2007年2月17日土曜日

知財を志向してみる (3)

2月13日, 14日と日本知的財産協会主催の知財セミナーに参加してきました(勿論業務です)。

まあ、会場の近くに旨い蕎麦屋があるという情報をキャッチしたので、会社に交通費を出してもらって、噂の蕎麦の味を確かめてやろうじゃないかというのがメインの目的だったのですが、最近流行り(?)の知財に関しても造詣を深めておこうかなという気持ちもあったので参加してみたのです(コンキチの勤務する会社では、社内で人材を教育するという思想が、まあ殆どないので)。

1日目は「発明のまとめ」と題した特許に関する講演を、2日目は「発想法・思考法」と題したワークデザインに関する講演を受講してきました。

で、折角なのでセミナーに参加して思ったことをメモかたがたチョット綴ってみようかと思います。

1) 「発明のまとめ」
講師は帝人の知財センターに勤務する方で、えらい話の旨い人(女性)でした(ただ、ちょっと話がはやいか)。この講演では、特許のカテゴリー(物質特許、製法特許、用途特許、パラメーター特許)と、特許の新規性・進歩性を中心とした解説が行われ、特許(の知識)初心者級のコンキチにはけっこういい勉強になりましたね。
a) 「強い権利行使を可能とするにはどのようにクレームすればよいかというケーススタディー」
b) 「特許出願時における拒絶理由への対応」
c) 「権利行使の可否」
d) 「先行技術との違いをどう出すか」
ということが、事例を交えてポイントを抑えた解説をしていただきなかなか有難かったです。

で、コンキチがこの講演を聴いて一番思ったことは、

やっぱり製造特許(化学)の権利侵害を立証するのって、難しいんだなあ

っていうことです。講師の先生も、CSRとか、コンプライアンス経営とか、ばれたときのリスク(社会的信用の喪失)が侵害の抑止力になるといっていました。

つまり、モラールの無い(または低い)企業が、ばれなきゃO.K.的発想で勝手に、かつ内緒で特許を使われたらどうしようもないということでしょう(やり得)。

アメリカではディスカバリーという情報開示の制度があり、ハードルが高いようです。まあ、国内だけでなく、大きな市場がある(またはこれから期待される)外国の特許法にも精通することも、特許戦略上重要なのだろうと思いましたね。気が向いたら、その辺のところもちょっと勉強してみたいです。

ちなみに推薦図書は、

特許〈化学〉明細書の書き方」 (室伏良信 著)

だそうです。

2) 「発想法・思考法」
ワークデザインというG. Nadlaerによって提唱されたシステム設計技法に関する講演を聴講しました。

ワークデザインの得意領域は、「ビジネスモデルの設計や改良」「新しいビジネスモデルの構想」「製品や部品の提案や改良」「問題解決」だそうです。

で、ワークデザインでは機能(システムの目的, 役割, 使命)を重要視しており、今回の講演ではワークデザインの中核である「機能展開」の解説と、機能展開を利用したビジネスモデルの構築・設計・改良に関する解説がなされました。
 機能展開とは、下位の機能(例えば、荷造り作業を例にとると「必要な荷物を梱包する」)に対して、「その機能によって何をしようとしているのか?」とい問いを繰り返すことによって、上位の機能(客が移動先の環境下で不都合無く家庭生活を営み、労働し、買い物をし、教育を受け、楽しむ活動をたすける)へと展開していくといった作業で、けっこう細かく展開していかなければならないそうです。
これをビジネスに応用した場合、上位の機能から顧客の潜在ニーズを見出し、そのソリューションを提案することでビジネスモデルを構築・設計・改良するのに役立てるとコンキチは理解しました。

ただこの機能展開がちょっとクセものだとコンキチは思いましたね。機能展開の例として、黒板消しの機能展開の例がよく用いられているようで、

(1) 黒板の表面をふく
(2) 黒板に付着したチョ−クの粉を落とす
(3) 黒板の表面に書かれた字を消す
(4) 黒板に次に書くスペ−スをつくる
(5) 黒板に次々と字や絵を書く
(6) 限定されたスペ−スを用いて目で見える情報を次々と伝える

というように機能の展開が為されていき、「限定されたスペ−スを用いて目で見える情報を次々と伝える」を顧客の潜在ニーズと考え、プレゼンソフトみたいイノベーションが創出が期待されるのでしょう。上位概念の機能を志向するという方向は間違っていないと思うのですが、その途中のステップってホントに必要?と思いました。
(学術研究としての価値というか重みを出すために、敢えて必要ない機能をつらつら並べているだけのようにも思えます)

