2018年5月3日木曜日

その試薬、凶暴につき (しつこくGrignard試薬)

関東では桜の時季はとっくの昔に終わってしまいましたが、北海道では見頃らしいですね (https://hanami.walkerplus.com/list/ar0101/)。

というわけではないんですが、今シーズン、チェアリングデビューして桜を見に行ったときのことを書きます。
ターゲットは浜町公園の桜。お花見の下準備として甘酒横丁にある自動販売機で地酒ワンカップを調達。次いで、人形町のおでんやさんでテイクアウトおでんをGETしました(蓬莱泉のワンカップが自販機で売られておいるのに驚きです)。


人形町から浜町公園へと向かう途上、勧進帳の弁慶像があることで有名な明治座前の浜町緑道の桜もいい感じでした(ソメイヨシノだけじゃなくてオオシマザクラもあるんだよね)↓




さらに歩を進め、目指す浜町公園に到着です。携帯用折り畳み椅子(ドリンクホルダー付き)を開き、桜の目の前に座ってBlackbBerry Classic Q20の脆弱な性能のカメラで撮影した写真がこちら↓



この日のこの時間帯はけっこう空いていて、そこそこ明るい時間からおでんを肴に花見酒を堪能することができました(やっぱ、明るいうちから呑む酒は格別ですね❤️)。因みに、肴のおでんは美奈福っていうテイクアウト専門点で調達したもの。500円以上注文すると30円のプラスチック容器を購入することができます(割り箸もつきます)。セレクトしたおでん種は、じゃがいも (60 JPY)、たこ (あたまの方, 多分100 JPY)、すじ (白身魚, 100 JPY)、いか巻き (90 JPY)、大根 (120 JPY)、たまご (70 JPY)、しらたき (70 JPY)の全7点。以下、美奈福のおでんリビューです↓

-美奈福のおでんmemo-
-RATING- ★★★☆☆
-REVIEW-
お出汁は研ぎ澄まされても洗練されてもいない煮物のようなtasteで、どこか落ち着きノスタルジックな味わいのお出汁。fishyなtasteもする。
じゃがいもはなかなか乙な味。ホクホク感がgood!出汁がよく染み込んだ外側がこなれた感じで旨い。
たこ (あたまの方)は適度な弾力で、濃厚な味。かなりの"fishy" taste (これがいい)。
すじ (白身魚)は初めて食べたんだけど、練り物なんだね。練り物があまり好きでないボク的には失敗した気持ちで一杯になりました。
いか巻きも半分は練り物なんだよね。いかが喰いたくて勢いで注文してしまいました。
大根はお出汁がよく染みていて良いです。大根がお出汁の魚くささを消して、ちょうどいい塩梅ですよ。
たまごも普通に旨いです。
そして、しらたき。淡白系の具材は"fishy"なお出汁と良く合います。


美奈福のおでんに、地酒ワンカップに、チェアリングに、花見のコンボは、想像以上に良かったです。来年も会社を早上がりして、浜町公園でチェアリング花見をしようと心に誓う二流大出のテクニシャン(研究補助員)なのでした。


閑話休題


これまでにGringard関連のメモを幾つか書いてきました↓

有機人名反応におもう (20060608)
下流研究員 (20060613)
Trialkylzinc(II) ate complex (20061023)
Synthesis of tert-amine (20090913)
超Grignard反応 (20110321)
Beautiful Improvement (20120716)
超Grignard反応への新アプローチ (20120815)
My Dear Grignard Reagent: Grignard Reaction in CPME (20161002)
My Dear Grignard Reagent (2): 2-MeTHF、推して参ります (20161113)
My Dear Grignard Reagent (3): そのGrignard試薬、長期熟成品? (20161127)
My Dear Grignard Reagent (4): initiatorの名はDIBAL-H (20170115)
(細かい話はもっとあったかと思います)

で、しつこくまたGrignard試薬の文献を読んでみました。お題は、


Trifluoromethyl-substituted phenyl Grignard reagents

です。

トリフルオロメチル基が置換したフェニルGriganrd試薬は調製するのが難しく、分解がはじまると爆発的に発熱して暴走反応を引き起こす危険な試薬なんだそうです(恥ずかしながら、知りませんでした)。
実際、3-(trifuluoromethyl)phenyl magnesium bromide (2)の爆発によってファイザーのラボが大きなダメージを負ったり(Chem. Ind., 1971, 120.)、4-(trifuluoromethyl)phenyl magnesium bromide (3)の工場爆発事故で人命が失われたりしています(J. Organomet. Chem., 1990, 390, 275.)。
まさに、"その試薬、凶暴につき"を地でいく匂いがプンプンしてきます。そんな凶暴な試薬をうまく飼い慣らして使いこなそうという文献をメモしてみたいと思います。

Merckrからこんな報告があります↓
An Improved Preparation of 3,5-Bis(trifluoromethyl)acetophenone and Safety Considerations in the Preparation of 3,5-Bis(trifluoromehtyl)phenyl Grignard Regent
J.Org. Chem., 2003, 68, 3695-3698.

