2021年4月30日金曜日

アミノ酸(ペプチド)の化学 (9):アルギニンのグアニジノ基の件

コロナ禍でもオムライスが好き。
ども、永遠の食いしん坊中年のコンキチです。

まだ変異株が猛威を振るうまえに、深川にあるレストランでオムライスなどを食べたときのメモです。

-銀座煉瓦亭 深川本店 memo-

住所:江東区新大橋2-7-4 ブリック石倉1F

-サッポロラガー (中瓶) (700 JPY)-


-ライス (280 JPY)-


-カイフライ (10-4月) (990 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
脱力系の旨さが秀逸なカキフライ(スープ付)。
油はしっかりと切れたしっとり系の衣。牡蠣は小振りだけど、噛み心地が気持ちよくて、しっかりと熱の入った身から滲み出る滋味は、穏やかだけどクセになる味。
そのままなにもつけずに食べて美味しい。塩をちょっぴり振って食べると味が引き締て良いです。レモンを絞ってさっぱりいただくのも楽しい。でも、一番牡蠣の味が映えるのはウスターソースだと思う。ウスターのボタニカル&フルーティーな香味がベストマッチです。
付け合わせのスパゲッティーはやんわりカレー味。サービススープは、はっきり言って薄いけど、生姜のフレーバー(flavor)がちょっぴり立っていて悪くない味。



-オムライス (990 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
サービススープ付き。
玉子が薄皮タイプのベーシックなオムライスで普通に美味しい。
チキンライスの具材はチキンに玉葱。オムライス特有のご飯のねっちゃり感はやや控えめ。
オム(玉子)とチキンライスを一緒に食べると、もうベストマッチ。トマトケチャップは酸味リッチ(rich)で、オムライスの味をキリッと一段引き立てます。
調和のとれた落ち着いた味付けで、安心感のある脱力系の旨さに満足しました。


深川(森下)は銀座みたいに肩肘張らなくていいから、いいね。


閑話休題


昨年冬、大人の娯楽誌「週刊東洋経済」に

製薬大リストラ

という特集記事が組まれました。


サブタイトルは「コロナで加速するMR淘汰」です。

要は、コロナ禍で医療機関が感染予防のために外部からの訪問者を厳しく制限したことでMRの活動量が激減したわけですが、お薬の売り上げが落ちなくてMRって要らないんじゃね?ってことが白日の下に晒されたというお話です。

一言で言うと、

MR不要論Death。

「オイラMRじゃなくて良かったぜ」なんて嘯く研究部門の方がいらっしゃるかもしれませんが、安心するのは早計です。

この号には、

リストラに聖域なし 研究職も例外じゃない!

なんていう研究職様向けの記事も用意されているのです。

嘗ての画期的イノベーションにより幅を利かせてきた低分子創薬は、21世紀に入ると時代遅れのモダリティに堕し、その分野に従事している研究員がヤヴァイですよという内容です。

低分子創薬が無くなることはないと思うけど、第二の画期的イノベーションによるブレークスルーがなければはジリ貧一直線でしょうね(まるでどこかのアジアの某先進国のようです)。そして、それは合成技術ではなくって、AIとかを使ったドラッグデザイン的なブレークスルーなんだろうと予想します(まさに「ジェノサイド」)。だけど、結局はAIを使いこなす人間の創造力がクリティカルなんだろうと思います。知らんけど。

この記事によると、(業界では有名な話だと思うけど、抗体医薬だーいすきな)中外製薬は低分子創薬への投資を大幅縮小だそうです。

で、現在主力の創薬モダリティは抗体医薬なわけですが、製薬各社はネクストモダリティの研究にも取り組んでいて、その候補には核酸医薬、中分子医薬、ペプチド医薬などがあります。

なにはともあれ、低分子創薬は人余りで配置転換や転職が必至なわけです。それでも、光明がないわけではなくって、低分子創薬のバックグラウンドである有機合成化学は、核酸医薬、中分子医薬、ペプチド医薬といった次世代創薬(ニューモダリティ)に生かすことが可能です(化学合成出来っからね)。そんなわけで、バイオベンチャーの方がおっしゃることには「大手で低分子創薬の研究が隆盛だった時期に入社した40代から50代の低分子の研究者が、ここ数年の早期退職で転職してきているケースをよく見る」んだそうです。

