2010年10月17日日曜日

評判獲得ゲームの台頭

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」の感想の続きです。今回は、ムラ社会が崩壊して市場の倫理による支配が強化されていることを書きたいと思います(最後です)↓

ところで、日本的経営っていう言葉があります。ジャパン・アズ・ナンバーワンと日本経済が賞賛された時代に評価された、年功序列と終身雇用(実際はそんなもの殆ど存在しなかったが)をベースにした経営スタイルです。で、日本的経営の下では、能力差ほど賃金差は大きくなりません。成績(業績)優秀者は、幾許かの賃金の上乗せと、周囲からの評判(その結果としての昇格、昇進)によって処遇されていきます。

余談ですが、古典的な日本企業では、管理職に昇進すると給料が下がるというパラドックスが発生することがままあります。要は、管理職に登用されると残業代が支払われなくなるためです。このことは能力差ほど賃金差は大きくいということを例証しているとコンキチは思います。

能力(or 成果、実績)が、それほど賃金で報われないとしたら、当時、エコノミック•アニマルと揶揄させた我が国の企業戦士を長時間労働へと動機付けていたのは何だったのか?という疑問が湧いてきます。で、その(一つの)回答が本書では示されています。それは、



評判


です。

(自分が勤務する会)社内(という閉じた系=伽藍)における評判獲得競争(ゲーム)に興じることが、企業戦士達を動機づけていたというのです。で、このシステムは、「大きな成果を挙げても、金銭的報酬で報いない」というのがミソだそうです(金銭的報酬は課題に取り組むモチベーションを失わせるという実験結果があるそうです。自分も含めてブロガーの評判獲得ゲームなんてそのまんまと思います。)。

では、何故日本のサラリーマンは評判獲得ゲーム(=他者の承認)にのめり込むのかというと、それこそが幸福の本質だからと言います(コンキチはれにもの凄くシンパシーを覚える。まあ、詳しい事が知りたければ、本書に後ろの方を読んで下さい)。人間は社会的生き物だから、他者からの承認なくして生きて行くことは出来ないと思います。そして、社畜化したサラリーマンは、そのリソースの(殆ど)全てを会社という閉じた空間に注いでいるから、ますます社畜化スパイラルに陥り、重労働を自ら進んで受け入れるのだ(コンキチは以前勤めていた会社でそんな人達をみたことがあります)。で、その結果、日本的雇用が自殺社会を生み出すと著者は述べます(ブラボー!)。

ところで、とある調査で、人生の満足度を7点満点とすると、

フォーブスに載る大富豪達の平均/ 5.8
マサイ族/ 5.4

だったそうです。このことから、目の眩むような大金の幸福度への寄与はたったの0.4ポイントでしかないということと、幸福は相対的なものであるということが例証されたと思います。


著者は、本書の冒頭において、現代社会における成功哲学を以下の二行に集約しています↓

伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。


です。ではちょっとキーワードを確認してみましょう↓

•伽藍/ ムラ社会(古典的な日本企業)のような閉じた系。流動性が極めて低い。ネガティブな評判が極めて大きな効果を発揮する(撤退が許されないから)。伽藍の中で蓄積された評判は、

•バザール/ 参加も撤退も自由な市場。開いた系。ポジティブな評判が蓄積される(評価のリセットはこれまでの財産を全て失うことになる)。ネガティブな評判は役に立たない(撤退が自由だから)。

•恐竜の尻尾/ ロングテールのこと。

•恐竜の尻尾の中に頭/ ショートヘッド。ロングテールを裁断していくと無数のショートヘッドができる。無数にジャンル分けしていけば、いずれは誰もがショートヘッドになれる(かもしれない)。要は、ニッチ市場。


で、ボクなりに先に二行を咀嚼するとこなります↓

幸福とは他者からの承認であり、相対的なものだ。だったら、経済的に破綻しない範囲で自分の好きなカテゴリー(ニッチ市場)での評判獲得ゲームに配分するリソースを増やそう。評判獲得ゲームは情報空間でやればいい。何故なら、情報空間(Web)は、フリーで世界で最も開いた系(バザール)で、参入障壁も撤退障壁もリスクも低い。バザールでの評判獲得ゲームとショートヘッドに注力してみてはどうか?なんてことになります。

著者は、本書でさらに要約っしています。すなわち、


「好き」を仕事にする


そして、「好き」を仕事にすれば、そこには必ず市場があるから空振りはしないといいます(誰でも得点できるとは限らないけど)。たた、「好き」を仕事にして、そこそこ面白可笑しく暮らすためには、ビジネスモデルはは自分で設計しなくてはいけないと著者は述べています。例えば、バイク便ライダーは「好き」を仕事にしているけれど、数年で体を壊して辞めていく人が多いそうです。それは、彼等が「好き」をビジネスにする仕組みをバイク便会社に依存しているからと著者は分析します。

なにはともあれ、そこそこ「好き」な有機合成化学を生業にすることができてラッキーだったなと一人ゴチっする二流大出のなんちゃって研究員でした。


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