Fig. 1

Fig. 1に示したGrignard試薬を過剰のMg dustを使って調製し、熱分析することで化合物の安全性を評価したところ、

1, 2, 3, 4 → significant exothermic activity
5, 6 → no exothermic activity

という結果になりました。

ちなみに、3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl magnesium bromide (1)は対応する臭化物とMg turningsからは調製できないそうで、Mg turningsを活性化してもムリなんだそうで、Mg granulesdustを使わなければ臭化物へのMg insertionが進行しないといいます。

ところで、benzotrichlorideとbenzotribromideは、Mgの存在下-40˚C以上で不安定で、Mgと反応してphenylhalocarbeneを形成するようです(J. Organomet. Chem.1990390, 275.; Abstractしか見てないけど、THF中、室温でジフェニルアセチレンが高収率で得られるらしいです。)。そして、benzotrifluorideも同様にMgと反応するかもしれないこという可能性が指摘されています(直接的なエビデンスはないみたい。Abstractではno reactionって書いてある。使用するMgの形状に依存するのかも?)。

tolyl Grignardsとtrifluoromethylpheny Griganrdsとのexothermic activityの大きな違いや、benzotrihalideのMgに対する反応性なんかの話から、なんやかんやと実験をデザインし、検討を重ねた結果、新たに以下のことが分かりました。それは、ズバリ

Mgが存在しなければ、trifluoromethyl-substituted phenyl Grignards溶液はno exothermic activityである

というこです。

この結果は以下の実験から例証されました↓


ちなみに、著者らはtrifluoromethyl-subsutituted phenyl magnesium bromideのscale-up preparationにおいて、"Mg free"なKnochelのプロトコール(i-PrMgClを用いたハロゲン-マグネシウム交換)を推奨しています。

さて、Merckの報告らか6年後、Boehringer Ingelheimからこんな報告がなされています↓
Formation of 2-Trifluoromethylphenyl Grignard reagent via Magnesium-Halogen Exchange : Process Safety Evaluation and Concentration Effect
Org. Process Res. Dev., 2009, 13, 1426-1430.

2003年のMerckの報告では、i-PrMgClを用いたKnochelのプロトコールで調製したGrignard試薬はno exothermic activityと報告されましたが、Girgnard試薬溶液の(安全性試験における)濃度に関する言及はありませんでした。で、Boehringer Ingelheimの報告ではKnochelのプロトコールで調製したGriganrd試薬のexothermic activityの主にconcentration efffectについて検証しています。というわけで、結論はこんな感じです↓

一つ、カウンターイオン(Br or Cl)の違いは、Grignard試薬の分解速度にまず関係ない。
一つ、濃度が高いと分解しやすい(という一般的な結果に)。具体的には、おしなべて0.5-0.6 M程度の濃度を推奨(1.5 Mはヤバいかも)。


ここまでのところを軽くまとめると、trifluoromethyl-subsutituted phenyl magnesium bromideの調製にはi-PrMgClを用いたKnochelのプロトコールが、安全面も鑑みて、有効ということなんだろうと思います。

個人的見解を述べれば、i-PrMgClによるGrignard PreparationはCost effectiveとは言い難いと思うんですが、そんなボクの心を汲んでくれるような文献がこれです。しかも、Knochel等の報告です↓
Convenient Preparation of Polyfunctional Aryl Magnesium Reagents by a Direct Magnesium Insertion in the Presence of LiCl
Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 6802-6806.

この論文は、コンベンショナルなMg Insertionに基づくGrignard PreparationにおいてLiClを添加して反応を行うことで、通常はGrignard Sensitiveな官能基のある基質であってもMg InsertionによってGriganrd試薬を調製可能だという神メソッドです。こんな風に↓

12 examples, 77-97%

一般的にGrignard SensitiveなFG = CN, PivOでも適用可能です。そしてこのブログのお題であるFG = CF3でも安全にMg Insertionが可能です↓

(安息香酸エステル誘導体とのカップリングなので根岸カップリングにしている)

Turbo Grignardにも入ってるけど、"LiCl"の反応促進効果は 侮れないですね。

benzotrihalideのGrignard Preparationをする機会があったら色々と注意して実験計画を立てようと思いました。

以上、二流大出のテクニシャン(研究補助員)のGrignardメモでした。


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