川越といえば、時の鐘とか蔵造りの街並みとか芋とかなのかもですが、ボクの中では圧倒的にCOEDOビールです。
実は駅チカにCOEDOビール醸造所併設のビアダイナーがあって、作りたてのビールをタル生で飲めるんです。ということで、こちらも二年振りに訪問してクラフトビールを堪能してきました。
COEDO BREWERY THE RESTAURANT (川越, visited Jul. 2025)
住所:川越市脇田本町8番地1 U_PLACE 1F
https://gourmet513.com/page/index?gs=jFBEUclHkRKh
上述したアミダイトのスカベンジャーは、IPA (2-PrOH)でも良いです。
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
カラメルリッチな濃厚な香り。
それでいて爽やかな香味も。
コクがあるのにキレがあるを自で行く旨旨ビール。
さいたまスーパーアリーナ開業25周年を記念して醸造したビール。
West Coast Lager
ALC : 4.5%
IBU : 25
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
浅漬けの青ザーサイのごま油とにんにくで和え。
あっさりした浸かり具合でフレッシュな青ザーサイは、険のないのないコリコリした食感でまるで果実のよう。
ニンニクと胡麻油で薄化粧されていいて、本当に美味しい。
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
バナナ感マックスハート。スイートでパチパチ感があって僅かにスパイシー。
キメ細かい舌触りと味わいで、軽やかにフルーティーなコクは、フレッシュ!フレッシュ!フレッシュ!で夏にベストマッチ。
Hefe Weizen
ALC 5.5%
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
匂い立つ豚フレーバーが最高に食欲をそそる。
肉汁ブシャーでジューシーな味わい。
キメ細やかな部分と、醍醐味のあるキックを感じる部分がミックスしていて食感に抑揚があっていい。
豊潤な肉汁、マイルドかつリッチな獣フレーバー、程よいロースト香、適度なスパイスのカルテットが秀逸。
兎に角、豚感マックスハートな美味さ。
粒マスタードとの相性は勿論鉄板モノ。
つけあわせのザワークラウトは、しっとり丁寧な舌触りと、キツ過ぎないお酢の爽やかな香味でとてもいい感じ。
-RATING- ★★★★★
-REVIEW-
とっても複雑玄妙なグリーン感のある華やかな香り。
フローラルかつフルーティーな味わい。
で、ちゃんとIPAしてる。しかも可愛らしいIPAで、グイグイいけちゃう。
Session IPA
ALC 4.5%
やっぱ、COEDOビールは最高ですね!
閑話休題
古いんですが、こんな文献を読んでみました↓
Development of Kilogram-Scale Convergent Liquid-Phase Synthesis of Oligonculeotides
J. Org. Chem., 2022, 87, 2087-2110.
疎水性タグを使用したオリゴ核酸合成の論文で、バイオジェン(Biogen, ティッカーはBIIB)からの報告です。
疎水性タグを用いたオリゴ核酸の工業的な液相合成は既に達成されていて、フラグメントカップリングを利用したコンバージェントな合成法も報告されていますが、学術論文での報告例って少ないんじゃないでしょうか(知らんけど)。
前者(工業的な液相合成)は味の素のAJIPHASEというテクノロジーが有名で、up to 200 kgスケールの工業生産規模で合成が可能であると言います 。
後者(フラグメントカップリング)は日本だとナティアスの液相セグメント合成法が報告されていますね。
ナティアスは、得意のブロックマー (Blockmer)を用いるフラグメントカップリングを駆使した効率的な合成を謳っています。
で、本報も液相フラグメントカップリングを活用したコンバージェント合成の報告で、ナティアスとライバル関係なお話です。
オリゴ核酸の製造は固相合成がメインストリームだと思うんですが、この論文のイントロでは1トンのオリゴを供給するためには、200回の固相合成が必要だと書かれています(1回の製造量は5 kg程度?)。
