とある化学の超ガテン系

実験嫌いの実験化学者が綴る企業の研究員の日常 (このブログはMac OS Xに最適化されています)




Sunday, April 5, 2009

Merlot vs Cabernet Sauvignon

こんな文献を読んでみました↓

Comparison of Aroma Volatiles in Commercial Merlot and Cabernet Sauvignon Wines Using Gas Chromatography-Olfactometry and Gas Chromatography-Mass Spectrometry
J. Agric. Food Chem. 2006, 54, 3990-3996.

MerlotとCabernet Sauvignonワインの香気成分の違いって何?という論文です。

過去の研究成果↓

a) Cabernet SauvignonとMerlotワインのGC-MS分析を用いた研究からは、揮発性成分の違いは量的なものだけだった
ref. J. Sci. Food Agric. 2000, 80 (11), 1659-1667.

b) フランス産のCabernet SauvignonとMerlotワインの官能試験の結果、アロマは類似していた
ref. 1999年のボルドー大学の博士論文

c) Cabernet SauvignonとMerlotワインのアロマは似通っているが、キャラメル様香気の強度に違いがあり、それは4-hydroxy-2,5-dimethylfuran-3(2H)-oneと4-hydroxy-2-ethyl-5-methylfuran-3(2H)-oneの含有量の違いを反映している
ref. J. Agric. Food Chem. 2000, 48(11), 5383-5388.

d) GC-O(溶媒抽出で揮発成分をワインマトリックスから分離し、AEDAで評価)を使った2つの研究があって、スペインのアラゴン産およびフランスのボルドー産のCabernet SauvignonとMerlotワイン中に見いだされた最も強い有香成分は、10-11のうち同じ成分は3つ(β-damascenone, 2-phenylethanol, 3-methylbutanol)だけだった
ref. J. Sci. Food Agric. 1999, 79(11), 1461-1467.; J. Agric. Food Chem. 2000, 48(2), 400-406.

ワインのアロマは、季節差、ブドウの栽培法、醸造法の影響を受けるし、揮発成分の抽出方法の違うと本質的に異なる結果を示すとして、著者等の研究の目的を次のように述べています。

「産地とヴィンテージの異なる市販のMerlotとCabernet Sauvignonワインのアロマの組成を、
同一のサンプル調製法と同一の分析法で比較し、
ヴィンテージと産地の違いから観察されるアロマの特性を確認する」

とのことです。


で、以下著者らの仕事↓

まず実験に使った市販のワインなんですが、名指しです(かなり驚き)

Black Swan Cabernet Sauvignon 2000 (Australia)
Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002 (California)
Jacob's Greek Merlot 2000 (Australia)
Harbinger Napa Merlot 2002 (California)
 
香気成分の捕集方法は、スタティックヘッドスペースサンプリングでマイクロ固相抽出です。

GC-MS分析から特定された香気成分は66化合物で、4種類のワインは似かよった組成でした。大きな違いは定性的な部分よりも定量的な部分で、TICがMerlotはCabernet Sauvignonのおよそ2倍の
ピークエリアを示したそうです(EtOHを除いて)。

次に著者らは、4つのワインの揮発性分を比較するために、全てのサンプル中で最も大きいピーク(EtOH以外ね)を基準として指数化しました(具体的にはJacob's Greek Merlot 2000中のethyl octanoateを100とした)。

GC-MSの結果
a) high ethyl octanoate valueはMerlotに特徴的で、Harbinger Napa Merlot 2002で77, Cabernet Sauvignonはそれぞれ18, 12。
b) Cabernet Sauvignonで、酢エチ, 3-methyl-1-butanol > ethyl octanoate
c) ethyl octanoate, ethyl decanoate, 酢エチ, 3-methyl-1-butanol, isopentyl hexanoate, diethyl succinate, 2-phenylethanolともう1個のピークでnonethanolピーク面積の81-85%を形成
d) 特定された66の香気成分のうち、29がエステルだった(60-83%)。Jacob's Greek Merlot 2000で83%。その他は60-63%。

cf. エステルはフルーティーなアロマの主要素で、その含有量はブドウ品種によって大きく異なる。例えば、ポルトガルのBagaは15%(Anal. Chim. Acta 2004, 513, 257-262.)

e) EtOHの他に17のアルコールが検出され、その中で最もハイコンテントだったのは3-methyl-1-butanol。これらのアルコールは対応するエステルの酸加水分解によりゆっくりと生成する。そして、それらアルコールのMSピーク面積はエステルのそれと比べて極めて小さい(エステルはアルコールの2-7倍)

GC-Oの結果
a) 4ワインから74の香気成分を検出(カラムはDB-Waxを使用)
b) 内、24成分が共通
c) さらに14成分が3つのワインで共通
d) Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002が最も複雑
Black Swan Cabernet Sauvignon 2000 (Australia)/ 51 aroma volatiles
Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002 (California)/ 61 aroma volatiles
Jacob's Greek Merlot 2000 (Australia)/ 49 aroma volatiles
Harbinger Napa Merlot 2002 (California)/ 50 volatiles
e) Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002のtotal MS peak areaは最も小さかったが、total aroma peakは最大だった→Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002は極低濃度の閾値の小さい化合物を含んでいる

GC-Oの比較
a) 匂い強度の強かった香気成分/ 3-methyl-1-butanol (malty), 3-hydroxy-2-butanone (acetoine) (dairy, over ripe fruit), octanal (fatty), ethyl hexanoate (fruity), ethyl 2-methylbutanoate (apple, sweet), β-damascenone (honey, sweet), 2-methoxyphenol (guaiacol) (smokey, burnt), 4-ethenyl-2-methoxyphenol (peppery, spicy), ethyl 3-methylbutanoate (fruity, floral), AcOH (pungent, sour), 2-phenylethanol (rose, spicy)
b) ethyl octanoate (ripe fruit), β-damascenone (honey, sweet), ethyl hexanoate (fruity), 3-methylbutanoic acid, isoamyl acetate (banana)は若いワインの重要な香気成分であるという報告例有り(J. Sci. Food Agric. 2000, 80 (11), 1659-1667.)これら5成分は本研究で実施したGC-O分析で全て検出された(って書いてあったけど、3-methylbutanoic acidは発見できなかった。誤記かな?)

