とある化学の超ガテン系

実験嫌いの実験化学者が綴る企業の研究員の日常 (このブログはMac OS Xに最適化されています)




Sunday, March 24, 2013

その安全対策は有効ですか?

事故がなくならない理由: 安全対策の落とし穴」という本を読了しました。

著者は京大院卒(修士, 心理学専攻)で、国鉄鉄道労働科学研究所研究員、JR鉄道総合技術研究所主任研究員、立教大文学部心理学科助教授を経て現在立教大現代心理学部教授(文学博士)の職にあり、専門は産業心理学、交通心理学、人間工学です。ちなみに、運輸安全委員会業務改善有識者会議委員、JR西日本「安全研究推進委員会」委員、「日本航空安全アドバイザリーグループ」メンバー、京王電鉄安全アドバイザーを兼任しているようです。まあ、平たく言えば、安全畑の人な訳ですね。

この本には、工学的な安全対策や訓練(安全教育)だけでは、長期的には事故率は減らない(元の水準に戻ってしまう)ということが書かれています。

例えば、

工学的な安全対策が有効に働かない例
1) 車の安全装置→乱暴運転を助長
2)  低タールタバコ→深く吸引したり、本数UP↑
3) 山岳登山者の安全に為に開発された「ビーコン」→より危険な場所に行く
4) 治水工事→洪水が減り、人口が増えて、たまに起きる洪水の被害UP↑(宮古市田老地区では、防波堤ができてから避難訓練の参加率が著しく低下した)

訓練(教育)や経験でミスを犯す可能性がそれほど低下しない例
1) 熟練ドライバー→リスキーな運転をする
2) 楽器演奏→上手くなるとより難度の高い曲に挑戦する
3) ベテランスキーヤー→より難しい斜面に挑む
4) 片田敏孝群大教授が釜石で防災教育したとき、「湾口防波堤もできたことだし、わざわざ来て脅かすのはやめてもらえないか」と言われた。

このように、事故や病気や失敗のリスクを減らすはずの対策や訓練が、結果として事故や病気や失敗のリスクを低下させられないという事例が発生するのは、人間は、低下したリスクを埋め合わせるように行動を変化させ、元のリスク水準に戻してしまう - リスク補償行動をとる - からだそうです(リスク・ホメオスタシス理論。但し、リスク・ホメオスタシス理論の主張する事故率の恒常性は、時間あたりの、地域全体の事故損失)。

ちなみに、リスク補償行動の基本メカニズムは「負のフィードバック」機構で、適正な値を外れると自動的に値を元に戻す(対応策が発動される)というものです。

というわけで、工学的安全対策や訓練は重要ではあるけれど、それだけではダメで、安全への動機づけをうまく行うこと(自発的に受けるリスク量を変えたい(リスクの目標水準を下げたい)と思わせること)が必要となります。要は、

A: リスクを避ける行動の利益を増やす
B: リスクを避ける行動のコストを減らす
C: リスクをとる行動のコストを増やす
D: リスクをとる行動の利益を減らす

といったインセンティブの設定が必要になります。

あと、リスク補償行動以外にも、人間のは「正常性バイアス」というのが働く場合があるそうです。すなわち、リスクに直面した人々が「そんな重大なことが起きているはずがない」と思いたがり、リスクを過小視する傾向があるそうです。

リスク補償と正常性バイアスには努々気をつけたいと思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)でした。


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