2014年7月27日日曜日

ハイパーインフレの悪夢

昨年食べたラーメンのメモです↓

-味噌ラーメン (750 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
まず生姜の香りが一閃。麺は黄色(少しオレンジがかっている)のちぢれ中細麺(卵麺か?)で、普通に旨い。食感は中庸的。スープは甘く、マイルドな味噌。生姜とニンニクのフレーバーがGood!フィニッシュに僅かに苦みがあるんだけど、これがまた良し。スープの表面は油(ラードらしい)で覆われていて凄くアツアツ。スープには上層と下層で濃度勾配があり、はじめはあっさり度が高いが、徐々に濃くなってくる(少し薄めた方がいいかも。薄めるスープがある)。具は、メンマ、焼豚(薄切りと刻み)、ネギ、もやし、玉ねぎ。そして、薄切り焼豚の上に生姜が載っている。薄切り焼豚はイマイチと思ったけど、他の具は全体的に旨くて良いです。特にメンマが個人的に好きな味。完成度の高いラーメンと思いました。
あと、S&B特製エスビーコショー(業務用)が置いてあったのでちょっと振りかけてみたんだけど、ジャンキー感とスナック感がup↑してこれもまた良し。
店内はモダンでオシャレ。接客のお姉さんは白鶴の前掛けを着用。のれんには「すみれ」と「森住製麺」の名前が入っている。水が凄く汗をかいた金色の薬缶に入っていて、なかなかs


閑話休題


昨年「ハイパーインフレの悪夢」という本を読了しました。第一次大戦後のドイツのインフレを描いた本です。

所謂ドイツのハイパーインフレは凄く有名で、ボクが小さい頃の学研の「学習」にも書いてあったような気がします。コーヒーを飲んでいる間にもインフレが進行し、トランク一杯のお札が支払いに必要になった的な寓話が描かれていたことを記憶しています。

学研の「学習」の「コーヒーの話」は、笑い話的で悲惨さがあまり伝わってきませんが、本書の中で描かれるハーパーインフレによって誘起される人々の困窮する様にはマジ背筋が寒くなります。以下メモです。

第一次世界大戦後、敗戦国のドイツはヴェルサイユ条約により莫大な賠償金を抱えることとなり財政難に陥ります。ここで政府が弄した策は、国債を発行してライヒスバンク(ドイツ帝国銀行)に買い取らせるという財政ファイナンスです。

市場には通貨(マルク)が溢れ、マルク安となり、輸出商品の値段が下がって経済が活性化します。企業の倒産件数も減り、失業率も低下し(戦勝国のフランスよりも失業率が低下する)、インフレの昂進により貨幣の価値があるうちに使ってしまおうというインセンティブが働き、一見華やかな繁栄が訪れたかに見えました。また、企業も為替相場の下落によって輸出産業の利益を獲得できるのでインフレを歓迎しました(貨幣価値が下がれば実質的納税額も減り、銀行からの融資も実質的返済額が少なくて済む)。

(1) 旺盛な購買衝動(高価な買い物や豪華な食事)
(2) (貨幣を)何でも商品に換え、しばらく所有してから売ることで難なく大金が手に入った
(3) ローンで土地購入。貨幣価値の下落によって、借金はすぐ返済でき、広大な土地を獲得

などが巷では繰り広げられ、初期段階においてはウハウハ感もあったようですが、それも長くは続きません。そのうちに、労働者の生活は苦しくなっていきます。そして、困窮した労働者は(インフレへの対症療法として)賃上げを要求するようになり、インフレ誘起のフィードバックが繰り返されていきます。また、農家は農産物を売り惜しみ、都会の人達が持っていたピアノや骨董品などと小麦を交換出します。やがて、深刻な物価高騰が庶民の生活を襲い、高級住宅街では子供を思う母親達が私邸内に勝手に入り込み、残飯目当てにゴミ箱をあさったりと、人々のモラルが失われていきます。郊外で家畜なんかを飼っているリッチな家は、徒党を組んだ飢えた民衆に襲撃されたりなんかもしました。

紙幣の大量に刷ってはインフレが激化というサイクルが繰り返され、紙幣の購買力がとめどなく下がり続け、最終的に(土地を担保にした)デノミ(1兆分の1)でハイパーインフレがやっと収束します。

はっきり言って、ボクはこの本で描かれているドイツの姿に既視感を覚えました。まるで、日本そっくりじゃね?っていう。


国と地方の債務の合計は、1994年に450兆円だったのが、2000年には700兆円になり、いまでは1,000兆円超まで膨れ上がっています。それに加えて、プライマリーバランスは万年赤字で、年間50兆円のペースで債務残高が増加しています。まともな脳みそを持ってたら、債務の返済なんて夢のまた夢と思うはずです。国内の国債引き受け余力ももう限界に近いと言われているいるし、けっこうキテると思います。

