2010年10月31日日曜日

フラット化しない世界

コークの味は国ごとに違うべきか」を読了しました。ハーバード•ビジネススクールで史上最年少の教授となったという、ハーバード•ビジネススクール教授、兼IESEビジネススクール グローバル戦略のゲマワット教授の著作です。

内容は、その邦訳のいかにも大衆をターゲットとしたようなタイトルとは裏腹に、かなりハイブローな内容です(原題は、「REDEFINING GLOBAL STRATEGY」です)。

ボクは「フラット化する世界 (The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century)」は未だ未読なんですが、そういう世界とはウィキペディア情報によると、インターネットなどの通信の発達や、中国・インドの経済成長により世界の経済は一体化し同等な条件での競争を行う時代にいたる世界らしいです。そして、フラット化した世界でのグローバル戦略は、規模と画一的戦略を重視している様です。

で、この本で著者は、フラット化した世界=(完全な)グローバリゼーションへの歩みは鈍牛のごとく遅く、少なくとも当面の間はセミ•グローバルの状態のまま(国ごとの差異は大きい)であろうと予測し、その前提を基にしたクロスボーダー戦略を提案しています。

著者が提起するクロスボーダー戦略はAAA戦略で、それぞれの「A」はAdaptation (適応)、Aggregation (集約)、Arbitrage (裁定)に対応し、AAAトライアングルから戦略オプションを策定していくというものです。

そして、戦略策定には、差異を分析し、差異を活用することが重要と述べ、差異分析のツールとしてCAGE (Cultural: 文化的な隔たり, Administrative: 制度的な隔たり, Geographical: 地理的な隔たり, Economic: 経済的な隔たり)な隔たりの枠組みというフレームワークを提案しています。

そして、フラット化した世界でのグローバル戦略=「規模と画一的戦略を重視」が通用しない事例が幾つか挙げられています。例えば↓

a) コカ•コーラ
同社は1980年代、集約戦略の舵を切ったが、業績は思うようにあがらず、その後、適応戦略に切り替えた。急激な適応戦略へのシフトによりさらに業績を悪化させた同社は、現在トレードオフ関係にある適応-集中間でバランスをとった戦略にシフトしている。ちなみに、ジョージアは日本コカ•コーラの独自商品。また、アトランタで開かれる「コカ•コーラの世界の味」展示会に来場するアメリカ人は、日本やその他の国の製品を試飲して、あまりの不快な味に吐き出してしまうことも少なくないそうです。

b) ウォールマート
同社の海外事業の収益性はアメリカ国内よりもずっと低い。黒字の国はCAGEな側面がアメリカと似ている傾向にあり、赤字の国はそうではない。

c) グーグル
グローバリゼーション(=フラット化)を促進させる「テクノロジー」を推進する最右翼のIT企業の巨人グーグルのロシアと中国事業は芳しくないという。理由は、
文化的な隔たり(ロシア語が比較的難しい)、制度的な隔たり(中国の検閲への対応)、地理的な隔たり(遠いアメリカからロシアに手適応するのに苦労し、現地にオフィスを設立)、経済的な隔たり(ロシアは資金決済のインフラが未整備だったあため、現地の業者との競争に不利)といったCAGEな隔たりの全てが関係していた。


翻って、国ごとの差異を上手く利用した事例もあります↓


A) マクドナルド
ビックマック指数という言葉に象徴されるように、高度に標準化されたオペレーションを全世界で提供していると思われているマクドナルドの提供している製品は、国によって様々だという。
フィリピン/ バーガーマクド(甘いバーガー)、マックスパゲティ(イタリアにはない)
日本/ テリヤキバーガー
インド/ 羊肉バーガー
台湾/ ライスバーガー
現地での適応可能な要素と、適応するとシステムのパフォーマンスが損なわれる要素とに分類し、全体の約20%を現地ルール、約80%をグローバル•ルールとしているという。
また、マスコットのロナルドはフランスではマクドナルドワイン、オーストラリアではフィレオフィッシュの販促を行い、北米ではクリスマスを、香港では旧正月を祝うが、世界中からアクセスできるメディア(グローバルな広告キャンペーン)には登場しないといいます。これは世界中で現地の文化の中にマスコットのイメージを入れこもうとしているからだそいうです。以上は、領域分割(国ごとに異なる要素と、複雑なシステムの統合された部分とをはっきり分ける)の事例で、マクドナルドは領域分割の名手と言われているそうです。ちなみにボク個人は、マクドナルドは人間の食べるものじゃないと思っています。

B) インドの製薬業界
インドの製薬業界では、製品ではなく製法に特許が与えられるため、輸入医薬品のリバース•エンジニアリングによるコピーの製造が有利だったそうです。2005年以降、WTOへの加盟に向けて特許法を世界標準に改正したそうなんですが、歴史的経緯、安価な労働力、買い手の支払意思額、国内の競争などにより、インドの大手製薬会社はローコストオペレーション能力を高め、ジェネリック医薬品市場で重要なポジションを確立したといいます。FDAに提出されるジェネリックの略式申請の25%がインド企業といいます。制度的な裁定が効いた例でしょう。

C) IBM
最近のIBMは国ごとの差異を活用し始めたそうです。すなわち、賃金の差異(裁定)を利用して、新興国(特にインド)の社員を3倍以上に増やし、新興国で大幅な拡大(集約)を図りました。新しい従業員は、IBMグローバル•サービシズというグループ会社に雇用され、この会社が急拡大しているそうです。しかしながら、同社は、ソフトウェア•サービス事業でインドの競合他社よりも人件費が50-75%高く、コストダウン競争で勝負に出ようとしているわけではなさそうで、ハード、ソフト、ITサービスの三つの分野全てでソリューションを提供する「One IBM」のビジョンを実現することで差別化をはかっていく模様です。

D) P&G
エクセレント•カンパニーの雄、P&Gでは、集約、適応、裁定(アウトソーシング)の機能を意図的に3つのサブユニット、すなわちグローバル事業部門、地域市場開発組織、グローバル•ビジネス•シェアード•サービシズ部門にわけ、これらが接触する(摩擦が生じる)場を最小限に抑える構造ににすることで、適応と集約に加えて、ある程度の裁定(アウトソーシング)を追求してすることが可能となったという。同社は最高の業績をあげているとか。

今のところ、フラット化した世界は夢のまた夢のようです。

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