2019年6月9日日曜日

ADT : Intrinsically SafeではなかったDiazo-Transfer Reagent

何年か前にカキ酒場 北海道厚岸 日本橋店に牡蠣を食いにいったときのメモです↓

-お通し (378 JPY)-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
さつまいものスライスを素揚げにしたものがtopに載ったサラダ。
さつまいもの穏やかで控えめな甘さ、パリっとした食感、そして素朴な芋っぽい味わいにおハーモニーがとても旨い!

-生マルえもん M (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
小振りだけどしっかりfreshで美味しい。

-焼マルえもんん M (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
熱で活性化され、滋味深い味が堪らない。

-蒸しマルえもん (304 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
けっこう収縮した感じだけど、心地良い滋味深さ。

-牡蠣フライ  (388 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
熱々の牡蠣の醍醐味が鉄板に旨い!

-牡蠣のルイベ (378 JPY)-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
凍らせてスライスしたもの。
口の中に入れると、口溶けと同時に信じがたいほど豊潤なcreamyな香味が口腔内一杯に広がる。はっきり言って、感動的な味。

-国士無双 (745 JPY)-


閑話休題


今回のお題は、2018年の注目論文の一つ、"Intrinsically Safe Diazo-Transfer Reagent"として報告されたADTのお話です。


Intrinsically Safe and Shelf-Stable Diazo-Transfer Reagents for Fast Synthesis of Diazo Compounds
J. Org. Chem., 2018, 83, 10916-10921.
Ma et al. (University of Science and Technology of China)

ジアゾトランスファー試薬と言えば、気ままに有機化学さんのこの記事が詳しいと思います(http://chemistry4410.seesaa.net/article/254457550.html)。

で、スルホニルアジドがジアゾトランスファー試薬としてよく使われているようですが、p-tosyl azideやtrifluoromethanesulfonyl azideは衝撃に対してセンシティブで爆発性が高いです。はっきり言って、使いたくない(触りたくない)試薬です。

当然、より安全なジアゾトランスファー試薬が求められるわけで、その目的のため様々な試薬が開発されてきました↓

これらの試薬はp-tosyl azideよりは安定性に優れているものの、その調製過程においてアジ化水素やスルフリルアジドの発生を伴うので、安全面での懸念が付き纏うといいます。


imidazole-1-sulfonyl azideのテトラフルオロホウ酸塩や硫酸塩は非爆発性で、非吸湿性であり、合成法もより安全に改善されましたが(Org. Lett., 2013, 15, 18-21.)、"スルホニルアジド結合"は本質的に安定なのか?という疑問は常につきまとい、長期間の保存には向いていないかもです。

ちなみに、A Safe and Facile Route to Imidazole-1-sulfonyl Azide as a Diazotransfer Reagent (Org. Lett., 2013, 15, 18-21.)"では、フリーのimidazole-1-sulfonyl azideの酢エチ溶液を用時調製して使っています。

こうした"スルホニルアジド結合"を克服するために開発された試薬に、2-azido-1,3-dimethylimidazolium (ADM) saltがあります↓


ADMCは吸湿性だけど(単離できなかった)、ADMPは問題の一つである吸湿性が改善され、熱、衝撃、摩擦に安定な結晶性の化合物でかなりイケてる感じで、TCIやアルドから市販されています(危険物非該当のようです)(https://www.tcichemicals.com/eshop/ja/jp/commodity/A2457/https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/762415?lang=ja&region=JP)。

ADMPの合成法と反応例です↓


Synthesis, 2011, 1037-1044.


21 examples, up to 99% Yield

Eur. J. Org. Chem., 2011, 458-461.
(see https://researcher-station.blogspot.com/2016/05/diazo-transfer.html)

衝撃感度と摩擦感度の試験から爆発性は(試験の範囲内で)ネガティブと判定され、DSCによる熱分析の結果から分解開始温度は200˚C程度とイケテル感たっぷりなADMPですが、出発物質がちょっと高くて、湿気に弱く取り扱いが難しいのが難点だと指摘されます。その辺りを改善したジアゾ基転移試薬をということで開発されたのがADTです↓

Synthesis of ADT


Diazo-Transfer Reaction with Different Active Methylene Compounds

Comparison of Different Diazo-Transfer Reagents

BAM摩擦感度試験とBAM落槌感度試験はマックスレベルの試験でどちらも不爆、DCSによる熱分析ではざっくり120-130˚Cから分解が始まるけど吸熱的で、室温下で一年以上安定なADTを著者らは"本質的に安全"と猛アピールしています。
ADTを用いたジアゾ基転移反応は基質一般性に優れ、マイルドな条件で反応が進行します。安全性、ハンドリングの容易さ、反応性をトータルで考えると、ADTってDiazo-Transfer試薬のNew Srandardになるかもと誰もが夢想したことでしょう(多分)。

しかしながら、今春出た論文で、ADTは"Intrinsically Safe"ではないと指摘されました。
Diazo-Transfer Reagent 2-Azido-4,6-dimethyl-1,3,5-triazine Display Highly Exothermic Decomposition Comparable to Tosyl Azide
J. Org. Chem., 2019, 84, 5893-5898.
Bull et al. (Imperial College London, GlaxoSmithKline)

どういうことかと言うと、"Intrinsically Safe"を謳ったMa等の論文では、開放系でDSC測定していて、分解時に発生したガスの気化熱(蒸発潜熱)によって熱が奪われたっていうオチでした。はっきり言って、ありえないボンミスです。やっぱ、アカデミアの人は安全意識が低いのでしょうか?結局、密閉系でDSC測定したところでは、159℃から分解が始まり、その分解熱は-1135 J/ gにのぼり、(分解熱だけ言えば)TsN3と比肩するレベルで潜在的に爆発性があると考えないわけにはいかず、55℃以下での使用と、当然アジド化合物の爆発性を想定して取り扱うことが推奨されています。

とういうことで、2018年の注目論文の一つだった
Intrinsically Safe and Shelf-Stable Diazo-Transfer Reagents for Fast Synthesis of Diazo Compounds
はCORRECTION入ってます(see https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.9b00914)。
なので、もしADTを使ってみようと思う人がいたら、調子ぶっこいてぞんざいに扱わないように気をつけましょう。

以上、二流大出のテクニシャンのジアゾ基転移試薬メモでした。



0 件のコメント:

コメントを投稿