using Mettler Toledo STARe software version 12.00 build 5342.
   DSC Method C (Open Crucible). DSC analysis was performed using a TA Instrument G2000 DSC with LNCS. Appropriately 2 mg was weighted into a TA Instruments 901683.901 Tzero aluminum crucible and 901684.901 Tzero hermetic lid, sealed under air with the appropriate 901600.901 Tzero sample press and 901608.904 Tzero hermetic die set, and then pierced with a needle to leave two holes of approximately 1 mm diameter. After equilibrating at 25˚C, samples were heated at 5˚C/min. Date analysis was conducted using TA Instruments Universal Analysis 2000 software version 4.5.0.5.

DSCの測定法に関して非常に詳細に記述されていて素晴らしいです(他の人達も見習って欲しいです)。Ma等の”CORRECTION"でも言及されているけど、やっぱオープンで測定してたわけで、分解熱はTsN3と比肩するという相当なレヴェルです。

それから、著者らはADTのTGA-EGMS測定も実施していて、その結果がこちら↓

(a) 質量損失は85℃から確認された
(b) 大きな質量損失は150-200℃
(c) 300℃で元の重量の3.23%が残存(要は、殆ど残ってない)
(d) 205℃の時点で、ADTの質量の90%が気体に変わっている
(c) 以下のマスイオンを検出 → 28 (N2, normalized to 100% intensity), 14 (N, 7.7%), 40 (NCN, 2.2%), 29 (15N≡N, 0.76%), trace mass ions (<0.1% relative intensity, 27 (HCN), 20, 15 (15N or CH3), 18 (H2O), 12 (C), 30 (NO), 36, 44 (CO2), 54, 70)

正直、「こんなにガス発生しまくるのかよ!」と浅学なボクはかなり驚きました(マジで)。

さらに著者らはDSCの熱分析データ(Tonset, Q (the energy released upon decomposition, in cal/g)から"Yoshida correlation"(Kogyo Kayak., 1987, 48, 311-316.)っていうのを使って、ADTの爆発性(explosive propagation  (EP) : 爆発伝播(って訳でいいのかな?)に係るアセスメントを行なっています。式はこんな感じ↓

EP = log10(Q) - 0.38[log10(Tonset - 25)] - 1.67

値が正(>0)なら爆発性で、負(<0)なら発熱を伴うけど爆発的に分解はしないと予測されるようです。

さらにファイザーによってモディファイされたより保守的な式(Org. Process Res. Dev., 2018, 22, 1262-1275.)もあって、それがこちら↓

EP = log10(Q) - 0.285[log10(Tonset - 25)] - 1.67

ハイ、ADTとTsN3の数値を代入して得られた値がこちらになります↓


ノーマルなYoshida correlationは負の値(閾値近く)で、ファイザーのEPは正。微妙な感じですが安全サイドに考えれば"凄ェー注意して取り扱えよ!!!"っていうところでしょうか?
因みにこの論文では、ラージスケールプロセスで取扱う際は、specially modified accelerating rate calorimeter (ARC) (J. Hazard. Mater., 2004, 115, 101-105.)やdefinitive UN Class 1 testing (Org. Azides: Synthesis and Applications, 1st ed.; John Wiley & Sons, Ltd.: Chichester, UK, 2010.; UN Recommendations on the Transport of Dangerous Goods: Manual of Tsats and Criteria (ST/SG/AG.10/11.Rev.6. ISBN 978-92-1-139155-8, link: http://www.unece.org/trans/areas-of-work/dangerous-goods/legal-instruments-and-recommendations/un-manual-of-tests-and-criteria/rev6-files.html)といったさらなる爆発性に係るスクリーニングをしてから使用することを強く推奨しています(分解のエナジーがデカイし、殆ど気体になるからね)。そして、ADTは衝撃感度こそ陰性なものの、潜在的な熱分解の危険性は残っているとし、GSKの推奨マックス取り扱い温度(maximum recommended safe process temperature)は、

TD24 = 0.7 × Tinit - 46

の式より、55˚Cが推奨されます(因みに、TsN3は45˚C)。
さすがREM (Reaction Mass Efficiency: see https://researcher-station.blogspot.com/2007/05/gsc-oriented-indices.html)というプロセス指標を生み出したGSKです。プロセスに対する意識が違います。

折角なので、(ADTとTsN3以外は、データのとりかたがぬるいけど)データの有る範囲で他のジアゾ基転移試薬の数値も計算してみましょう↓


(手元にある)データ不足だけど、ADMPのTD24 (maximum recommended safe process temperature) = 94˚Cが光ります。


TCI(1,7100 JPY / 5 g)やアルド(20,800 JPY / 5g; 80,400 JPY / 25 g)から市販されてるし、かなりイケてるんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?市販されてるぐらいだから、しっかり熱分析はやってると思うんだけど、そのデータを教えて欲しいです(公開して欲しいです)。

ということで、

イチ押しのDizao-Transfer試薬はADMPで決まりッ!!!(暫定)

反応性も良さげだし(再掲)↓
Comparison of Different Diazo-Transfer Reagents

以上、二流大出のテクニシャン (研究補助員)個人の感想に基づく感想(特に終盤)メモでした(アジドの取り扱いは慎重にね)。


2019年6月9日日曜日

ADT : Intrinsically SafeではなかったDiazo-Transfer Reagent

何年か前にカキ酒場 北海道厚岸 日本橋店に牡蠣を食いにいったときのメモです↓

-お通し (378 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
さつまいものスライスを素揚げにしたものがtopに載ったサラダ。
さつまいもの穏やかで控えめな甘さ、パリっとした食感、そして素朴な芋っぽい味わいにおハーモニーがとても旨い!

