2010年9月12日日曜日

メディカル•エンターテインメントの粋

コンキチが心酔している作家、海堂尊の小説(2冊)を読んでみました。

まずは、「ブレイズメス1990」。この作品は桜宮年代史のはじまりを飾る「ブラックペアン1988」の続編で、キーパーソンは、世良雅志医師(東城大学付属病院, 後に極北クレーマーで病院再生請負人として登場)と、神の手を持つ天才心臓外科医•天城雪彦医師(多分、須磨久義医師がモデル)。

ストーリーは、モンテカルロで優雅な医師生活を送っていた世界的な天才心臓外科医•天城雪彦モンテカルロ・ハートセンター外科部長が東城大学に招聘され、心臓血管専門病設立を依託されたことに端を発する。天城医師の医師ライフは優雅でゴージャスであり合理主義。ある意味拝金主義に近しい印象をも受け、我々庶民が抱いている医師像とはひどくかけ離れている。はっきり言って、大学病院であくせく働く医師にとっては破壊神だ。高階講師(田口•白鳥シリーズでは病院長)との「医療と金」に関する医療観のせめぎ合い、日本初の天城医師にしかできない独自技術による公開手術といったイベントを経て、心臓血管専門病院「スリジエ・ハートセンター」設立への道は続編へと引き継がれていきます。 

で、感想ですが、この作品の醍醐味っていうのは、「医師(医療)の価値」に関する表現を堪能することなんじゃないかなとコンキチは感じました。ボクたちって、お金の話とかするとすぐ金に汚い的な発想をしがちなような気がしますが、生きていく為には金が必要だし、経済問題は国家の重要課題です。医師っていうのは、秀才で、高度な専門知識が必要とされ、新しい技術をキャアッチ•アップしていかなければならないと思います。要は、知識集約•労働集約的職業と思います。それなのに、最近のニュースでは、一部の美容整形外科医を除いては、医師の報われないニュースしか聞こえてこないような気がします(特に地方医療の現場のドキュメントでは)。

ところで、豊かな先進国「日本」では、医療っていうのは至極当たり前に提供されていると皆が感じているように感じます。そして、病気や怪我は根治するのが基本で、出産は安全に子供が生まれて来るのが標準というふうに考えられているのではないでしょうか?そう、「医師は聖人君主でなければならず、一片のミスも許されす、患者に奉仕しなければならない」っていう雰囲気が蔓延しているようにコンキチには感じられます。

つまり、愚鈍で怠け者でミスを良く犯す衆生は、自分のミスは棚に上げて、「医師」には決してミスは許さず、もしミスを犯したら徹底的に断罪し、怠け者な自分に奉仕させようとしていると言えるんではないでしょうか?はっきり言って、イジメに近しいですよ。コンキチには、正に医療は共有地の悲劇と化しているように思われます。

コンキチは、この作品の中で天城医師が発するこの言葉に対して、強くシンパシーを覚えます↓
医療は医療に専念すべし、などというしみったれた考えに洗脳され、医療とカネを分離しては、パラダイスは私たちのてのひらからこぼれおちていく。そして医療従事者は低額所得のブルーカラーへ転落し、自由と力を失っていくだろう

はっきり言って、有能で才能ある医師は、人生を満喫し、ウハウハする権利と義務があるとコンキチは思います。医師への道っていうのは、労が多いでしょう。また、獲得できる技術も希少なものだ。それなのに自由と力を引きはがされ、タイトな勤務スケジュールの中で疲弊していくだけしか道が無いのなら、若者は誰も医師(産科医、過疎地医療)への道を目指さなくなるでしょう。なんてね


お次は先週発売されたばかりの最新作「アリアドネの弾丸」。「チームバチスタ」の田口•白鳥シリーズの最新版になります。「ジェネラル・ルージュの凱旋」、「イノセント・ゲリラの祝祭」とミステリ色が薄くなってきたと囁かれてきましたが、本作は久々にミステリ色全開の作品になっていて、白鳥圭輔技官の独壇場です。しかも、彼のロジカル•モンスターぶりがシリーズ中、最も発揮されているのではないかと思います。

で、舞台は勿論、東城大学医学部付属病院。鍵となるのは高分解能MRI(Magnetic Resonance Imaging, 核磁気共鳴画像法)。テーマは司法と医療の対立&対決。要は、Aiを普及させされると困る勢力との決闘です。そして、事件は殺人事件。話はスピーディーでスリリングかつエキサイティング。正にメディカル•エンターテインメントの真骨頂と呼ぶに相応しい作品に仕上がっていると思いました。そして、死因不明社会へのアンチテーセでもある作品と思います。とってもオススメ。

ところで、海堂尊って現役の医師で、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センターで病院臨床検査室病理医長でAi情報研究推進室室長らしいんだけど、さらに超面白い小説を短期間でいっぱい書けるバイタリティーとプロダクティビティには、ただただ感服するばかりです。
(ちなみに、コンキチは海堂作品の中では「イノセント・ゲリラの祝祭」が一番好きです)

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