2011年12月31日土曜日

トリフルオロメチレ〜ション!

大晦日。今年も蕎麦を喰いにいってきました。
今回は東京の名店ではなく、半年くらい前からジャブ程度に通っている近所のお店で今年最後の蕎麦を食してきました。

←食べたのは、大晦日限定メニューの天ぷらセットです。

-天ぷらセット (1,500 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
蕎麦の触感・歯ごたえは十分(かけそばでこのクオリティは評価に値する)。ツユはしょっぱさ控えめで、かつ少し酸が立つ印象。かけそばとしはかなりのクオリティと思います。天ぷらは、海老、椎茸、茄子に塩を振っていただく。で、この塩がなかなか美味しい。
あと余談だけど、富の宝山 (500 JPY)をはじめてお湯割りでオーダーしてみたんだけど、(温度、混合比率にもよるけど)お湯割り向きの焼酎じゃないですね。芋焼酎独特のオイリーな香味は立つんだけど、豊でニューウェーブ系の香りが消し飛んでしまって苦みが目立つ。ただ、お新香をつまんだ直後にお湯割りを口にふくむと、甘みの広がりを感じました。やっぱり、富の宝山はneatが一番と思いました。


閑話休題


さて、今年上半期に読んだ文献のメモです↓

Copper-Catalyzed Trifluoromethylation of Aryl and Vinyl Boronic Acids with An Electrophilic Trifluoromethylating Reagent
Org. Lett., 2011, 13, 2342-2345.

ボロン酸ユニットをトリフルオロメチル基で置換するお話です。

CF3置換アレーンの古典的な合成法は、SbF3やSF4を用いたC-F結合形成反応や、量論量の[CuCF3]を使ったC-C結合形成反応らしいですが、過酷な反応条件が必要で基質一般性に難があるらしいです。

で、近年、遷移金属を使った(相対的に)穏和な条件下での反応が開発されています↓


で、著者らの仕事はこんな感じです↓
18 exampls, 50-90% isolated yieldです。

この反応、R=p-Ph, Togni's reagent (1 eq.)で90%なんですが、リガンド無しだと36%だそうです。銅触媒の活性は、CuI > CuBr > CuCl > Cu(OAc)2 > Cu(OTf)2。CuI / 1,10-Phen = 1 / 1だと33%で、1 / 2がベスト。

塩基にK2CO3を用いた場合の溶媒効果は↓

diglyme (90) > DME (79) > DME aq. (63) > THF (52) > dioxane (37) > CH3CM (34) > DMSO (28) > DMF (23) > NMP (19) > CH2Cl2 (16) > PhMe (9) > Et2O (0)。

また、この反応は塩基にセンシティブだそうです↓

K2CO3 (90) >> Na2CO3 = K3PO4 (21) > CsOH・H2O (17) >> CsCO3 (3) > KOH (trace)


以前、Chem-Stationさんの化学者のつぶやきで「Late-Stage Fluorination」に関する記事がありましたが、この論文のCF3化はかなりマイルドな条件だし、Late-Stage Trifluoromethylationなんてどんなのかなと素人的には思うのですが、どうでしょうか?(ちなみに、ボクはTogni's reagentって使ったことないです。ちなみに、TCIで29,800 JPY/gですか。けっこう高いですね)

2011年12月17日土曜日

病院サロン化促進法案の崩壊

民主党は、医療機関の外来受診時の患者負担に100円を上乗せする受診時定額負担制度の導入を断念したらしいですね

とても残念です。なぜなら、これは国家レベルの壮大な社会実験だからです。

コンキチが以前読んだ「ヤバい経済学」にはこんな事例が紹介されています(see http://researcher-station.blogspot.com/2007/06/freakonomics.html)↓

親が午後4時に子供を迎えにこなければならないという決まりの保育園があり、親達はよく遅れてくると言う。そこで、10分以上遅れた場合は、その親には毎回3ドル(子供1人あたり)の罰金をとることにしたところ、週に8件の遅刻が20件に増えた。

この保育園の例は、罰金3ドルという安すぎプライシングにより、道徳的インセンティブ(ルール違反を侵しているという罪悪感)から経済的インセンティブ(ルール通り罰金というサービス料を支払っている)へとインセンティブの転移が起こったことが原因と思われます。

で、これと同じ現象が受診時定額負担制度(100円上乗せ)なのだとコンキチは考えます。近年、老人による病院のサロン化が社会問題として指摘されたりもしていますいが、100円上乗せでこの現象が助長されることをコンキチは予測していました。同法案が施行されれば、この推測が例証されるチャンスと思って、(民主党政権下で唯一)期待していたのですが、非常に残念です。

2011年12月11日日曜日

65歳まで働くということ

改正高年齢者雇用安定法が施行されて以来(年齢者雇用安定法がないのには笑えるけど)、(まともな企業では雇用形態は変われど)65歳まで働くことができます(ちなみに、オレの母校の教授の定年は十数年以上前から65歳だったけどね)。大抵は、60歳まであった「ザ・正社員」という資格(身分)を失い、契約社員とか派遣社員といったこれまでの給料が激減する身分に身を窶すとは思いますが、混迷を極める経済情勢と長生きするリスクが極大化の一途をたどる我が国においては、団塊の世代にとってなかなか魅力的な制度のような気がします。

でも思うんですよね。やってる仕事は変わらないのに給料激減する60-65歳の改正高年齢者雇用安定法対象者の人たちってどういう気持ちで仕事してるんだろうって

日本の伝統的な給与システムの欠陥とか定年制度の是非とか、いろいろと議論の余地はあるとは思いますが、やってる仕事が変わらないのに報酬激減するって、やっぱり人として心情的に受け入れ難いとボクは思います。すると、どうなるんだろうか?ココロの弱いボクだったら、モチベーション低下して、自分の働きを給与に合わせようとするな。端的に言えば「ダラダラ働く」ってこと。もしこの状況が看過されるなら、(まだ定年まで十分な時間のある現役正社員の)皆さんはどう思いますか?