Wine Aroma Categories
著者らは有香成分を9つのカテゴリーにグルーピングして各ワインを比較しています。で、9つのカテゴリーというのは、#1 「fruity」, #2 「sulfury」, #3 「caramel, cooked」, #4 「spicy, peppery」, #5 「floral」, #6 「earthy」, #7 「pungent, chemical」, #8 「woody」, #9 「green, vegetative, fatty」。ただし、これはGC-Oにより検出された個々の香気成分の強度を単純に積算しただけなので、シナジーとかマトリックス効果とかは考慮されていないことに注意。また、1つの成分が1つの香気カテゴリーにどれくらいフィットしているかという問題もある。ということで、本研究で使ったワインの特徴↓

a) 4ワインはfruity, green, caramelといったアロマから構成されている
ちなみに、過去の熟成していないワイン(Merlot, Cabernet Sauvignon)ではcaramel, rose, leatherが最も重要という報告がある(J. Agric. Food Chem. 2000, 48 (11), 5383-5388.)
b) #1「fruity (29のエステルから構成)」, #9「green, vegetative, fatty」, #3「caramel, cooked」が優勢


MerlotとCabernet Sauvignonのアロマの違い
基本的なアロマカテゴリ-の強度は類似しているようですが、微妙な違いがあり、それについて言及しています。

a) MS→EtOHを除いたTICの総ピーク面積は、MerlotがCabernet Sauvignonの2倍
b) Napa Valley Cabernet Sauvignon 2002は
(i) 他のワインに比べてアロマの強度が40-65%大きい。
(ii) TICの総ピーク面積は最小
(iii) 香気成分の数が最大
(iv) 他のワインに区比べて、#6「earthy」と#9「green, fatty」が際立っており、オークコンタクトかスキンコンタクトの時間が長くとられていることが示唆される。
c) Kotseridis等は、MerlotとCabernet Sauvignonはcaramel様香気の強度と4-hydroxy-2,5-dimethylfuran-3(2H)-one (HDMF)と4-hydroxy-2-ethyl-5-methylfuran-3-(2H)-one (HEMF)によって区別されると報告していて(J. Agric. Food Chem. 2000, 48 (11), 5383-5388.)、この研究でもその主張が支持されたようです。具体的には、GC-O分析でHDMFはMerlotでは検出されなかったけれど、Cabernet Sauvigninでは検出された(って書いてあるけどなんかリストのテーブルに誤植があるような気がする)。

Comparison of Most Intense Odorants
GC-O(溶媒抽出で揮発成分をワインマトリックスから分離し、AEDAで評価)を使った2つの研究があって、スペインのアラゴン産およびフランスのボルドー産のCabernet SauvignonとMerlotワイン中に見いだされた最も強い有香成分は、10-11のうち同じ成分は3つ(β-damascenone, 2-phenylethanol, 3-methylbutanol)だけだった
ref. J. Sci. Food Agric. 1999, 79(11), 1461-1467.; J. Agric. Food Chem. 2000, 48(2), 400-406.
という過去の研究結果に対して、本論文でもβ-damascenone, 2-phenylethanol, 3-methylbutanolは最も強い有香成分としてリストアップされている。最も強い有香成分群の中で、スペインの論文ではエステルが4つ、本論文ではエステルガ3つ含まれているが、フランスの論文ではエステルは含まれていない。



Q. 過去の研究の整合性の欠如は何に由来するのか?なんでリストアップされている化合物群が似ていないのか?

A. 揮発成分のワインからの抽出方法が異なるから。
具体的には↓
スペインの論文/ freon 11 (CCl3F)抽出*(連続抽出, 24 h, 28℃)
フランスの論文/ CH2Cl2抽出(N2下バッチ抽出, 1℃, 30 min, 撹拌)
本論文/ スタティックヘッドスペースサンプリングでマイクロ固相抽出

古典的な液-液抽出(high-volatileな化合物を逃したり、溶媒や抽出法によって抽出効率が変わったり、不揮発性の物質も抽出しちゃったり、時間かかったりする)よりも、SPMEの法が優れているってことをアピールしてるのかな。

で本論文では、MerlotとCabernet Sauvignonは、ヴィンテージと地域が異なっていても、多くの香気物質が共通して含有ししていると結論付けています。なんとも煮え切らない結論のように聴こえますね。caramel様香気の強度と4-hydroxy-2,5-dimethylfuran-3(2H)-one (HDMF)と4-hydroxy-2-ethyl-5-methylfuran-3-(2H)-one (HEMF)についてももうちょっと強い主張があるかとも思ったのですが.....

結局違いは含有量ってことなのですかね(今の分析技術で確認できるのは)?まあ、4つのワインを比較するだけでそう結論付けていいのかと門外漢のコンキチなんぞはツッコミを入れたくなりますが(実験計画法でチョイスしたの?)、試験に使ったワインを名指ししているのは画期的と思いました(あんまりこういう論文を読んでる訳ではないので、気づいていないだけかもしれませんが、銘柄を隠すのが通例かと思っていました)。その点は一消費者として素直に評価したいです。

PS. 農芸化学の論文もSupporting Informationつけるべきなんじゃないの?と思うコンキチです。

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