-生マルえもん M (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
小振りだけどしっかりfreshで美味しい。

-焼マルえもんん M (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
熱で活性化され、滋味深い味が堪らない。

-蒸しマルえもん (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
けっこう収縮した感じだけど、心地良い滋味深さ。

-牡蠣フライ  (388 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
熱々の牡蠣の醍醐味が鉄板に旨い!

-牡蠣のルイベ (378 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
凍らせてスライスしたもの。
口の中に入れると、口溶けと同時に信じがたいほど豊潤なcreamyな香味が口腔内一杯に広がる。はっきり言って、感動的な味。

-国士無双 (745 JPY)-


閑話休題


今回のお題は、2018年の注目論文の一つ、"Intrinsically Safe Diazo-Transfer Reagent"として報告されたADTのお話です。


Intrinsically Safe and Shelf-Stable Diazo-Transfer Reagents for Fast Synthesis of Diazo Compounds
J. Org. Chem., 2018, 83, 10916-10921.
Ma et al. (University of Science and Technology of China)

ジアゾトランスファー試薬と言えば、気ままに有機化学さんのこの記事が詳しいと思います(http://chemistry4410.seesaa.net/article/254457550.html)。

で、スルホニルアジドがジアゾトランスファー試薬としてよく使われているようですが、p-tosyl azideやtrifluoromethanesulfonyl azideは衝撃に対してセンシティブで爆発性が高いです。はっきり言って、使いたくない(触りたくない)試薬です。

当然、より安全なジアゾトランスファー試薬が求められるわけで、その目的のため様々な試薬が開発されてきました↓

これらの試薬はp-tosyl azideよりは安定性に優れているものの、その調製過程においてアジ化水素やスルフリルアジドの発生を伴うので、安全面での懸念が付き纏うといいます。


imidazole-1-sulfonyl azideのテトラフルオロホウ酸塩や硫酸塩は非爆発性で、非吸湿性であり、合成法もより安全に改善されましたが(Org. Lett., 2013, 15, 18-21.)、"スルホニルアジド結合"は本質的に安定なのか?という疑問は常につきまとい、長期間の保存には向いていないかもです。

ちなみに、A Safe and Facile Route to Imidazole-1-sulfonyl Azide as a Diazotransfer Reagent (Org. Lett., 2013, 15, 18-21.)"では、フリーのimidazole-1-sulfonyl azideの酢エチ溶液を用時調製して使っています。

こうした"スルホニルアジド結合"を克服するために開発された試薬に、2-azido-1,3-dimethylimidazolium (ADM) saltがあります↓


ADMCは吸湿性だけど(単離できなかった)、ADMPは問題の一つである吸湿性が改善され、熱、衝撃、摩擦に安定な結晶性の化合物でかなりイケてる感じで、TCIやアルドから市販されています(危険物非該当のようです)(https://www.tcichemicals.com/eshop/ja/jp/commodity/A2457/https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/762415?lang=ja&region=JP)。

ADMPの合成法と反応例です↓


Synthesis, 2011, 1037-1044.


21 examples, up to 99% Yield

Eur. J. Org. Chem., 2011, 458-461.
(see https://researcher-station.blogspot.com/2016/05/diazo-transfer.html)

衝撃感度と摩擦感度の試験から爆発性は(試験の範囲内で)ネガティブと判定され、DSCによる熱分析の結果から分解開始温度は200˚C程度とイケテル感たっぷりなADMPですが、出発物質がちょっと高くて、湿気に弱く取り扱いが難しいのが難点だと指摘されます。その辺りを改善したジアゾ基転移試薬をということで開発されたのがADTです↓

Synthesis of ADT


Diazo-Transfer Reaction with Different Active Methylene Compounds

Comparison of Different Diazo-Transfer Reagents

BAM摩擦感度試験とBAM落槌感度試験はマックスレベルの試験でどちらも不爆、DCSによる熱分析ではざっくり120-130˚Cから分解が始まるけど吸熱的で、室温下で一年以上安定なADTを著者らは"本質的に安全"と猛アピールしています。
ADTを用いたジアゾ基転移反応は基質一般性に優れ、マイルドな条件で反応が進行します。安全性、ハンドリングの容易さ、反応性をトータルで考えると、ADTってDiazo-Transfer試薬のNew Srandardになるかもと誰もが夢想したことでしょう(多分)。

しかしながら、今春出た論文で、ADTは"Intrinsically Safe"ではないと指摘されました。
Diazo-Transfer Reagent 2-Azido-4,6-dimethyl-1,3,5-triazine Display Highly Exothermic Decomposition Comparable to Tosyl Azide
J. Org. Chem., 2019, 84, 5893-5898.
Bull et al. (Imperial College London, GlaxoSmithKline)

どういうことかと言うと、"Intrinsically Safe"を謳ったMa等の論文では、開放系でDSC測定していて、分解時に発生したガスの気化熱(蒸発潜熱)によって熱が奪われたっていうオチでした。はっきり言って、ありえないボンミスです。やっぱ、アカデミアの人は安全意識が低いのでしょうか?結局、密閉系でDSC測定したところでは、159℃から分解が始まり、その分解熱は-1135 J/ gにのぼり、(分解熱だけ言えば)TsN3と比肩するレベルで潜在的に爆発性があると考えないわけにはいかず、55℃以下での使用と、当然アジド化合物の爆発性を想定して取り扱うことが推奨されています。

とういうことで、2018年の注目論文の一つだった
Intrinsically Safe and Shelf-Stable Diazo-Transfer Reagents for Fast Synthesis of Diazo Compounds
はCORRECTION入ってます(see https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.9b00914)。
なので、もしADTを使ってみようと思う人がいたら、調子ぶっこいてぞんざいに扱わないように気をつけましょう。

以上、二流大出のテクニシャンのジアゾ基転移試薬メモでした。