1回の製造量をもっと増やしたいわけなんですが、固相合成のスケールアップはデカイ固相合成の製造装置を用意することが律速であり、即ち設備投資大なわけで、固相合成装置の大型化ってバッチ反応と比較して圧倒的に限界があるんですよね。
というわけで、固相合成のスケーラビリティー問題のブレークスルーは結局のところ液相合成に行き着きます。ただ、普通に液相合成やってても効率悪いので、もっと効率良くやりましょっていうのが本報のお題です。
具体的には、テレスコープを駆使して4-5塩基のオリゴ核酸フラグメントを液相合成で調製し、著者らがsolubility deternining group (SDG)と呼んでいるタグを用いた多段階フラグメント・カップリングを敢行し18-merオリゴ核酸と34-merオリゴ核酸を合成します。18-merオリゴの例を模式図で描くと、こんな感じです↓
赤い丸は2'-CH2CH2OCH3ヌクレオチドを、黒い丸は2'-Hヌクレオチドを表しています。
それでは、合成の概要が分かったところで、詳細をメモしていきましょう。
まずフラグメントの合成ですが、液相でホスホロアミダイト法によりカップリング、硫化、脱トリチル化をワンポットで行っています。
例えば、5'-DMTrO-TTGTT-OH-3'は次のようにして調製しています(440 gスケールです)。
最初のヌクレオチドの3'-OHの保護から始まって、「脱トリチル化、カップリング、硫化」のサイクルを5回繰り返しているわけですが、サイクル毎の条件はルーチンに一様ではなく、収率向上のためのテクを凝らしてモディファイしています。
そして、抽出溶媒とかにMTBEとか2Me-THFを使ってるのがいかにもプロセスチックですね。
あと、ぱっと見、ワークアップ過程でNMI入れたりとか、PPh3加えたりとか、最終工程だけ硫化剤変えたりとかしていますが、どんな理由からなんでしょうか。
以下、テクを詳述していきましょう。
(1) n-1対策 (副反応)
(n-1)merの副生には幾つか原因があります。例えば、
i) 不完全なカップリング:対策はコンバージョンを上げる
ii) 不完全な硫化:バックボーンにP(III)が残ってしまい、続く脱トリチル化工程でヌクレオチドが切れてしまう。対策はコンバージョンアップ
iii) 不完全な脱トリチル化:脱トリチル化は可逆的なので、5'-OHが再度トリチルでキャップされたりします。対策は、DMTrカチオンのスカベンジャーを使用すること。
著者らは、Hantzschエステル、Et3SiH、CySH、C12H25SHなどを試して、最も効果的だったC12H25SHを採用しています(フラグメントカップリングではCySHも採用しています)。
iv) 酸化工程でのヌクレオチドの切断:I2を作用させる前にピリジンやイミダゾールを加える。もしくは、t-BuOOHを使う。
(2) 脱アミノ化対策 (副反応)
脱トリチル化工程で水が存在するとシトシンの脱アミノ化が引き起こされます。対策は、適切な酸を用いて水を除去する。さらに、水のワークアップ時にNMIを加えて7より高いpHを維持する。
因みに、酸はDCA > TCA > TFAの順で脱アミノ化が増えます。
(3) n+1 (副反応)
硫化の際、テレスコープ反応混合物中にアミダイトが残存していると、XH (xanthane hydride)もしくはそのバイプロが脱トリチル化を引き起こす。対策は、しっかりアミダイトをクエンチする。
(4) チオエート (副反応)
カップリング工程で残留している硫化剤によってホスファイトが硫化される。対策は、カップリング前に残留した硫化剤を完全に取り除くか、PPh3でクエンチする。
(5) PO体 (副反応)
(i) 硫化工程でSがOに置き換わる。メカニズムは不明。対策は、過剰の硫化剤を使用して完全に硫化する。
(ii) アンモノリシス過程で、痕跡量の金属の触媒作用でチオエートの硫黄原子が酸素に置き換わります。対策は、EDTAを加える。
(6) de-CE (副反応)
ベーシックな環境にさらされるとシアノエチル基が脱落します。対策は、塩基性環境への曝露時間を減らすこと。
ちなみに、シアノエチル基の外れたHS-P(V)体は、ホスホロアミダイトとは反応せず、脱トリチル化でも影響なし。
酸化工程では、I2/pyを使うとde-CEはミニマルで、t-BuOOHだとちょっと増えます。
フラグメントカップリングしていくと最終的に欲しいものになるので、クリティカルな不純物ではありません。
