2010年10月31日日曜日

フラット化しない世界 2 : スパイキーな世界

直近の「フラット化しない世界」というエントリーを書いている最中、(クリエイティブ•クラスの話で有名な)フロリダ教授の「クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める」という本を思い出しました。



この本では、世界はスパイキー (spiky)になっているといいます。

スパイキー (spiky)
【形】
1. 先端がとがった、くぎのような、くぎ付きの、くぎだらけの
2. とげとげしい、頑固な、気難しい、短気な、怒りっぽい

人口のみならず、経済力、イノベーションといった社会を牽引していくエナジーは、きわめて少数の大都市圏(メガ地域)に集中しているといいます(アジアの場合は、広域東京圏、大阪=名古屋、ソウル=釜山、九州北部、香港=深圳、広域札幌圏、上海、台北、広域北京圏)。そして、メガ地域への才能の集積が起こっているというのです。この現象は、GDP、トップ科学者、イノベーション(特許)の集積によって裏付けられています。要は、クリエイティブ産業の分野では、世界はフラット化などしていないのです。そして、場所の重要性がますます高まっているといいます。

実際日本でも地域間格差-栄える都市と衰退する地方-が広がっているようだし、この論には感覚的にも同意し易いです。っていうか、東京圏の莫大なトラフィックを鑑みれば都市へのスパイキーな集中が体感できるでしょう。

そして、都市はその特性(性格)に応じて、特異的な才能を惹き付け、(クリエイティブ)産業が集積すると言います。

中盤からは「場所(居住地)選び」や「都市の性格心理学」といったボクとしてはやや冗長なお話に移っていきますが、本書は為政者が地域をデザインする上で非常に示唆に富んだ内容になっていると思います。

ところで、自動車工場誘致で(単純労働従事者の)雇用創出なんて言っていい気になってる首長さん。東北大学っていう東北随一の才能の活用法を考えてますか?

フラット化しない世界

コークの味は国ごとに違うべきか」を読了しました。ハーバード•ビジネススクールで史上最年少の教授となったという、ハーバード•ビジネススクール教授、兼IESEビジネススクール グローバル戦略のゲマワット教授の著作です。

内容は、その邦訳のいかにも大衆をターゲットとしたようなタイトルとは裏腹に、かなりハイブローな内容です(原題は、「REDEFINING GLOBAL STRATEGY」です)。

ボクは「フラット化する世界 (The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century)」は未だ未読なんですが、そういう世界とはウィキペディア情報によると、インターネットなどの通信の発達や、中国・インドの経済成長により世界の経済は一体化し同等な条件での競争を行う時代にいたる世界らしいです。そして、フラット化した世界でのグローバル戦略は、規模と画一的戦略を重視している様です。

で、この本で著者は、フラット化した世界=(完全な)グローバリゼーションへの歩みは鈍牛のごとく遅く、少なくとも当面の間はセミ•グローバルの状態のまま(国ごとの差異は大きい)であろうと予測し、その前提を基にしたクロスボーダー戦略を提案しています。

著者が提起するクロスボーダー戦略はAAA戦略で、それぞれの「A」はAdaptation (適応)、Aggregation (集約)、Arbitrage (裁定)に対応し、AAAトライアングルから戦略オプションを策定していくというものです。

そして、戦略策定には、差異を分析し、差異を活用することが重要と述べ、差異分析のツールとしてCAGE (Cultural: 文化的な隔たり, Administrative: 制度的な隔たり, Geographical: 地理的な隔たり, Economic: 経済的な隔たり)な隔たりの枠組みというフレームワークを提案しています。

そして、フラット化した世界でのグローバル戦略=「規模と画一的戦略を重視」が通用しない事例が幾つか挙げられています。例えば↓

a) コカ•コーラ
同社は1980年代、集約戦略の舵を切ったが、業績は思うようにあがらず、その後、適応戦略に切り替えた。急激な適応戦略へのシフトによりさらに業績を悪化させた同社は、現在トレードオフ関係にある適応-集中間でバランスをとった戦略にシフトしている。ちなみに、ジョージアは日本コカ•コーラの独自商品。また、アトランタで開かれる「コカ•コーラの世界の味」展示会に来場するアメリカ人は、日本やその他の国の製品を試飲して、あまりの不快な味に吐き出してしまうことも少なくないそうです。