ということで、ボクもつぶしがきくようにペプリド(と核酸)の勉強してみようかなと思って始めたメモが、"アミノ酸(ペプチド)の化学"シリーズです。

それではメモっていきましょう、ペプチドのケミストリーを。
今回のお題は"アルギニン"です↓
Nδ,ω,ω'-protected Arg derivative

アルギニンの側鎖のグアニジノ基は三つのアミノ基から構成されているわけで、その何れもがペプチド合成のプロセスで(望まない)アシル化を受ける可能性があります。従って、アルギニンの側差が適切に保護されていなければ、分子内環化してδ-ラクタムが副生する危険でいっぱいです。

側鎖の三つのアミノ基Nδ,ω,ω'が全て保護されていれば、理論的には上記副反応を抑えることができるんだけど、Nδ,ω,ω'保護体であるNδ,ω,ω'-tris(Trt)-アルギニンの調製が面倒かつ低収率であるためペプチド合成の分野では普及していないそうです。

そして、二個保護体であるNδ,ω-bis-保護アルギニンは分子内環化によるδ-ラクタムの副生を防ぐことができますが、Nω'のアシル化と続く分解は回避できません。

ちなみに、Nδ,ω-bis-Boc保護体(Nδ,ω-Arg(Boc)2)とは違って、Nω,ω'-bis-保護体(Nω,ω'-Arg(Boc)2)は、グアニジノ基のアシル化と続く塩基による分解は抑制できますが、分子内環化によるδ-ラクトン形成のリスクは残ります。
それから、Nω-mono-保護されたFmoc-Arg(Boc)-OHは、グアニジノ基のアシル化とそれに続く分解が起こりやすいとです(Arg誘導体のグアニジノアシレーションと続く分解のしやすさは、Argの側鎖のグアニジノ基の保護基の按配にダイレクトに相関するのね)。

さて、ここでアルギニンの側鎖の副反応がどのタイミングで起こるか考察してみましょう(っていうか教科書に書いてあった)。
アルギニンの側鎖のグアニジノ基は塩基性(pKa 12.5)が強いので通常プロトン化されています。なので、この状態ではアシル化などの副反応が抑えられています(それ故に、ある種のペプチド合成は側鎖が無保護のアルギニンで行うことができる)。
ということで、ヤヴァイのはアルギニンが脱プロトン化したときです。で、SPPSで脱プロトン化が起こるのはピペリジンによるFmoc基の脱保護の工程で、その後に続くアミノ酸とのカップリングの際に副反応であるグアニジノアシレーションが促進します。
この困った事態を解決する施策として有効なのが、ピペリジン処理とアミノ酸カップリングとの間にHOBr溶液によるレジン洗浄を入れることです。この処理によって、フリーになった(遊離した)アルギニンが再プロトン化し、副反応(グアニジノアシレーション)を抑えることができます(HOBtが酸性だし、活性エステル形成の素だからね)。それでも、H-Pro-OtBuみたいな弱塩基性の誘導体とのカップリングではグアニジノ基が部分的脱プロトン化して副反応が起こっちゃうかもしれません(ということはあれだね、塩基性条件下でのカップリングもダメだね)。

(ボクが読んでいる教科書によると)今日ではPmcやPbfといったNω-アリールスルホニル誘導体が標準的なアルギニン側鎖の保護基として使われているようです。このタイプの保護基はアルギニンの活性化の際にδ-ラクタムの形成を完全に抑制することはできないけど、総合的に優れたパフォーマンスを発揮するのでアルギニンの保護基として最も使用されているといいます。


 それから、アルギニン側鎖の新しい保護基も開発されています。Suben, Sub, MeSubのトリオです。

デカイ置換基の立体障害がグアニジノ基のオーバーアシレーションやδ-ラクタム形成の抑制に有効です。さらなる特徴としては、アリールスルホニルタイプの保護基よりも圧倒的に酸に弱く、薄っすーいTFA溶液で脱保護可能なところです。 

