とある化学の超ガテン系

実験嫌いの実験化学者が綴る企業の研究員の日常 (このブログはMac OS Xに最適化されています)




Saturday, August 15, 2015

SBH-TFAでラクタムを大量かつ安全に還元します (田辺三菱製薬)

夏休み。江風をGETしたオタッキーのコンキチです。


さて、昨年、(今はもう閉店してしまった)京都高台寺 よ志のや ららぽーと柏の葉店に行ったとっきのメモです。

-魯山人風すき焼き膳 (1,480 JPY) memo-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
甘い割下が薄く張られた鍋に短くカットされた葱が直立して並ぶ。コンロに火をつけ、割下が温まるのを待つ。で、煮立たせないように注意して、肉を一枚一枚広げて、煮過ぎないように注意する。お肉に火が通ったら鍋から引き上げ、溶いた卵にまぶして食す。他に用意されている具は、豆腐、水菜っぽい野菜、最初から鍋に仕込まれている糸こんにゃくで、ボク的には春菊のように強烈な匂いを放つ野菜が入ってなくて好感が持てる(春菊入ってると、全部春菊くさくなるじゃん)。
お肉を引き上げるタイミングが難しくて、ちょっと遅れると少し硬くなってしまう。ベストなタイミングで引き上げると柔らかくて、活性化されていてなかなか旨い。
肉を煮ているのでアクが出てきて少し不快だけど、シャブシャブに比べればどってことない。
厳密には"魯山人風"じゃないかもだけど、すき焼き嫌いなボクとしては大分満足できました。


閑話休題


こんな文献を読んでみました↓

Process Safety Evaluation and Scale-up of a Lactam Reduction with NaBH4 and TFA
Org. Process Res. Dev., ASAP.

田辺三菱製薬の報告で、ラクタムをやっすく還元してアミンを与えるプロセス•ディベロップメントの話です(1月にWebで公開されたけど、まだASAPです)。

ラクタムの還元っていうと、パッ思いつくのはボラン錯体や金属ヒドリド還元(LiAlH4とかNaBH4とか)と思います。そして、こういったプロセスを企業化する際は水素の発生であったり発熱量に係る安全評価が必須になります(お約束でLiAlH4とか書いてあるけど、LAHはもうラボでだって使わないよね)。

みんな周知のことだと思うけど、
LAHはプラント•スケールでは取扱が難しく、発火•爆発性があり、予期せぬ副反応を引き起こします。
また、BH3•THF錯体はハイ•コストな試薬であり(製造では高い。余談だけど、THFは高い溶媒)、保管の問題があります(保管中の爆発リスクがある)。

ということでプロセス•ケミストが着目するのは安くて取扱いの容易なSBH (NaBH4)一択になります(まあ、SBHだって保管中の爆発リスクが無い訳ではないけど)。古典的教科書では、SBHはアルデヒドとケトンを選択的に還元すると習うと思いますが、溶媒を変えたり、additiveを加えて反応を行うことでその還元力を大きく変化させることができます。ボクはやったことないけど、SBHに硫酸を作用させてin situでジボランを発生させてカルボン酸を還元するなんていうのはadditive法の典型例だと思います。

で、本報のプロセス開発で採用された方法がSBH-TFA system(基質とSBHの懸濁液にTFAを加えて行く)です↓


最初のメディシナル•ルートはLAHを使用していましたが、実機でLAHは論外なことに加えて、分離困難な脱フッ素体の副生が確認されました。で、工業ユースできるアルミニウムヒドリド系のVitride (Red-Al)の場合だと、LAHと比較してマイルドな反応条件で収率が向上するものの脱フッ素体がやっぱり検出されてしまいます。
一方、ホウ素系の還元剤(BH3•THF, KBH4-LiCl-TMSCl, NaBH4-TFA)だと、脱フッ素体の副生が抑えられ、マイルドな反応条件で収率も押し並べて良好です。で、コストとハンドリングの観点から著者等のチームはNaBH4-TFA系での最適化へと進んできます。

ところで、"SBH+additive"による還元は極めて発熱的なので企業化するにあたっての安全評価が欠かせませんが、反応過程で生じる活性種(NaBH4-n(OCOCF3)n (n=1,2, or 3))が良く分かっていないため、その評価は難しいと言います。ということで、著者等のチームはSBH-TFA reductionの反応機構を調査し、活性種の生成を制御しつつ、安全性評価を行って行きます。具体的には、11B NMRいより活性種を把握して反応機構を推測し、反応熱量測定と気体発生分析により安全性を評価していきます。

まず、反応機構についてです。
11B NMRの測定結果より
a) SBHをTFAで処理すると、11B NMRよりBH3とNaBH4-n(OCOCF3)nが検出される
b) 反応混合物の11B NMRから、還元成績体のボラン錯体とBH3とNaBH4-n(OCOCF3)nが検出される
ということが分かりました(スペクトルが凄ぇブロードでs/n悪いのでオレには判別できないけど)。

さらに、
c) ラクタムを加える前にSBHとTFAを混合すると反応が完結しない。
という実験結果があります。

これらの結果から推測した反応機構がこちら↓


活性種がNaBH3(OCOCF3)となる(想定)ことから、基質とSBHの混合物に対するTFAの制御された添加が重要です。

次にプロセスの安全性評価ですが、RC1eを用いた反応熱測定から、

d) TFAの添加速度と熱の発生比に整合性あり
e) 反応の転化率と熱変換は概ね一致
f) ラクタム還元の反応熱は、521 kJ/mol
g) SBHとTFAだけの発熱量は263 kJ/mol
h) SBHとTFAだけの反応で、TFAの添加速度と熱の発生比に整合性あり

ということが分かりました。

さらに、

i) また、TFAの添加速度とガスの発生比も良く一致

します。

これらのことから、"TFAの添加速度を制御することで発熱とガスの発生を制御できる"ということが示唆されます。

ところで、この反応で発生するガスの元素分析を行った結果、水素の他にジボランがガスとして発生していることが分かりました。学生の時分、ジボランは猛毒だと習いましたが、日本産業衛生学会のガイドラインによると、その最大許容濃度は10 ppbと規定されているようです。で、このジボランをクエンチするために著者等が採用したのは15% NaOH水溶液のダブル•スクラバー•システムでした(シングルだと ca. 70 ppbで、ダブルにするとn.d.)。
(こういうガスのトラップって真面目にやろうと思ったら、比較的濃度の高い溶液で撹拌しながら多段トラップかまさないと十分に効果でないんだよね)

ちなみに、著者等が開発したプロセスは、35 kgスケールのパイロット製造で成功したそうです (メデダシ メデタシ)。


Industrial Friendlyなボロハイを上手に活用したプロセス•ディベリップメントっていいよねって思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)のメモでした。

あと、余談だけど、どうしてメディシナルの人ってLAHをチョイスするんでしょうか?LAHなんて危なくて今となっては終わった試薬じゃないですか。"狂ってるの?怠けてるの?バカなの?"って心の底から思います。特に選択性が出る反応でなければ、還元力もLAHと同等と言われて取扱が容易なRed-Al使えよって思うのはボクだけでしょうか?

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