b) ウォールマート
同社の海外事業の収益性はアメリカ国内よりもずっと低い。黒字の国はCAGEな側面がアメリカと似ている傾向にあり、赤字の国はそうではない。

c) グーグル
グローバリゼーション(=フラット化)を促進させる「テクノロジー」を推進する最右翼のIT企業の巨人グーグルのロシアと中国事業は芳しくないという。理由は、
文化的な隔たり(ロシア語が比較的難しい)、制度的な隔たり(中国の検閲への対応)、地理的な隔たり(遠いアメリカからロシアに手適応するのに苦労し、現地にオフィスを設立)、経済的な隔たり(ロシアは資金決済のインフラが未整備だったあため、現地の業者との競争に不利)といったCAGEな隔たりの全てが関係していた。


翻って、国ごとの差異を上手く利用した事例もあります↓


A) マクドナルド
ビックマック指数という言葉に象徴されるように、高度に標準化されたオペレーションを全世界で提供していると思われているマクドナルドの提供している製品は、国によって様々だという。
フィリピン/ バーガーマクド(甘いバーガー)、マックスパゲティ(イタリアにはない)
日本/ テリヤキバーガー
インド/ 羊肉バーガー
台湾/ ライスバーガー
現地での適応可能な要素と、適応するとシステムのパフォーマンスが損なわれる要素とに分類し、全体の約20%を現地ルール、約80%をグローバル•ルールとしているという。
また、マスコットのロナルドはフランスではマクドナルドワイン、オーストラリアではフィレオフィッシュの販促を行い、北米ではクリスマスを、香港では旧正月を祝うが、世界中からアクセスできるメディア(グローバルな広告キャンペーン)には登場しないといいます。これは世界中で現地の文化の中にマスコットのイメージを入れこもうとしているからだそいうです。以上は、領域分割(国ごとに異なる要素と、複雑なシステムの統合された部分とをはっきり分ける)の事例で、マクドナルドは領域分割の名手と言われているそうです。ちなみにボク個人は、マクドナルドは人間の食べるものじゃないと思っています。

B) インドの製薬業界
インドの製薬業界では、製品ではなく製法に特許が与えられるため、輸入医薬品のリバース•エンジニアリングによるコピーの製造が有利だったそうです。2005年以降、WTOへの加盟に向けて特許法を世界標準に改正したそうなんですが、歴史的経緯、安価な労働力、買い手の支払意思額、国内の競争などにより、インドの大手製薬会社はローコストオペレーション能力を高め、ジェネリック医薬品市場で重要なポジションを確立したといいます。FDAに提出されるジェネリックの略式申請の25%がインド企業といいます。制度的な裁定が効いた例でしょう。

C) IBM
最近のIBMは国ごとの差異を活用し始めたそうです。すなわち、賃金の差異(裁定)を利用して、新興国(特にインド)の社員を3倍以上に増やし、新興国で大幅な拡大(集約)を図りました。新しい従業員は、IBMグローバル•サービシズというグループ会社に雇用され、この会社が急拡大しているそうです。しかしながら、同社は、ソフトウェア•サービス事業でインドの競合他社よりも人件費が50-75%高く、コストダウン競争で勝負に出ようとしているわけではなさそうで、ハード、ソフト、ITサービスの三つの分野全てでソリューションを提供する「One IBM」のビジョンを実現することで差別化をはかっていく模様です。

D) P&G
エクセレント•カンパニーの雄、P&Gでは、集約、適応、裁定(アウトソーシング)の機能を意図的に3つのサブユニット、すなわちグローバル事業部門、地域市場開発組織、グローバル•ビジネス•シェアード•サービシズ部門にわけ、これらが接触する(摩擦が生じる)場を最小限に抑える構造ににすることで、適応と集約に加えて、ある程度の裁定(アウトソーシング)を追求してすることが可能となったという。同社は最高の業績をあげているとか。

今のところ、フラット化した世界は夢のまた夢のようです。

厚顔無恥な職業

ボクが勤務する事業所には、大手生保の外交員(保険のオバチャン&オネーサン)がウロウロしています。損することに意味のある宝くじを販売する人達です(保険と宝くじは基本的に同じ構造だ)。