あと面白いのがNω-NO2保護アルギニン誘導体 Arg(NO2)で、普通の保護基でアルギニン側鎖のアシル化や続く分解といった副反応がメインに進行しちゃうときに理想的な保護基となります。ニトロ基の強力な電子吸引性によってグアニジノ基のNωNδの求核性を低下させ、副反応への関与を抑制すところが良いです。

まあ、側鎖のNωやNω'が保護されていれば、電子吸引効果によるNδの求核性の低減や、立体障害によって副反応はそれなりに抑制されますが、副反応には目を光らせたいものです。

ハイ。以上、つぶしを効かせられるテクニシャン(研究補助員)になりたい国内二流大出のテクニシャンのニューモダリティ配置転換志向メモでした(製薬業界も大変ですね)。


2021年4月23日金曜日

アミノ酸(ペプチド)の化学 (8):チオアミドペプチドの酸分解の件

コロナ禍でも回転寿司が好き。
ども、庶民の味「回転寿司」を探求する永遠の食いしん坊将軍のコンキチです。

錦糸町にある回転寿司屋に行ったときのメモです。

-もり一 錦糸町テルミナII店 memo-
住所:墨田区錦糸町1-2-47 錦糸町ステーションビル「らがーる」内

-生ビール (385 JPY)-

-まぐろ (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
しっとりした舌触りで、甘みがあって美味しい。
回転寿司の鏡。







-江戸前小肌 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
これは美味しい!身がちゃんと軟らかくって、味はとがったところが皆無。大葉の香味もマイルドで、いい塩梅に仕立てられた小肌の繊細な香味を壊すことはない。イイネ。






-北海生だこ (180 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
いい感じに生だこらしさ全開。
薄くスライスされてるのが、食感が映えてうまいんだよね。








-自家製〆サバ (三貫) (143 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
少し塩辛さを感じるけど、美味しい。
柔らかい風味の脂で、くさみもない。
三貫でこの値段はコスパ高し!







-筋子軍艦 (180 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
普通に美味しい。海苔がパリッとしてて香ばしいね。








-ハイボール (385 JPY)-

-茶わん蒸し (220 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
率直に言って量少ないです。でも、味がしっかりしてるから。"よし"です。
椎茸の香味リッチ(rich)で、その食感にダイナミズムを感じます。あと、トップ(top)のいくらの香味ふぁけっこう効いてる。
その他具材には鶏肉など。



-鉄砲巻 (180 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
わさび入りの干瓢巻き。初めて食べたけど、、これはいいね。気に入った。








-金華いわし (180 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
くさみは全然なくて、フレッシュネス(freshness)・リッチ(rich)。
少し鯵に似たダイナミズムのある味と食感。
ビバ!金華霊山!!







-さより (143 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
そこはかとないフィッシー(fishy)さと、非ウェット(anti wet)系の食感が良いです。








-生ゲソ (143 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
ゴキュゴキュしている。









-たらこ握り (180 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
軍艦じゃなくて"握り"であることに好感が持てます。









-えんがわ (180 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
適度な身の張りと適度な脂で美味しいです。









このお店のシャリって赤舎利なんですが、旨味深いマイルドテイストでとても美味しいです(シャリが旨い!)。
ネタの鮮度が良くって、シャリとの大きさのバランスも良いです。
多分、ロボシャリを一握りして提供してると思うんだけど、いいですね。シャリ玉ロボットの技術革新が素晴らしいです。
お醤油は甘くてコク深く、辛さもしっかりしています。


閑話休題


チオアミドペプチドに関するメモです。

まずは、チオアミドの特性です。より具体的には、カウンターパートである(普通の)アミドと比較です↓

a) 安定性、活性、分子認識に係る選択性において優れてることがあり、その二次構造もまた大きく異なる。

b) 硫黄原子は酸素原子と較べて低い電子陰性と大きい半径を持つので、チオアミドペプチドの硫黄原子は、通常のアミドの酸素原子よりも弱い水素結合アクセプターとして、チオアミドの水素は強い水素ドナーとして働く。
そのため、β-turnγ-turnといった二次構造の崩壊や安定化に影響を与える。

c) 通常、チオアミド結合の回転障壁は対応するアミド結合より高いため、ペプチドの二次構造の安定化に寄与する。

こんな感じです。

で、チオアミドの合成法なんですが、対応するアミドのチオカルボニル化するわけで、P4S10とかLawwsson's reagent、Yokoyama's reagentが使用されると言います。


恥ずかしながら、Yokoyama's reagentは初めて知りました。


-Yokoyama's reagent memo-
Improved O/S Exchange Reagents (Synthesis, 1984, 827-829.)

