2021年9月23日木曜日

Allenone Ligation

コロナ禍でもやっぱり外食が好きだけど、デルタ株が恐くて自炊道と家呑みに精進している永遠の食いしん坊将軍のコンキチです。
(神ワクチンが効いたせいか、束の間のダンス・タイムですね。我が国はウィズ・コロナのハンマー&ダンス戦略なので、来年も再来年もコロナと共にあると憶測します。)

ということで、プレコロナの食いしん坊に優しい時代に、深川で呑んだくれていたときのメモです。

-三徳 memo-
住所:江東区常磐2-11-1

-お通し (200 JPY+tax)- 


-生かぼすハイ (450 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
fresh, citrus, green!!!
和柑橘と甲類焼酎と炭酸の組み合わせは鉄板です。


-純レバ (500 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
甘辛いタレはちょっと濃い味も、レバと一緒に食べると丁度いい塩梅。レバは複数部位が入っている。軟らかくしっとりしたレバと、ぷりっとした弾力リッチな部分(噛み心地よく楽しくなる)がメイン。とってもフレッシュでありながら滋味深く、信じ難いほど旨い。それからレバの口溶けの良さが秀逸。 ボディーの強いレバは、薬味の葱とからしとの相性も抜群。 純レバの正体は、鶏もつをもつ焼き用のタレで煮たもので、仕上げに刻みネギをトッピングして出してくれる。 
純レバとは、鶏もつの中でもレバーまわりの部位しか使わず、玉ひも(体内卵や輸卵管)や砂肝などは使わず、ニラレバなどのように野菜も使わないことから"純レバ"と呼ぶらしいです。


-生ビール (550 JPY+tax)- 
-REVIEW- 
しっかり美味しい。 


-(生)マグロぶつ築地直送 (500 JPY+tax)- 
-RATING- ★★★★★
-REVIEW- 
しっとりと軟らかくキメ細かい赤身。筋がかなりあるけど、あまり気にならない。上品な甘味があって、絶妙な脂(上品)ののり具合いで酸味は感じない。口の中でホロホロとほぐれていく食感が堪らない。とっても綺麗な味の赤身です。
薬味は粉ワサビ。薬味はつけずにお醤油だけでいただくのが良いです。 それから、ツマの大根がとっても旨い。フレッシュで表面がツルツルでスナックライクな食感。 


-下町ワイン葡萄酒 赤(二合) (680 JPY+tax)- 
-REVIEW- 
徳利に入って登場。ambient temp.です。 多少赤ワインらしい香り。light bodyで、まあ、どってことない味だけど、それでいいんです。徳利に入ったチープな赤ワインを安っぽいビールグラスでやるという風情を楽しむ飲み物なんです。個人的には、マグロと合わせられて嬉しかったです。





閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Allenone-Mediated Racemization/Epimerization-Free Peptide Bond Formation and its Application in Peptide Synthesis
J. Am. Chem. Soc., 2021, 143, 10374-10381.

アミド化のお話です。そして、かなりの変わり種です。

ペプチド合成って言ったら、(生物学の素養のない)ケミストがまず思いつくのは固相合成(SPPS; Solid Phase Peptide Synthesis)でしょう。ホント、固相合成を開発したMerrifieldは天才だと思うけど(ノーベル賞GETしてるし)、固相合成にも問題があります。長鎖合成(>50mer)が苦手なことに加えて、原子経済(atom economy)に乏しくサスティナビリティーや環境側面に課題があります。特に原子経済の低さはいかんともしがたいものがあります。ついでに(決してついでというわけではないですが)、コンベンショナルな縮合剤の使用はラセミ化・エピマー化の懸念が付き纏います。