彼女達は初対面であるにも関わらず、無遠慮にボクの個人情報をGETしようとします。それがあたかも当然の権利であるかの如く。

そして、首尾よく名前と部署名を入手すると、翌日、勤務時間中にも関わらず迷惑極まりない、アポ取りの電話をかけてきたりします。

それから、「昼休みに10分くらいお時間下さい」とか言って。40分くらい拘束されたりすることもあります。とってもしつこい。

特に

日本生命


が一番しつこいです。さすが、業界のガリバ−だけあって、図々しい営業をするようにという指導が徹底しているようです。ちなみに、日本生命相互会社様は、第3位の大株主様(持株比率 ca. 5.3%)でもあらせられるので、こんなに強気な態度にでれるのでしょう。

株式持合いの弊害がこんなところにもあらわれているぜと思う二流大出のなんちゃって研究員でした。

Japan as No. 5

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率」を読了しました。

はっきり言って、周囲の注意を惹きつけるセンセーショナルなタイトルです。そして、どうやら、我が国の2005年の農業の国内生産額は826億ドルで、中国、アメリカ、インド、ブラジルについで世界第5位らしいです。先進国の中でアメリカに次ぐ農業大国というイメージのあるフランス(549億ドルで6位)を大きく引き離していて驚きです。農業GDPで比較しても世界第5位といいます。

ただ、金額ベースなので、No. 5という地位を素直に鵜呑みにすることはできませんね。だって、我が国の農産物の輸出水準は極めて低く、国内には購買力のあるそこそこ潤沢な市場があるんですから。ついでに、品目によっては高い関税障壁があったり、それに関連した国家貿易などのシステムにより、輸入原材料のコスト高に起因するファイナル製品の高価格化を考慮すべきなんじゃないかなと思います。

なので、ちょっと胡散臭い気持ちにもなりますが、本書に記述されている情報は価値の高いものが多いとは思いました(真実なら)。

例えば、

a) 小麦の国家貿易
小麦の関税は250%。国は国家貿易により無関税で小麦を輸入し、それを安く流通させることでウハウハしているらしいです。
30,000 JPY/1tの小麦を買う場合、250%の関税価格では、105,000 JPY。一方、国家貿易品は1t当たり17,000 JPYのマージンを抜くので47,000 JPYと言います。きてるね

b) 輸入バターでウハウハ
輸入バターは1次税率は35%(600 tまで)で、2次税率は(29.9%+179 JPY)/1 kgだそうで、1次関税対象量は、国際航空会社や国際物産展にあらかじめ割り当てられているそうです。普通に輸入しようと思ったら、二次税率を払った挙句、農畜産業振興機構にバターを買い入れてもらい、農水大臣が定めた806 JPY/kgの輸入差益を上乗せされた価格で買い戻さなければならないそうです。
国際価格500 JPYのバターを1 kg輸入したとすると、

500 + 149 + 179 + 806 = 1,634 JPY

で、これに流通・小売のマージンを載せると小売価格は2,000 JPYを超えるといいます。
(だから、糞マズイマーガリンを食わなきゃいけないわけ?)
究極の錬金術だね

c) 差益関税
基準輸入価格 (546 JPY/kg)を決め、安い輸入豚肉は基準価格との差額を関税として徴収される。基準価格より高い豚肉には4.3%の関税がかけられる。
で、外国産豚肉で最も需要があるのは、モモや肩肉などの低価格部位(加工用)。トンカツやヒレカツ用の高級部位は国産が用いられているらしいです。で、結果、加工業者は安い部位に加えて(必要のない)高い部位を合わせて輸入して帳尻を合わせようとするらしいです。結果、本来必要のない高い部位の輸入品を売りさばくのは困難でダンピング販売されるそうです。ちなみに加工された豚肉製品の関税は10%。
さらに、海外の業者は安い肉がメイン商品だから、彼らは基準価格内でできるだけ高い値づけをするそうです。なんて外国の業者に優しい利他的な制度なんでしょう

c) ニュージーランドの奇跡
ニュージーランドの農産業は補助金廃止&関税低減することにより発展したらしいです。補助金が廃止された1985年から現在までに、農業生産額は160%伸長し、農業のGDP比率は14%→16%に向上し、輸出は4倍になったそうです。っていうか、計画経済は破綻し、保護主義は産業の競争力を奪うという事実と、戦略論を公教育の場で学習させた方がいいですね

