2018年5月6日日曜日

もっと、Grignard反応:テクニックは実験項の中に (しつこくGrignard試薬)

両国へランチに牡丹鍋を食べに行ったときのメモです。行ったお店は、勿論「ももんじや」です(リアルイノシシが吊るされてます)。


-猪小鍋定食B (1,800 JPY)-

猪小鍋、鹿刺身、ご飯、味噌汁、お新香 、小鉢のセット。 
-鹿刺身-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
これは旨い!厚めに切り出された切り身は弾力に富み、噛み応えがあってそれが楽しい。それでいて、きめ細かい肉質で、しっとりした食感でクセの無い味。finishに ふんわりと漂うジビエらしいwild noteが食欲をそそる。薬味のワサビは「きうち」酷似していて、oilyさとエグ味を感じる。紫の野菜が薬味として良い。 

-小鉢-
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
小鉢はホタルイカ。酢味噌でいただく。 ホタルイカは大振りでプリプリで瑞々しくてとってもfresh。清涼感さえ感じる。そこに少し磯くささがして、これがまた食欲をそそる。とても旨い。 
-お新香-
-RATING- ★★★★☆
-REVIEW-
お新香のお野菜は蕪。繊細な味とは言い難く、いささか田舎くさい気もする味だけど、そこがいい。ジビエ料理の付け合わせ向けの味か?
-猪小鍋-
-RATING- ★☆☆☆☆
-REVIEW-
メインの猪小鍋が全然ダメ。ごった煮のすき焼きtaste。ゴチャゴチャいろんな具が入っていないのは良い。熱量が圧倒的に足りない。はっきり言って、作り置きしたものをジャブ程度に暖め直しました的な一品(体温よりは温かいっていうレベル)。 具は、猪、木綿豆腐、糸こんにゃく、葱。猪肉は硬く、割り下の味しかしない。脂身部分は正直気分が悪くなる味がする。鍋全体がぬるく、肉は冷たい。それでもお豆腐だけは割り下の味が良く染み込んでいてまあまあ良かった。総じて、ドン引きするレベルの不味さ。 多分、夜の営業ではしっかりした鍋を出すんだろうけど、ランチでは食べてはいけないレベル。

あと、ビールはスーパードライでした。


閑話休題


しつこくまたGrignard試薬の文献を読んでみました↓

Preparation of Trifluoromethylphenyl Magnesium Halides in the Presence of LiCl and Synthesis of 2'-Trifluoromethyl-Aromatic Ketones
Org. Process Res. Dev., 2016, 20, 1633-1636.

東レファインケミカルの研究グループの報告です。

ボクの個人的見解によると、東レファインはGrignard試薬の調製やGrignard反応を企業化してると思うので、同反応に対する知見が高いと思われます。なので、この論文はとても参考になると思います。続けます↓

今回メモする文献は、前にメモした「その試薬、凶暴につき (しつこくGrignard試薬)(http://researcher-station.blogspot.jp/2018/05/grignard.html)」と関連していて、trifluoromethyl-substituted phenyl Grignard試薬を利用した(主に)芳香環にトリフルオロメチル基が置換した芳香族ケトンの合成法に関するお話です。

芳香族ケトンの合成法として速攻で思いつく教科書的な方法はFriedel-Craftsアシル化と思います。ボクもFriedel-Craftsアシル化はプロセス・ディベロップメントでやったことあります。E-ファクターは最悪だけど、ハマルと強力です。ただ、芳香族求電子置換反応なので、アシル基を導入できる位置が制限されることに加えて、強力な電子吸引基を有する基質では反応が進行しません。

ついでに、今回のお題は"2'-トリフルオロメチル芳香族ケトン"なので、Friedel-Crafts Acylationだと、トリフルオロメチルベンゼンを基質に用いることになりm-置換体しか得られません。

その他の合成法としては置換塩化ベンゾイルとR2CuLiの反応もいいかもしれませんが、なんでか良く分かんないけど基質に3,5-Bis(trifluoromethyl)benzoyl chlorideを使った反応では極低温条件が必要らしく、工業ユースには好ましくありません(モノトリフルオロメチル置換された基質でも極低温が必要かは分かんないけど)。