人の心は誰にも分からず、上述したことはボクの想像に過ぎない。でも、もし上記の事象が存在したら、周囲の人(定年前の正社員。特に若年層)はどう感じるだろうか?はっきり言って、愉快じゃないんじゃないかな?って言うか不愉快!だって、法に守られた高年齢雇用者は既得権益者にして勝ち逃げ世代のくせに、ダラ夫と化すわけじゃないですか。

60-65歳労働する人って、よっぽどそれまでの仕事が好きだった人か、先行き不安な政治・経済情勢の中、老後の生活資金をキープするのに躍起な人でしょ。「仕事が好きな人」で仕事継続してる人は凄いと思うけど、「生活資金キープ」目的の人は、そのやる気の無さや卑しさが周囲に伝わってくると思うんですよね。これって、明らかに悪影響と思います。人間としての矜持を疑いますね。

かく言うボクも定年後の身の振り方を考えなければならなくなるときがやってきます(定年システムが維持されていることを前提)。その時に恥ずかしくない振る舞いができるように準備をしておきたいものです。

2011年12月10日土曜日

Hydrogenolysisの真実

けっこう前に、岐阜薬科大の佐治木先生の論文を読んだんですが、それに関連したメモです。

オレフィンのパラ炭使った接触還元って、極性の高い溶媒ほど反応速度が速かった(alcohol > EtOAc > hydrocarbon)と記憶してるんですが( 確か、新実験化学講座か実験化学講座に書いてあったと思う)、水素化分解ではその様相が異なります。

例えば、ベンジルエーテルの水素化分解では、トルエン中での反応速度を「1 」としたときの相対反応速度は次のようになります↓

ref. Greene's Protective Group in Organic Synthesis


一方、シンナミルアルコールのTBSエーテルを還元すると、その溶媒効果は次のようになります↓

ref. Tetrahedron, 2004, 60, 6901-6911.


ベンジルエーテルとTBSエーテルの切断では、溶媒の反応促進作用が逆転するみたいです。

2011年12月4日日曜日

漁業の未来

三重大の勝川先生の著作「日本の魚は大丈夫か」を読了しました。漁業に関するお話が書かれています。


我が国の漁業は、1970年初頭まで増加期、1980年末期まで高水準期で、以降減少期が続き、現在はピーク時の半分にも満たないといいます。そして、日本の漁業を次のように概観しています。

遠洋漁業(海外漁場)は焼き畑漁業の様を呈していたところに、EEZ (Exclusive Economic Zone)導入に伴う漁獲規制によって、公海は資源枯渇の危機にあると言います。沖合漁業(EEZの範囲)は、マイワシバブルの後、漁獲高が減少し、さらに未成魚の乱獲を経て、サバ資源を潰してしまったそうです(日本近海のイワシ、サバ、アジなどの大衆魚の資源量は低水準だそうです)。そして、沿岸漁業は参入障壁が低く、常に乱獲・飽和状態。ウニ、アワビなどの根付き資源以外は管理されていないらしいです。最後に、マダイやブリなどの養殖は、餌となる天然魚が大量に必要な贅沢産業で、一部の例外を除き経営は非常に厳しく、減少率大。要は、日本の漁業は非常に厳しい状態にあるということが述べられています。

一方、漁業の世界の潮流は、生産量が高めで安定で、魚価が上がっており、生産金額は増加しているそうです(ニュース番組で報道される漁業従事者の悲哀とは逆だ)。そして、ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、オーストラリア、チリといった国が漁業先進国だそうです(そういえば、近所のスーパーで売ってるサーモンはチリ産だな)。


で、漁業先進国の雄、ノルウェーも、1970年代中頃まで、過当競争→乱獲→資源枯渇→経営の破綻→補助金漬けという道を辿っており、現在の衰退しきった日本の漁業と酷似した状況だったそうです。しかしながら、漁獲抑制やQC (Quality Control)といった改革が功を奏し、彼の国の漁業はV字回復したそうです。
また、ノルウェーでは、「それ以下の値段では鮮魚は売れない」=「薄利多売は許されない」という独自の最低価格制度を設定して品質を保証しているそうです。(EUでは品質に関係なく最低金額を設定=公的資金で乱獲報奨金を与えているので、ポルトガル、スペイン、フランス、イタリアでは漁業が衰退している)。さらに、養殖業は企業化してスケールメリットを享受しているとか。

漁獲枠制度にも大きな違いがあります。世界では、アイスランド、ノルウェー、韓国、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、日本で、TAC (Total Allowable Catch: 総漁獲可能量)を設定しているそうですが、日本におけるその運用はお粗末極まりないそうです。ノルウェー、韓国は、IQ (Individual Quota: 個別漁獲枠制度)で、アイスランド、デンマーク、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカではITQ (Individual Transferable Quota: 譲渡可能個別漁獲枠制度)で管理しているのに対して、日本ではオリンピック方式(早い者勝ち=乱獲を助長)で管理されています。