d) 補助金なんていらない
日本で補助金に頼らず経営している農家は多数派だといいます。農業8兆円産業のうち、自立志向の農家が5兆円以上を産出しているんだそうです。で、野菜、花、果物農家が潤っているらしいです。一方、大規模な米、畑作農家は補助金のおかげで何とか黒字になっているのが現状とか。でも、米作農家を守るために、減反させて、補助金だして、778%の関税かける意味ってあるのかなと思いますね(っていうか、需要が無いものを無理に作らせる意味が見出せない)。本来つぶれるべきものがゾンビのように存続して、世の為になったためしってありますか?さくさく、TPPに参加しちゃって下さい。


とまあ、農業素人のボクには参考になる情報がけっこうあってためになりました。ただ、話の論理の展開とデータの見せ方はかなりイマイチと思いましたね。論理展開に微妙に整合性が感じられないんだよね。

あと、著者は(我が国でしか議論の遡上にのぼらない)食料自給率を算出する計算式の齟齬を指摘してるけど、ボクはその言葉自体に力を見いだせないな。そういう(飽食を前提にした)指標を提示するくらいだったら、適正カロリー補完率にしたほうがいんじゃない?っ思います。っていうか、そもそも経済的に豊かな国では、食の多様性や選択肢が広がるから輸入が増える。特に我が国では、政府の戦略論を完全に無視した保護政策によって輸出が抑制されているようだから、農水省の定義する自給率は低下するに決まってる。鎖国して輸入ゼロにすればオートマティカリーに食料自給率は100%になりますよ。そのかわり、スコッチもシャンパンもボルドーのフルボディーの赤ワインもボク達の口に入ることはなくなるでしょうが。

「食糧自給率なんて妄言」そんな気持ちでいっぱいの二流大出のなんちゃって研究員の戯言でした。


2010年10月23日土曜日

経済記者あがりの衆議院議員の真実

とある民主党衆議院議員がtwitterでこうつぶやきました↓

継続審議になっている派遣法。まさに、小泉構造改革のときに規制緩和などで、派遣社員が大幅に増えました。私は内部留保がある会社が派遣切りをするのが許せません。菅さんが、もっと財界にパイプを持ち、圧力をかけるべきだと思います。

まだこんなこと言ってるバカがいるんだねちなみに、派遣社員の増加は小泉政権が発足するはるか以前からの長期的なトレンドです(see http://researcher-station.blogspot.com/2008/12/blog-post.html)。

で、その後こう続きます。

えー内部留保は私の言葉足らずですみません。経済の話はツイート向きではないのでこれにて終了にしましょう(^.^)。

経済の問題ではなく、会計の問題だと思うんですが....
あと、2年くらい前にもこのブログで書いたけど、利益剰余金ってバランスシートにおける右側(貸方)なわけで、キャッシュとは全く違うよね。貸方は負債(借金)と資本(今は純資産っていうの?)によって構成されていて、企業の資金調達の方法が記述されている。で、左側(借方=資産の部)には調達資金の使途が記述されていると思うんだけど.....つまり、内部留保とか借金とか資本金とかは、棚卸資産(在庫とか原材料)とか固定資産(設備とか)とか現金として実際に存在している。なので、もし上述した「内部留保(利益剰余金)を使って派遣社員を救済しろ」的なことをいうんだったら(まともな人はこんなこと言わないと思うが)、現金と有利子負債、あと売っぱらってもかまわない有価証券(当然、子会社の株式なんて売っちゃいけない。また、一気に売却するのも現実的とは思えない)を考慮しないといけないと思うのですが.....
(see http://researcher-station.blogspot.com/2009/01/blog-post.html)。


ちなみに上述したバカっぽいツイートをしたのは三宅雪子衆議院議員です。ちなみに彼女の経歴は↓

桐朋女子高等学校、玉川学園女子短期大学、共立女子大学卒業。1988年、フジテレビジョンに入社。営業局、報道局、国際局、CSR推進室に勤務。報道局では経済部記者として為替と株式を担当。

だそうです。

大手メディアの経済部記者あがりの与党の国会議員っていうのは、会計学の基礎中の基礎を知らなくても勤まる代物だということが学習できました。
(ちなみにボクは工学部応用化学科卒で、仕事は有機合成しかやったことありません)