(7) de-Bz (副反応)
シトシンの保護基であるベンゾイル基は、脱トリチル化や、塩基性になる水のワークアップ過程で加水分解を受けます。対策は、塩基性環境への曝露時間を減らすこと。
この不純物は、LPOSでは最終的に目的物に変換できるので(あまり)クリティカルではありません。
Bz保護のないシチジンとMOE Gアミダイトを反応させると、シトシンのアミノ基で分岐した化合物が副生します。この副生成物は加水分解されやすく単離することはでいませんが、硫化すると安定化して対応する副生成物が得られます。
ところで、5'位の水酸基が無保護でBz保護のないシチジンとMOE Gアミダイトとの反応後、アミダイトのスカベンジャーとしてHO(CH2)5CO2Hを作用させると(小)過剰のアミダイトがトラップされてシトシンのアミノ基と反応した分岐した副生成物は出来ません。
これは、シトシンのアミノ基の反応性が十分に低く、小過剰使用時の残存アミダイトの基質濃度程度では反応速度が非常に遅いということでなんでしょう(固相合成では過剰のアミダイトを使うので分岐したバイプロが副生するのが一般的だと思います)。
(8) 一番目のヌクレオチドの3'-OHの保護
一番目のヌクレオチドの3'-OHの保護基の条件は、ホスホロアミダイト法のサイクルで安定でなければならず、脱保護時に核酸塩基の保護基とインターヌクレオチド結合の保護基を残せるのもでなくてはなりません。即ち、脱トリチル化の酸性条件で安定で、シアノエチル基を切断するような塩基性条件を回避しなければいけないのです。
そんなオルトゴナルな保護基として著者らが目をつけたのがシリル基で、TBDPS、TBDMS、TIPS、t-BuOPh2Si-、t-BuMeOPhSi-を検討しました。
その結果、ホスホロアミダイト法のサイクルで最も高い安定性を示したのが(順当に)TBDPS基です(t-BuOPh2Si-とt-BuMeOPhSi-はダメダメでした)。
続いてTBDPS基の脱保護を定番のTBAFとHF・Pyで試すわけですが、残念なことにTBAFではcomplex mixtureとなり、HF・pyでは脱保護の進行が緩慢であることに加えて5'末端のDMTrがはずれたり、リン酸ジエステル結合が切断されたりするといった副反応の進行が確認されました。
ここで著者らは、見込みのあるHF・pyの反応条件のインプルーブメントに取り組み、イミダゾールを添加して反応を行うことで、反応速度がアップし、副反応が抑制されることを見出しました。
(9) 硫化テク
まず、PADS (Phenylacetyl disulfise)とXH (xanthane hydride)を試します。両方ともいい硫化剤なんですが、試薬由来の副生成物の除去が容易だということでXHを採用します。
ところで、注意深く分析してみると、XHの使用で5'-ODMTrの脱トリチル化が進行していることが分かったそうです。ホスホロアミダイト法では硫化の後に脱トリチル化がくるので好ましいことなんですが、最終サイクルだけはDMTr基を残さなければいけないのでトリチルが落ちるのを避けたいわけです。ということで、DMTr基が欠落すない硫化剤はないかってことなんですが、DDTT ((Z)-N,N-Dimethyl-N'-(3-thioxo-3H-1,2,4-dithiazol-5-yl)formimidazole)がいい(トリチルが落ちない)ということが分かって各フラグメント合成の最終サイクルの硫化にはDDTTを採用しています。
(10) 酸化剤の選択
t-BuOOHとI2を試していて、t-BuOOHを使用すると、カップリング、酸化、脱トリチル化をワンポットでできるんですが、脱トリチル化工程で少量だけど不明成分が副生します。
I2 in py-H2O(9:1, v/v)を使うとクリーンに酸化が進行するんですが、ワンポット化するためには大量のピリジンと水が必要となり実用的ではありません。しかしながら、脱トリチル化の前にワークアップすれば実用的ばプロセスになります。
以上が、各フラグメント合成におけるテクニック・メモでした。
続いて、フラグメントカップリングのアセンブリーテクを概観していきましょう。
フラグメントカップリングによるフルレングスオリゴのアセンブリーも、フラグメント合成と同様に、カップリング、硫化、脱トリチル化のサイクルを繰り返すことで合成されます。
そして、特筆すべきは精製法です。