さらに日本のTAC設定は、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マサバ(+ゴマサバ)、ズワイガニ、スルメイカの7種のみで、乱獲を続けてもクリアできる非常に大きな数字が割り当てられているという杜撰なシステムなんだそうです。例えば、スケトウダラ日本海北部系群では、科学的に現状が維持できる漁獲可能量(4,000 t)を遥かに超えるTAC設定(16,000 t)がなされていたり、マイワシ太平洋系群では、海にいる魚よりも多い漁獲枠を設定していたことさえあったそうです(狂ってるね)。

ちなみに、日本とノルウェーの漁業の現状を比較するとこんな感じだそうです↓
漁業従事者/ 日本 21万人, ノルウェー 1.9万人
漁獲量/ 日本 550万t, ノルウェー 280万t
漁獲者1人当り漁獲量/ 日本 26t, ノルウェー 147t
資源状態/ 日本 低位減少, ノルウェー 高位横ばい
補助金/ 日本 1,800億円以上, ノルウェー ほぼゼロ
貿易(重量)/ 日本 輸入1位, ノルウェー 輸出1位

しかも、ノルウェーでは漁獲枠が船に張り付いていて、SQS (Structural Quota System)という漁船をスクラップする場合に限り、他の漁船に漁獲枠を移動でき、漁船のシェアも可能というシステムを導入して、過剰な漁業者の退出を促進しています。さらに、ノルウェー漁業の秀逸な点は透明性の高い流通システムです。洋上の漁船は、漁業組合が運営するオークションサイトに獲った魚の量やサイズ、漁場などを携帯電話で報告します。ノルウェー国内および周辺諸国から入札があって、水揚げは落札者の指定した漁港で行われます。さらに、漁業が行われている魚の種類、魚種の漁獲枠の消化割合、過去一週間の平均落札額などが閲覧でき、リアルタイムでノルウェー近海の漁獲状況が分かる地図があるそうです(http://www.sildelaget.no/default.aspx)。

水揚げされた魚の大きさ体重などの情報が全て外部に公表されていて、獲った魚の測定方法は、1tにつき何尾測定するなど細かいことまで決められていて、測定がいいかげんな船は、入札者の信用を失って値がつかなくなるという形で制裁を受け、漁業者の申告を水揚げ内容が違うというクレームが入札者からあれば、組合の職員が必ずチェックを行うそうです。


こうして、ノルウェーでは漁業者のインセンティブを適切に設定することによって、QCを促進し、スケールメリットを享受できるようにし、優れたマーケティングを導入することで漁業を持続可能で魅力的な産業へと転換したのだと思います。

勝川先生の本は、漁業の問題を全般的によくまとめていると思いますが、このような日本漁業の問題は、何十年も前から指摘されていて、全く目新しいものではありません。例えば、大前研一は、その著作「企業参謀」の中で同様の問題に言及しているし、ニュース番組でも同様の問題が度々報道されています。また、漁場における乱獲問題は、経済学の教科書では「共有地の悲劇」「市場の失敗」として取り上げられていて、その解決策も提示されています(それをやったのがノルウェー)。それにも関わらず、我が国の漁業の体たらくっぷりを鑑みると、いま現在日本の行業を仕切っている奴らはダメダメのグズグズな奴らで、その環境に甘んじている零細漁業従事者はナマケモノだってことは明らかと思います。

現状維持では、日本の漁業の未来は推して知るべしでしょう。

see
http://ja.wikipedia.org/wiki/コモンズの悲劇
http://researcher-station.blogspot.com/2009/02/blog-post.html
http://researcher-station.blogspot.com/2010/08/2.html
http://researcher-station.blogspot.com/2008/07/blog-post.html

2011年11月30日水曜日

素敵なフリーデル

1ヶ月くらい前に喰った蕎麦の写真です↓

無名庵っていう蕎麦屋で食べたんですが、なかなかGood!でした。

-無名庵 もりそば (700 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
つゆは甘過ぎず、辛過ぎずで、深みもあり美味しい。蕎麦は、歯ごたえ、喉ごともによく、噛むと味がしみ出る感じ。(味は落ちるが)九段一茶庵や蕎上人に酷似したお蕎麦。


閑話休題


さて、今年上半期に読んだ文献のメモです↓

“Greener” Friedel−Crafts Acylations: A Metal- and Halogen-Free Methodology
Org. Lett., 2011, 13, 2232-2235.

GlaxoSmithKlineの論文で、メタルフリー、ハロゲンフリーでFriedel-Crafts Acylationを行うという内容です。さらに、極めて小さいE-factor (高いmass productivity)を実現しています。さすが、REM (Reaction Mass Efficiency)という環境指標を考案した企業だけのことはあります。

で、反応条件はこんな感じの反応です↓

9 examples, 53-87%。個人的にこの反応で一番凄いと思ったことは、クロロベンゼンでも反応が進行するってことです(収率はイマイチだけど)。これは凄い。

で、代表例はこれ↓
エクセレントなプロシージャーです。

あと、共溶媒の添加でメリットが出る場合があります。

上段は、さらなるアシル化と分解を抑制するのに役立ち、中段は、高沸点溶媒の添加で反応温度アップ。下段は、希釈効果でover reactionを抑えます。

最後に、著者等は自社化合物の合成にこの反応を応用しています↓

昔、Friedel-Crafts使ったプロセス•ディベロップメントでかなり苦労したことがあるコンキチ的には、この反応、機会があれば、是非使ってみたいと思いました。

2011年11月27日日曜日

エコ・フレンドリーにオレフィンを開裂せよ

先日、久しぶりに秋葉原のヨドバシカメラのレストラン街に行って、<CHABUTON>のラーメン喰ってきました。


-鶏旨らぁ麺 コラーゲンボール添え (750 JPY) memo-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
麺はスナック系の極細ストレート(かなり好み)。スープは鶏の濃厚かつ上品な味がgood!とても美味しい。バジル風味のコラーゲンボールが添えられていて、これを加えると、oilyなベジタブル感が広がる(個人的の、これはいらない)。スープの表面には油が浮かべていて、最後までアツアツ感が楽しめる。具はズッキーニなど、細小サイコロカットされた食材がちりばめられていて、見た目にも楽しい。
(ただし、この店舗における店員の質は良質とは言えない)


閑話休題


さて、今年上半期に読んだ文献のメモです↓

Oxidative cleavage of alkenes using an in situ generated iodonium ion with oxone as a terminal oxidant
Org. Lett., 2010, 12, 5640-5643.