2010年10月17日日曜日

評判獲得ゲームの台頭

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」の感想の続きです。今回は、ムラ社会が崩壊して市場の倫理による支配が強化されていることを書きたいと思います(最後です)↓

ところで、日本的経営っていう言葉があります。ジャパン・アズ・ナンバーワンと日本経済が賞賛された時代に評価された、年功序列と終身雇用(実際はそんなもの殆ど存在しなかったが)をベースにした経営スタイルです。で、日本的経営の下では、能力差ほど賃金差は大きくなりません。成績(業績)優秀者は、幾許かの賃金の上乗せと、周囲からの評判(その結果としての昇格、昇進)によって処遇されていきます。

余談ですが、古典的な日本企業では、管理職に昇進すると給料が下がるというパラドックスが発生することがままあります。要は、管理職に登用されると残業代が支払われなくなるためです。このことは能力差ほど賃金差は大きくいということを例証しているとコンキチは思います。

能力(or 成果、実績)が、それほど賃金で報われないとしたら、当時、エコノミック•アニマルと揶揄させた我が国の企業戦士を長時間労働へと動機付けていたのは何だったのか?という疑問が湧いてきます。で、その(一つの)回答が本書では示されています。それは、



評判


です。

(自分が勤務する会)社内(という閉じた系=伽藍)における評判獲得競争(ゲーム)に興じることが、企業戦士達を動機づけていたというのです。で、このシステムは、「大きな成果を挙げても、金銭的報酬で報いない」というのがミソだそうです(金銭的報酬は課題に取り組むモチベーションを失わせるという実験結果があるそうです。自分も含めてブロガーの評判獲得ゲームなんてそのまんまと思います。)。

では、何故日本のサラリーマンは評判獲得ゲーム(=他者の承認)にのめり込むのかというと、それこそが幸福の本質だからと言います(コンキチはれにもの凄くシンパシーを覚える。まあ、詳しい事が知りたければ、本書に後ろの方を読んで下さい)。人間は社会的生き物だから、他者からの承認なくして生きて行くことは出来ないと思います。そして、社畜化したサラリーマンは、そのリソースの(殆ど)全てを会社という閉じた空間に注いでいるから、ますます社畜化スパイラルに陥り、重労働を自ら進んで受け入れるのだ(コンキチは以前勤めていた会社でそんな人達をみたことがあります)。で、その結果、日本的雇用が自殺社会を生み出すと著者は述べます(ブラボー!)。

ところで、とある調査で、人生の満足度を7点満点とすると、

フォーブスに載る大富豪達の平均/ 5.8
マサイ族/ 5.4

だったそうです。このことから、目の眩むような大金の幸福度への寄与はたったの0.4ポイントでしかないということと、幸福は相対的なものであるということが例証されたと思います。


著者は、本書の冒頭において、現代社会における成功哲学を以下の二行に集約しています↓

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


です。ではちょっとキーワードを確認してみましょう↓

•伽藍/ ムラ社会(古典的な日本企業)のような閉じた系。流動性が極めて低い。ネガティブな評判が極めて大きな効果を発揮する(撤退が許されないから)。伽藍の中で蓄積された評判は、

•バザール/ 参加も撤退も自由な市場。開いた系。ポジティブな評判が蓄積される(評価のリセットはこれまでの財産を全て失うことになる)。ネガティブな評判は役に立たない(撤退が自由だから)。

•恐竜の尻尾/ ロングテールのこと。

•恐竜の尻尾の中に頭/ ショートヘッド。ロングテールを裁断していくと無数のショートヘッドができる。無数にジャンル分けしていけば、いずれは誰もがショートヘッドになれる(かもしれない)。要は、ニッチ市場。


で、ボクなりに先に二行を咀嚼するとこなります↓

幸福とは他者からの承認であり、相対的なものだ。だったら、経済的に破綻しない範囲で自分の好きなカテゴリー(ニッチ市場)での評判獲得ゲームに配分するリソースを増やそう。評判獲得ゲームは情報空間でやればいい。何故なら、情報空間(Web)は、フリーで世界で最も開いた系(バザール)で、参入障壁も撤退障壁もリスクも低い。バザールでの評判獲得ゲームとショートヘッドに注力してみてはどうか?なんてことになります。

