さて、前回のエントリーに続いて、またBeckmann転位に関する文献を2報読んでみました。どちらも全く同じ反応です。
Cyclopropenium ion catalysed Beckmann rearrangement
Chem. Commun., 2010, 46, 5808-5810.
Yadav et al.
Cyclopropenium-activated Beckmann rearrangement. Catalysis versus self-propagation in reported organocatalytic Beckmann rearrangements
Chem. Sci., 2010, 1, 705-708.
Lambert et al.
Lambertのグループ(Columnia Univ.)は、過去にシクロプロペニウムカチオンがアルコールやカルボン酸を活性化して、マイルドに塩素化するという論文を発表しています。
see
•アルコールの塩素化→http://researcher-station.blogspot.com/2010/07/aromatic-cation-activation-1.html
•カルボン酸の塩素化→http://researcher-station.blogspot.com/2010/08/aromatic-cation-activation-2.html
で、今回はオキシムを活性化してBeckmann転位に応用するというお話。ちなみに、パブリケーションされたのは、Yadav (Univ. of Allahabad)の方が先です。
Yadav等のグループの報告では、3,3-ジクロロ-1,2-ジフェニルシクロプロペンの触媒量の添加でBeckmann転位が進行することを見出した後、additiveを最適化し(ZnCl2が最適)、推定反応機構(触媒サイクル)の提案をしています。17 examples (うち15例は91-99% yield。C8とC9の環状オキシムの収率が悪い)。
一方、Lambert等のグループでは、シクロプロペニウムカチオンの置換基をチューニングして最適化を行っています(より高いpKR+の基質が高い活性を示します(R: Xyl≒Mes > 4-OMe-Ph > iPr > Ph))。オペレーション的な面からも、シクロプロペノンと(COCl)2からin situでジクロロシクロペンタノンを発生させて反応に処すという簡便なアプローチを提案しています(これは便利!)。さらに、検証実験を繰り返し、Yadav等の報告とは異なった反応機構を提案しています。12 examples, 80-99% yield。
さて、両者の反応機構対決ですが、Yadav等は次のような触媒サイクルを提案しています↓
Yadav等は、室温では転位が起こらず、加熱することではじめて反応が進行するとし、2,3-dipenylcyclopentanoneとimidoyl chlorideが検出されなかったことを根拠に上記反応機構を提案しています。
これに対して、Lambert等は次の様な二つのサイクル、すなわち触媒サイクルと自己伝搬サイクルを考え、検証実験をして、最終的に自己伝搬サイクルを採用しています↓
っていうか両者の反応機構全然違うんですけど.....
まあ、両者の論文を読んでみれば分かるんですけど、Yadav等の反応機構の考察の基となる実験データがpoor過ぎると思います(安直に結論を出している)♥
そもそもYadav等は、「この反応は室温では進行しない」としていますが、Lambert等の報告によると、触媒で回らないけど、余裕で室温で反応が進行します。化学両論量の3,3-ジクロロシクロプロペンを用いれば、室温でも収率良くBeckmann転位成績体が得られます(例えば、シクロヘキサノンオキシムのBeckmann転位は、MeCN, rt., 2 hrで95% yield)。
さらに、catalyticかself-propagatingかを検証する一助として、オキシムとシクロプロペノンの求核性を、(COCl)2との反応を競争させることで比較しています↓
で、この実験結果からはシクロプロペノンよりもオキシムの方が求核性が高いことが例証されました(これは、self-propagationを支持する。だけど室温下での両論反応ではcatalyticのpathで進んでimidate or imidoyl chlorideで止まってるのかな?Cyclopropenium Cation Activationが転位よりも十分速ければそうなると思う。あと、オキシムがたくさん存在する触媒システムにおいても、self-propagatingメインで進むとしても、catalyticのpathも同時に起こっている可能性もある気がする)。
また、こんな実験もしています↓
この実験から、imidoyl chlorideとTCTの反応性はほぼ同等であることが示唆されます。
また、プロモーターにTCTを使った場合、1H NMRから、imidoyl chlorideの塩酸塩が検出できるそうです(これは前回のエントリーで紹介したBeckmann転位の反応機構にも疑義を呈している)。
これらの実験結果から、Lambert等は、TCTを使った反応も、Aromatic Cation Activationによる反応も、imidoyl chlorideを介したself-propagationではないかと考えているようです。
←あと、Aromatic Cation ActivationによるBeckmann転位は、オキシムの異性化が起こらないです(TCTを使った場合は、異性化する)。
あと、こんな基質を使って、実用性もアピール(でも、何で溶媒にニトロメタン使うんだ?っていうか、基質一般性についてもアセニトよりもニトロメタンをメインに使ってるんだよな)↓
・cyclopropenone (105 mol%), rt., 2 hr
→ 90% yield
・cyclopropenone (5 mol%), 80℃, 3 hr
→ 94% yield
さらに、Lambert等は、TCTよりもCyclopropenium Cation Activationの方が活性が高いこともアピールしています。室温でアセトフェノンオキシムの転位反応を行った場合、TCTだと、MeCN中ではno reaction。DMF中で6 時間反応させて100% conv.なのに対して、3,3-dichloro-1,2-bis(2,4-dimethylphenyl)cyclopropeneを使うと20 minで98% yieldです。ちょっと高いけど、なかなかの高活性。
一般的に酸や脱水剤の存在下、高温が必要っぽいようですが(恥ずかしながら、自分、Beckmann転位ってやったことないです)、マイルドな条件でこの活性と収率はなかなかと思います。また、オキシムの異性化が起こらないのも価値があると思います。
ボク的には、TCT使ってうまく行かなかったら、Cyclopropenium Cation Activationを試してみたいと思いました。
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