2022年2月17日木曜日

化学ライゲーションの世界へようこそ

コロナ禍が続く今日この頃。メシ時を外してメトロポリタンTOKYOで食事したときのメモです。

-近畿大学水産研究所 ななれ グランスタ東京店 memo-
住所:千代田区丸の内1-9-1 グランスタ東京 1F

-近大ネギトロ紅白手桶寿司 (1,950 JPY)-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
全て"近大"生まれのマグロ、マダイ、シマアジの手桶寿司に、小鉢、味噌汁、香の物がついたセット。ディナー(17:00〜)数量限定品って書いてあったけど、16時前にうっかり注文したら、(すげー空いてたこともあってか多分特別に)オッケーでした。
お魚盛りだくさんで嬉しい一品です。味も養殖ものとしてはかなりいいんじゃないでしょうか。
ビバ!近大の養殖テクノロジー!!
ただやっぱり、全体的に脂が強めで、味もボヤっとした感じがあり、身も緩めかなとは思いました。


閑話休題


流行ってるゼェ、ニューモダリティ!ということで、ペプチド合成のメモです。
ケミストがペプチド合成と聞いて最初に頭に想い浮かぶのは、メリフィールド (Merrifield)が開発したペプチド固相合成法(SPPS, Solid-Phase Peptide Synthesis)でしょう(ノーベル賞GETだぜ)。

原料や縮合剤の除去が、ペプチドの結合した樹脂を洗い流すだけで良いのが画期的で、蛋白発現では難しかったり、タンパク質を構成しないアミノ酸を含有していたり、化学修飾されたペプチド合成に威力を発揮します。
しかしながらモノには限度があるもので、(諸説ありますが)一般的に合成可能なアミノ酸残基数は50残基程度と言われています(100残基合成したという話も聞いたこともありますが、レアです)。加えて、ペプチド鎖の伸長を困難なものとする"difficult sequence"問題もあって、必ずしも一筋縄ではいきません。

このようなSPPSの制約に対するブレークスルーの一つに、化学ライゲーション (Chemical Ligation)があります。比較的容易に合成できるペプチド鎖(easy sequenece)を合成し、それらを温和な条件で選択的にセグメントカップリングさせることで(100残基以上の)長鎖ペプチドの合成を狙う戦略です。
即ち、SPPSがリニア合成 (linear synthesis)であるのに対して、化学ライゲーションは収束型合成 (convergent synthesis)になります。一般的に化学合成では収束型合成が王道(効率的)なので、より長鎖のペプチド合成では、SPPSで"easy sequenece"のペプチドフラグメントを合成して、それらを化学ライゲーションによりセブメントカップリングするのが王道と思います。

ということで、今回はペプチドの化学ライベーションについてメモしてみます。

化学ライゲーションといえば、Native Chemical Ligation (ネイティブ・ケミカル・ライゲーション)が有名で(Natural Chemical Ligationって書いてある本もある)、Chem. Rev.にこんな総説がありました↓

Native Chemical Ligation and Extended Methods: Mechanisms, Catalysis, Scope, and limitations
Chem. Rev., 2019, 119, 7328-7443.

この総説のイントロに「化学ライゲーションとはなんぞやら」ということが書いてあるので、今回はそれを紹介しましょう。

著者ら曰く、"peptide ligation methods"とは、 "water-compatible chemistries"であり、"an intramolecular rearrangement substituent to a chemoselective capture step"からなる合成戦略であり、以下の3つのタイプに大別されると言います↓

Type I (アミノ酸の側鎖がキャプチャー)
   Native chemical ligation (Kent  et al., Science, 1994, 266, 776-779.)

Type II (アミノ酸のα-位の窒素がキャプチャー)
   Traceless Staudinger ligation (Org. Lett., 2000, 2, 1939-1941.; Org. Lett.2000, 2, 2141-2143.)

   Ketoacid-hydroxylamine ligation (KAHA) (Bode et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 1248.)

Type III (o-位のアミノ基&側鎖がキャプチャー)
   Serine/threonine ligation (Li et al., Org. Lett., 2010, 12, 1724-1727.)

高選択的に相手側ペプチドフラグメントを捕捉した後、転位してアミド結合が構築されるのが特徴で、捕捉段階のモードによってタイプ分けしていますね。

ところで、世界初にして人類初の化学ライゲーションは1994年にその産声をあげたわけですが、それからもうすぐ30年。PCS database (The Protein Chemical Synthesis Database)によると、1353 (average length 107.68)ものライゲーションが報告されているようです(last visited Feb. 2022.)。

そして、本報には2011年から2018年までの化学ライゲーションの内訳が記載されています↓

NCL = Native Chemical Ligation
STL = Serine/threonine ligation
KAHA = Ketoacid-hydroxylamine ligation
DSL = Diselenide selenoester ligation

NCL (Native Chemical Ligation)が圧倒的です。90.7% (NCL)+3.9 (STL)+3.8 (KAHA)+1.2 (DSL)=99.6なので、表示されていない0.4%の中にtraceless Staudinger ligationとかが入っているものと推察します。

NCLがダントツなのは、第一に歴史があるからと思います。
それから、ボクの個人的見解によれば、KAHAはケト酸とヒドロキシルアミンを用意するのが(相当)面倒だし、DSLははっきり言って、はぐれメタル並みの(超)レアものです。NCLに伍する簡便性を持ち合わせている"対抗"はSTLなのですが、NCLが1994年に見出されたのに対して、STLの初出は2010年と比較的最近で、NCLの先行者利益的浸透度がウハウハなのだと思います。それに加えて、やっぱNCLの完成度(無保護で位置選択性と化学選択性)が高いからなんじゃないですかね?

あとちょっと気になることがあって、ボクがPCS databadeでサーチすると、なんでか分かんないけど、上の円グラフの数字にならないんですよね。より具体的には、2011-2018の総ライゲーション数はたったの710Death.....シクシク涙orz.....。盛ってんの?

ついでに、この論文では年毎のラーゲーション数のグラフが記載されてるんだけど、何故か3年移動平均になています。移動平均にする意味ある???なんでかなぁ?どしてかなぁ?まぁ、市井の貧弱一研究員(自称テクニシャン=研究補助員)がちょっと思ったことに過ぎないので、天下のACSの大Chemical Reviews様に掲載された論文に瑕疵は皆無に違いありません!!!

ハイ、先に化学ライゲーションは収束型合成 (convergent synthesis)で、有機合成化学において収束型合成が王道(効率的)と書きましたが、ペプチドの化学合成において収束型合成 (convergent synthesis)が28年間に渡ってたったの1353って、超少なくないですか?これって、つけ入るチャンスじゃないですか?ついでに言うと、歴史の浅いSTLにフルコミットすれば、論文書けるんじゃない?

化学ライゲーションを極めて、リニア合成ガチ勢を無双したいと思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)の独断と偏見に満ちた化学ライゲーション入門メモでした(反論は聞かない)。


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