著者は、本書でさらに要約っしています。すなわち、


「好き」を仕事にする


そして、「好き」を仕事にすれば、そこには必ず市場があるから空振りはしないといいます(誰でも得点できるとは限らないけど)。たた、「好き」を仕事にして、そこそこ面白可笑しく暮らすためには、ビジネスモデルはは自分で設計しなくてはいけないと著者は述べています。例えば、バイク便ライダーは「好き」を仕事にしているけれど、数年で体を壊して辞めていく人が多いそうです。それは、彼等が「好き」をビジネスにする仕組みをバイク便会社に依存しているからと著者は分析します。

なにはともあれ、そこそこ「好き」な有機合成化学を生業にすることができてラッキーだったなと一人ゴチっする二流大出のなんちゃって研究員でした。


2010年10月12日火曜日

友情空間と貨幣空間

←木内酒造のネストビールを呑んでます。
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
ボトルは真っ黒だけど、淡色ビール。トップ•ノートはmalty, very sweet, citrus, cake-like, ヨーグルト様、ラムネ様。味わいはfruity, peach-like, malty, deep bitter, citrus。とっても奥行きのある多次元な香りと玄妙な味わいでexcellentなBeerと思いました。


閑話休題


残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」の感想の続きです。今回は、ムラ社会が崩壊して市場の倫理による支配が強化されていることを書きたいと思います↓

本書で最も興味を覚えた部分なんですが、それは、我々が生きるこの社会が、政治空間(愛情空間+友情空間+会社等のコミュニティ。ムラ社会的な閉じた系)と貨幣空間(他人と貨幣を介して繋がる開いた系)とから構成されているというアイデアです。

•政治空間/ 権力ゲーム支配。国盗り(集団の中で一番にな)と天下平定(異なる集団の中で自分の集団を一番にする)が目的の勝者総取りのゼロサムゲーム。統治の倫理(搾取)が働く複雑な世界。濃密な人間関係(強い絆)で、100人程度の狭い空間。安心社会。

•貨幣空間/ お金儲けゲーム支配。世界一のお金持ちにならなくても、そこそこ裕福な生活ができればみんあハッピー。市場の倫理(交易)が働くシンプルな世界。お金を媒介(弱い絆)にして無限に人間関係が広がっていく世界。信頼社会。

で、著者は、友情空間は残酷で、貨幣空間は冷淡だと喝破します。政治空間では村八分(排除、いじめ)は(多分、究極的には)死を意味し、友情はきれいごとだけでは語れないといいます(実際、そういう例が報道されている)。それに対して、貨幣空間(友情のない世界)では市場の倫理さえ遵守すれば、外見、性格、人種、出自は誰も気にせす、社会で生きる場所を与えられる。しかしながら、貨幣空間では、自由と自己責任の原則のもとに誰もが孤独に生きて行かなければならず、愛情も友情も喪失し、お金までも失えばホームレスとなるしかない冷淡な社会でもあるようです。

コンキチ的には友情空間よりも貨幣空間の方が好ましいですね。だって、田舎って面倒だもん。コンキチの実家は、最寄り駅は隣町で産業は農業しかないという本格的など田舎でした。で、そういった典型的な友情空間の中では、地域コミュニティー(近所の寄り合いとか)に多くの時間を半強制的に束縛されるし、その規律にも反強制的に従わなければなりません。で、地域コミュニティーの秩序を乱すと排除される。従順であれば、それなりに助けてもられる。要は、自由を犠牲にして安心を担保しているのだ(だから農村では、独創的な農業のイノベーションが阻害されていると思う)。自由度が決定的に制約される。

っていうか、現実問題として貨幣空間が政治空間(友情空間)を浸食していくエントロピーの流れにあがなうことはできない。そして、既に多くの領域が貨幣空間で占められている。おかげでコンキチは、田舎を捨てて首都圏で研究職という職を得て、経済的に不自由なく、そこそこ便利な生活を送ることができている。はっきり言って、もし田舎に閉じ込められていたらと思うとゾッとします。きっと退屈な日常に耐えきれなくなると思う。