この本(ハイパーインフレの悪夢)には、「インフレーションは、いろいろな意味でドラッグのようなものだ。最後には命取りになるとわかっていても、多くの困難に襲われたとき、人はその信奉者になってしまう」という文章がありますが、まさしくその通りで、現在の政治家は安易な方法で問題を先送りしているに過ぎないと思わざるをえません。


社会が日本円(貨幣)という共同幻想から醒めたとき、どんな世界が目の前に広がるのかに興味津々の二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。


2014年7月21日月曜日

Fe (テツ) : 鉄とフッ素の素敵な関係

北千住駅のエキナカにある東京カレー屋名店会に行った時(増税前)のメモです↓

-トプカ インド風ポークカリー ミディアム (680 JPY)-
-RATING- ★★☆☆☆
-RVIEW-
辛さの表示は「3」で、この店最大だけど、ボク的には「2」っていう感じ。サラサラ系のカレーで、sharpな辛さに好感が持てるも、アツアツ感が全くないことに加えて、ライスに対してカレーが少なすぎる。当然、具も少ない。肉とジャガイモは内部が冷めた感じ。このカレーは、「中途半端に普通においしい」けど「ポスピタリティーが最悪」と思いました。あと、水のグラスがちょっと汚い。総じて、残念な店と思いました。


閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Iron(II)-Catalyzed Benzylic Fluorination
Org. Lett., 2013, 15, 1722-1724.

(また)流行ってるフッ素化(Benzylic Fluorination)のお話です。


著者等は以前、Cu(I)-bisimine錯体とSelectfluorを用いたaliphatic C-H bondのフッ素化を報告しました。
Angew. Chem. Int. Ed., 2012, 51, 10580-10583.

このCu(I)-bisimine complex/Selectfluor systemはBenzylic Fluorinationも可能ですが、その適応範囲は狭いため、汎用性の高いBenzylic Fluorinationを実現すべく、著者等は鉄触媒に注目します(ノンヘム鉄触媒によるC-H官能基化の成功をうけて、鉄に注目したようです Curr. Inorg. Chem., 2012, 2, 64-85.; Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 3317-3321.)。

で、This Workです↓
13 examples, 35-76% yield

二価の鉄塩をスクリーニングしたところ、Fe(acac)2にみに活性があったそうです(ハライド、硫酸塩、硝酸塩はダメ)。

以下、この反応の特徴↓

(1) electron-poor, more neutral alkyl benzeneが基質として最良。electron-richな芳香環をもつ基質ではポリフルオロ化が起こる

(2) 基質にシメンを用いると、立体障害の小さい方だけがフッ素化される

(3) カルボニル基を含む基質の場合、バックグラウンド反応に対してBenzylic Fluoronationが優先する
この基質のBenzylic Fluorinationは、α,β-不飽和ケトンに対するフッ素アニオンの1,4-付加に相当します。

(4) アミンのような窒素原子を含む化合物は、多くのケースでN-fluorinationが起こり、Benzylic Fluorinationの進行を阻害する。

←アミドの例(窒素原子含有化合物の本文記載の唯一に実施例)






マイルドかつシンプルな反応条件ですね。サンプルワークレベルで機会があったら使ってみたい反応と思いました。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のフッ素化メモでした。

F(エフ)

最近(ふた月半あまり)、「ヤフオク」と「艦これ」にはまっていた真性オタッキーのコンキチです。

「艦これ」ってPC限定のオンライゲームとしては破格の200万人超えしてて、巷でけっこう流行ってるらしいですね(会社のPCで仕事中にプレイしてるっていう猛者(っていうか、明らかに就業規則に抵触してるから良い子はやめましょう)の話もネット上で目にします)。

ソーシャルゲームとしては珍しく課金要素が最小限に止められており(課金がクリティカルな要素にならない)、関連商品で儲ける(メディアミックス戦略)らしいです(実際、amazon.co.jpでサーチしてみると、ライトノベルやその他関連グッズが沢山ヒットしてきます)。

ところで、「艦これ」は戦時中に活躍した軍艦を擬人化した「艦娘」なる女型萌えキャラのカードを収集・強化・編成して敵を駆逐していくゲームなんだけど、擬人化っていうと、元素にしても、ホルモンにしても全部女の子の萌えキャラで、なんかこういったクラスタのマジョリティーはオタッキー層として認知されてるんですかね?

もうここまできたら、EROS (Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis)に載ってる試薬を片っ端から萌えキャラに擬人化するプロジェクトを(他力本願だけど)誰かに立ち上げて欲しい気持でいっぱいです(個人的に、Dess-Martin Periodinaneとか擬人化したらカックイイと思うんだけど)。


閑話休題


こんな文献を読んでみました。Tobias Ritter教授のフッ素化の論文です↓

Palladium (III)-Catalyzed Fluorination of Arylboronic Acid Derivatives
J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 14012-14015.