4-ヨード安息香酸もしくはヨードベンゼンをオキソンで酸化してヨードニウム塩をin situで発生させ、こいつを使ってオレフィンを開裂させるというお話です。


オレフィンの開裂というと、オゾン酸化やオスミウム酸化が真っ先に頭に浮かびますが、その安全性とか装置の制約とか毒性とかが問題になり、愉快な反応とは言い難いと思います。この反応ではアルデヒドの調製は難しいですが、軽く凄いなって思います。(逆説的に、オゾニドって凄いなとも思う)

4-iodobenzoic acidとOxoneの使用量と成果物の生成比との関係はこんな感じ↓

14 examples, 33-90% yield。ちなみにこの反応、ヨウ素源としてはヨードベンゼンでもO.K.です。

あと、著者等が提案する推定反応機構はこちら↓

それから、反応速度は、結合が開裂する二重結合にフェニル基が置換している基質や、リジッドなcis-ジオールで速いようです。

基質一般性は、構造に結構依存しそうですが、この条件で二重結合が開裂するのは魅力的と思いました。

2011年11月13日日曜日

滅日

元経産省官僚の古賀茂明氏が現役官僚時代に上梓した「日本中枢の崩壊」を読了しました。


感想を一言で述べれば、官僚機構(公務員システム)ではインセンティブ設定が破綻してるなということでしょうか。要は、自身が所属する官庁の仕事をムダに増やすことが評価の対象で、国家のために費用対効果を高めても全く評価されない。マジで狂ってる。それから、先輩(の施策)を批判するのは最大級のタブーだそうです(この無謬性も変態じみてる)。

あと、この本を読んで分かったことをメモしてみます↓

a) ダメな自民党から民主党へと政権交代したが、民主党は(やっぱり)ダメダメだった
b) 保護主義は(第一次産業も含めて)産業の競争力を奪う
c) 零細農家の多くは兼業農家かじっちゃんの趣味。農業生産額先進国第二位
d) 官僚は一度入省すると、その官庁は終の棲家になる
e) 無能な民主党では公務員制度改革は無理
f) 民主党議員は労組とべったり(組合は一年生議員の選挙活動を支援する)
g) 長妻氏は厚労相時代、全省的に激しいサボタージュにあったと推測される
h) 永田町言葉の特徴→「しっかりと」といったあまり意味のない表現で、ニュアンスを出す(無能宰相の菅直人が得意だった)。あと、「きっちり」とか「是々非々」とかも無能な政治やがよく言うよね。
i) 霞ヶ関言葉「○×等」と「等」を入れた場合、後で拡大解釈するための布石 「前向きに」は「やる」。「慎重に」は「やらない」
j) 橋龍は、晩節は散々だったけど、構造改革・行政改革に燃えていた(経済財政諮問会議つくったのは彼の内閣だしね)。女癖は悪かったようだけど、一廉の人物ではあったと思うな。
k) 「一元化」→「一体化」は後退。例えば、「幼保一元化」は最近「幼保一体化」と言い直しているが、「一体化」は完全に一緒にするというわけではないという意味を含んでいるという。一つの建物のなかに幼稚園と保育園がそれぞれ独立して入っていれば「一体化」されたといえる(物理的な一体化。中身は全く前と同じで、所管するのもそれぞれ文科省と厚労省)。
l) 「人事院からの(内閣人事局への)機能移管なんて絶対にできるはずないよ。僕だってやろうとしたけどできなかったんだよ」 by 石原伸晃。けっこうヘタレだな。
m) ヤマトホールディングスでは、管理職には全員、評価の順番がついていて、下位1割は、たとえ失点がなくても、自動的に入れ替えられるシステムになっている。古賀氏はこの人事システムを官僚機構に導入することを提案している。

気になったことのメモはこんな感じかな。


古賀氏は、現在の日本が凋落ぶりは危機的状況にあり、一刻も早い改革が必要だが、国家の中枢の危機感は希薄だとおっしゃる。しかしながら、改革派官僚の最右翼の古賀氏をスポイルするような政党では、改革はおぼつかないでしょう。もう、我が国は行くとことまで行っちゃわないと(尻に火がつかないと)、真剣に改革しようなんていう気にはならないでしょう。そういう観点から考えると、ダメダメな民主党を敢て応援して、彼の党に一度日本をケチョンケチョンに叩き潰してもらった方が、結果的に構造改革が推進されるんじゃないかななんて思った二流大出のガテン系研究員でした。