現在の金持ちは変わったと著者は説く。かつての金持ち(権力ゲームの勝者)は、超越的な権威で周囲を畏怖させ、組織を睥睨し支配する権力者(堤義明とか。プリンスホテルの支配人だったコンキチのお義父さん曰く、実際、彼は相当偉ぶってたらしいです)だったが、いまでは、孫正義みたいの世界をまたにかけ、多様な人々とコンタクトをとりビジネスとビジネスを結びつけることで富を生み出すのが金持ち(貨幣空間のトリックスター)だと著者は言います。

さらに、「格差社会の底辺にいるのは、社会の犠牲者というよりは、貨幣空間(信頼社会)のルールに適応できないひとたちかもしれない。」と著者は述べます(これは(うだつのあがらない)地方の疲弊と合致しているとコンキチは思います)。

信頼社会はドライだけど寛容。自己責任の世界だが、ゼロサムゲームではない。能力に応じたチャンスはある。
安心社会は相互監視社会の中での安寧。ムラ社会のヒエラルキーに従って生きる事を余儀なくされる。

どちらを選択するかはあなた次第、とコンキチは思います。


c) 評判獲得ゲームの台頭 (バザールでの評判獲得ゲームとショートヘッド)」につづく.....


研究員のエンサイクロペディア (8)

文系【Bunkei】

3) 天下の東工大(東北工業大学ではない)を卒業したにも関わらす、市民運動家に身をやつし、一国の宰相になってもリーダーシップを発揮できず、何をやりたいのかさっぱり分からない人。例えば、菅直人。

4) 野党時代、小泉政権の良かったところを徹底的に批判っしてしまったばかりに、その呪縛から抜け出せず、「第三の道」とか言っちゃう人。例えば、菅直人。

see http://researcher-station.blogspot.com/2010/06/3.html

2010年10月11日月曜日

やってもできない

今年のノーベル化学賞はクロスカップリングに賞が与えられましたね
有機合成化学の携わる者としては喜ばしい限りです。というわけで、辻先生の本でも読んで遷移金属触媒反応について造詣を深めようと思っているコンキチです。


閑話休題


コンキチの大好きな作家、橘玲の新刊「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」を読了しました。

内容は大まかに言って次のことが述べられていると感じました↓

a) 自己啓発の限界 (やってもできない)
b) ムラ社会の崩壊 (友情空間と貨幣空間)
c) 評判獲得ゲームの台頭 (バザールでの評判獲得ゲームとショートヘッド)

それでは、まず「a) 自己啓発の限界 (やってもできない)」の感想を書こうかと思います↓


お話は、自己啓発の女王様とリカちゃん先生の幸せを巡る論争本の話題からお話が始まりまります。

自己啓発の基本発想は、(人は無限の可能性を持っているから)「やればできる」。一方、行動遺伝学は「やってもできない(人もいる or こともある)」を例証します。要するに、身体的特徴の他に知能も遺伝するから、適性に欠けた能力は努力しても、その向上は限定的であるってことのようです(但し、知能の遺伝は、科学的に証明されても、政治的、道徳的に社会から容認されること決してない。だから、自己啓発は終わらない)。

で、人間には幾つかの知能(能力)があるんだけど、その中で現代社会において、市場で高く評価されるのは、言語的知能と論理数学的知能で、身体運動的知能は相当高くないと殆ど評価されない(義務教育時代にスポーツ万能だった友達のどれほどがスポーツ等の分野で活躍しているだろうか?)。

それから、自己啓発の定番「ナポレオン・ヒル」の自己啓発プログラムの独占販売権を獲得して成功した自己啓発オタクの田中孝顕という人は、結局、自分を変えることはできなかったというエピソードが紹介されています。

で、以上をまとめると、先天的に言語的知能や論理数学的知能に恵まれていない人は、現代社会で経済的に成功することは難しいという回答が導きだされると思います。
(だからといって、語的知能や論理数学的知能に恵まれない人でもそこそこ(世間並みに)生きていくことも可能。なぜならそこのは比較優位の理論が働くから)

それにつけても、空恐ろしくなりますね、この話は。とりあえず、幾許かの言語的知能や論理数学的知能に恵まれ、マックジョブではなく、けっこう好きな有機化学の世界でお仕事できる幸福に感謝したい二流大出のなんちゃって研究員でした。


b) ムラ社会の崩壊 (友情空間と貨幣空間)」につづく.....