経営学系の書籍を紐解くと、顧客ニーズをより広い概念まで広げて考えるというアプローチはけっこう頻繁に解説されているように思います。

a) シルク・ドュ・ソレイユ: サーカスの一段上の概念であるエンターテイメントショーという視点で演出を設計し、大成功を納めている(「ブルー・オーシャン戦略」)。シルクにとっての競争相手は、サーカスだけでなく、エンタメ事業者全てなのです。独走的なエンターテイメントショーが、「ショーを楽しみたい」という顧客ニーズを満たしたのでしょう。

b) カセラ・ワインズ: イエロー・テイルというワインのヘビーユーザー以外のアルコール愛好家(ビールとかカクテル)も楽しめるワインを設計・販売し、メガヒットを達成した(「ブルー・オーシャン戦略」)。「人々が楽しめるワイン」の上位概念である「人々が楽しめるアルコール飲料」という視点で商品設計し、ワインのヘビーユーザー以外の顧客ニーズを発掘している事例だとい思います。ちなみにコンキチもイエロー・テイル好きです。

c) サウスウエスト航空: 航空会社という位置づけではなく、より上位の概念である輸送業として自社をとらえ、スピードと便数に特化した戦略で低料金を実現して競争優位を築いた。他の航空会社以外に自動車による移動という代替輸送手段もライバルと見立て、両者にない価値を提供している。ラウンジとか機内食とかの輸送以外サービスはそこそこでいいから、スピード(移動時間)を重視したいという顧客ニーズをとらえているのでしょう。それでいて、料金は自動車(スピードは遅い)と競合するくらいの低料金ですから(「ブルー・オーシャン戦略」)。

d) ホーム・デポ: ホーム・センターという視点ではなく、ホーム・インプルーブメントというより上位の視点で、DIYという膨大な潜在ニーズを掘り起こした(「ブルー・オーシャン戦略」)。

e) BBA(Bush Boake Allen): 「顧客のニーズに合致した香料を売る」から「顧客の抱えている問題を解決する」という一段高次の視点から、新しいビジネスモデルを構築した(「製品開発力と事業構想力」R&Dを顧客に転嫁する事業モデル)。
cf. http://researcher-station.blogspot.com/2007/01/blog-post.html

f) 製造業→サービス業への転換: see http://researcher-station.blogspot.com/2007/02/blog-post.html(「ビジネスモデル戦略論」「脱」コモディティ化の成長戦略)

機能展開なんて仰々しいことをやらなくても、上位概念での顧客ニーズを検討すればいいんじゃないの?という気がします。

あとそれから、この機能展開なんですが、さらに展開をつき進めて行くと、

(6) 限定されたスペ−スを用いて目で見える情報を次々と伝える
          ・
          ・
          ・
(n) 人の情報の授受をスムースにするのは、理知的でいきいきとした生活を送らせるためであり、それは、人々を幸せにするため

というような感じで、なんか良くわかりませんが、最終的には「人々を幸せにするため」的なものに収斂するようです(なんかこの辺りは宗教的な感じがします)。

で、「企業の利益にため」という方向には展開してはいけないそうです。講師の先生は、「利益を上げさえすれはなにをやっても良いのか?」言っていました。でも、利益を上げることってそんなに悪いことですかね?

企業が利益を多くあげることにより支払われる高額な税金により、公共インフラを整備し、人々が快適に暮らせるようにする

とか

企業が継続的に利益を挙げることにより、ゴーイング・コンサーンたる企業体は、人々の雇用を拡充し、給与を上げ、人々の経済活動を豊かにする

的な発想も有りだとおもうのですが.....。

それに、「人々を幸せにする」と言ったって、幸せの定義は曖昧であるし、利便性を向上させることによって幸せを達成するということであれば、「利便性さえ向上させれば、何をやっても良いのか?」ということも言えるのではないかと思います。

さらに、株式会社が出来た歴史を鑑みれば、会社は利益を上げることが目標であることに疑いを挟む余地はありませんよね(TOCでも会社のゴールは(反社会的な行いをすることなしに)利益をあげることですよね)。

チョットGoogle(日本)でググッてみたけど、「(学問としての)ワークデザイン」のヒット数はイマイチでした。思考の方向としては間違ってないのでしょうが、ちょっと仰々しいかなという気がしました。