Tropylium Ionの新展開

先日、御徒町の蒙古タンメン中本に行って蒙古タンメン(770 JPY)を(初めて)食べてきました。

で、その感想です↓

-蒙古タンメン memo-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
味噌ラーメン(タンメン)に辛めの麻婆豆腐(挽肉無し)を載せた商品。麺は白色の中太で微弱にウェーブ。十数年前のリンガーハットのチャンポン麺とうどんの中間の食感か?甘めの無難な味噌ラーメンに麻婆を載せた安直なラーメンは普通に美味しいけど、ただそれだけで特筆すべきことはない。アンは硬めで(形崩れ防止?)好みではなく、大量に入っているキャベツは茹で過ぎで食感悪く邪魔。再訪しようとは全く思いませんでした。
後日、サッポロ一番ミソラーメンに挽肉無し麻婆豆腐載っけて食べたら普通に美味しかったですけど、蒙古タンメンも、味の相性のみに依存したその程度のレベルのラーメンと思いました。


閑話休題


今年上半期に読んだ文献のメモです↓

Tropylium Ion Mediated α-Cyanation of Amines
J. Am Chem. Soc., 2011, 133, 1260-1262.

aromatic cation (シクロプロペニウムカチオン)を用いて反応開発してきた著者らが、今度はトロピリウムイオンに目をつけました。で、本報は、トロピリウムイオンでアミンをイミニウムイオンに酸化し、そこのCN-を作用させてアミンのα-位をシアノ化するというお話です。


ちなみにこのトランスフォーメーションをDDQ, KCN, !8-C-6で行うと、α-シアノ化はベンジル位が優勢となります(C-H結合の結合解離エネルギーからはベンジル位での反応が期待される)。

で、著者らはトロピリウムイオンとDDQを使った場合の選択性の相違は、下図に示すようなelectron donor-acceptor complexを仮定すると上手く説明できるのではないかと考えています(electron donor-acceptor complexは、J. Am. Chem. Soc., 1989, 111, 2954.で報告されているらしいです)。


あと、こんな基質ではaza-Cope転位が起こります↓

(トロピリウムイオンによるN-アルキル化はジフェニルの立体障害により抑えられると著者等は考えている)

トロピリウムイオンの電子的・立体的チューニングや他の官能基導入とかが今後の展開としてあるのかな?


2011年11月12日土曜日

Aromatic Cation Activation (4): CyclodehydrationのためのCyclopropenium Cation Activation

先日、映画「ステキな金縛り」を観てきたんだけど、最高にイイね
主演の(ボクの大好きな)深津絵里が最高にキュートで良いです(この髪型にグッときました)。(個人的な)最大の見所は、ふかっちゃんの金縛りシーン(ホント秀逸な演技)。

オレって10年くらいプロセスやってたせいか、豪華絢爛な映画よりも、こんな映画が好きです。三谷(関連)作品はそこそこ観てますね。例えば↓












閑話休題


今年上半期に読んだ文献のメモです↓

Cyclopropenium-Activated Cyclodehydration of Diols
Org. Lett., 2011, 13, 740-743.

Lambert等はこれまで、アルコールの塩素化カルボン酸の塩素化Beckmann転位に自身の開発したAromatic Cation Activationを適用してきましたが、今回はジオールのCyclodehydrationによる環状エーテル合成に応用しています(10 examples, 81-95% Yield)↓

(X=OMs, in situで3,3-ジクロロ-1,2-ジフェニルシクロプロペンを発生させます)

従来のジオールのcyclohydrationの問題点には、選択性の欠如、過酷な反応条件、調製が面倒な試薬の使用、いやらしいバイプロの生成といったものがあるようです。

で、今回、著者等が開発した方法だと、穏和な条件下、高収率、高選択性で反応が進行します。また、メシル化された化合物は生成せず(基質: 1,4-ジオール、1,5-ジオール、1級アルコール)、α-ヒドロキシエステル、ベンジル保護された1,2-ジオール、ニトロアルコールを基質に用いた場合でも、β脱離することなしに反応が進行します。

あと、2-hexen-1,6-diolを基質に用いると、SN2'型の生成物が得られます↓



それから、フェノール性水酸基でもオッケーで、クロマンを合成できます↓



最後に、グラム・スケールでの反応で実用性をアピール↓

(Ms2Oのみだとno reaction。Ms2O, Et3N, 12 hで18% yield)


個人的に、機会があったら使ってみたい反応です。ちなみに、Ms2Oじゃなくて(COCl)2でシクロプロペノンを活性化するとSN2率が甘くなります。


2011年10月18日火曜日

Think different.

Appleの創業者の1人にして前CEOのSteve Jobsが逝ってしまった。アップル信者のご多分に漏れず、ボクにとってJobsは教祖様であり最高のイノベーターの一人だった。

彼の最大の業績は、コンピューティングを大衆のものとしたことにあるとボクは思います。あの英知を表すのロゴと卓越したGUIにボクは魅了された訳ですよ(はっきり言ってWindowsはMac OSの模倣でしかないと思うし、未だに漢字TalkのGUIを超えるに至っていないと思う)。

Appleの卓越したGUIやiPhoneのマルチタッチスクリーンと言ったイノベーティブな体験は、技術的にはそう難しいものではなく、その発想さえあればApple以外のメーカーにも具現化できたと記憶しています。

ここでボクの好きな文章を↓
希代の天才が、「何もないところからアイデアを生み出す」というイメージはロマンがあって魅力的であるが、危険なフィクションである。イノベーションや創造性というものは、そのイメージほどミステリアスなものはない。すでに開発されたアイデアを取り入れ、それを新しい状況に適用しているにすぎない。

Jobsは確かに全く新しいヴィジョンを我々に示したと思うけど、それを具現化するためにすでに開発されたアイデアを取り入れ、それを新しい状況に適用することの天才だったと思う。iTunesだって、無から有を生み出したわけではなく、IT周辺のエコシステムを巧みに利用したに過ぎない(十分過ぎるほど凄いけど)。