2010年10月2日土曜日

ど素人、農業を考える

第一次産業の雄「農業」ってどうですか?はっきりいって、コンキチには(現在の日本における)農業に魅力を見出せません。だって、

a) 斜陽だし(高齢化とか後継者問題とか)
b) 参入障壁が高そうだし
c) 仕事はきつそうだし
d) 大変そうなわりに、(多くの現場は)非クリエイティブ
e) 地元のおつきあい(人間関係)が面倒くさい(特に、田舎は魔物が住んでるしね)
f) 農協に牛耳られてるのが癪にさわる
g) 天候リスク個人で丸抱えでしょ
h) 設備投資も個人でファイナンス
etc.

っていう感じで、ネガティブイメージがあっという間に広がります。

で、国が農業っていう産業を輪をかけて魅力の無いものにしているって感じですか?例えば、減反とか戸別所得補償制度とか高関税(778%?!)とかっていうやる気のない零細(兼業)農家とか、イノベーションなんてそんなの関係ねーなんていう農協の言いなりになっているような農家を優遇する政策ばかり採用するよね
(時の為政者には、ポーター教授の戦略論でも読んで欲しいくらいです)

で、農業ど素人のコンキチは思うんですよ。こんなことしたら、農業が活性化して競争力がある産業として再生するんじゃいかなって↓

ズバリ、


農業の大会社化


最近では、農業経営を法人化している事業体がある程度の成功を収めているといった報道がなされているけれど、まだまだ小粒だし、持続可能性にもまだ疑問を感じます。コンキチは株式会社の農地取得にかかる縛りを撤廃すべきと思いますね。そして、株式会社の参入障壁を緩和すべきと思います。

で、こんな話をすると、個人事業主の経営が圧迫されるとか言われそうですけど、そんなの反対の理由にはならないとコンキチは強く思いますね。そもそも↓

a) パパママショップの保護はしなかったくせして、なんで農家だけ保護しようとするわけ?イオンやイトーヨーカ堂とかスタジオアリスとかQBハウスとかもぶっ潰すべきでは?
b) っていうか、高度に高齢化で後継者不足なんでしょ。もう十分働いたし、どうせもうすぐ廃業するんだからいいじゃない。しかも、既存高齢ベテラン農業従事者は株式会社のコンサルになってもいい。企業に後継者採用のマーケやらせた方が効率的と思うし。
c) 農地の世襲化という既得権を打破できる(ちなみに俺の実家は農地改革で農地を取り上げられて没落した)

特に問題ないように思うんだけど。そして、さらにこんなメリットもあるんじゃないの↓

d) 大学との共同研究がすすむ。あと、クリエイティブ•クラスの就労が可能になるんじゃない?
e) 農業就労希望者を全国から広く募集できる。で、沢山人が集まれば、シフトとか工夫して、ワークライッフバランスのとれた就労携帯だって可能なんじゃない?
f) 様々なリスクを軽減できる。ファイナンスも容易になるし、各地で事業展開すれば天候リスクもある程度回避できると思う。設備投資だってやり易くなるはず。
g) そもそも、規模の経済がみこめる
h) 新たな(効率的な)流通チャネルを構築できる
i) 流通チャネルも牛耳ることができるなら、プロダクトミックスとかマーチャンダイジングを工夫して面白いことができそうな気がする。ってことで、範囲の経済もみこめる。
j) 個人的どうでもいいけど、嫁不足とか少子高齢化にも資するかもしれない。
k) 分業が可能になり、効率的な事業運営が可能
l) 国民の税金も投入されることが無くなる
m) 対外的な交渉力が増す。
n) 関税も撤廃(MA米だって買わなくてよくなる)。他産業にも好影響?
etc.

なんて思うんだけどな。まあ、個人的には農家がどうなろうと知ったこっちゃないですよ。イノベーションを放棄して、自分たちは弱者だ的なこといって、国民の税金を大量に搾取してきた農家がどうなろうと。淘汰されるべきものが、さっさと淘汰されないと、世の中は極めて非効率になり、国民の税金が湯水のように投入されることになると思うんだけど、どう思いますか皆さん?ごく少数のやる気の無い人を過度に守る為に、残りの大多数の人が搾取される社会っていうのは楽しい社会と思いますか?

以上、農業ど素人の思いつきの垂れ流しでした。