大野耐一氏の逸話に触れていたのですが、それが今回の講演で一番ためになりましたね。

講師の先生がとある工場で段取り時間を短縮するアドバイスをしたそうです。でも、受け入れられなかった。しばらく後、その工場の様子を伺ったところ、かつて行った提案通りの作業が行われ、段取り時間が短縮したという。で、先生は「私の言った通りでしょ」的なことを言ったらしいのですが、件の工場の人は「いいえ違うんです」と宣った。

何が違うのかと言うと、あの大野耐一が「俺が責任を取るからやってみろ」と宣うことで、改善策が実際に行動に移されたということなのだそうです。

講師の先生も、「アイデアなら出せるけど、責任はとれませんから」的なことを言っていました。

改革には豪気なトップの存在が必要

なのでしょう。

部分最適でも全体最適でもなく、自分最適を目指す二流大卒のなんちゃって研究員の徒然なる日記でした。

2007年2月10日土曜日

知財を志向してみる (2)

知財・特許業務マニュアル〈下巻〉」を読破しました。



法律とかそういった決まりごと関連の書籍は、正直退屈ですね。でも、興味深い内容もあったので、少々メモしてみたいと思います。

1) パテントマップ
特許戦略の本なので、特許情報をビジュアル化したものである「パテントマップ」に関してけっこうな頁が割かれています。

で、特にコンキチが興味を覚えたのが、この本の著者(有機化学系)の1人が現役時代にちょっとした遊びで作ったものらしい、メタロセン触媒によるオレフィン重合のパテントマップです。
x軸にモノマーの種類
y軸に触媒の中心金属
z軸に特許件数
を3次元プロットしたパテントマップなのですが、マッピングしてみた結果以下のことが分かったそうです。
 
a) エチレン、プロピレン、スチレンをモノマーに使ったものが多い。
b) エチレンの重合で使われる金属は、TiとZrが多い。
c) プロピレンの重合で使われる金属は、TiとZrが多い。
d) スチレンの重合で使われる金属は、Tiが多い。Zrはゼロ

で、ここで見えてくるのが

「スチレンの重合にはなんでZr cat.が使われてない訳?」

ということです。

本書では、この話題に関する詳細な追跡の記述もなく、またコンキチも専門外なので、実際上述したような「気づき」から具体的にどういった展開が可能かはよく分かりませんが、技術の視覚化によって、第三者がまだ気付いていない何かを見出すツールとしてはかなり有益かと思いました。

企業戦略、企業規模、ビジネスモデルによって上記リサーチは、ROIが必ずしも良いとは言い難い場合もけっこうあるかと思いますが、考え方としては見習いたいですね。

2) 特許出願戦略
コンキチは所謂化学工業というセクターに属する仕事に携わっています。で、そこで製造される製品というのは、パソコンとかTVとか車といった、はっきりとした、それ固有の形状を有さないものなのです。ジュースとか酒とか砂糖とか塩といった、言われてみないとそれとは認識しがたい物質が製品よして製造されてくるのです。しかも、B to Bビジネスしか営んでおらず、エンドユーザーが手にする製品の中に微量しか入っていない場合もあったりします。

で、そんなセクターに属する会社が、新規製造技術を開発してそれを守ろうとした場合、どういった方法がベストかということを考えさせられましたね。特許化を目指すべきなのか? それともノウハウとして保護し、隠密に先使用権は確保しておくという戦略の方が良いのか?ということです。

しかもプロセス・イノベーション的な発明の場合、果たして競合他社の特許侵害を見抜くことがどれほどできるのかはなはだ疑問があります。

企業のモラールにかけるだけでは、いささか白痴的ではないかということです。

今までコンキチは、上述したようなことをあまり考えたことがなかく、はっきり言って素人ですが、少しづつ勉強して行きたい気持ちは芽生えました。

3) 「筋の良い」テーマ
本書では、「筋の良い」テーマを生み出すためにはということにも言及していて、

イマイチくんな(研究)テーマが多いのは、

考える時間、そしてその前に、構造化(解析された情報が整理されている状態)された情報を準備することの重要性を組織としてあまりにも軽視してきた。考えごとをするのも、そのための材料を準備して下ごしらえをするのも、仕事ではない、対価を払うべき価値のある生産活動ではないとみなされてきた。だからこれまでわれわれは、筋の良いコンセプト(研究テーマ)を生み出すための投資、つまりは調査研究への投資をわずかしか行ってこなかった。