個人的にAppleやJobsを語るとき、彼がAppleに復帰してすぐにやったキャンペーンのコーピー「Think different」が真っ先に頭に浮かぶんだよな。そして、その思想がApple復活と躍進に原動力だったんだろうなって思います。
(Jobs以外にThink different的な発想してる経営者って、セブン& アイの鈴木会長くらいしかボクは思いつかない)、

ところで、Apple以前に世界で最もイノベーティブかつクリエイティブな企業ってSonyだったと思います。実際、Jobsは盛田昭夫を尊敬してたし、Sonyの繰り出す製品は斬新でデザイン的にも美しかった(と思う)。しかし、そのSonyも一部ではクリエイティブな製品(例えば、FeliCa)も有しているけれど、その凋落は著しく、普通のメーカーになってしまった感がある。

Jobsなき後のAppleにはSonyと同じ轍を踏んで欲しくないと思う二流大出のなちゃって研究員でした。やっぱ、

Think different.

だよね
Jobsがボクたちに残してくれた最高のメッセージと思います。


研究員のエンサイクロペディア (11)

←先月、天童で開催された学会に行ってきたんですが、そのときにこんな蕎麦屋(http://www3.ocn.ne.jp/~suisya/)に行ってきました。



で、食べてきたのは、蕎麦屋なのに何故かラーメン→
このラーメンは「鳥中華 (650 JPY)」っていう名前で、なんでも、日テレのB級グルメランキングで全国6位の一品だそうです。
-鳥中華 Memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
麺は、黄色の中太麺で軽くウェーブがかかっていて、歯切れが良い。スープは、あっさりした和風テイストでスパイス(胡椒)がかなり効いている。意外にも麺にスープが良く絡む。きちんとしたラーメンの体裁を整えており、蕎麦屋のラーメンと侮ることはできない。アッ、あと「鳥」中華って言うだけあって、具の鶏肉が売りのようです。

閑話休題。
研究員のエンサイクロペディアです↓

補助金【Hojyokin】

1) 競争力を失った産業に従事する者の怠惰を促すために投入される税金。これにより、当該産業の競争力はますます失速するとともに、事業従事者の高年齢化を誘起する。我が国では、農業、漁業に対する補助金が代表的。


2011年9月19日月曜日

生命保険は本当に必要か?

最近、パワーヨーガをはじめて筋肉痛に悩まされているコンキチです。ちなみに、こんなグッズを使ってます↓




閑話休題


今年、8日ばかり入院してたんですが、その時の医療費の話を書きます。

病院からの請求金額は、保険適用外の診療は無しで、保険分負担金額が85,070円。それから、食事・生活費負担が4,680円(保険適用で1食260円)の計89,750円でした。

で、ボクが加入している健康保険組合から65,000円給付されたので、実費負担は差し引き、24,750円也。

一般的には、1ヶ月の自己負担限度額(保険診療)は、80,100円+(医療費-267,000円)×1%となり、それを超えた額が高額医療費として給付されるんだけど、ボクの入ってる健保組合の場合は自己負担20,000円(100円未満の端数切り捨て)で、超過分は付加給付として健保からバックされます(扶養家族にも適用される)。

なので、ボクの場合、医療保険ってはっきり言って無くても良いレベルと思います。

それでも、(残された家族に対する)死亡保障はいるだろうという人もいるかもしれませんが、ボクの場合残された家族は(端数処理は良く分かんないけど)↓

遺族基礎年金:   792,100 + 227,900×2 = 1,247,900 JPY
遺族厚生年金:   (289,554×7.50/1000×48 + 491,919×5.769/1000×92)×1.031×0.985×3/4 = 278,250 JPY
共済会遺児年金 50,000×2×12 = 1,200,000 JPY

Total:   2,726,150 JPY/YearをGETできる訳ですよ(多分)(子供が本来の扶養をはずれる年頃になるまで)。

さらにボクの場合、死亡弔謝金 二百万円が給付され、住宅ローンの団信で二千万超の借金がチャラになります。あと、学資保険の掛け金もチャラになる(オレの遺産と企業年金もある)。

ついでに、子供が大学進学した場合は、入学金や授業料の免除も相当受け易くなるでしょう(ボクの経験から言うと、国立大だったらほぼ確実)。


本来、こういったことを勘案して保険なる宝くじを提案しなければならないと思うんですよね、保険のセールス・レディー(保険のおばちゃん)は。でも、ヤツ等はそんなことおかまいなしで、隙あらば少しでも高額な保険料のプランを提案してくる。あわよくば、所得保障プランなんてねじ込もうとするわけですよ(休職期間中も、ある程度給料でるっつうの)。そもそも、不慮の事故・病気・死亡なんてのに見舞われる確率は十分に低い(そうでなければ、保険事業は破綻している)。そして、それらに対するヘッジもある程度(生命保険なしに)備わっている場合が多い(と思う)。そもそも、あいつらボリ過ぎ(一部の破綻した生保を除いて、逆ざやでもなんのそのだったじゃないですか)。

ちなみに自分、全労済(総合2倍, 掛金3,600円/月)から給付された共済金は28,000円でした。生保なんてそんなモノです。

2011年9月17日土曜日

ブラック・スワン化する世界

先日、橘玲の新著「大震災の後で人生について語るということ」を読了しました。


著者によると、この本は日本に降りたった二羽の「ブラック•スワン」の物語であるそうですが、ボク的には、ブラック•スワン化の進行により従来の成功スキームが崩壊していて、新しい成功スキームを手に入れなければならないっていう話と思いました。