J. Org. Chem., 2003, 68, 3695-3698.

そこで、工業ユースが見込めるオルタナティブな手法として考えられるのがGrignard試薬を用いた合成法です↓


先にメモしたブログでTrifluoromethyl-substituted phenyl Grignardsは通常のMg Insertionで調製するのは難しいと書きました(その試薬、凶暴につき (しつこくGrignard試薬))。本報でも同じことが言及されていて、著者らはKnochelらの見出したLiClを用いたGrignard Preparation (Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 6802-6806.)と同様の方法で目的のGrignard試薬を調製しています。
ところで、LiClのGrignard試薬合成促進効果は一般性があると思われますが、その報告例はとても少ないです。そこで著者等はトリフルオロメチル基の置換位置とハロゲンの種類(X=Cl, Br)を変えたTrifluoromethylphenyl Magnesium Halidesの調製についてそこそこ網羅的に検討を進め、出来たGrignarad試薬と酸無水物(無水酢酸、プロピオン酸無水物)との反応によって芳香族ケトンを合成しています(言うまでもないと思うけど、Grignard試薬によるAromatic Ketone Synthesisは、Grignard試薬を酸無水物に滴下な)。

ということで、Grignard試薬調製の検討結果はこちら↓


ブロミドではLiCl添加の影響は少ないですが、よりGrignard試薬の調製が難しいクロリドではLiCl添加の効果が観察されます。さらに、トリフルオロメチル基の置換位置の違いによってここまで反応の様相が異なるのは、ボクには、意外でした。

さて、このメモのタイトルに"テクニックは実験項の中に"と書いていますが、その文面通りボクが一番注目したいのはGrignard試薬調製の実験項です↓

Grignard Reagent Synthesis (General Procedure). One mol/L EtMgBr/THF solution (0.5 g) was added to a mixture of Mg turnings (5.1 g, 0.208 mol), LiCl (2.54 g, 0.06 mol), THF (75.0 g) under nitrogen gas flow (for removing water) in a 200 ml flask at room temperature. EtBr (0.44 g, 0.004 mol) was added for removing the oxide film from the surface of the Mg turnings with a slight increase in temperature. 1-chloro-2-(trifluoromethyl)benzene (36.1 g, 0.2 mol) was added gradually using a dropping funnel to the mixture at 〜 50˚C; furthermore, the section mixture was stirred at 50˚C for 4 h .....

それでは、実験項の中ボクが個人的に注目したいポイントを以下に列挙してみます。

1) Mg ActivationをEtMgBr(とEtBrのコンボ)で実施している。
Grignard Preparationは自己触媒的に反応が進行すると言われていると思います。なので、小スケールで当該Grignard試薬を作っておいて、スケールアップする際はMgに小スケールで調製したGruganrd試薬を加えた後、ハロゲン化物を滴下していくと安全に反応を行えます(水分除去にも有効)。で、今回のEtMgBrの使用は、売ってるし、安いし、今回の反応では混入しても問題にならないからEtMgBrを使用したと理解しました。

2) 温度変化に注意する
with a slight increase in temperatureとあります。Grignard Preparationにおいて発熱(=温度上昇)は反応発進の重要なシグナルです。
ボクだったら最初はMgを覆うTHFの量はMgが浸るくらいに抑えて温度上昇を確認します(溶媒量が少ない方が発熱による温度上昇を検知しやすい)。その場合、ボクの感覚だと1˚C程度の温度上昇(に加えて継続的な温度上昇)が観測されれば反応がほぼ確実に発進していると判断します。その後、規定量のTHFを追加してハロゲン化物の滴下を行います(当然、その後も油断せず温度変化をしっかり観察するのは当たり前な)。
プロセスデザインされた結果なら、実験項のprocedureでいいと思います。

3) 溶液の重さを測る
プロセスかじった人なら当たり前のことと思いますが、プロセスの世界では溶媒や溶液も重さを測るのが基本と思います。重さを測れば、入った量は確実に分かります。容積の計測だけでは、比重が正確でない、付着ロス、メモリの見間違いとかがあるので、はっきり言ってイマイチ信用できません。特に、モル比を緻密に制御しなければならない反応では致命的になるかもです。

ボクはかつて非プロセスの人に上記「2」と「3」について言及したことがありますが、はっきり言って、歯牙にもかけかれなかったですが、こういうことって重要だと思うんですよね。特に実験結果が予想と反した場合の振り返りに有効だと思います。まあ、色々な事情があると思うので、全ての有機合成化学者が励行すべきとは思いませんが、"歯牙にもかけない"態度は反省して改めて欲しいと思います。

以上、実験項には意外とテクが満載なので侮れないな、と改めて思う二流大出のテクニシャン(研究補助員)の(しつこい)Griganrdメモでした。


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