と断じています。

正直、この本はとても良いとは言い難いと思いますが、上記主張はコンキチと全く同意見ですね。TOCにもちょっと通じるところがると思うし。

本来知識集約型であるべき研究開発活動を労働集約型活動と見なしてきたことにそもそもの間違いがあるんだろうと思います。こういうパラダイムの転換を達成できた企業のみが、研究開発型の企業として生き残って行くのだろうなと感じています。


以上、コンキチの心にとまったことを幾つかメモしてみました。まあ、コンキチは二流大卒のしがないなんちゃって研究員なので軽く流し読みして下さい。

2007年2月6日火曜日

BASF : The Chemical Company

BASFからCD-Rが送られてきました。

昨年9月にコンキチはBASF主催の「BASF BORON CONFERENCE」という、有機ホウ素化学のレクチャーに参加したのですが、そのときの講演に使ったプレゼン資料を全てPDF化し、それをCD-Rに焼いてわざわざ送ってくれたのです。

凄い会社です。さすが世界最大級のグローバル・ケミカル・カンパニーだけのことはあります。

こういう啓蒙活動って、企業体が大きくなればなるほど求められるのでしょうね(広告も兼ねてなのでしょうが)。

化学業界の中にCSRを感じた一瞬でした。

BASFにはこれからもThe Chemical Companyの名に恥じない企業体であって欲しいと思います

2007年2月2日金曜日

「脱」コモディティ化の成長戦略

ビジネスモデル戦略論」という本を読んでいます。



まだ読み始めたばかりなのですが、第1章に興味深い論文が掲載されていたので、ちょっとメモってみたいと思います。

タイトルは、このブログの表題通りで、




「脱」コモディティ化の成長戦略


です。

コモディティ化した製品やサービス(超成熟産業)であっても、

BOU(unit of business: 事業評価単位、弁護士であれば請求対象時間、消費材メーカ−であれば石鹸の個数、航空会社であれば輸送乗客数といった買い手と売り手が取引を交わす際の基準)



KPI(key performance indicator: 重要経営指標、法律事務所であれば請求の対象時間に占める実際請求時間の割合、従業員1人あたりの時間単価、単位売上高当たりの管理コストとか)

といったプロフィットドライバーを再定義することで、競争優位を確保したり、長期的成長が可能であると論じています。

事例としては、生コンクリート、再保険、液化ガス、シール材、借り換え住宅ローン、ロジスティクス、ソフトウェアといった十分に成熟しきった事業が挙げられています。

で、

この論文を読んで、コンキチが特に感銘を受けたのは、成長するためには、たとえ製造業でさえも、サービス業化が求められているということです。

a) 顧客抱えている問題(顧客ニーズ)を把握すし、顧客ニーズを満たす=顧客の抱えている問題を解決するサービス(ソリューション)を提供することで、他社との強烈な差別化を図ることができる。

b) 自社で造っているからという安直な理由で、自社製品を売りつけているだけでは「コモディティ」を脱することはできない。成長のためソリューションビジネスへの転換を図るのであれば、ある意味、製造業からサービス業への業態の転換とも言えるパラダイムの転換を経験することになる。

c) このようなパラダイムシフトは容易に実行することは難しく(反対とか絶対起こりそう)、参入障壁となる。

d) よって競争優位を築くことができる。

とコンキチは理解しました。つまり、成熟産業の成長戦略には、


ソリューションビジネスへの転換


が必要ということなのでしょう。

成熟産業であると思われる香料業界に身を置くコンキチとしては(但し、香料事業とは関係ないセクションで働いている)、以前のブログで書いた、BBA(IFFに吸収合併された)という香料会社の事例a)が想い起こされました(但しその事業がその後どう展開されているのかは知りません)。

a 香料の膨大なデータベースをインターネット上で顧客が利用することにより、ある程度の製品設計を顧客自身にやってもらう。サンンプルは顧客企業内に設置したFA機器(自動調合機)によって数分で作成される。微調整も迅速にできる。

ちょっとIFFのWeb Siteを除いてみたのですが、


Consumer Fragrance Thesaurus


が件のサービスなのかもしれません(コンキチは英語が苦手なので、よく分かりませんが)。

気が向いたらAnnual Reportでも読んで、件のビジネスの展開を調べてみようかと思います(多分やらないと思う。何故なら、英語はよくわからないから)。

以上、二流大出のなんちゃって研究員の雑感でした。