あまりみない(気がする)3価のパラジウムが触媒するという、site-specificなフッ素化のお話です。

触媒的フッ化アリールの一般的な合成法としては、

(1) Buchwald等のPd触媒を用いたaryl triflateのフッ素化(Science, 2009, 325, 1661.; Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 8900.; J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 18106.)

(2) Tobias Ritterのグループの銀が触媒するaryl stananeのフッ素化(J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 12150.)

があるといいます。で、Buchwaldの方法は"dry"なfluoride saltが必要で、異性体の混合物を与えることが問題のようです。他方、Ritter(著者)の方法は毒性のあるスズ化合物を調製しなければならないことが問題として挙げられます。

ところで、アレンの量論的フッ素化は沢山報告されていますが、Ritter教授曰く、最も実用的なのはPhenoFluorを用いたdeoxyfluorinationだといいます。

Ritter et al., J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 11482-11484.

Ritter et al., J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 2470-2473.

あと、PhenoFluorの解説がSigma-AldrichのWeb Siteにあります↓
http://www.sigmaaldrich.com/japan/chemistry/chemical-synthesis/technology-spotlights/phenofluor.html

PhenoFluorは既存フッ素化試薬よりも副反応が少なく、官能基許容性も高く、水酸基の環境に応じて選択的にフッ素化可能で、late-stageにおいてのフッ素化に適用可能だというのがウリだと思うんですが、高いです(40,000 JPY/250 mg)。何をもって"practical"って言ってるのかは分かりませんが、小スケールのサンプルワークには重宝しそうな気がします。

他のフッ素化法としては、
・Direct C-H fluorination (Science, 2012, 337, 1322.; J.Am. Chem. Soc., 2006, 128, 7134.; Org. Lett., 2012, 14, 4094.; J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 7520,; Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 9081.)
・銅を用いたArIのフッ素化(Hartwig, J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 10795.)
・銀を用いたaryl stanane, aryl silane, arylboronic acidのフッ素化(Ritter et al., J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 1662.; Org. Lett., 2009, 11, 2860.; Tetrahedron, 2011, 67, 4449.)
・アリールボロン酸(誘導体)のフッ素化
     Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 5993. (Ritter)
     J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 2552. (Hartwig)
     J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 4648.
などがあるそうですが、遷移金属の使用を触媒量に抑えるのは難しいらしいです(因に、アリールボロン酸誘導体を用いた場合、transmetalationが遅い)。

で、This Work(ボロン酸誘導体の触媒的フッ素化)です↓


15 examples, 63-99% Yield, ≧98% purity

試薬(Pd cat., Selectfluor, terpy, NaF)は全て空気と湿気に対して安定で、オープンフラスコで反応を行えます。マイルドな条件で、decagramスケールでの実施例もあり。
プロトデボロネーションも観察されないという優れものです(プロトデボロネーションはアリールボロン酸誘導体を用いたフッ素化反応にみられる共通の問題らしいです)。
そして、Pd触媒は、Pc(OAc)2, terpyridine, HBF4から調製できます。

electron-richな基質でもelectron-poorな基質でもオッケーで、electron-richでneutralな基質がDMF溶媒がoptimalなのに対して、electron-withdrawingな基質はCH3CN溶媒がおうおうにして良好。官能基許容性は、ケトン、1級アミド、カルボン酸、エステル、アルコール、ベーシックな複素環、臭化アリールでオッケー。ortho,ortho'-二置換といった立体障害の大きい基質でも適用化。

他のパラジウム錯体でも反応は進行しますが、Ritter教授は1が最もコンビニエントでおすすめのご様子です。


それから、出発物質が、ピナコールボロネートやボロン酸であっても、NaF, KHF2を作用させて。in situでトリフルオロボレートを発生させて反応を行うことで、高収率で目的物を得ることもできます↓

プロトデボロネーション対策に有効だと思われるMIDA boronateを使って反応を行うと、electron-richな基質では反応は進行するものの、収率は低く、過剰のSelectfluorが必要となるそうです。一方、electron-poorな基質では目的物を与えないそうです。


あと、著者等が提案する反応機構はこちら↓

この反応機構に従うと、アリールパラジウムを中間体として経由しないため、アリールボロン酸誘導体の"transmetalationが遅い"という問題が回避されて、反応が上手く進むことと整合性がとれると思います(まあ、いろいろと検証実験・考察をしている)。


ちなみに、この反応って"fiest metal-catalyzed fluorination of arylboronic acid derivatives"だそうです。それにつけても、アリールボロン酸誘導体のtransmetalationを回避するっていう発想が凄いと思った二流大出のなんちゃってテクニシャンでした。