ブラック・スワンとは、「ありえない or 起こりえないと勝手に人間が思っているだけで、実際に起こっちゃった想定外の衝撃的事象」で、その特徴は↓

a) 異常であること。過去に照らせば、そんなことがおこるかもしれなとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること
b) とても大きな衝撃があること
c) 異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること(後知恵バイアス)

です。

参考までに、ボクのブラック•スワンに対する感想→http://researcher-station.blogspot.com/2009/10/4th-quadrant.html


かつて、日本人は「不動産神話」、「会社神話」、「円神話」、「国家神話」の四つの神話を盲信し、一様にそれに則った成功スキームに乗って人生設計してきたと言います。巨額の住宅ローンを組んで持ち家を買う。大企業に就職して定年を迎える。円資産の集中保有。定年後は(公的)年金生活。

しかし、四神話の信者にとって現状は厳しい。不動産価格はバブル崩壊後大きく値を下げ、持ち家世帯の債務超過は必至だ。そもそも、ボクに言わせりゃ終身雇用なんて日本に存在したことなんてないし。円神話があったというのは初耳だけど、実質購買力を維持するには、為替リスクは重要だ。現在の政府債務残高と将来のい人口動態を鑑みれば、公的年金なんかこれっぽっちも期待できない。正に、神話の崩壊はブラック•スワン。要は、日本人の伝統的な人生設計プランは、もう死んでいるってことです。

じゃあ、新成功スキームはなんなの?ってことですが、ボク的にはこう解釈しました↓

a) スペシャリストを目指す(拡張不可能な仕事に従事する(月並みの国の)クリエイティブクラス=安定して給料がそこそこ高い)。弁護士、医者、会計士などの専門家。ゼネラリストや場マックジョブを志向して会社にしがみつく生き方はもはや残念な生き方だし、クリエーター(拡張可能な仕事に従事する( 果ての国の)クリエイティブクラス)として成功するのはギャンブルに近しい。

b) 資産を不動産(住宅ローン)と円預金のみに集中させない(橘氏は一貫して国際分散投資を薦めている)

c) 国家に依存しない生き方

ってところでしょうか。

あ、あと、借金しまくりの日本が財政破綻(円の信用が失墜して通貨の価値が大きく毀損)した場合確実に起こることは、

(1) 高金利
(2) 円安
(3) インフレ

だそうです( ボク的にはサクサク財政破綻してもらって一向に構わないです)。


ちなみに、著者の言う二羽の黒鳥は、1997年のアジア通貨危機を端緒とした金融機関の経営破綻(失業率の上昇と自殺者数の増加)と、「3.11」です。著者の橘氏は、「3.11」から大きな衝撃をうけて少しセンチになっているためか、本書はやや精彩を欠いているように思えて少し残念です。

最後にブラック•スワンについて一言:ボク的には、今後、ブラック・スワンの発生頻度は増大すると思います。ボクたちの関心はより開いた系へと向かっていると思うから。考慮すべき要素が指数関数的に増えていって、全てをキャッチ・アップできなくなる。その結果、想定外のビッグ・イベントにやられちゃっう。常識とか神話とか経験は、考慮すべきファクターの全てを勘案して練り上げられたものではないから玉湯等なのだと思います。

2011年8月15日月曜日

Aromatic Cation Activation (3): Beckmann転位のためのCyclopropenium Cation Activation

最近暑いので、COOLBIZ(下駄=Japanese Traditional Shoes)通勤しているコンキチです。足下がはっきり言って超爽快です。

さて、前回のエントリーに続いて、またBeckmann転位に関する文献を2報読んでみました。どちらも全く同じ反応です。

Cyclopropenium ion catalysed Beckmann rearrangement
Chem. Commun., 2010, 46, 5808-5810.
Yadav et al.

Cyclopropenium-activated Beckmann rearrangement. Catalysis versus self-propagation in reported organocatalytic Beckmann rearrangements
Chem. Sci., 2010, 1, 705-708.
Lambert et al.


Lambertのグループ(Columnia Univ.)は、過去にシクロプロペニウムカチオンがアルコールやカルボン酸を活性化して、マイルドに塩素化するという論文を発表しています。
see
•アルコールの塩素化→http://researcher-station.blogspot.com/2010/07/aromatic-cation-activation-1.html
•カルボン酸の塩素化→http://researcher-station.blogspot.com/2010/08/aromatic-cation-activation-2.html

で、今回はオキシムを活性化してBeckmann転位に応用するというお話。ちなみに、パブリケーションされたのは、Yadav (Univ. of Allahabad)の方が先です。

Yadav等のグループの報告では、3,3-ジクロロ-1,2-ジフェニルシクロプロペンの触媒量の添加でBeckmann転位が進行することを見出した後、additiveを最適化し(ZnCl2が最適)、推定反応機構(触媒サイクル)の提案をしています。17 examples (うち15例は91-99% yield。C8とC9の環状オキシムの収率が悪い)。


一方、Lambert等のグループでは、シクロプロペニウムカチオンの置換基をチューニングして最適化を行っています(より高いpKR+の基質が高い活性を示します(R: Xyl≒Mes > 4-OMe-Ph > iPr > Ph))。オペレーション的な面からも、シクロプロペノンと(COCl)2からin situでジクロロシクロペンタノンを発生させて反応に処すという簡便なアプローチを提案しています(これは便利!)。さらに、検証実験を繰り返し、Yadav等の報告とは異なった反応機構を提案しています。12 examples, 80-99% yield。

さて、両者の反応機構対決ですが、Yadav等は次のような触媒サイクルを提案しています↓




Proposed mechanism (Yadav et al.)