この論文によると、硫化水素、硫化ホウ素 (B2S3)、トリブロモホスフィンスルフィド (Br3PS)、五硫化二リン (P4S10)、ローソン試薬、2,4-bis[4-phenoxyphenyl]-1,3-dithia-2,4-diphosphetane 2,4-disulfide、2,4-bis[alkylthio:-1,3-dithia-2,4-diphosphetane 2,4-disulfideがO/S交換試薬として知られているそうです(当時)。で、これらの試薬は入手性に問題があったり、危険だったり、反応条件が過酷だったりして、満足に足らないみたいです。

そして、こういったドローバックを改善した試薬がYokoyama's reagentなのです↓
R=H : 58% yield;  R=OMe : 60% yield

アミドやラクタムのチオカルボニル化、スルホキシドからスルフィドへの還元反応についてローソン試薬と収率比較していますが、Yokoyama's reagentの完勝です。
それから、カルボン酸との反応ではジチオカルボン酸のフェニルエステルがメインプロダクトになります。

Yokoyama's reagent memo 終了
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次にチオアミドユニットの導入ですが、6-nitrobenzotriazole thioamino acidを用いた方法が確立されていて、その合成法はこんな感じです↓

 Boc保護アミノ酸を4-ニトロ-1,2-phenylenediamineと縮合させた後チオカルボニル化し、分子内ジアゾ環化することで6-nitrobenzotriazole thioamino acid(活性エステル)へと誘導します。そして、この活性エステルをペプチドシーケンスに組み込んで一丁上がりです(ちなみに、こに種の活性エステルは0℃で二ヶ月は安定なようです)。 

この方法はアスパラギン酸以外の天然アミノ酸(タンパク質を構成するアミノ酸)に対して有効です。
どうしてアスパラギン酸には使えないかというと、副反応(しかも、圧倒的)が起こってしまうからなんですが、具体的にはこういうことになります(シクシク涙 orz.....)。↓


 あと、チオアミドペプチドでヤヴァイのがエドマン分解様(Edman degradation)の酸分解です。脱樹脂・脱保護工程は危険なので、できるだけ濃度の低いTFAで、処理時間をできるだけ短くするのが大事です。

ところでBoc(Nα-Boc)基に関していえば、AlCl3やSnCl4のようなマイルドなLewis酸で脱保護可能で、TFAを用いた脱保護と比較してチオアミドの酸分解を抑えられます。この場合は溶媒効果が大きく、SnCl4を用いた脱保護ではMeCN中で反応が促進します。 


また、Bocよりも酸に弱いなBpocやDdzで保護して、"Mg(ClO4)2/MeCN"や"ZnCl2/THF"みたいなよりマイルドな条件で処理すると、チオアミド結合を棄損することなく選択的にBpoc/Ddz基のみを脱保護することができるようです。この手法は極めて酸に弱いSieberやSASRINレジンを使ったSPPSに使用されるそうで、Bpoc基は50℃でMg(ClO4)2/MeCNで除去できるのに対し、Boc基やチオアミド結合は影響を受けません。
ちなみに、ZnCl2/Et2Oでペプチドの結合したレジンを処理すると、脱樹脂とBoc/OtBuの脱保護が即座に起こります。

ふーん。チオアミドペプチドは強酸条件が苦手なのね

それでは最後に、チオアミドペプチドのSPPSの合成戦略(Scheme)をメモしてフィニッシュです↓


以上、国内二流大出のテクニシャン(研究補助員)のペプチドスーパー初心者級メモでした。