ということで、アミド化剤のケミストリーは相当研究されていて十分に成熟しているかの様に思えますが、まだまだいい試薬の需要は尽きないのです。

ここでこの論文のイントロに書いてあるElectrophilic sp Carbon Centerをもつ縮合剤のデザイン・コンセプトを軽く概観してみましょう↓


ペプチド合成において、DCC (1955)やジフェニルケテンイミン (1958)のような試薬はオキサゾロン(アズラクトン)経由のラセミ化に加えて、これらの試薬が有する塩基性中心(basic center)によるα-水素引き抜きに起因するラセミ化が懸念されます。
活性エステルの反応性を下げてラセミ化を抑制のためにHOBtやHOAtなどの試薬が開発され、さらにはOxymaやホスホニウム塩、ウロニウム/アミニウム塩がペプチド合成の主力試薬として使用されていて、現在はこういうのが主流ですね。
see

ところで、著者らのグループもペプチドのカップリング試薬の開発を行っています。で、着目したのは、スバリ、イナミドでした(Zhao et al., 2016)。

J. Am. Chem. Soc.2016138, 13135-13138.

イナミド試薬では窒素原子上への電子吸引性置換基の導入がキモで、これにより試薬の塩基性が低下し、ラセミ化フリーの縮合反応が達成できました。これに関しては、ケムステに詳細な解説記事があります(https://www.chem-station.com/blog/2017/12/inamide.html)。

ただこのイナミド試薬は反応性がイマイチなので、液相合成ではそれなりに使えるのですが、固相合成(SPPS)に適用するのは厳しいです。

ところで、カルボジイミド試薬、ケテンイミン試薬、イナミド試薬(の1,3-双極子共鳴構造)の共通点は、求電子的なsp炭素を有するビシナルな二重結合に対してカルボキシル基の付加反応が起こるということです。

ハイ、化学の神様が降りてきました。

著者らは、求電子的なsp炭素を有するアレノン誘導体だったら同様な様式で縮合剤に使えんじゃね?しかも、塩基性中心ないからラセミ化の心配もないよね。と考えて、ラセミ化(とエピマー化)フリーの新規アレノン系縮合剤の開発に取り組み、見事その偉業を達成したのです。名付けて、Allenone-Mediated Amide Bond Formation (AMABF)です。


この反応は、1段階目の1,4-付加/異性化反応によるα-カルボニルビニルエステル中間体と、2段階目のアミノリシスからなり、ステップワイズでもワンポット(two-step one-pot reaction)でもおしなべて収率良く反応します。

1段階目の1,4-付加/異性化反応は、非極性溶媒が有利(DCEがベスト)で、室温で反応時間は3-14時間。α-カルボニルビニルエステルは冷蔵庫で12ヶ月間は安定(without any deterioration)で、DMF溶液にして5日間安定です。

2段階目のアミノリシスは非プロトン性極性溶媒で有利(DMF, DMSOがベスト。2Me-THFも良好)。反応は基本速いのですが、嵩高いアミンや求核性の低いアリールアミンといったチャレンジングな基質では遅く、その場合は触媒量(10 mol%)のHOBtを添加することで反応が促進します。

1段階目と2段階目で用いる反応溶媒が違うんんですが、液相でワンポット反応をやるときは、1段階目が終わったら溶媒(DCE)を濃縮してDMFに再溶解して2段階目の反応を行えばオッケーです。

基質一般性はおしなべて良好です。

Simple Allenone-Mediated Amide Bond Formation (AMABF)
allenone : carboxylic acid : amine = 1 : 1.1 : 1.1 (maybe), rt.
9 examples, 93-97% (two-step one-pot reaction)

(比較的)単純なカルボン酸とアミンの反応は、かなりexcellentな感じです。

Dipeptide Synthesis
allenone : carboxylic acid : amine = 1 : 1.1 : 1.1 (maybe)
35 examples, 77-99%, de >99% (two-step one-pot reaction), rt.


フラグメントカップリングにも適用できます。

Peptide Fragment Condensation (stepwise, 2 steps)
11 examples, 82-94%, de >99%, rt.