Yadav等は、室温では転位が起こらず、加熱することではじめて反応が進行するとし、2,3-dipenylcyclopentanoneとimidoyl chlorideが検出されなかったことを根拠に上記反応機構を提案しています。

これに対して、Lambert等は次の様な二つのサイクル、すなわち触媒サイクルと自己伝搬サイクルを考え、検証実験をして、最終的に自己伝搬サイクルを採用しています↓



Mechanistic analysis (Lambert et al.)




っていうか両者の反応機構全然違うんですけど.....
まあ、両者の論文を読んでみれば分かるんですけど、Yadav等の反応機構の考察の基となる実験データがpoor過ぎると思います(安直に結論を出している)

そもそもYadav等は、「この反応は室温では進行しない」としていますが、Lambert等の報告によると、触媒で回らないけど、余裕で室温で反応が進行します。化学両論量の3,3-ジクロロシクロプロペンを用いれば、室温でも収率良くBeckmann転位成績体が得られます(例えば、シクロヘキサノンオキシムのBeckmann転位は、MeCN, rt., 2 hrで95% yield)。

さらに、catalyticかself-propagatingかを検証する一助として、オキシムとシクロプロペノンの求核性を、(COCl)2との反応を競争させることで比較しています↓

で、この実験結果からはシクロプロペノンよりもオキシムの方が求核性が高いことが例証されました(これは、self-propagationを支持する。だけど室温下での両論反応ではcatalyticのpathで進んでimidate or imidoyl chlorideで止まってるのかな?Cyclopropenium Cation Activationが転位よりも十分速ければそうなると思う。あと、オキシムがたくさん存在する触媒システムにおいても、self-propagatingメインで進むとしても、catalyticのpathも同時に起こっている可能性もある気がする)。

また、こんな実験もしています↓
この実験から、imidoyl chlorideとTCTの反応性はほぼ同等であることが示唆されます。
また、プロモーターにTCTを使った場合、1H NMRから、imidoyl chlorideの塩酸塩が検出できるそうです(これは前回のエントリーで紹介したBeckmann転位の反応機構にも疑義を呈している)。
これらの実験結果から、Lambert等は、TCTを使った反応も、Aromatic Cation Activationによる反応も、imidoyl chlorideを介したself-propagationではないかと考えているようです。

←あと、Aromatic Cation ActivationによるBeckmann転位は、オキシムの異性化が起こらないです(TCTを使った場合は、異性化する)。

あと、こんな基質を使って、実用性もアピール(でも、何で溶媒にニトロメタン使うんだ?っていうか、基質一般性についてもアセニトよりもニトロメタンをメインに使ってるんだよな)↓

・cyclopropenone (105 mol%), rt., 2 hr
 → 90% yield
・cyclopropenone (5 mol%), 80℃, 3 hr
 → 94% yield

さらに、Lambert等は、TCTよりもCyclopropenium Cation Activationの方が活性が高いこともアピールしています。室温でアセトフェノンオキシムの転位反応を行った場合、TCTだと、MeCN中ではno reaction。DMF中で6 時間反応させて100% conv.なのに対して、3,3-dichloro-1,2-bis(2,4-dimethylphenyl)cyclopropeneを使うと20 minで98% yieldです。ちょっと高いけど、なかなかの高活性。

一般的に酸や脱水剤の存在下、高温が必要っぽいようですが(恥ずかしながら、自分、Beckmann転位ってやったことないです)、マイルドな条件でこの活性と収率はなかなかと思います。また、オキシムの異性化が起こらないのも価値があると思います。

ボク的には、TCT使ってうまく行かなかったら、Cyclopropenium Cation Activationを試してみたいと思いました。


2011年8月6日土曜日

MildにBeckmann rearrangementを起こせ!

←最近、Perfumeのレーザービームを聴きながら通勤して、モチベーションを上げているコンキチです


閑話休題


古いんですが、こんな論文を読んでみました↓
Beckmann Rearrangement of Oximes under Very Mild Conditions
J. Org. Chem., 2002, 67, 6272–6274.

それから

Cyanuric Chloride as a Mild and Active Beckmann Rearrangement Catalyst
J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 11240–11241.

どちらも、2,4,6-trichloro[1,3,5]triazine (cyanuric chloride, TCT)を使ったオキシムのBeckmann転位のお話です。

前者は、DMF中、化学量論量のTCTを室温で作用さえるという方法で、Vilsmeier-Haackタイプの錯体が発生させた後、オキシムをと反応させます(CH2Cl2, THF中では反応が進行しない)。


13 examples, 75-100% conv.。この反応条件下では、オキシムは異性化するようで、置換基の転位のし易さにより生成物が決まります(転位のし易さはtBu > Ar > Alkyl)。


後者の反応は、触媒反応で、MeCN中、5 mol%のTCTを作用させreflux条件下で反応が進行します(additiveとして2 mol%のZnCl2を添加するとTCTを2 mol%まで減らしても高活性を維持)。16 examples。Meisenheimer錯体を経由する反応機構が提案されています。



TCTもZnCl2も安いし、反応温度もrt.か、TCT触媒量でMeCN reflux (ca. 80℃)程度っていうのが良いなと思いました。

あと、TCTって、Swern酸化とかで(COCl)2の代わりに使うと、極低温を必要とせず、マイルドな条件でいけたりしていいヤツだよね(see http://researcher-station.blogspot.com/2009/02/new-swern-oxidation.html)。