2006年6月8日木曜日

有機人名反応におもう

「職業: 有機人名反応(Named Organic Reaction)を使うお仕事」のコンキチです。

偉大なる先人達の努力によって、(実際に数えたことは無いですが)数多の有機人名反応(Named Organic Reaction)がこの世に産み落とされてきました。

(ちょっと)複雑な構造の分子をターゲットに設定し、有機人名反応(=有機化学反応)というツールを存分に駆使し、あたかもパズルを解くように、エクセレントな収率と選択性でスマートなSchemeを構築する作業に、合成化学者は無常の歓びを感じるかもしれません。「全ての反応を使いこなしたい」なんて思うはりきりボーイな研究員もいるかもしれません。

しかしながら、生涯を賭したとしても、一人の研究員がこなせる反応の数はたかが知れています。ついでに言わせてもらうと、全ての反応を熟知している人もこれまた皆無なのであります(多分)。

思い起こせば12年前。大学ではじめて有機化学を学んだころのコンキチは、

「有機化学反応って、高収率で、完全な選択性の制御が可能で、なんて凄いんだ!
これさえあれば、どんなものでも想像力さえあればちょちょいのちょいで出来ちゃうぜ!!
(有機)化学ってホントにいいものですね!!!」

なんて(チョット本気で)思ってました。

だって教科書(入門書)には、典型的な好例だけしか載っていないから...
純朴な田舎の青年は有機化学反応には100%の汎用性があることを信じて止まなかったのです。

時は流れ、純朴な田舎の青年も(有機化学系の)研究室に配属され、なんとなく修行を積むうちに、「有機化学反応には100%の汎用性は無い」という、今となっては至極当たり前のことに気付くのでした。

教科書では、High Yieldを叩き出している官能基変換であっても

i) Very Low Yieldなんてことや、
ii) 全然違うものが出来てます
iii) 全くの原料回収(No Reaction)Death!!!!!(涙)

なんてことがしばしばありました。

現実問題として、立体的、電子的及び立体電子的な要請や各種条件(温度、反応時間、molar ratio、溶媒効果)などによって反応の進み具合は千変万化します。

-----コンキチの学生時代の話-----
後輩がGrignard反応という、超メジャーな有機人名反応を実施し、「Grignard反応がこれ以上進まず(Grignard試薬を過剰に使っても)原料が残るんです」と研究会で発言しました。
それはおかしいということで、(後輩が)どういった操作をしたのか根掘り葉掘り聞かれて、最終的には先生の「なんでかな~」で幕が下りました(合成が専門の研究室ではないので)。
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当時はコンキチも分かりませんでしたが、

Grignard反応には
a) エノール化、β-ヒドリド還元などの副反応が存在する
ので、おそらく原料回収と思われていた部分は、生成したエノレートがクエンチしたときに元に戻り、あたかも"未反応"のようにみえただけなのではないかと推測されます。

また、Grignard反応には
b) 極性溶媒は負電荷を安定化し、Grignard試薬の塩基性が増加、THFとかHMPAはモノマーを安定化(モノマーのGrignard試薬は塩基として効果的に働く)→付加 vs エノール化の選択率は溶媒効果の影響をけっこう受ける
c) 電気陰性の高いハロゲンの方が求核性&塩基性大(Cl>Br>I)→付加 vs エノール化の選択率はハロゲンの種類の影響をけっこう受ける

という特性があるので、b, cに関してなんらかの対策をとっていたならもっと収率UP↑したかもしれません。

パズルを解ためのツール(有機人名反応)の(数の)ストックも大事だと思いますが、一つの反応に対しての理解を深めていくという作業もプロ(それを生業とし給料をGETする人)には要求されるのです。

上手くいかなかったときこそ、思考プロセス、アプローチの仕方が試されるのだと思います。

以上、某二流大学出の戯言でした(一流大出の研究員には常識ですよね)。

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