例えば、冒頭のSchemeで示した18-merオリゴの合成で言うと、カップリング、硫化と進めた後にアセトニトリルを加えて目的物を析出させて濾取して精製し後に脱トリチル化を行います。
ところで、18-merオリゴの200 gスケール合成の1stトライアルでは収率49%、80% UV purityと今ひとつ振るわない結果になったといいます。冴えない結果に終わったのは副反応のせいであり、フラグメント・アセンブリーで副生する不純物が生じる要因は主に次の三つが挙げられます。
(i) ダイマー形成 (フラグメントの5'-OHと残留アミダイト化試薬(NC(CH2)2OP(NiPr2)2)の反応により副生)
(ii) 不完全なカップリング (shortmer)、不完全な脱トリチル化 (shortmer)、ダブルカップリング (longmer)
(iii) フラグメント合成の最終サイクルで使うモノマーホスホロアミダイトの残留由来の副生生物
これは残留ホスホロアミダイトが加水分解を経て、再度ホスホロアミダイト化されることが原因となります。
ハイ、副生成物生成メカニズムを把握した著者らは、各フラグメントの結晶化による精製回数を増やすことで残留アミダイト化試薬の残存を減らし、二量体副生の大幅な低減に成功しました。
さらに、フラグメントのアセンブリーステップの反応チェックに用いていたHPLC分析法をインプルーブメントすることによりコンバージョンを99%以上に高め、カップリングと脱トリチル化時の副生成物を低減させることに加えて、IPA (2-PrOH)によるアミダイトのクエンチテクニックを使うことによりオーバーカップリング(ダブルカップリング)も最小化しています。
このようなインプルーブメントを駆使することにより、得量を落とすことなくUV純度は90%にまで向上しました。
お次は、34-merオリゴの合成です(グラムスケール)。
前述した18-merオリゴ(SDG基付き)の状態から34-merオリゴ(SDG基付き)までの実験項が書いてあるので、それをスキームに起こしてみました(間違ってるかもですが)。
9段階で収率24.2%です。そして、具体的なプロシージャーを見てみると、なかなか趣深いものがあります。
例えば、脱トリチル化のカチオンスカベンジャーにC12H25SHとCySHとを使い分けています(何故?)。
また、硫化反応は副反応の脱トリチルを抑制するためにDDTT一択です。
そしてボクが最も興味深く感じたのは晶析条件です。疎水性タグを導入した化合物(ペプチドとか)の精製は、MeCNやMeOHといった極性溶媒を加えることで結晶化させるのが一般的と思いますが、SDG付き18-merからのSDG付き34-mer合成では最初と最後のサイクルでペプタンを加えて晶析しています。ヘプタン添加による結晶化テクは、ボク的に新知見でした。
最後に、著者らは18-merオリゴ(SDG脱保護後)の1 kg製造時におけるアミダイト試薬と溶媒の使用量をSPOSとLPOSでざっくり試算しています。
当然ですが、アミダイト試薬と溶媒だけみてもLPOSで原材料費が大幅減が予想されます。
やっぱり液相合成は、そういうところが固相合成と比較してツヨツヨですね。
ウン、本論文は疎水性タグを用いたオペレーションに加えて、不純物解析を存分に行われていて、プロセス化学の見地からとても興味深く勉強になりました。
以上をまとめますと、
i) テレスコープを駆使して4-5塩基の6種類のオリゴ核酸フラグメントを液相合成で合成(2つが3 kgスケールで、4つが300 gスケール)
ii) SDG基を導入し、液相でフラグメントカップリングを敢行するコンバージェントなプロセス志向の合法により18-merと34-merオリゴを合成
iii) 不純物解析もしっかり
iv) フラグメントオリゴもフルレングスオリゴもカラム精製なしで合成
v) LPOSで合成した18-merと34-merのオリゴの不純物プロファイルはSPOSと同様で、純度も同等以上
vi) LPOSは、SPOSよりも優れたプロセス質量強度 (PMI, Process Mass Intensity, https://www.chem-station.com/chemglossary/2022/02/process-mass-index-pmi.html)
といったところでしょうか。
以上、二流大出のテクニシャン (研究補助員)のカラムレスなコンバージェント液相オリゴ合成メモでした。