で、ジペプチド合成とフラグメントカップリングで特筆すべきは、コンプリートにラセミ化/エピマー化フリーということでしょう。(知らなかったんだけど)セリン(Fmoc-L-Ser(OtBu))とかフェニルグリシン(Fmoc-L-phenylglycine)ってラセミ化しやすいそうなんですけど、キラリティーの毀損はありません。厳密には、フェニルグリシン使った反応で、二段階目のアミノリシスを室温(通常条件)でやると10%エピメリます。でも、もっと温度を低くすればエピ化を完全に抑制できるのです。ちな、反応温度は-55℃な。

あと、この反応で驚きなのは、N末端からペプチド鎖を伸長していけることです(N to C peptide elongation)。オイラ、ペプチド合成はスーパー初心者級なので劇的なメリットが良くわかんないんですが、C to Nワッショイの中でN to C でペプチド鎖を伸長できるのは選択肢を増やすという意味で価値があると思います。そのN to C の例がこちら↓

ガンのお薬であるCarfilzomib (カルフィルゾミブ)の合成です。
Synthesis of Carfilzomib
Racemization/Epimerization-free N to C Peptide Elogenation

全収率68%です。既報の収率は26-38%なので、とってもインプルーブメントしています。

さらにこのAMABF (オイラはアレノン・ライゲーションと呼びたい)は、Fmoc SPPSにも適用できます↓


今回固相合成のターゲットに選んだのは、アシルキャリヤータンパク質(ACP)の65残基目から74残基目までのペプチドフラグメントであるACP (65-74)で、なんでもディフィカルトペプチドのモデルとして使われてるようです。

カップリング条件は、
a) α-カルボニルビニルエステル(活性エステル):2 eq. (樹脂に一つ目のアミノ酸残基を導入するときだけ3 eq.)
b) HOBt:10 mol%
c) 溶媒:DMF
d) 反応時間:20-30 min。バリンとイソロイシンを入れるときだけ1 hr
です。

で結果ですが、30 μmolスタートで、crudeのACP (65-74)を98%のHPLC純度(UV at 215 nm)で30.3 mg (フリーで28.5 μmol相当)でゲットできました(なんでか分かんないけど、著者らは最後TFA系でHPLC分取してるんだけど、TFA塩じゃなくて、フリーでモル数を勘定してます)。

それから、他の縮合剤を使った結果との比較はこちら(ほぼ同条件でやって比較してます)↓

entry 1   PyBOP   crude : 25.4 mg (23.9 μmol), 86% HPLC purity
entry 2   HBTU   crude : 20.8 mg (19.6 μmol), 77% HPLC purity
entry 3   Pentafluorophenyl ester   crude : 13.9 mg (13.1 μmol), 60% HPLC purity
entry 4   This work   crude : 30.3 mg (28.5 μmol), 98% HPLC purity

なかなかエクセレントな(アレノンの)リザルトです。

ところで、アレノン(1-phenylbuta-2,3-dien-1-one)なんですが、どうやって手に入れてるのかというと、著者らは自分たちで合成しています↓

Supporting information記載の実施例はたったの1 mmolスケールで、収率も書いてないです。はっきり言ってあやしいんですが、既知化合物だし、他の合成法も報告されてるし、一応マニアックなメーカーでの取り扱いもあります。

それでは最後に、このアレノンを使ったアミド結合形成反応のビッグな特性をまとめてフィニッシュしようと思います。

一つ、ラセミ化/エピマー化フリー
一つ、フラグメントカップリングに適用できる
一つ、N to C peptide elongation strategyもできる
一つ、SPPS (Solid-Phase Peptide Synthesis)に適用できる(活性エステルが溶液状態で5日間安定というのも固相合成向き)

(マジモンだったら)シュゴイです。

著者らは本報の冒頭で、"disruptive innovation in peptide synthesis"って語ってるんだけど、なんだか凄い自信です。でも、それだけ魅力的でパワフルな手法だと思いました(事実なら)。

以上、国内二流大出のテクニシャンの破壊的アミド化メモでした。